2.アイスクリイム
「ちょっ、大丈夫!?」
ユリがバタリと倒れそうになったので、コスモは慌てて肩を掴み、阻止した。
「だ、大丈夫です。いきなりだったんで、つい」
「いきなりって?」
「あのその、一生養うって言っていたので……」
「ああ、その事ね。魔王を倒したら国から大量にお金が貰えるから。それがあれば養うのも容易って事。でも大丈夫、きっとユリには才能があるから!」
「そ、そうですか……そういう意味ですか、まぁ、そうですよね」
元気が無さそうだ。
どうしてだろうか?
先程も顔を赤くしていた。
こういう時は、そうだ。
「アイスでも食べに行こうか?」
コスモ行きつけのアイス屋がある。
ユリを連れ、そこに行く事にした。
「どれにするか迷うね。う~ん、グレープにしよう」
コスモはグレープ味のアイスを注文した。
「ユリはどれにする? どれでもいいよ? 奢ってあげる!」
「私あんまり、こういうの食べた事無かったから迷っちゃいます!」
「迷った時は好きな色とかで決めるといいわよ! そういえば、ユリは黒髪ね。黒が好きなのね?」
ユリは黒髪だ。
という事は、染めているのだ。
きっと、黒が好きなのだろう。
「黒も好きですけど、緑の方が好きですかね」
「え? そうなの? だったらこのほうれん草アイスにする?」
「いえ、それはちょっと……」
「ま、好きなのを選べばいいと思うよ」
と、ユリに言う。
彼女は最終的に……。
「チョコレート味にします!」
チョコレート味に決めたようだ。
コスモのアイスはソフトクリーム型のアイス、ユリのアイスは棒付きのアイスである。
コスモがお金を支払うと、アイスを受け取る。
2人は歩きながら食べる。
「美味しいです! ありがとうございます!」
「でしょ? これからもどんどん食べられるよ! 何てったって、私は【剣聖】を持っているのだから! 魔王を倒す以前に、クエストでのお金稼ぎも楽勝! 余裕!」
「コスモさん、流石です! あっ、でも」
「でも?」
「クエストを受けるには冒険者登録しなくてはなりませんよ? 私達はまだ登録してないので、今からしに行きませんか?」
「それもそうだね!」
クエストを受けるには冒険者ギルドへと行き、冒険者にならなくてはならない。
金銭の問題もあるが、コスモはまだスキルを得たばかりだ。
それに、装備も整っていない。
ひとまず冒険者となり、準備を万端にする必要があるだろう。
「じゃあ、このまま冒険者ギルドへと向かおうか!」
「はい!」
冒険者ギルドはここから近い。
2人はアイスを食べながら歩みを続ける。
「おい、お前ら」
すると、コスモ達はガラの悪そうな人間に話しかけられる。
「お前ら、昼間からデートか? あたいは今から冒険者ギルドの酒場で、肉を食って酒を飲むんだ、金くれや」
非常に鋭い目つきをしている。
ユリは思わず、コスモの背中に隠れてしまう。
(この人、私達よりも大分年上……)
おそらく20代後半くらいだろう、練習台には丁度良いかもしれない。
そう思ったコスモは、タメ口で言い返す。
「初対面の人に対してよくそんな口を利けるね?」
「はん! あたいは今無性に肉が食いたいんだよ! 邪魔するなら……お前達の肉を頂く!」
向こうが剣を抜いた。
ならばこちらもだ。
コスモはユリが手に持っている食べかけの棒アイスを取り上げる。
「むぐっ!?」
そして、それをユリの口の中に突っ込むと、強引に口を閉じさせ、棒だけ引っ込抜いた。
「そっちがその気なら、こっちだって考えがある!」
コスモは自分のアイスを全て、自身の口の中に入れると、右手にユリから奪ったアイスの棒を構える。
「んだそれ? 馬鹿にしてんのか?」
「してないわよ?」
相手は、剣に対してアイスの棒で挑もうとするコスモを睨み付けた。
だが馬鹿にしている訳ではない。
【剣聖】スキルがあればこれで十分だろうと、コスモは考えたのだ。
「肉を食わせろおおおおおおおおおおお!!」
本気で斬りかかって来た。
おそらくコスモを殺す気だろう。
だが、コスモは冷静だ。
「こひゅもはん! にげれくらひゃい!」
まだ口の中にアイスが残っているようで何を言っているか分かりにくい。
おそらく、ユリはコスモに逃げてくださいと、訴えているのだろう。
「大丈夫! 【剣聖】の力をよく見ておくといい!」
後ろにいるユリに、自信満々の表情を見せ付けた。
その後、コスモはアイスの棒で楽々と相手の剣を受け止める。
「何ィィィ!?」
これが【剣聖】スキルの実力だ。
自分が剣と思うものが一定距離内にあれば、驚異的な身体能力を発揮できる。
そして、手に剣を持っている間、その剣は決して折れない。
コスモは相手の剣を弾き飛ばし、相手の背後に一瞬で回る。
「終わりだ!!」
コスモは叫びながら、剣を振るう。
まるで達人のようだが、これも【剣聖】の効果だ。
剣の才能がある者が100年間修業をしたくらいの強さを身につける。
故に、今まで剣に関して一切の努力をしていなかったコスモでさえ、このような実力を発揮できるのだ。
「ぐあああああああああああああああああああああ!!」
相手は吹っ飛び、壁に激突した。
ユリはそんな相手を驚きと心配の表情で見つめる。
コスモは安心させるかのように、ユリに言う。
「大丈夫。手加減はしておいた」
そして、相手は起き上がり、叫ぶ。
「く、くそぉぉぉぉ! 覚えてろ!!」
相手はどこかへと、走って逃げて行ってしまった。
「ね? 大丈夫だったでしょ?」
コスモは余裕そうにそう言った。
「か、かっこいい! 流石です!」
「でしょ? 私は【剣聖】だから? これくらい余裕だわ!」
コスモは、まんざらでもない表情で嬉しそうに、無い胸を張った。
そして、アイスの棒をゴミ箱に放り投げる。
「これ! 貰ってもいいですか!?」
ユリがゴミ箱に手を突っ込み、先程のアイスの棒を取り、それをコスモに見せる。
「え……? あぁ、剣が欲しいのね? それだったら……」
「いえ! お守りとしてです!!」
ユリはそう言うと、アイスの棒をしまった。