トカゲ天国
我が家の庭はトカゲ天国である。
カナヘビも二ホントカゲもいる。 幼生の多い春~夏はカナヘビの赤い尻尾と二ホントカゲのメタリックブルーに輝く尻尾が、ニョロニョロうろうろしていて非常にカラフルだ。
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ここ3日ほど、二階のベランダにまだほんのり尻尾の赤いカナヘビ君がいるようになった。 お腹がぽこんと膨らんでいてどこかユーモラスな姿をしている。
黒い掃きだし窓の桟にへばりつくようにして、うっとりと目を閉じている。
陽の光に温められているので離れられないのだろう。
しっかりとしがみ付いて動かない様は非常に愛らしいのだが、如何せんそこは二階。個人宅のベランダだ。
水はエアコンの配管から零れ落ちるそれしかないし、虫よけまで置いてある。餌も少ないんじゃないかと心配していた。
そうして今朝だ。ぽっこりしていた腹がだいぶスマートになっている。 ヤバい。昨日までより更に動きが鈍い。
このままでは不味いだろうと分かる。モズのはやにえ以外でカナヘビの干物を見るのは遠慮したい。
だがしかし、どうすればいいのだろう。
手で掴んで捕まえようとしたとして、失敗したら彼のまだほんのり赤い愛らしい長い尻尾は切れてしまうかもしれない。いや、間違いなく切れると断言できる。
何故なら幼い私はそうやって、トカゲやカナヘビの尻尾を何本も奪ってきたのだから。
何度でも綺麗に再生するのだから構わないだろうって?
いいや。再生した尻尾には骨がなく、切れた場所が悪ければ二度目がない事も多いという。上手に切り離せなかった場合、まったく再生できないなんてこともあるらしい。
そもそも尻尾が千切れるのは天敵である捕食動物たちの手に掴まった時に、動き続ける尻尾を置き去りにすることで本体が逃げる為のものである。
それを私が我が家のベランダで死なれたくないからと千切ってしまっていい訳がない。彼等の寿命に係わることなのだ。
箒と塵取りで追いかけ回し、なんとか捕まえて庭のグランドカバーにしているイワダレ草がまだ色濃く繫っている所を狙って落とす。
ぽすん。がさがさがさー。
どうやらちゃんと着地できたようだ。葉の陰で、元気に逃げていくその尻尾がちょろっと見えた気がした。
それにしても、プラスチック製の塵取りの上で、足掻いても足掻いても足が滑って動けないと焦るカナヘビの子供は非常に愛らしかった。
長くそのまま移動できそうになかったからそこから落とすしかなかったけれど。 尻尾も切れなかったし。
ちょっとホッとした朝の洗濯物干しであった。
おしまい
お付き合いありがとうございました。