第1章 ⑧その男、バレる
朝。
今日から本格的にスパネイアの護衛をするセント。
少し早く起き、軽くランニングと剣の素振りをしていた。
そのあと朝食を取り、支度をして会議室へと向かった。
会議室にはスパネイア、護衛チームが全員揃っていた。
「遅かったな。」
「すまないな。準備運動をしていた。すぐにコルマティア王宮に向かうのか?」
「そうだな、コルマティア王宮までは比較的安全だろう。
だがいつ敵襲があっても良いように警戒を解くな、
スナイパーの配置に適している場所も探しながら行こう。」
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宿の門の前でカンドが召喚魔法により2体の精霊バッチとピッチを呼び出す。
「よーし!今日から護衛任務だ!バッチもピッチもよろしくな。
ピッチは上空から僕たちの周り、バッチは後方の警戒を頼む!」
カンドが精霊に配置を伝える。
「おう」
「はーい」
2体の精霊はマイペースな返事を返し天高く飛び上がった。
それぞれの準備を済ませ、一行はコルマティア王宮へと向かった。
道中特に問題はなく、怪しい影もなかった。
王宮内の前門でいったん集合した際に、精霊達からも異常なしとの報告があった。
王宮に入る際は、しっかりと身体検査があり、セントも顔を見せざるを得なかった。
衛兵の一人が少し驚いた表情を見せたが、特に何か言われることもなく
王達が会談する大広間へと案内された。
陣形は解除し、フォーセを先頭にその後ろにスパネイア、カンドが並びその後ろにセントがついていく。
荘厳な装飾、ふかふかの絨毯、たくさんの従者に衛兵。
セントがかつて仕えていた頃とあまり変わらない王宮内。
セントは懐かしさ、そして一抹の不安も残しながら、フォーセ達に続き王宮内を進んでいく。
大広間も護衛騎士の頃に見たときと変わらない。
奥のほうに一段上げられたスペース、そこに煌びやかな装飾がついた革張りの大椅子が2つ並ぶ
目前に大きすぎるテーブルがあり椅子が10対向かい合わせに置いてあった。
奥の大椅子の左側にはコルマティア王が鎮座し、
テーブルの左側に並んだ椅子には既にコルマティアの兵士が座っていた。
「ようこそ、ノーシセス神国の王、スパネイア様、そして神護兵団の皆様!」
コルマティア王 ガーデリエス コルマティアから歓迎の声が上がる。
その声と同時にコルマティア兵たちが一斉に起立、そして深く礼をした。
「こちらこそ、お招きいただき光栄です。」
とスパネイアが返し一礼。
フォーセ達も続いて一礼する。セントも一呼吸遅れ続いた。
現コルマティア王、ガーデリエスはセントが護衛を務めた前王ヴァリエテの息子、面識はあったが会話したことはない。
しかし並んだ兵たちには護衛騎士時代の顔見知りが数人いた。
お互いが顔を上げたときセントに気づき表情を一変させた者が3人いた。
「………セントラオンか……?」
「そうじゃな…」
「あれが……!“鋼壁 セント”……!」
「はるばるノーシセス島からの長旅、疲れたことでしょう。宿のほうは問題ありませんか?
っと。立ち話もなんですご着席を!」
動揺を隠せぬ兵たちをよそ目に、ガーデリエスが全員を着席させる。
「ガーデリエス様、スパネイア様、失礼ながら少し儂から一つよろしいですかな。」
この場にいる者で最も最年長者であろう、白髪に長い髭を蓄えた魔道士の老人が口を開いた。
「良いんだが。どうしたんだロージィ?」
コルマティア王にロージィと呼ばれた男が言葉を続けようとしたところ。
コルマティア兵の中でも一際逞しい大男が大声で割り込んだ。
「俺からも聞きたいことがある!!良いかガーデリエス様!おそらくロージィ様と一緒だが!」
「まぁ待て、ドレッド。ロージィからだ。」
ドレッドと呼ばれた大男は、ガーデリエスに諫められ立ち上がったままロージィの言葉を待った。
「ふむ……。まぁ聞きたいことは同じじゃろドレッド。
………久しいの、セントよ。元気そうで何よりじゃが。
なぜ其処に座っているかは聞かねばならんの。」
「おぅ!!そうだ!なぜ!お前が!そこに座ってる!!セントラオン!!!!!
お前!!俺との決着を付けずに逃げ出したよなぁ!!」
ドレッドの怒号が飛ぶ。
視線がセントに集まる。
観念したセントは立ち上がった。
「お久しぶりです。ガーデリエス様、ロージィ様。あとドレッドも。
除隊後はコラールにて便利屋をして細々暮らしていたのですが…、
ここに座った経緯は、説明すると非常に長くなりまして…。
ま、まぁ今はノーシセス神国に雇われて、神王の護衛に参加しております。
決してコルマティアを裏切ったということではなく、一時的に神護兵団に所属しております。
ロージィ様なら、お分かりでは・・・?」
「ふむ、お主も大人になったの。」
ロージィは昔を懐かしみ、
「セントラオン…、あぁ父上の護衛だった騎士か!
何度か王宮で見たことがあった気がするよ!
またこの王宮であえてうれしく思うよ!」
ガーデリエスが王としての器を見せ、
「俺はついでか!!!!おま・・・・!・・・・??」
ドレッドが激昂する。
しかし、
「ドレッド。王の面前じゃぞ、落ち着かんか。」
そう言いながらロージィが杖を軽く一振りし、ドレッドから音を奪った。
「ふぅむ。儂の万里眼ものぅ、年々鈍ってきておるからの。
確かにお主に敵意はない。が、何か隠しておろう。」
ロージィは自らの魔法により相手の心や考えの断片を読む万里眼を持っている。
偽りは不可能、セントは護衛時代のロージィの強かさを思い出し慎重に言葉を選ぶ。
「はい…。しかし、その辺は俺から言い出すわけには。
私はあくまでノーシセス神国の者となっておりますので…。」
「よーし!いろいろイレギュラーがあるようだが、本来の目的を進めよう!
とりあえず、セント君に敵意がないなら大丈夫じゃないか?
それに、ノーシセス神国の皆様を疑うような失礼はあってはならないよ。
特にドレッド!感情のコントロールができないようでは、護衛騎士は務まらないよ!
反省するように!」
ドレッドは王からのお叱りを受け大人しくなったが、
座りながらもセントを睨む目は怒りに満ちていた。
「お前、どんな抜け方したんだ…。場合によっちゃ拘束されかねんぞ。」
フォーセがセントを小突き、質問する
「普通に除隊願を出して抜けたんだが、
あいつ、…ドレッドのヤツが、俺をライバル視していただけだよ…」
「ふん。奴と天覧試合で手合わせしてみたらどうだ?」
ニヤリと笑うフォーセ
セントは、冗談じゃないといった態度で
「おいおい、試合はごめんだぜ。お前らでやってくれ。」
と返した。
ガーデリエスが仕切り直し、話始める。
「スパネイア様、お見苦しいところをお見せして申し訳ない。
腕は立つのですが、血の気の多い奴でして。
気を取り直して、会談に入りましょう。」
「いえいえ。お気になさらないでください。
私共がセント様にご依頼した責任もあります。
こちらこそ混乱の原因を作ってしまい申し訳ありません。」
スパネイアが深々とお辞儀をしそれに応える。
「お気遣いいただきありがとうございます。では早速本題に。
遠路はるばるこのコルマティアへご足労いただき誠に光栄でございます。
ノーシセス神国の皆様には、天覧試合においていくつかご助力いただきたいことがあるのです。」
「ご助力…ですか。」
「ええ。というのも、この天覧試合を機にいくつかの国が、我らコルマティアへと攻撃が仕掛けられるという情報をつかんだのです。」
「!?」
スパネイアも含め、ノーシセス一行は驚きを隠しきれず、表情が一変する。
その様子を、ガーデリエスをはじめ、コルマティアの兵たちはそれを見逃すことはなかった。
「なにか…ご存じですかな?」
ロージィが口を開く。
「え、えぇ。ただ、どう説明すれば…いいでしょう。」
困惑するスパネイア。
事態は好転したといって良いだろう、
だが情報源が神託というコルマティアの者には受け入れにくいものである。
一国の王と、最高戦力の兵たちを納得させられるだろうか。
ただ、このような会談の場で、ノーシセスに助力を求める程度に信頼されている。
ここを上手く伝えられれば、コルマティアの協力が得られ、戦力も増え、動きやすくもなる。
スパネイアの脳裏で様々な考えが巡る。
数十秒考え、出した答えはシンプルなものだった。
「…ノーシセスの神より、神託を受けました。
天覧試合において、エメラルディア帝国の者がガーデリエス様暗殺が計画されていると。
それにより引き起こされる大きな戦いのことも…。
……実は、私共もそれを阻止しようとしておりました。
ただ、証拠はなく、余計な混乱や嫌疑を避けるため、私共だけで戦おうと。
そう決めておりました。」
全てを正直に話すスパネイア。
その神々しさ、潔白さ、真摯さはコルマティアの者の胸を打ったのだった。