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セントラリア戦記~元王族護衛騎士の戦い~  作者: ふふふ
第1章 天覧試合
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第1章 その⑦その男、鳥と遭遇する


フォーセとの手合わせから2時間後、



セント達が泊まっている宿 “聖女の祈り亭”の中庭に、


スパネイアと神護兵団全員が集まっていた。


相変わらずのスパネイアを中心とした陣形、その傍らにセントが加わった形になる。


フォーセが全員を見渡した後、話し始める。



「天覧試合の開催式典は10日後だ。

 そして、11日後には、天覧試合が始まる。

 式典までの9日間は、3班に分かれ、それぞれ任務をこなしてもらう。」



「了解いたしました!」

セントの言葉に、僧兵全員が気合の入った返事を返す。



「ファース、カンドでこの宿を確保。侵入者を許すな。コルマティアの兵でもな。」



「俺とカンド、セントでスパネイア様の護衛だ。

これから数日間は宮殿でのパーティーや祭事が続く。

エメラルディアの者と直接会うこともある、諸々、悟られぬようにな。特にセント!」



セントは、自信なさげ頷いた。

王族護衛をしていた頃、ちょっとした演技や自然に振る舞うように、といった命令をされることはあったが、ぎこちないと言われることが多かったからだ。

それを見抜かれているようで、少し動揺していた。



それを横目に、フォーセが話を進めていく。



「次に、フィフ、シクス、ブンで王都内の諜報活動を頼む。

 まずは、王都内の情勢から探り、エメラルディアとコルマティアの戦力や動向を探ってくれ。

 進め方はブンに任せる。かなり危険が伴う任務だ、危険であれば撤退してくれ。

 天覧試合開催までに戦力が減ることは避けたいからな。」

 


部下の身を案じているような言葉が出て、こいつも優しいところあるんだなと

思いかけたセントだったが、その幻想は、直後に続く戦力の低下を回避したい旨の言葉に崩れ、

フォーセはどこまでも任務優先だったか…と改めて思わされてだけであった。



「では、それぞれの班に分かれ詳細を話し合ってくれ。」



***************************



セント達護衛チームはスパネイアと共に会議用にあてがった部屋に移動した。



ほぼ初対面のカンドに、「よろしくな。」と声をかけ、握手を求めると、



カンドはしっかりと握手を返して、


「こちらこそよろしく。何としてもスパネイア様を守ろうね。」



と意外にも素直で丁寧な態度で、驚いた。



セントは彼とは仲良くできそうだと少し嬉しそうにしていた。



スパネイアは微笑みながらそれを見守っていた。




フォーセが王都の地図を広げ、話を始める。



「これから3日間は他国の王族との会談が中心になる、

 明日は午前がコルマティア王で、午後がエメラルディア王だ。

 コルマティア王へは、それとなく危険が迫っている旨を話すが……、

 大国の王だ、平和になったとはいえ、危険とは隣り合わせと考えておられるだろう。

 エメラルディアには探りを入れていく、こちらが暗殺計画に気づいていることがバレて、

 結果、我らへ刺客が送られてくることになっても、

 そいつを捕まえられれば有利に事を進められる。」




「コルマティア王にはそれでいいと思うが、エメラルディアには中々踏み込んだ作戦だな…

 探りを入れるったって会談で話をするのはスパネイア様だけだろ?

 どこまで探りを入れるかにもよるとは思うが、

 その内容が外に出されれば、ノーシセスの他国からの心象も悪くなるんじゃないのか?

 こっちの作戦が知られれば、それを逆手に取られて、

 暗殺を中止し、ノーシセスに言い掛かりをつけてくる可能性だってあるぞ。」



「いや、おそらく中止はない。エメラルディアは、ほぼ確実にに暗殺を実行するだろう。

 スパネイア様の天啓では事を起こすのは王族ではなく側近だったという。

 もしかしたらエメラルディア内での反乱の可能性もあり、

 王が認知していないところで動いている計画なのかもしれない。

 スパネイア様には、その辺も含めて探りを入れていただく。

 何よりもスパネイア様は、幼少の頃よりノーシセスを守り続けてきた神王。

 貴様が心配するのは勝手だが、“ノーシセス神王”を甘く見るなよ。」



セントは、フォーセの凄みに気圧されてしまっていた。



「そ、そうか。わかったよ。

 話を戻すが、道中と会談の場での護衛で良いんだよな?

 通行ルートやフォーメーションを決めていくか?」



「ああ。ルート決めはセントに任せる。我らより王都内に詳しいだろう。

 フォーメーションは、先頭セント、その後ろに俺、そしてスパネイア様、最後尾にカンドだ。

 縦一列で行く。」



ルートを考案に入る前に、



「……後ろや遠方の警戒はしないのか?

 人数が限られるのは仕方ないがもう1人は欲しいところだな…」

と、セントが疑問と要望を口にする。

背後や視覚外からの奇襲は護衛にとって最も警戒すべきことである。



「もちろん行うさ。カンド。見せてやれ。」



声をかけられたカンドが、魔力を貯めだすと、両の手の甲に魔法陣が浮き上がった

それを左手で右の手の甲、右手で左の手の甲と、片方ずつ手をかざし詠唱を始める。



「黒白の羽、我が魔力を媒介に天からの目を、空を翔ける爪をもたらせ。

 出ろ!ピッチ、バッチ!」


「召喚魔法か……!」

驚くセント。



そのセントの前に、2羽の鳥が顕現した。

鳥というにはあまりにも神々しく、大きい。魔獣か、精霊だろう。

一羽は純白の羽を持ち、優雅で美しい印象。

もう一羽は漆黒の羽を持ち、荒々しく恐ろしい印象。



なるほど。この2羽で背後や遠方の警戒をするのだろう。



カンドが2羽の鳥の大きな翼を撫でながら

「紹介するよ、白いのがピッチ、黒いのがバッチだ。

 こいつらに背後や、遠方の警戒を任せるって感じかな。

 ピッチ、バッチ。今日もありがとうね。

 彼はセント、コルマティアの元王族護衛騎士で今回の護衛の手助けをしてくれるんだ。

 挨拶しなさい。」


と鳥達の紹介してくれた。




「ッチ!カンド!!黒いほうとかテキトーな紹介すんな!!

 ノーシセス島に住む夜の鳥たちの王、バーテルノーワだ。大精霊様だぞ!

 セント…か。こんな奴で大丈夫かよ!スパネイアの護衛だろ!なんかあったら承知しねーぞ!」


と黒いほうの鳥、バッチが荒々しい態度でしゃべりだした。


「しゃ、しゃべるのか…。」

あっけにとられるセントだったが



「チチチ。ワタクシはノーシセス島に住む朝と昼の鳥たちの王、ピールブラーネ。

 バッチ、あんた見てなかったけど私は知ってるのよ。セントさんはなかなかの使い手よ。

 よろしくねセントさん。スパネイアのことしっかり守ってあげてね。」


と白い鳥、ピッチが優雅な態度で丁寧な挨拶をする。



「お、おう、まぁ、よろしくな。」



「ピッチもバッチも体は丈夫だし精霊なだけあって魔法もかなり使えるよ。

並の兵では手に負えないくらいには強いはず!」



カンドが自慢気に紹介を締めくくった。



確かにこの大きさの鳥、そして感じられる魔力から察するに戦えばタダでは済まないだろう…。



***************************



その後、王都内での移動ルートや会談場所での警戒手順をしっかり決め。解散となった。


フォーセは他の班との打ち合わせをするためスパネイアと共に部屋に残った。



セントはカンドと共に夕食を食べることになった。


セントが切り出す

「さっきピッチが言ってた気がしたんだが、俺とフォーセの手合わせ…見てたのか?」



確かに、挨拶の話の中で、ピッチはセントのことを“なかなかの使い手”と評していた。



「あぁ、僕は見てはいなかったんだが、昼間はピッチに宿の周りの警戒をお願いしていてね。

 そのとき見ていたことを聞かせてくれたんだよ。君とフォーセの手合わせのこともね。

 すごいじゃないか。フォーセは神護兵団でもトップクラスの強さだよ。」



見られてたか…と少し恥ずかしそうするセント。


「まぁ引き分けみたいなもんだ。本当なら初手でやられていたしな。」


と照れ隠しも含め言っておいた。



「いやいや、彼から一本取るだけでもすごいことさ。」


フォーセの評価は相当高いらしいことが伺えるが、

セントはカンドについても少し気になることがあり、聞いてみた。



「そういうアンタもかなり強いだろ。召喚魔法なんて上級魔道士でも使える奴は限られてる。

 そもそも精霊2体と契約するなんて、俺が会ったことのある魔道士でも5本の指に入るぜ。」


褒められたカンド、照れくさそうに答える。


「ははは…。ん-と。ピッチとバッチはちょっと特別だからね。

 ノーシセス僧兵団には代々彼らと契約を結ぶ役割の者がいるんだよ。

 たまたま僕がそれに選ばれただけさ。」



「いや、あいつらノーシセスから呼び出すんだろ?

 それを召喚するってことは、超長距離の転移魔法ってことだろ。

 そんなの扱える時点ですごいぜ。」


セントは、召喚魔法という高度な魔法の使い手のカンドに正直に尊敬の念を抱いていた。



「ははは。そこは素直にありがとうと言っておこうかな。」


謙遜はなく、嬉しそうにするカンド。

彼とはいい友達になれそうだとセントは思っていた。


それから2人は、雑談を交わしながら夕食を食べた。



***************************


夕食を食べ終わり、食器を戻すセント達、


「明日からの任務頼りにしてるぜ。」



「こちらこそ。だよ。今日は移動や会議で疲れたし早く休もうか。」


とカンドが優しく応えた。




早く休もうと言われたセントだが、


ブランクを取り戻すため、トレーニングをしてから床に就いた。


今日の手合わせの反省、過去の護衛の反芻。


明日からは命のかかった任務。油断は許されない。




***************************



聖女の祈り亭の夜。




「……お兄様。明日の会談、私……少し不安だわ。」




「ネイア。大丈夫だ俺がついてる。ファースや精霊達、セントもいる。心配はない。

 それにエメラルディアの情報をギリギリまでブン達が集めてくれる。」




「うん。みんなのことは信じてるわ。でも誰にもケガしてほしくないの。」




「明日、いきなり戦いになったりはしないはずだ。」




「でも、暗殺計画が明るみになってきたら……そうはいかないはずよ。」



「大丈夫さ。俺たちが迅速に対処する。さぁ今日は早く寝るんだ。

 部屋の前にファース、室内にブンも就かせる。安心しな。」




「……うん。おやすみなさい。お兄様。」



「あぁ、おやすみ、ネイア。」





***************************

簡単プロフィール


カンド:男 28歳


ノーシセス僧兵団・神護兵団所属


身長175㎝ 体重67㎏


武器:魔石付きのメイス


魔法:召喚魔法、黒魔法、白魔法


装備:黒地に白の刺繡が施されたローブ。守りの魔法が込められた三角帽子。


魔力や魔法の才能はノーシセスでもトップクラス。

フォーセの従兄である。


ピッチ:♀ 700歳


ノーシセス島に住む朝と昼の鳥達の王:精霊

体調250㎝ 体重135㎏


武器:爪と嘴


魔法:白魔法、天空魔法、精霊魔法


装備:魔避けの羽飾り、矢避けの鶏冠飾り


ノーシセス神国の建国以前よりノーシセス島に住む双子の精霊。



バッチ:♂ 700歳


ノーシセス島に住む夜の鳥達の王:精霊

体調270㎝ 体重150㎏


武器:爪と嘴


魔法:黒魔法、闇魔法、精霊魔法


装備:矢避けの羽飾り、魔避けの鶏冠飾り

ピッチの弟。ノーシセス島を守る精霊。夜行性。



魔法解説


召喚魔法

あらかじめ精霊や魔獣と契約をしておき、何らかの代償を払い、それらを顕現させ使役する魔法。

一方的な隷属や、対等な関係など様々な形があり、術士によりスタイルが異なる。


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