第1章 ⑥その男、久しぶりに戦う。
フォーセの決意に満ちた演説に圧倒されたセントは何も言い返せなかった。
少しの間があり、思い出したようにスパネイアのほうを見る。
スパネイアもそれに気付き、セントを見つめ、言葉を紡いだ。
「セント様、ノーシセスの民でない貴方に、このようなお願いをすることは心苦しいです……。
しかし、貴方のお力が必要なのです。それもまた神のお導き。
あなたの助け無しでは、また大きな戦争が引き起こされてしまうのです。」
真剣な目で、改めてセントに助力を求めるスパネイア。
その言葉には不思議な説得力があった。何より麗しき女王の懇願を無下にはできなかった。
セントは、心に迷いを残しながらも、ノーシセスの作戦に協力することを決めた。
「わかった。……戦争は、……二度とごめんだしな。
だが、もしお前らが危険だと判断したら全力で止める。」
「要らぬ心配だな。だがまぁ、協力してくれるのだな。
……ありがとうと言っておこう。」
フォーセは、そう言ってセントに数枚の羊皮紙を手渡した。
「なんだこれ?」
「王都への通行証と神護兵団入団証だ。王都内では常に持っておけ、そして絶対に無くすな。」
「お。おう。」
一行は王都への門へ向かった。
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王都の門では厳重な検問が行われていた。
一人ひとりの通行所に加え、装備や荷物の確認。
セントは布を取り、顔を見せろと言われ少し焦ったが、素直に顔をみせた。
幸い、“元王族護衛騎士のセント”を知らぬ衛兵であったようで事なきを得た。
無事に王都入りを果たした一行はまず宿へ向かった。
広い庭のある、別荘のような建物。ノーシセス一行の貸し切りだが、9人で使うにはかなり広い。
食事の準備や家事をこなす使用人が数人がおり、生活には不自由なさそうだ。
そして、コルマティアの衛兵が4人、昼夜問わず宿の周囲を警戒している。
セントが与えられた部屋で荷解きをしていると、
フォーセが開けっ放しにしていたドアをノックして声をかけてきた。
セントが振り向くと、
「終わったら中庭へ来い。装備を整えてな。」
とだけ言い去った。
「作戦会議の続きか……?」
と思い荷解きを切り上げ装備を整え中庭に向かった。
「来たか。早かったな。」
作戦会議だと思っていたセントだが、中庭にはフォーセが一人佇むだけであった。
「お前の経歴は本物だ、しかし少しブランクがあるだろう?
今のお前がどれほどの強さか確かめておきたい。
…俺と戦ってもらう。」
「そういうことか…。もちろん良いぜ。
作戦を立てる上で個々の能力を把握するのは必須だろうしな。
しかし…剣はこれでやるのか?木剣とかないのか?」
「話が早くて助かる。剣のことは心配するな、これを着けろ。」
とセントに装飾品を渡した。
リング、バッジ、ペンダントの3つを渡されたセント。
「これは、天覧試合でも使われる、模擬戦闘用のアクセサリだ。
その3つは共鳴していて
リングが武器の殺傷能力を封印するものだ、武器に着けろ。
バッジは着けている者の魔法から殺傷能力を封印する。
ペンダントは装着している者の体力を算出し、
リングとバッジを付けた者から受けたダメージと体力を差し引きし
体力が無くなれば、結界を張り、それ以上戦闘できないようにする。
魔法都市ウラリアと機工都市グランディルの合作らしいな。」
難しい話を聞き流しながら、アクセサリを装着するセント。
「どういうカラクリか分らんが……。科学と魔法の技術もここまで来たのか……。
とりあえずこれを着けて戦えば怪我はしないってことだな。」
と、話を簡単にまとめる。
「まぁ、そういうことだ。」
フォーセもその仕組みを完全には理解しておらず、
取りあえずの理解があれば良いという様子であった。
「準備は良いようだな。そこで構えろ。
このコインが地に着いたときが戦闘開始の合図だ。」
と言い、空高くコインを跳ね上げた。
「気障な野郎だ……。」
構えるセント。その刹那に戦術を練る。
(ずいぶん高く上げたな…。着地まで5~6秒はある。
フォーセにはスピードでは敵わないだろう。
だが耐久力や単純な力勝負では俺に分があるだろう。
カウンター狙いでいく。まず魔法で身体強化するか。)
戦術が決まると同時にコインが地についた。
セントが盾で身を隠し魔力を込める。
「緑魔法・・・・・ガーディ!」
自らの体の周りに物理攻撃の衝撃を和らげる魔法の幕を張る魔法。
まず守りは万全と思いフォーセの出方を伺う。
(いない…!?)
魔法が発動する閃光、ほんの一瞬目を取られていた。
その一瞬を見逃さないフォーセに、後ろを取られていた。
「遅いな。」
後ろから無慈悲にセントを襲う鋭いレイピアの刺突
声に気づき、ギリギリのところでセントが身を捩り躱す。
しかし避けきれず、レイピアの切っ先が肩に突き刺さる。
……痛みはない。レイピアの切っ先が肩の後ろのほうから出ている。
(このアクセサリのおかげか。不思議な感覚だな…。
……それよりも…。)
「優しいなお前。」
フォーセに声をかける。
“遅いな”という言葉がなければ首に刺さっていたであろう一撃。
おそらく、あえて言葉をかけられたことをセントは理解していた。
「実戦ではしないさ。問答無用で命をもらう。
だが、これはお前の力を見るための戦闘だ。一度目は許してやる。
次からは油断するなよ。」
気合を入れなおすセント。
これが護衛任務なら今ので終わり。自分も死に、護衛対象も殺されていただろう。
アクセサリのおかげで死ぬことはない・・・が、久しぶりの命のやり取りをしている感覚。
便利屋をしているときは、命にかかわるような危ない仕事はなかった。
王族護衛騎士のときの記憶を引き起こす。
フォーセから二度と目を離さない。問答無用でたたき切る。
「ウォール!!」
セントの前に半透明の壁が現れた。
フォーセはそれを見て動き出した。
それを目で追うセント。
「ファース」
フォーセから目を離さず、さらに魔法を重ねた。
壁の左側からフォーセが身を低くし飛び出してくる。
セントの右足へ高速の刺突を打ち込む。
しかし、足に突き刺さる寸前、横腹を薙ぐようにフォーセの体が跳ねのけられる。
想定外の反撃に吹っ飛び倒れるフォーセ。
何とかレイピアだけは手離さなかったが体勢を立て直すため、さらに後方へ距離を取る。
「肉体強化魔法か。それも、なかなかの強度だな。」
自分の身を襲った想定外の攻撃を分析する。
(ウォールで俺の進路を定め、ファースで反応速度を上げた。
最初にガーディで幕を張っていたのでレイピアが刺さるのも遅れたか……)
と次の出方を考えようとセントのほうを向き構えたところ…。
剣が飛んできた。
さらにセントもこちらに向かい走ってくる。手に剣は持っていない。
「くそっ!なんて奴だ!投げやがったのか!?」
慌てて剣を払い除けようとするが、凄まじい速さに対処しきれないと判断、
ガントレットをした左腕で受けることを選ぶが、かなりの衝撃が走る。
よろめいているところにセントのタックルが襲う。
タックルに倒れたフォーセに馬乗りになるセント。
かなりの対格差があり、逃げることは難しい。
セントはレイピアを取り上げ後方へ投げる。
そして、そばに落ちていた剣を手に取った。
「俺の勝ちだな。」
剣を首にあて、にやりと笑い言い放った。
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戦いはセントの勝利に終わり、装備の手入れをする二人。
「なんて無茶苦茶な戦い方だ。
剣を投げる騎士なんて聞いたことがない。
騎士の誇りだろう……。」
型破りなセントの戦い方に、悪態をつくフォーセ。
「誇りで大切なものが守れれば良いがな。そんなことは幻想だ。
俺はなりふり構わず、勝利を取りに行く。
敵が消え、俺が死ななければ護衛対象を守り切れる。」
セントは持論を語る。
彼の戦い方は騎士と呼ぶには、ふさわしくないが、護衛の本質は衝いていると言えるだろう。
「ふん……。俺がその無茶苦茶な戦い方に負けたのは事実。
強さは認めてやる。」
フォーセは悪態をつきながらもセントの強さに確信を持てたので満足げな様子だった。
「いや、お前、手抜いてただろ?それに最初の一突きで俺は死んでたしな。
おあいこってところだろう。」
「……なぜ手を抜いていると?」
「いやお前、魔力もなかなかのもんじゃないか。
そいつが魔法を一切使わないっってのもなぁ……。」
装備の手入れを終えたセントは頭を掻き、フォーセを見て言った。
「感知能力もそれなりにあるようだな。
まぁお前にもブランクがあるし、今のが全力って訳でもないだろう。
そこに配慮してやっただけさ。」
セントの能力の高さに関心しながら、フォーセも手入れを終え、部屋に戻る支度を始めた。
「ははは……。それはありがとうな。」
軽く笑いながら礼を言うセント。
フォーセは、それを受け流し、
「2時間後、改めて明日からの任務の会議をする。また中庭に集合だ。
それまで休憩していてくれ。」
セントは久しぶりの実戦に勝利した、
しかし、課題も多く、明日から特訓しようと心に決めた。
緑魔法:ガーディ
自分の体の周りに物理的攻撃を防ぐ薄い魔法の幕を張る。
強度は、使用者の込める魔力による。
灰魔法:ウォール
自分の前に障壁を作り出す魔法。
大きさや厚さは込める魔力により変わる。
赤魔法:ファース
使用者か対象の反応速度、身体速度を上昇させる。
上昇幅は使用者のもともとの身体能力や込める魔力による。