第1章 ③その男、入団させられる。
セントに交渉の場に付かせたところでフォーセは真剣な目をした。
「詳しく話したいところだが、周りにお前以外の人間がいるのはちょっとな。
要人警護だぜ?どこから話が漏れるかわからない。
あんたの知り合いだろうと警戒させてもらうぜ。
あんたの家で話そう。」
と提案した。
しかし、
「ここが俺の家だ。」
と予想外の返答をするセントの言葉。
「“お前の家”ではねーよ!」とダリアの横槍も入る。
フォーセは理解しかねていた。
「俺はここに寝泊まりしている。住んでるところまでは調べなかったのか?」
とセントからの追撃がくる。まぎれもない事実。
まっすぐな目をして言われたのでフォーセも信じるしかなかった。
「なら閉店まで待とう……」
と白旗を上げ素直に待つことにした。
そんなフォーセに、
「うちは1時間1ドリンク制だよ!飯も食ってくかい?」
と、ダリアが営業スマイルで今作ったルールを教えたのだった。
***************************
閉店後、
まだお客さんがいるから、掃除はできないねー。と、フォーセを見ながらダリアは言い、店の片付けを全てセントに押し付け、帰って行った。
結局ミルク5杯を飲み、“ダリア特性気まぐれディナー”を食べたフォーセが、仕事の話を始める。
「まず、お前の経歴について確認したいんだが。」
ダリアに作ってもらったまかないを食べながらセントが答える。
「あぁ。お前ら一体どこから俺の情報を仕入れた。ここで働いていることもそうだが、
何より昔のことについて、だが。」
「"お前ら"…か。流石、元王族護衛騎士様と言ったところだな。」
「入り口の屋根の上、裏口、窓の外に3人もつけておいてバレないわけないだろ。
外の奴らも顔を見せろよ。話はそれからだ。」
フォーセはニヤリと笑い仲間たちに告げた。
「お前ら、入って来い!」
その言葉を聞き、真っ黒い布に身を包んだ異国の者、が3人が入ってきた。
「こいつらは、フィフ、シク、ブン。俺の部下だ。
今回お前と一緒に要人警護の任務に就く仲間にもなるぜ。」
紹介された3人はセントに一礼し、フォーセの後ろに規律正しく並んだ。
その光景を見たセント正面は、立って並ばれていると、落ち着ついてまかないが食べれないと思い、
「ま、まぁ座れよ。水くらいは出してやるから。」と提案する。
「すまないな。こいつらは今、俺の命令しか聞かないし、他人からもらったものを口に入れることはない。
任務中であれば、なおさらだ。ノーシセス僧兵団は規律に厳しいもんでな。」
とフォーセに断られてしまった。
セントはあきらめた様子で、フォーセの後ろに並ぶ3人をできるだけ視界から外し、話を続けた。
「で、情報源は?」
「すまないが、それは話せない。」
「何故だ?」
「もし教えても信じられんだろうしな。」
「なんだそれ?神のお告げとでも言うのか?」
フォーセは驚いた様子で黙りこんだが、少し考え、
「………………その通りだ。」
とセントが最も予想していなかった答えを口にした。
「ノーシセス王は神の声を聴く。とだけ言っておこう。」
「信じられん……が、あの国には何度か行ったが、謎が多いのは確かだ。
他国の者には、ひた隠しにしている得体のしれない何かがあるとは感じている。
………まぁ神のお告げということにしておいてやろう。」
とセントは、無理やり納得した。
というのも、元王族護衛騎士と言うのは本当で、
もし誰かに見張られたり、尾行されていたりすれば感づける自信はあるし、
酒場にいることを知っている昔の知り合いなどいない。
常連やダリアに昔の話を詳しくしたことはないし優しさからか聞いてもこなかった。
“元王族護衛騎士のセント”がここにいることは、神様にでも聞かないと分からないだろう。
そう思案し、セントは食べ終わったまかないの片づけをしながら話を続ける。
「元王族護衛騎士ってのは本当だ。辞めたのは戦争が終わってすぐ。……もう10年前だな。
だが、腕はそんなに落ちてないはずだ。酒場の荒くれ者退治だったり、
便利屋で魔獣退治もやってたからな。
要人警護も、こなせるだろう。本当に報酬はさっきの金額払えるんだろうな。」
「元王族護衛騎士ってのが本当なのは分かってた。一応確認しただけさ。
なんせ神の言葉だからな。お前らにはわからん感覚だろうが俺達には、疑いようもない事実さ。
そんで、その腕前が本当かも、こいつらの存在に気づいてたってことでクリアだな。
こいつらは極限まで気配を消せる、暗殺・スパイ・戦闘部隊のエリートから抜擢した3人だ。
……よし。正式に依頼するぜ。
ノーシセス神王の護衛をな。」
「は……?しんおう…?」
「うむ、お前には我らノーシセス僧兵団最強部隊・神護兵団と共に、
ノーシセス神王“スパネイア ディアンド3世”の護衛を依頼する。
天覧試合の間、異国の兵は要人護衛の者のみ、その国の軍隊に正式所属する兵士しか入れない。
なのでお前には一時的に、ノーシセス僧兵団に入団してもらう。
安心しろ。ノーシセス僧兵団は入団も除団も自由。特に条件なし、国籍人種性別不問だ。
規律は厳しいが、仲間には優しいぜ。とりあえず、この用紙に記入してくれ。」
と矢継ぎ早に驚天動地の言を突き付けられたセントは、
「マジか……。」
と言うしかなかった。
***************************
セントは、
状況を整理しようと頭を働かせながら、
フォーセから渡された“入団志願書”と書かれた羊皮紙を記入したが、
考えが追い付かないまま記入し終わってしまった。
なんせ、名前、年齢、兵役歴、長所、扱える武器/魔法の5項目しかなかったからだ。
裏にも記入するところがあるのかと裏返してもノーシセス僧兵団の紋章がでかでかと描かれているのみであった。
なるほど、入団も除団も特に条件なしというのは本当のようだと感心した。
記入し終わった志願書をフォーセに見せる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
入団志願書
セントラオン ザハート 30歳
兵役歴:コルマティア王国軍6年 称号:守護騎士
長所:
周辺警戒、感知能力、白兵戦に優れる。
扱える武器/魔法:
基本的な武器はだいたい扱える。
赤魔法、緑魔法、白魔法、灰魔法使用可能。
上記に偽りのないことをノーシセス神に誓う。
署名:セントラオン ザハート
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
読み終えたフォーセが、
「流石、元王族護衛騎士様。
なかなかバランスが良い。魔法も結構使えるんだな。
赤、緑、白、灰か。攻撃はそんなにだが結界魔法やら治癒魔法ができるのか?」
と聞いてくる。
「そうだ。強力な魔法は使えないがな。
護衛騎士として必要なものは使える。
俺の考えだが、俺が死ななければ護衛対象も死なない。
俺が手の届く範囲は絶対に守り切るからだ。
俺も含めて無事でいるために、必要な魔法は習得した。」
セントは自らの矜持と言わんばかりに護衛についてを語った。
フォーセは自らの意見をハッキリ述べたセントに感心し、
「適任だね。」と一言告げた。
そして、
「ところで、装備は?
便利屋の仕事でも使ってるんだろ。王国兵のときのモノか?
天覧試合にはノーシセス僧兵団として入るんだから、
コルマティア王国の紋章があるのは使えないぞ。」
と確認を入れる。
フォーセの確認を聞いて、さっきまで自信満々だったセントの目が泳ぐ。
「あ、いや、その……。」
恥ずかしそうにするセントに。フォーセの頭に?マークが浮かび。
「どうしたんだ?」
と声をかけると、
「えっと…剣と盾は売ってしまった。酒場で働きだす前に食うのに困って…。
便利屋の仕事は素手でやってたんだ。
鎧は王国の紋章が入ったものだから売れなかったが、もうボロボロになっちまってな……。」
今度はフォーセが
「マジか……。」
と言うしかなかった。
***************************
フォーセは、騎士の命ともいえる装備を売り払っていたセントに呆れ、
「鎧と剣・盾はこっちで用意するからとりあえず明日の正午この場所に来い!」
と言い、地図が書かれた紙を渡し、3人の部下と共に去っていった。
セントは店の片づけをしながら明日からの仕事に対する大きな不安と少しのやる気が芽生えるのを感じ、自分なりに心の整理をしていた。
(…まぁ。天覧試合の最中に王族に対して変な気を起こす奴なんてそうそういないだろ。
そんなに危ない仕事じゃない!
それにしてもフォーセは何者だ。王の護衛の任務の担当で、強そうな部下もいる。
あいつ自身が纏う雰囲気もなかなかの威圧感があった……。
いや、あれこれ考えても仕方ないか。明日行ってみればだいたいわかるだろう。
終わったら家借りて、酒場の手伝いに戻ればいいんだ。)
店の片づけが終わり。
フォーセに渡された紙に書いてある場所を確認し、
「明日から忙しくなるな。」
とつぶやき、静かに眠った。
簡単プロフィール
セント:男 30歳
コルマティア王国軍・王族護衛騎士→酒場店員→ノーシセス僧兵団
身長:178㎝ 体重80㎏
武器:素手(今のところ)
魔法:赤・緑・白・灰(結界や治癒の魔法)
装備:古びた皮の鎧
主人公。過去に何かあったようです。
フォーセ:男 26歳
ノーシセス僧兵団・神護兵団所属
身長162㎝ 体重58㎏
武器:レイピア
魔法:???
装備:装飾のついてある丈夫な兵服。羽根つき帽子。
背が低いのが悩み。