第七話 襲撃
それから小一時間が経過した頃だろうか。突然、「ピーッ!ピーッ!ピーッ!」という切迫感のある笛の音が村中に響き渡き、ロディ達が目の色を変えた。
「襲撃だ!」
食堂のテーブルのあちこちで一斉に男たちが立ち上がり、玄関の方へ走っていく。
真っ先に飛び出していったのは領主の騎兵達だった。流石に統制が取れている。
何が起きたのかわからずきょとんとするばかりの勇一に、隣のテーブルからリールが声をかけてくれた。
「村の門番が鳴らす緊急時の笛よ。外部からの襲撃の時に鳴らすことになっているの」
どうやらこの村を襲ってきた輩がいるらしい。
(そういえばカーラも初対面で自分のことを強盗かと疑っていたな。珍しいことではないのかもしれない)
男たちが出ていった食堂は女性たちの心配するささやき声が聞こえる程度の静かな場となった。
勇一は足元に保護色モードで控えているK-116にそっと尋ねた。
「村に近づいてる生物反応はいくつ?」
「2メートル程度が13デス」
(13人の集団かぁ。まぁ大丈夫だとは思うけれど、武装の具合次第なのかなぁ)
隣のテーブルでも襲撃者について話していた。
ドーウィル伯「国王への税金狙いだな。リールさん、数はわかるかい」
リール「13人だと思います」
ドーウィル伯「騎兵達で何とかなると思うが、村にも迷惑をかけてしまうね」
村長「ホッホッホッ。お気になさらずともよろしい。弓矢が多いと厄介ですなぁ」
勇一は思わず振り向いてリールの顔を凝視した。13人となぜわかったのだろう。
いつのまにか勇一のテーブルで隣のイスに座っていたカーラが話しかけてきた。
「ママが襲撃者の数をわかったことに驚いたの?当然よ。あれがママのウィルなんだから」
「離れている人のことがわかるの?」
勇一はカーラに尋ねた。
「んー、というかママは人のオーラを見分けるの。13っていうのはオーラの数が村の外にそれだけ見えるわってことよ。信頼できる人のオーラは青く、信頼できない人のオーラは赤く光って見えるらしいわ。私にはそんな力ないけどね」
そう言ってカーラは笑った。
(そうか、僕が宿に着いた時に怪しまなかったのも僕のオーラを見ていたからなんだな)
勇一は自分に対してリールが警戒心を抱かなかった理由に納得がいった。
再びリールの方を見ると、彼女は目を閉じてオーラの行方を追っている様子だ。
「村の外で交戦に入ったようです」
食堂に残った女性たちが戦闘の様子を知ろうとリールの周りに集まってきた。
「ひとりやられたみたい...強敵ですね。また、やられた」
リールは目を閉じたまま実況中継する。
「苦戦しているかも...」
(すごいな、この人のレーダー能力は)
勇一は舌を巻いた。
リールに気を取られていた勇一だったが、ふと食堂を見渡すと若い男は自分しか残っていない。
(加勢に行かなきゃ)
戦闘経験などもちろんない勇一だったが、パワードスーツと重力シューズがあれば戦力にはなるはず。怖いという気持ちも強いが何もせず食堂に残るのもいたたまれない。
苦戦という言葉を聞いて勇一は意を決して席を立った。
「ちょっと、ユーイチ!あんたが行ったって足手まといになるだけよ!ここにいなさい!」
カーラが止めに入ったが、勇一はそのまま宿を後にして門に向かった。
重力シューズの推進力であっという間に現場に到着した勇一は、リールの言葉通り騎士と村人の連合軍が苦戦している状況を目の当たりにした。
門にくべられた松明と月の光しかないため判別は難しいが、弓矢と騎馬で構成された敵はかなり訓練されているらしく、こちらの兵をひとりずつ正確に倒している。
ウィルも使われているようだ。あちらこちらで直径1mほどの火の玉が放出されている。
応戦しているのは5名の騎兵と6~7名の村人で、ロディの姿も見える。
強者のロディはウィルによる火の玉以外にも、転がっている石を操って敵を攻撃する力で応戦していた。
(あれがロディのウィルか)
勇一はロディのウィル発現能力に目を見張ったが、ロディの奮戦虚しく周辺では既に半分程度が倒されているようだ。
敵はまだ10人近くもいる。一番奥で指揮を取っているのがリーダーだろう。
(弓矢が当たらないといいな・・・)
自分がその中に飛び込んでいくのかと考えた勇一は多少震えたが、勇気を奮い立たせた。
戦闘に詳しいわけではないが、こういう場合真っ先に狙うべきは敵のリーダーに違いない。そう思った勇一は門に立て掛けてあった古い剣を手に取る。
いつの間にか足元にはK-116が追いついている。勇一はK-116に尋ねた。
「あの馬に乗った男のまわりに人はいないよな?」
「ダレモイマセン」
暗がりで見えない加勢がいては困る。敵のリーダーが一人であることを確認すると、勇一は宿屋で借りた服を脱ぎ黒尽くめのパワードスーツ姿になるとそれに向かい重力シューズの推進力をMAXにして走っていった。
ヒュンッ!
風のスピードで敵のリーダーに接近する。
正面から斬り合っては不利だと判断した勇一は、一気に敵の後ろまで移動して振り向きざまに剣を振り上げる。
相手は指揮に夢中で勇一の接近に気づいてもいないようだ。
「右だ!やれやれぇ!」
黒く長いヒゲを生やし、いかにも盗賊といった見た目の中年の男が馬にまたがりながら剣で部下に指示を出しており隙だらけだ。
だが、馬上の敵を地上から切り伏せるには高さが足りない。上段に構えて切りかかってもせいぜい腰に届く程度だろう。
敵のリーダーの剣術レベルやどんなウィルを使うのかわからない以上、一撃で仕留める必要があった。
そこで勇一はジャンプして首の辺りに狙いをつけたが、剣を振り下ろすことは出来なかった。
人を斬るなど初めての経験だったためだ。手が震えている。
(だめだ...できない)
そこで勇一は作戦を変え、パワードスーツの力で相手を投げ飛ばすことにした。
軽くジャンプすると後ろから首筋を捕まえ、夢中で力いっぱい投げつける。
バァン!
数十メートル吹き飛んだ賊のリーダーは村の柵に激突し、柵にぶつかると同時に「ギャッ!」という声を響かせて動かなくなってしまった。
あまりの力だったためか、柵は一部崩れてしまった。
凄まじい音に一瞬、全員の手が止まったが、暗がりでもあり、戦っていた人々には何が起きたのかわからないよう。
そこで勇一はこう叫ぶ。
「賊のリーダーは倒したぞーっ!」
ひるむ賊の集団。騎士と村人の連合軍は「おおーっ!」と声を上げ攻勢をかけはじめた。
ロディは村の門付近で奮戦していたが、やがて賊の一味は襲撃を諦めて退散しはじめた。
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戦いが終わり、ロディをはじめ応戦に出た人々は肩で息をしつつも次第に落ち着きを取り戻し始めていた。
村の危機と初めての戦いに高揚していた勇一は賊のリーダーが乗っていた馬の脇にとどまっていたが、徐々に後悔の念が押し寄せてきた。
パワードスーツと重力シューズによる超スピードと怪力がバレてしまったからだ。
(まずかったかなぁ...)
宿屋に帰ったらきっと力についてロディに追及されることだろう。そう考えると気が重くなった。
だが、幸いなことにみな、誰が賊のリーダーを倒したのかわかってない様子だ。
「誰がやったんだ?」
「全然見えなかったぞ」
(このままごまかせるか?)
しかしその期待は打ち砕かれた。ロディが「ユーイチの声じゃなかったか?」と言ったのだ。
それを聞き、釈明のことを考えると勇一の気持ちは更に暗くなった。
結局、ロディやカーラと顔を合わせる勇気が出ない勇一は、とりあえずこの場を去ろうと考え、暗闇に乗じて超スピードで走り去ると、宿屋の2階へジャンプして窓から部屋へ戻ってしまった。
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勇一が部屋に戻りベッドに入って布団をかぶっていると、しばらくして階段を上ってくる足音が聞こえる。
コンコン
部屋をノックする音。
「ユーイチ、いるんでしょ?」
カーラだ。
「...ロディに聞いたわ。村を救ってくれたんだって。ありがとう。足手まといになるとか言ってゴメンね。それだけ。じゃあ。ゆっくり休んでね」
「...」
勇一の力に触れること無くカーラは階段を降りていった。
おそらく村の危機を救うために知られたくない力を明かして自分たちを助けてくれたんだ、と思っているのだろう。
ロディや村長、リールもそう思ってそっとしておいてくれているのかもしれない。
(いい人たちだなぁ)
そんな人達に嘘をついていたことを申し訳ないと思いつつも、
「やっちゃったことは仕方ないか」
勇一は半ば開き直り、数日前と同じ方向に出ている月をみながらそう呟いた。
賊のリーダーとは言え人を傷つけてしまったのは事実だが、不思議とそれほどの罪悪感を感じることはなかった。悪者であったことに加え、地球の同胞ではなかったからだろうか。
(人間とはやはり身勝手なのかもしれないな)
勇一はそんなふうにも考えていた。




