第二十四話 勧誘
翌日から道場に泊まり込むことにした勇一は、ウィルの修行に打ち込んだ。
修行と言っても基礎体力をつけるための走り込みや発現能力の反動を支えるための筋力向上など体力面の増強が主だったが、同時にウィル自体のバリエーションを増やす工夫も行っていた。
1週間ほどの修行の結果、勇一はファイアやアイス以外にもいくつかの力を手に入れつつあった。
そして、勇一を見る周りの目も変わってきたようだ。
食堂へ入っていくと皆の視線を感じたり、海岸でウィルを撃っていると後ろで誰かが見ていたり、といったことからもそれは明らかだった。
(なんか...目立ってる...?)
そう思い始めた矢先のこと。勇一がいつものように海岸でいくつかのことを思い浮かべながらウィルを試し撃ちしていると、後ろからルッテが声をかけてきた。
「ユーイチ君、がんばってるね」
「あ...ルッテさん」
「今のファイアはこないだよりかなり威力が増しているようだね」
「はい、おかげさまで。どう念じるかでウィルの発現がどう変化するか試してます」
「ユーイチ君の急激な成長にみんな驚いてるようだよ」
「ああ...ここへ来た時より、人の視線を感じるようには、なりました」
「だろ?」
ルッテはここで笑顔になり一呼吸おいた。
「それで、模擬試合大会の話はもう聞いたかな?」
「模擬試合大会?」
「そう。今週末に王立競技場で行われる恒例の模擬試合大会だよ。しばらく前から食堂に掲示してあるけど、見てないかな?」
(しまった)
勇一はK-116の力で会話こそ出来てはいるものの、読み書きはその都度K-116に翻訳させないと出来ないのだ。掲示板にいくつかお知らせが貼られているのは知っていたが、単なる事務の連絡事項かと思い確認していなかったのである。
「すみません、うっかりしてたかもしれません。その模擬試合大会っていうのは?」
「3ヶ月に一度、弟子たちが修行の成果を披露出来る場なんだ。うちの道場は自由だろう?普段、具現の師に見て頂ける機会は少ないから、この模擬試合大会で評価してもらうのさ」
ルッテは言葉を続ける。
「それに、王立競技場には各国の関係者や貴族の私兵団もたくさん来るよ。優秀な使い手のスカウトを目的にね。だから修行の修了を考えている者はかなり真剣だ。まぁ道場にとっても彼らからの寄付が重要な収入源だから、というのも否めないんだけどね」
そういって笑う。
「それで本題に戻すんだが、君は模擬試合大会にでるつもりはないかい?」
「僕がですか?」
「そう。君の成長は皆にとってよい刺激になると思うんだよ。力試しにもなると思うから考えてみて欲しい」
勇一は少し考えてから「わかりました」と出場を承諾した。
今後の移民権交渉のためには、この世界の有力者たちに少しでも顔と名前を覚えてもらっておく必要があるためだ。
勇一の答えを聞いたルッテは、にっこりと笑ってその場を後にした。
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模擬試合大会当日。
白い石造りでコロッセウムを彷彿とさせる王立競技場には、一般の人々こそいないものの、各国から人材を求める諜報部員団や貴族の信頼を得ている執事クラスなど多くの人々が観客席に陣取っている。
具現の師の道場に世界中から優秀な人材が集まっていることを改めて感じさせる光景だ。
アルデンテ王国からはセブ執事が数人の側近らと参加しているのが見える。
正面席には具現の師とルッテら四天王と呼ばれる師範代たちが座っている。
数年に1度といった低頻度の大会であれば仰々しい開会前のセレモニーもあるのだろうが、年に4回行われているためだろうか、勇一が想像していたより事務的に大会は始まった。
第1試合。大柄だが勇一より若く、おそらく10代だろうか。色黒の強そうな男と、やや小柄で同年代の色白少年が競技場で向かい合う。ふたりの距離はおよそ15mほど。
「はじめ!」の声と共にどちらも走り出し、まず色黒が火炎放射器のようなファイアを撃つがその射程は10mに満たず相手に届かない。
色白の反撃。同じようにファイアを繰り出した。彼の一撃は色黒より長くギリギリで色黒を直撃したように見えた。だが色黒はすんでのところで脇によけたためわずかに右腕をかすった程度だったようだ。
ダメージを負った右手をかばうような仕草を見せている色黒に対し、色白が追撃する。今度は直径数cmほどの火の玉を弾丸のように飛ばす技だ。
再び脇によけた色黒だったが、色白はその方向に再度火の玉を飛ばす。連撃だ。
色黒の「くっ...!」という声の直後、避けきれなかった彼に火弾が直撃したところで試合終了となった。
一礼して試合場を後にする色白。火傷を負ってしばらくうずくまっていた色黒も控えの者に肩を借りて退場していった。
観客席からは拍手も目立ったが、それより何か話しながらメモをとる様子が多く見られる。おそらく色白と色黒をスカウトするかどうか判断しているのだろう。
色黒はやけどを負っており、1週間か2週間は修行にならないだろう。模擬試合とは言え相手のウィル次第では死にも直結しかねないようだ。
(これが模擬試合か...)
勇一は改めてウィル修行の厳しさを目の当たりにしたような気がした。
それから数試合が行われ、いよいよ勇一の出番となった。




