第十九話 絶景
宿に戻った勇一とカーラ。
カーラは国王から聞いた話を手紙にまとめリールに送ると言う。勇一は保護色モードを解除したK-116のメンテナンスを行っていた。
(具現の師かぁ...ウィルの達人らしいから何とかして入門し、ウィルについて学ばないとな)
そんなことを考えていると、母親への手紙を書き終えたカーラが勇一の部屋をノックする。
慌ててK-116を保護色モードに戻す勇一。
「何してるの?」
部屋へ入ってきたカーラが尋ねる。
「具現の師のことを考えていたよ」
そう答えるとカーラは多少迷いながら
「あのね、ユーイチ。その...私も一緒に行ったら、ダメかな?」
アルデンテ王国の首都グリーンベルトからアルテ村へ帰るカーラを送り届けた後にニール王国へ赴こうと考えたいた勇一は意表を突かれた。
「えっ?カーラは村へ帰らないの?」
「うん、私は具現の師に弟子入りなんてとても無理だから、ユーイチと一緒にニール王国へ行って、そこで情報収集しようかなって。母への報告は手紙にまとめたわ」
カーラは勇一と一緒にニール王国へ行くつもりで、リールへの報告を手紙にしたためていたのだった。
カーラが同行してくれるなら心強い上にここから直接ニール王国へ向かうことが出来るため都合が良い。
「本当に村に戻らなくて大丈夫なの?」
もう一度念を押すように聞く勇一。
「国王陛下からのお話は手紙に書いたから大丈夫。それにまだニール王国で新しい情報が手に入るかもしれないし」
「じゃあ、一緒に行こうか」
勇一が承諾するとカーラは嬉しそうに「うん!」と言った。
ニール王国へ旅立つのに必要な国王からの紹介状と国籍証はその日のうちに予定通り勇一の手元に届いた。
その上、使いの者にカーラも同行することを国王に伝言するよう依頼したところ、国王は親切にも馬車の手配までしてくれたのだった。
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翌朝、チェックアウトしたふたりは、既に宿の前に待機していた馬車に乗り込みニール王国へと出発した。
「今日からはふたり旅だね!」
刺激のないアルテ村を離れる機会が少ないからだろうか、カーラは旅行気分でご機嫌のようだ。
勇一も女の子とふたりで旅をするなどもちろん初めてな上に、ニール王国で見られるという海に期待を膨らませていた。
ニール王国の首都ロイヤルハーバーはアルデンテ王国の首都グリーンベルトの北にあるシンパ山を越えてすぐに位置しており、馬車なら1日で着く距離ではあったが、シンパ山の峠を避けて通れないため途中の道は険しかった。
シンパ山の北側はすぐ海になっており、ロイヤルハーバーは港町として栄えているのだ。
途中の峠で休憩した際には、高みから見える絶景とも言える海にふたりとも心を奪われた。
「カルパッチョ、浜焼き、活き造り...海の幸が楽しみよね!」
カーラはすっかり観光旅行気分のようだ。
勇一にとっては初めての海であり、汚染された地球で天然の海鮮料理などもちろん食べたこともない。
「天然の魚なんて...食べたことないよ...」
勇一は思わず口にしてしまう。
「えっ!?ユーイチ魚を食べたことないの!?国王陛下とのお食事でも食べたじゃない」
驚くカーラ。
(しまった)
この世界で魚を食べたことがない人間などいないに違いない。宮殿でも魚料理は普通に供されていた。ウィルを使って氷を作ることが出来るわけであり、冷凍技術などなくても内陸部で魚を食べることが珍しくないのだ。
「あ、いや、生魚を食べることはあまりないかなーって」
慌てて取り繕う。
「お刺身やカルパッチョを食べたことがないってことね。うん、生は滅多に食べられないもんね。だから楽しみよね!」
(なんとかごまかしたか...)
カーラと一緒にいる時間が長くなってきたからだろう、気が緩んでいるようだ。
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ニール王国の首都、ロイヤルハーバーに到着したふたりは宿に荷物を置くとカーラの提案で海を見に向かった。港町であるロイヤルハーバーでは宿からちょっと歩けばすぐに海岸なのだ。
海を目当てに訪れる客が多いからだろう、海岸沿いの道には海鮮料理の店が立ち並んでいる。
既に夕暮れ時になっていたことからふたりはしばらく海岸に座り沈みゆく夕日を眺めた後、海鮮料理の店に入り夕食を取ることにした。
客で賑わっている店内でカーラが次々と料理や酒を頼む。
「そんなに頼んで大丈夫?高いんじゃない?」
勇一が心配するとカーラは笑いながらこう言った。
「大丈夫よ。実はアンリ王女を警護した時のお給金を預かってるの。さすが王室よね、100ゴールドも頂いたのよ!」
「それって僕のお給金じゃ...」
「私だっていたんだから折半に決まってるでしょ!ニール王国に行こうと決めてから、海鮮料理に使おうと思ってたのよ!」
他に使い道も思いつかない以上、お金に執着はなかった勇一だったが、カーラの強引さには思わず苦笑してしまう。
「こんな美女と旅行できてるんだからそれだけでありがたいと思いなさい!」
ご機嫌なカーラは酒も回り始めているようだ。
「ロディさんに恨まれそうだな」
勇一はそう言って笑う。
「私はロディみたいな男性じゃなくて、繊細で上品な王子様みたいなタイプがいいな~。銀狼みたいな?」
ちょっとムッとした表情になった勇一に気づいたのだろう。
「ごめんなさい...」
二人の間に少し気まずい空気が流れる。
「気にしなくていいよ」
勇一が笑顔で答えると、カーラは申し訳無さそうな表情で上目遣いに「もう言わないね」と言った。
その後も楽しい時間は続いたが、勇一はカーラと話しながらも窓から見える海を眺め銀狼の言葉を思い出していた。
(「君の力では多数の敵を相手にすることなど出来ないのだよ」)
「多数の敵を相手に出来る力か...)
具現の師の元でウィルについて学ぶと共に、この世界で発言力を手に入れるため銀狼が指摘したような力を使えるようにならねばならない。
(果たして出来るのだろうか...)
夜の海は既に漆黒の闇であったが、沖合には夜釣りの船が多数見えている。船の明かりに加え、何のためだろうか、あちこちで時折見えるウィルの炎は昼間の青い海とはまた異なる絶景であった。




