第十八話 紹介
一時間後、勇一とカーラは2日前に訪れた宮殿のサロンのような謁見室で再び座っていた。国王から具現の師への紹介状をもらうためだ。アンリ王女が部屋へ入ってくる。
「カーラ、また会えて嬉しいわ!ユーイチ様、昨日はありがとうございました」
「いえ...あんなことになっちゃって...」
「そんなことないわ!ザナドゥ様のお力を見られるなんて滅多にないことですもの。いい機会でした」
社交辞令かも知れないがアンリ王女は前向きに勇一を慰めようとしているようだ。
カーラが口を開く。
「それでね、アンリ王女。ユーイチは具現の師の元で修行したいって言ってるのよ。国王陛下に紹介状をお書き添えいただけないかしら」
「もちろんよ!私から父にお願いするわ。ニール王国ですもの、きっと弟子にしてくださると思うの」
アルデンテ王国とニール王国は国王同士が親戚であるため、ニール王国内への力添えであれば他の国の国王より有効なのだ。
アンリ王女は「ちょっと待っててね」と言い残すと、勇一とカーラを置いて席を離れた。
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勇一とカーラが待っていると、コンコンとノックしてセブ執事がやってきた。
「国王陛下が謁見されますので王の間へご案内させていただきます」
「あっ、はい」カーラが答え席を立ち、勇一もそれに続く。
セブ執事の後ろを歩きながら、カーラと勇一はひそひそと言葉を交わした。
「国王陛下が謁見って...直接お話があるってことよね?」
「うん...なんかあったのかなぁ」
カーラと勇一はアンリ王女に紹介状を依頼し、後日受け取りに来るものだと思っていたため、思いがけぬ展開に多少ドキドキしていた。
勇一は前日、アンリ王女を危険に晒したことを叱責されるのではないかと少し不安になった。
2日前に勇一が壊した王の間のドアは既に修繕されている。
中へ入ると、今日は前回より人の数が少ない。王の脇にアンリ王女が立っており、他には離れて壁際に控えているメイドがふたり見えるのみだ。
カーラが挨拶し勇一がそれにならうと国王が口を開いた。
「ユーイチ殿、昨日はアンリの警護ご苦労だった」
「いえ...」
「トラブルもあったようだがね。ハッハッハッ」
銀狼との一件を指しているのだろう。勇一は先に謝罪しておこうと考えドキドキしながら言葉を発する。
「アンリ王女を...その...危険に晒してしまい...申し訳ありませんでした」
すると国王はその件についてあまり気にしていないようだ。
「ん?ああ、いやそれより、君を呼んだのは他でもない、銀狼のことなのだよ。彼とは昨夜、会食する約束があってね。宮殿前の広場でアンデッドを召喚するなどこの国の安全保障にとって由々しき事態だと抗議したのだよ」
「...」聞き入る勇一とカーラ。
「すると彼はカーラとアンリを怖がらせたのは申し訳なかったと謝罪するとともに、ユーイチ殿への伝言を預かったのでそれを伝えようと思って来てもらったのだ」
(銀狼が自分に伝言?)
「昨日は成り行きでああなってしまったが、悪気はなかったのでご容赦願いたい、次は更に修行を積んだ君と出会ってみたいものだ、と言っていたよ。」
(......試された、ってことなんだろうな)
「彼がそう言うのはユーイチ殿への期待も含まれているのではないかな。具現の師の元で存分に修行してくると良いだろう」
「紹介状は私の名前で発行するから安心したまえ。例の国籍証と一緒に本日中には受け取れるよう手配しておく」
「ありがとうございます」
勇一が頭を下げると、隣でカーラも釣られたように会釈する。
微笑みながらやり取りを見ていたアンリ王女が
「ユーイチ様、具現の師の元で修行なさるのですね」
と述べ、「はい」と答えると今度はカーラの方を向いてこう尋ねた。
「カーラも一緒にいくのかしら?」
答えに詰まるカーラ。
「私は...王都で...」
そう言ったカーラは、少し間をおいてからこう続けた。
「実は、母から世界の情勢についてわかる範囲で調べてくるように、と言われているので...」
自国とは言え、国王の前で諜報活動の任を帯びていると告白するのはためらいがあるのだろう。
カーラの話を聞いていた国王は、勇一たちの隣に立っていたセブ執事に「人払いを」と指示した。
控えていたメイドと共に王の間を後にするセブ執事。
それを見届けた国王は、勇一とカーラに「こちらへ」と言って玉座の近くに呼び寄せる。
内密の話をするのだろう、アンリ王女も少し不安気な表情で国王に寄り添う。
ふたりが近づくと王は話を始めた。
「リールもドレスデン王国の動きを心配しておるのだろう。カーラ、私の話をリールに伝えてくれたまえ」
「はい、国王陛下」
「噂にはなっておろうが、ドレスデン王国の実権は既に『色白の怪人』が握っておる。現在、急速に軍備を拡張しているようだ。遠からず我々も戦火に晒される可能性が高いだろうと考えている」
「わがアルデンテ王国は知っての通りニール王国と親戚国家であるから、共同で防衛に当たることはもちろんだが、それ以外にも味方を増やすための策を練っているところなのだよ」
「昨日の銀狼との会食で彼は我々に近い考えであることがわかった。特産品のワインが功を奏したのかもしれんがな。銀狼はこの国のワインを守りたいと言っていたよ。ハッハッハッ」
真剣な眼差しで聞くカーラやアンリを和ませるためか、国王はそんな内容を含めながら話を続けた。
「だが、他の2人の自治領主やベラノッテ王国の動きはまだ見えていないのだ。ベラノッテには『ベラノッテの賢者』がおる。ドレスデン王国に追随することはないと思うが...」
(ベラノッテの賢者?...そんな人もいるのか)
「銀狼以外の自治領主はいずれも強大な力を持っておる。これらが『色白の怪人』側につかないよう、策を練っておるところなのだ」
「カーラはリールにこの話を伝えてくれたまえ。内密でな。またリールの力を借りずに済むよう、国王として全力を尽くすよ」
「国王陛下、お話をありがとうございます。すぐに母に伝えます」
母に命じられた情勢の調査を、これ以上ない形で国王から直接知ることが出来たカーラは深々と頭を下げた。




