第十五話 散策
翌朝、勇一はカーラと会う前に地球への報告を考えていた。キノピー星に到着して今日が7日目なのだ。地球への報告は1週間ごとに行うこと、と決められている。
今回の報告ではこの星に先住民が存在していたこと、一定の文明が発達していることから移住までのプロセスを抜本的に見直す必要がある、という内容は避けて通れない。
おそらく政府内では大きな問題とされるだろう。
ただし、勇一はウィルについてどこまで言及するかについて判断を迷っていた。アルテ村で自分にも使えることはわかっていたが、リールやザグルのように特殊能力を持つ人々がどの程度の数で、それらがどんな能力なのかといういわばウィルの全貌については全くと言っていいほどわかっていなかったためだ。
勇一からの報告をもとに政府内で今後の方針が決定される以上、中途半端な段階でウィルについてレポートに加えるのは避けるべきではないのかと考えたのだった。
熟考し、今回はウィルについて触れずに報告書の作成を終えた勇一は、K-116に送信を指示すると外出の準備に取り掛かった。
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勇一が1階に降りていくと、ちょうど入り口でカーラがドーウィル伯夫妻と話をしているところだった。
ドーウィル伯夫妻はチェックアウトを済ませ帰路に着くところのようだ。宿の前の道には白木の馬車が見えている。
2泊分の宿泊を負担してもらったことにお礼を言っているカーラ。勇一も慌てて3人のそばに行き、夫妻に礼を述べた。
「昨日はザグル兵団長とやりあったんだって?」
ドーウィル伯は既に前日の顛末を知っているようだ。
「国王陛下がお止めになったそうだが、ユーイチ君が優勢だったそうじゃないか。さすが『アルテの勇者』だ、大したものだよ」
自分が国王に紹介したユーイチが兵団長に善戦したからだろうか、ドーウィル伯は嬉しそうだ。
「ケガがなくて本当に良かったわ」ドーウィル伯夫人も微笑んでいる。
隣で聞いていたカーラが口を挟んできた。
「ユーイチは国王陛下からアルデンテ王国の国籍を賜ったのよね!」
「ほぅ、それは知らなかった。ではこれで堂々と王都を歩けるわけだね。ハッハッハッ」
そう言って勇一の肩を叩くドーウィル伯は更に続ける。
「よかったらまたアルテ村に寄ってくれたまえ。いや、次は私の館に来てもらおう。歓迎するよ」
ドーウィル伯夫人も同意する。「そうね、お待ちしているわ」
そしてふたりは白木の馬車に乗りこみ、王都を後にしたのだった。
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ドーウィル伯夫妻を見送り、食堂で朝食を取る勇一とカーラ。彼らの滞在も今日までだ。
「ねぇ、ユーイチはこれからどうするの?」
「う~ん、どうしようかな。いろいろ見て回りたいとは思ってるんだけど。カーラはどうするの?」
「私はもうしばらく王都に滞在しようかと思ってるわ。実はママから王都で他国の情勢について調べてくるように言われているの。不穏らしいからね...」
(リールはおそらくアルテ村を守るためには自分が率先して情報を集めなくてはいけないと考えているのだろう。諜報部隊にいたというリール本人が王都まで来ないのはまだ状況がそれほど逼迫しているわけではない、ということでもあるんだろうな)
勇一はそんなふうに考えながらカーラの話を聞いていた。
「ねぇねぇ」
「ん?」
「ユーイチは次の予定があるわけじゃないんでしょ?もう少し王都で私に付き合ってよ」
ひとり行動になってしまうのが寂しいのか、カーラが勇一を誘う。
「うん...そうだね、別にいいけど。国籍証が出来るまで数日かかるみたいだし」
「やった!」
勇一はカーラをアルテ村まで無事に送り届けねばならないと考えていたので、カーラの王都での調査にも同行することにしたのだった。
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それからふたりは宿を引き払い宮殿に向かった。今日は中へは入らず、門の脇の小屋に来訪を告げるカーラ。
するとまもなく、前日勇一達が通った通用門ではなく、荘厳な正門がギギギと音を立て兵によって開けられる。
「おまたせ、カーラ」
「おはようございます、王女様」
「もぅ、堅苦しい挨拶はいいからいきましょ!」
宮殿の正門から登場したアンリ王女を道行く人が何人も立ち止まってみている。目立つのがいやなのかアンリ王女はすぐにその場を離れたいようだった。
「ユーイチ、王女様の警護の仕事、ちゃんとやってよね!」
仲のいい姉妹のように腕を組んで歩いていく王女達の後ろからついていくと、カーラは振り返ってそう言った。
「ユーイチ様、今日はよろしくお願いいたしますね」
アンリ王女もカーラに同調して、軽く頭を下げる。
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治安の良い王都グリーンベルトでは基本的に王族が一人で街を出歩いてもそれほどの危険はないようだった。だが、美しいアンリ王女は目を引く上、王都には他国の人間もいる以上、油断はできない。
勇一はアンリ王女とカーラから少し離れて後ろから周囲を警戒しつつついていった。
前日は執事やメイド、それに国王や側近がいたことから遠慮していたのだろうが、ふたりは本当に仲が良さそうで、始終笑い合っている。
王女の笑顔も昨日より自然に見え、学生時代によく訪れていたのだろうブティックや雑貨店を巡っている。
アンリ王女は勇一が退屈しているのを心配しているのか、時折チラチラと見て気を遣ってくれる。
勇一に地球でデートした経験はなかったが、「女の子と過ごすのも大変なんだなぁ」と独り言をつぶやいていた。洋服やアクセサリーには全く興味がなかったからである。




