第十四話 会食
その夜、勇一はカーラと共に国王や王妃、それにアンリ王女と夕食を共にしていた。
昼間に外出しておりカーラと会うことが出来なかったセルリア王妃がアンリ王女に提案し、国王も了承したためだ。勇一もご相伴に預かっていた。
セルリア王妃はアンリ王女によく似た金髪の美人で、国王がリールと王都兵団の同僚であったのに対し、国王の3つ年下でリールと同じ年の王妃は王都学校で同級生だったとのこと。
(カーラとリールが王家とこれほど強いパイプを持っているとはね)
勇一はやがて訪れるだろう地球からの移住について交渉するタイミングで、突破口としてリールとカールの力を借りようと考えていたが、自身がこの星の有力者と接点を大きくしておいて損はない。
まぁ、本当のところはカーラのペースに巻き込まれたという部分の方が大きかったのだが。
国王一家との会食は勇一にとって地球での暮らしを含めてももちろん初めての経験であった。
オードブルに始まりスープ、魚料理、肉料理と続く本格的なコースなど口にしたことがなかったからだ。
いくつも並ぶナイフとフォークの使い方すらわからない勇一は、皿が並ぶ度に隣のカーラに小声で確認しながら食事を進めていく。
その様子を見ながら微笑んでいる国王。
彼は勇一が記憶喪失であるという点をドーウィル伯から聞き、宮殿でその実力を目の当たりにした際に、きな臭い動きを見せている「色白の怪人」の手先で、アルデンテ王国に潜り込もうとする間者ではないのかとの疑いを持っていたのだった。
だが、国王一家に取り入ることが目的の間者であれば食事のマナーすらおぼつかないというのは考えにくい。また勇一がカーラを操っている様子もないことから、その素性について徐々に安堵していたのだ。
会食では勇一の能力も話題にのぼった。
セルリア王妃「ユーイチさんは身体強化系のウィルをお使いになられると伺ったわ。スピードとパワーなんて素晴らしいわね」
アンリ王女「今日の模擬試合はすごかったわ!」
ロメイン国王「うむ。あの身体硬化したザグルを数十メートルも投げ飛ばすなど常人に出来ることではないからな」
アンリ王女「お父様、ユーイチ様をアルデンテの兵団にスカウトしたらいかがかしら」
半分冗談でそう言うアンリ王女だが、国王も同じような考えを持っていたらしい。ドレスデン王国で「色白の怪人」が不穏な動きを見せている以上、万一に備えるため稀有な人材を囲い込んでおきたいと考えるのは自然な話だ。だが賢王であるロメイン国王は自らの事情を押し付けるような人物ではなかった。
ロメイン国王「ユーイチ殿さえよければそうしたいところだが...アンリ、彼は記憶喪失なのだよ。自分のことを思い出すまでは一箇所に留まるべきではないだろう」
カーラがほっとした表情を見せている。
ロメイン国王「ただし、今のままでは国籍もない状態だ。どうだろうユーイチ殿、君さえよければ我がアルデンテ王国の国籍を一時的に発行するが。おそらく今後の旅で役立つことだろう」
勇一「ありがとうございます。確かに今の状態はとても不安定ですので、王国国民としての証明書があればとても助かります」
ロメイン国王「そうか、ではそれを先程の褒美代わりとしたいがよろしいかな」
カーラ「ユーイチ、アルデンテ王国の国民になるのね!いいと思うわ!」
勇一は「うん」とカーラに言い、改めて国王に謝辞を述べた。
夕食が終わってもサロンに移り談笑する国王一家とカーラ。アンリ王女はカーラに翌日街を散策しないかと誘っている。
アンリ王女「お父様、明日はカーラと一緒に街へ出てもいいかしら」
ロメイン国王「予定が許すなら行ってきたらいい。ザグルに伝えておこう」
アンリ王女「警護はいらないわ!カーラも王都には詳しいんだから」
セルリア王妃「アンリ、王族としてそういうわけにはいかないのよ。わがまま言わないの」
アンリ王女「じゃあ、ユーイチ様にボディガードをお願いするわ!それならいいでしょ?」
ロメイン国王「ユーイチ殿であれば警護は問題ないだろうが...ご都合もあるだろう?」
カーラが口を挟む。「ユーイチは問題ないわよね?」
おそらくカーラもアンリも、仰々しい警護がいては楽しめないと思っているのだろう。カーラにとって勇一は御しやすい相手だからアンリとふたりで自由に行動できるというのもあるのかもしれない。
「う、うん」
と答えるとアンリ王女が目を輝かせる。
「じゃあ、決まりね!ユーイチ様、明日はよろしくお願いいたします」
ロメイン国王とセルリア王妃も一人娘には弱いのだろう、結局ユーイチが警護を担当することとなったのだった。
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宮殿での会食を終えて宿へ戻る勇一とカーラ。
「今日はつきあわせちゃってごめんね」
「ん?...なんで?」
「国王陛下の前で模擬試合までさせられちゃって...一歩間違っていたらユーイチ、ケガしてたかもしれないから...」
「でも、結局この国の国籍までもらえちゃったから寧ろラッキーだったよ。国王のご一家ともお近づきになれたしね」
「あっ、ひょっとしてアンリ王女と仲良くなろうとか思ってる?」
隣を歩いているカーラが少し上目遣いにニヤっと笑いながら勇一を問い詰める。
「えっ、いやそういうわけじゃないけど...」
「アンリ王女は美人だもんね~。まぁ記憶喪失の怪しい男じゃムリだろうけど」
そう言って今度はケラケラと笑う。
「だよね」
勇一も釣られて笑う。
少しの沈黙が流れた後、正面に宿が見えるとカーラが再び口を開いた。
「記憶...早く戻るといいね」
「うん」
「記憶が戻ったら...ユーイチはいなくなっちゃうのかな...」
「...」
「考えても仕方ないかっ。明日はよろしくね、ボディーガードさん!」
そういうとカーラは勇一を置いて小走りに宿へ入っていった。




