第十ニ話 謁見
勇一たちの部屋にセブ執事が再びやってきた。
「ご歓談中、よろしいですかな?国王陛下が執務からお戻りで、カーラ様にお会いしたいとのことですが」
「あら!お父様、領主会議は終わったのね。行きましょ、カーラ。セブ、ユーイチ様もご一緒でいいのよね?」
「もちろんでございます」
3人はセブ執事とともに国王の間へ移動することになった。
アルデンテ王国のロメイン国王は王国を代々支配する王家の長であり、聡明でアルデンテ王国を観光と農業により繁栄させた賢王である。
国王は若い頃、リールと王都学校で同級生であったことからカーラのこともよく知っており、何かと気にかけてくれるのだと言う。
宮殿の奥にある国王の間の大きなドアの前には衛兵が2名立っており宮殿内部の者でも自由に出入りすることは出来ないが、もちろんアンリ王女やセブ執事が止められることはなく、左右から両開きのドアを開けてくれた。
国王の間に足を踏み入れた勇一は、王の座に向かって30mほども敷き詰められている真っ赤な絨毯に目をやりながらアンリ王女それにカーラに続いて進んでいった。
これまでの人生で少なくとも王を名乗る立場にある為政者に接したことなどなかった勇一は、国王を正視しながら近づいていくことなど出来なかったのだ。
いかにも国王らしい、きらびやかなマントを羽織い、仕立ての良さそうな白銀の衣装をまとった国王が、彼の頭の位置より1m近い背もたれと立派な肘掛けの備え付けられた玉座に座っている。
脇を固めているのは大臣など側近たちであろうか。玉座の両側に3人ずつ並ぶ形で控えている。
玉座とその周りは部屋の中で一段高くなっており、先頭を歩いていたアンリ王女が段差の前で足を止める。
「国王陛下、カーラ様とユーイチ様をお連れいたしました」
「うむ、ご苦労。カーラ、久しぶりだね」
さほど緊張しているふうでもないカーラは、映画でよく見る貴婦人のように少しかがみながらスカートを持って国王に挨拶した。
「お久しぶりでございます、国王陛下。お目にかかれて光栄です」
国王は優しい笑顔を浮かべてカーラを見て頷いている。
なんともまぁ形式張ったやり取りだと思ったが、高貴な人々というのは何につけてもそうなのだろうな、と勇一は受け止めた。
「そちらがアルテ村を救ってくれた恩人の方かな?」
国王がユーイチに声をかけてくる。
「はっ!」
どのように振る舞ったら良いのか全くわからない勇一は、とりあえずひざまづき、片膝をついた状態で下を向きながら答えた。
「緊張しなくても良い。顔を上げてくれたまえ」
そう言われ、改めて国王を見上げる勇一。ロディのように逞しくはないが眼光鋭く、なるほど賢王と言われるだけのことはあるのだろう。そんな顔つきであった。
「アルテ村の窮地を救ってくれたこと、改めて礼を申しておきたい。領主会議でドーウィル伯が貴殿の話をしておったぞ。『アルテの勇者』と呼んでおった」
そう言って国王は笑った。優しそうな笑顔だ。アンリ王女も大切に育てられているのだろう。
つられて傍に控えている側近たちも笑ったが、その笑顔は国王とは異なり、みすぼらしい格好の勇一に対する分不相応な呼称を失笑しているようにも思えた。
それからしばらく、国王がカーラに近況などを尋ね、カーラがそれに答えるというやり取りが続いた。時折アンリ王女も話に加わったが、勇一に出る幕はない。
(部外者だからなぁ。やっぱりひとりで王都の調査でもしてればよかった...くそ)
そんなふうにも思ってしまったが、収穫もないわけではなかった。王の発言の中に何度か「リール」という言葉が出ていたからだ。カーラの母親で自分も即位する前に王都兵団で同僚だったということから当然のことなのだろうが、勇一は国王へのリールの影響力を利用して
(この国を動かす時はリールさんから国王に伝えてもらうという形がよいかもしれないな)
などと計算していたのだ。
国王が再びユーイチに語りかける。
「『アルテの勇者』殿、貴殿は優れたウィルの発現能力を持っておるとか。ドーウィル伯が言っておったぞ」
「いえ...」
ここで勇一たちと同じ一段低い位置で脇に控えていたセブ執事が一歩前へ出る。
「国王陛下、カーラ様によるとユーイチ殿のウィルは身体強化系だとか」
アンリ王女が興味を持ったようだ。
「まぁ!それじゃザグル兵団長と同格ですわね!」
人々の目が一斉に、入り口付近の男に注がれる。
黒鉄の甲冑を身に着けているその男はやや小柄ではあるが横幅が広くまるで重戦車のような印象を受ける。これがザグル兵団長なのだろう。
国王が再び口を開く。
「どうかね、儂にそれを見せてくれんかね」
国王がそう言うと、アンリ王女も
「私も拝見したく存じます!」
と目を輝かせている。
困ったような表情で振り返り勇一を見つめるカーラ。
(まいったな...どうやってやりすごそう)
これだけの人の前でスピードとパワーを見せるのは気が進まない上に、そもそもあの力は自分のウィルではなく地球の科学技術に過ぎない。
これが自分のウィルです、とばかりに国王に披露するのは騙しているようで許されることではないだろうと考えたのだ。
「国王陛下にお見せするほどのものではないかと...」
すこし置いてからなんとかそう切り出した勇一だったが、場の空気はそれを許してくれなかった。
ザグル兵団長が口を開いたのだ。
「国王陛下!彼がひとりでやるよりも、私めがお相手をつかまつった方がよろしいのではないかと考えます」
ザグルは好戦的な目で勇一を睨みつけていた。
何の地位もなく聞いたこともない若者が突然現れて王女が自分と同格、と呼んだのだ。王国でキャリアを積んできたザグル兵団長が勇一を敵視するのも無理はなかった。
ザグル兵団長の提案に少し考える様子を見せていた国王だったが、彼の申し出を受け入れることにした。
「なるほど、そうかもしれんな。では『アルテの勇者』とザグル兵団長の模擬試合という形で見せてもらうこととしよう」
「はっ!」ひざまづくザグル兵団長。
結局、広い王の間で勇一はザグル兵団長と一戦交えることとなった。勇一の能力を見るだけの簡単な試合であることから、わざわざ闘技場に場を移すこともなかろう、と国王が判断したのだ。
「なんかごめんね、こんなことになっちゃって」
謝るカーラに勇一は
「なんとかなるよ...」
と答え、ひきつった笑みを返すのが精一杯だった。




