第一話 到着
22世紀半ば。21世紀前半に対立が深まった2大大国は西暦2100年を迎える直前に軍事衝突に至り、多くの国々を巻き込んだ第三次世界大戦に発展した。
大戦で使われた核兵器による大気の汚染は地球を荒廃させ、森林や海洋資源の減少は大戦の終了をもたらした一方で人々の地上における生活に困難をもたらした。
その結果、先進国を中心に生活の中心は次第へと地下都市へと移っていくこととなる。
大戦は22世紀に入るとほどなくして一応の終戦を迎えたが、協定はすぐに形骸化し大国は互いの地下都市に対しゲリラ的なウィルス兵器投入を繰り返したことから、人類は疲弊する一方であった。
こうした中、地球に見切りをつけつつあった各国はこぞって宇宙開発に力を入れ、自分たちが独占できる新天地の発見に力を入れていたが、遠い惑星に多くの人々を移民させるまでの技術にはまだ到達しておらず、数名程度が搭乗する調査宇宙船を送り込むのが精一杯であった。
日本もその例外ではなく、政府は惑星探査に力を入れており、2150年に第一次調査隊を送り出したものの失敗。2178年に第二次調査隊を送り込んだ。
これは第二次調査隊員として惑星に派遣された青年が現地の人々と触れあいながら様々な経験を積み成長していく過程を描いた物語である。
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ズズン!
小型宇宙船とはいえ、数百トンの巨体が降り立つ衝撃は草原の大地で暮らす動物たちを驚かせた。
バサバサッ
鳥たちが羽ばたいていく。
「ああ...着いたのか」
着陸後、宇宙船の中で冷凍カプセルが数分かけて解凍された後に勇一はぼんやりと状況を理解しつつあった。
「8年ぶりの起床と言っても、地球で目覚めるのと変わらないね」
両手両足が自分の意思通り動くことを確認しながら彼はゆっくりと冷凍カプセルから起き上がりつつ呟いた。
「さて、まずは安全確認して。メシはそれからだな」
勇一が着陸した星はキノピー星。地球から約180光年離れている。22世紀の後半、人類は光速の数十倍の速度で宇宙を移動出来る推進力を手に入れていた。
しかしそれでも数十万、数百万光年の距離にある星々に人を送り込むなどまだまだ夢物語であり、せいぜい200光年程度までの範囲にある数少ない惑星のみが調査の対象となっていたのである。
キノピー星よりももう少し近くにも人類の移住に適している可能性のある惑星は確認されていたが、それらはいずれも2大強国が先に調査・開発を進めており、勇一の祖国である日本はやや離れたキノピー星への移住を検討していた。この星の調査・開発権は国際条約によって日本が有していたのだ。
「ユウイチ、オハヨー」
8年間の旅を経て冷凍カプセルから起き上がった勇一に、ドロイドのK-116が声をかける。
球体のK-116は地球上の様々なデータベースを内蔵しており、大気や土壌、菌類の調査分析機能や生体センサーを搭載したロボットである。たった一人でキノピー星に赴いた勇一にとって唯一の話し相手ともなる。
地球との交信はあまりにも距離が離れていることからリアルタイムでは成立せず、どちらからも一方的に通信内容を送りつけるだけになってしまうのだ。
「おはよ、K-116。司令部にキノピー星到着を報告しといて。地球からなんか通信来てる?」
「リョウカイシマシタ。地球カラノメッセージハ23件デス」
「8年間で23件かよ。少ないな。まぁ日本が無事であればそれでいいんだけど」
勇一が真っ先に家族の心配をしないのには理由があった。彼には家族がいないのだ。
両親は彼が幼少であった頃に地下都市に流し込まれたウィルス兵器で命を落とし、唯一の家族であった姉も彼が宇宙船に乗り込む1年前に原因不明の病に倒れ、帰らぬ人となってしまった。
生物学者としての道を歩み始めたばかりだった勇一がキノピー星への第二次調査担当員の募集に応募したのはサイエンティストとしての好奇心も去ることながら、家族を死に追いやった大国同士の争いから解放された世界を作りたいという気持ちが強かったからにほかならない。それは平和を希求して止まなかった姉の遺志でもあったのだ。
ちなみに第一次キノピー星調査隊として勇一に先立つ28年前に地球を旅立った2名は、キノピー星到着直後に交信を絶っていた。
そのため、惑星探査計画推進派は政府内で一時勢いを失っていたが、地球の環境が悪化の一途を辿るばかりであったことから、20年後に再び探査計画が持ち上がったのである。
今回の調査はキノピー星自体の調査に加えて、およそ30年前に消息を絶った2名の安否確認も目的となってはいたが、勇一は2人の「先輩」が生きているとは考えていない。
そのような事情から地球と祖国の無事を真っ先に気にかけた勇一であったが、半年前に届いていた最新の通信は新しい総理大臣の就任を伝えていた。
「相変わらずトップがコロコロ変わってるんだな日本は」
呆れ顔でそう言うと、「ま、今の俺には関係ないけどね」と気を取り直し、勇一は着陸した宇宙船の周辺に危険がないかどうか、K-116に調査を指示するのだった。




