2章 1話 温かい食事
第1話 温かい食事
「ゴメンね。ウチには布団が無いもんだから、畳に寝かせちゃったけど…
まあ、食べれるんだったら食べて。有り合わせだけど」
辺りを見回すと、白い粒の上に黒い何かがかかっているどんぶりと、小皿に盛られた黄色い何かが置いてあった。
「これは?」
「玄米ご飯と海苔の佃煮にたくあん。だから言ったでしょ、有り合わせだって。」
佃煮…たくあん…聞いたことは無いが、今まで食べていたものよりは美味い事だけは判る。
玄米と佃煮とやらを食べてみる。
美味い…美味過ぎる…
今まで、D級、あるいはC級品の合成パンと土の中のミミズしか食べる事の出来なかった俺にとっては、それが有り合わせの料理であることが、にわかに信じられなかった。たくあんも美味かった。つう、と涙が零れる。生きていて良かった…美味いの一言に尽きる…
彼女は、俺が泣いたことに少し困惑している様子だった。
自然と箸が進み、いつのまにか掻き込んでいた。その様子を見て彼女は、
「ちょっ!?喉に詰まるわよ!はい水!」と、水を渡してくれた。一気に飲み干した。
塩素の匂いがしない。味もない。泥水みたいに混濁していない。美味い…
「この水は!この水は何日に一度飲める!?」俺は勢い込んで聞いた。
「な、何日って…普通にいつでも飲んでいいけど…」
いつでも!?ここは天国か!?これは幻聴か!?俺は明日死ぬのか!?
飯も美味い、水も美味い、さらに水は飲み放題!明かに天国であった。
一段落してから、俺は彼女に様々な事を聞いた。何故平均寿命が1000歳なのか。名前を。
今自分の着ている物のこと。何故みんな動物の部位を持っているのか。この水の水源。
佃煮やたくあんの作り方。技術力。貨幣の単位。全て答えてくれた。
平均寿命が1000歳なのは、電子顕微鏡でも確認できなかった「何か」が空気中に含まれており、それが細胞分裂の回数を約1000倍にするが、成長スピードは0~18歳までは普通なのだが、19歳辺りから920歳辺りまでほぼ同じ肉体年齢であり、残りの80年が通常の年齢経過となり、俺の場合は兵士の肉体内で凝縮されていた「何か」を一気に摂取する事で彼女らと同じ程の寿命となったらしい。
何故みんな動物の部位を持っているのか。明確には判らないが、それのお陰で2つの能力を持つことが可能となったようだ。
この水の水源は、隣の小川だそうだ。
彼女のなは「柏木 白夜」(かしわぎ びゃくや)。俺と同い年で、この神社の巫女をしているらしい(経営難で副業をしているそうだ)。今俺が着ているのは「浴衣」とかいう物らしい。「どうせ何も持ってないだろうから」という理由で、俺にくれた(草履も)。どうやら技術力は元々居た世界と同じくらいらしい。佃煮やたくあんの作り方は、買っているから知らないとの事。貨幣の単位は「文」(もん)。
身寄りも無いから泊めてくれと頼んだら、1週間の新聞配達の手伝いと皿洗いを条件にOKをもらった。面倒なのでずっとやって良いかと聞いたらめちゃくちゃ感謝された。
そこからは未知の事ばかりだった。
まず風呂。3日に1度しか入れなかったのが、毎日入れるようになったのだ。
体を洗うために たわし を借りたら、「シャンプーと石鹸があるわ、それは五右衛門風呂を洗うための物よ」と言われた。
寝るとき。土の上では寝るなと言われたので、縁側で寝た。「浴衣」は通気性が良かった。
食事。1日1回、1切れの合成パンが、1日3回の温かい食事になった。皿洗いなんていつもやっていたので、苦にはならなかった。
2日後。職を見つけ、皆の信頼を得て、ここでの生活に慣れようと思ったので、仕事を始めた(もちろん新聞配達もやった)。その地域にたった1つの「何でも屋」であった。
何か1つだけをしろ、と言われても、途中から飽きるならば様々なことをしていれば飽きないな、と考えたからであった。