1話旅立ち
第1話 旅立ち
「早くしろ!それでも貴様らはユーラシア連合国軍人か!?」
口うるさい教官の怒号が飛ぶ。
「へいへい、出来てますよーっと」我ながら手先は器用なもんだと思いながら完成品を
渡す。教官も器用さには舌を巻いたようで、何も言わず俺の作った対戦車地雷を
倉庫に収めた後、俺を解放してくれた。
昔の政治家はよくもまあこんな簡単に降伏したもんだと思いながら、宿舎に帰る。
現在、つまり2079年では、世界は3つの国しか存在していなかった。
ユーラシア連合国、アメリカ大陸民主主義人民共和国、そしてオセアニア・アフリカ
連合王国である。俺はその中の旧日本国、つまりユーラシア連合国に住んでいる。
この国は中国とロシア、東南アジアの国々が勢力を拡大して完成した国で、君主国は
旧中国である。今の日本は英語のスペル、“JAPAN”から「JP」と呼ばれていた。
日本は中国の6番目の属国となったが、それは「我々は他国に迷惑をかけた
歴史があった」というアホみたいな理由からだった。その事を未だに根に持っている
諸外国の連中は2,3国くらいまで減っていたというのに、だ。
中国以外の文化は全く認められず、俺達は番号で呼ばれ、名前が許されたのは一部の
特権階級のみであった。ただ母国語だけは残された。俺の名前は「DB978JP6E」と呼ばれていた。それしか無かったのである。
「DB978JP6E、至急司令部へ向かわれたし。繰り返す。DB978JP6E、
至急司令部へ向かわれたし!」相部屋のスピーカーから、事務的な声が流れた。
「ったく、訓練終わりだってのにすぐ呼び出すんじゃねえよ」そうボヤきながら俺は
本部へと向かった。
「1ヶ月前、南極大陸が存在していた場所に未知の物体が発見された」司令官代理士官の
第一声はそれであった。
今は既に北極と南極の氷は全て溶けきり、島国であった旧日本は水没するものかと
おもわれていた。地球温暖化の影響である事は明かだった。が、服属していた中国からの支援により、日本と本土が繋がった。そして、旧日本の全体的な標高も上がる事となった。
その代償として、ヒマラヤ山脈はただの平地と化してしまったが。そう、山を削ったのだ。
今の南極では、オーパーツや新元素が発見される事も珍しくなかった。ネオクリプトンも
南極で発見された新元素である。
「今回は太古のオーパーツと推測される物体だが…それまでは発見されていなかった全身を保護するタイプの物だ。しかし、そのアーマーからは今までの物でもない、全く新しいタイプの金属が使用されていた。今回君には、その装甲のフィールドテストを兼ねた
新しい土地の調査をしてもらいたい。」
「新しい土地…という事は、新発見の惑星か、資源衛星でありますか?」
「いいや、これは決してオカルトやそんな類のものではないのだが…実は、地球の核に
近い部分、少なくとも地殻よりも深い所に、かなりの数の生命反応が検知された。
そこは昔の地球のような、水、資源、植物の豊富な場所である確立が高い、というのが
専門家の意見なんでな、そこを調査してもらいたい。それと、発見されたアーマーについてはお前が好き勝手に改造して良いぞ。兵器開発部の者と、ラボの一角の使用も許可する。早ければ早いほど良い。早く準備したまえ。それだけだ。」
そう、「今の」地球は、衛星画像からも容易にわかるように砂漠化が進んでいた。植物が
残されているのはアマゾンや東南アジアの竹林くらいで、その地球に住み続けるのは政治家か、他の惑星あるいは人工プラントに移住出来ない程の貧しい者ばかりであった。もちろん俺は政治家なんぞではなく、貧しい者の1人だった。我々はスラムに住んでいるのだが、毎年熱中症でスラムに住む人々の3分の1程度が死んでいった。皆、金を稼いで移住しようなんて気は消え失せ、自堕落な日々を送るか、軍隊に入隊して衣住食を支給してもらう他無かった。毎日、宇宙空間から水、食料物資が送られて来る。その物資と、乱立しているガラスのようなドームが、辛うじて我々を生かしている。そんな中、俺は軍隊に入る事を決意したのは15歳の頃である。
「今は17だから法律的にはOKなんだけど、あの時は少年兵ってレベルの年齢だったん
だよな…」
俺はそんな事を思いながら、ラボへと向かうのであった。今の地球では、法律なんて
あって無いようなものである。その上、法律は都合の良いように書き換える事が容易に
なっていたのだ。
そのアーマーは、今の技術と大差ない程に高性能な物であった。なにより嬉しかったのは、
それにAIが搭載されていた事。もしそこに誰も居なかったとしても、発狂する事は無い
だろう。俺はそのアーマーとAIを、「震電」、“FOOL-SYSTEM”
(おバカシステム)と命名した。「彼」もその名が「斬新である」というようにで気に入ってくれた様だった。武装も確認した。左腕グレネ―ドランチャー、頭部イオンレーザー、、
右腕チタン・タングステン・ネオクリプトン合金製ダガ―、脚部対地・対空・対艦ミサイルポッド、背部飛行用バックパックと、かなりの重装備であった。
そこから改造に入った。
ペイントを、無塗装の状態から、俺の趣味でガンメタル、ブラック、シルバー、浅葱色に塗装した。ニークラッシャー内臓のはんだごてと糸はんだから、溶接キットと耳かきに変更した。これも俺の趣味である。左腕のグレネードランチャーを、兜割用のラックに換装し、右腕のダガーを高出力レーザーカッターに換装した。右大腿部にスペツナズ・ナイフを、左大腿部にサバイバルナイフを装備しておいた。これで、刃物が不足するなんて事は無くなるはずだ。最後に、右腕に白いペンキで“STRANGER”(よそ者)と書いて終わった。システムはいじらなかった。
「早ければ早いほど良い」と言っていたのを思い出し、宿舎の同期やスラムの皆、エンジニア達に別れを告げて出発しようとした。が、最後くらい本を幾らか読んでおこうと思い、
文書庫に走った。
そして…