炎龍対策会議
セシルが拠点に来てから一週間後、ハヤトがいつものように自室でアイテム作成を行っていると、アッシュとレン、それにセシルがやってきた。
アッシュの話ではあれから二回ほど炎龍エディ・オウルと戦ったが、いい線まではいくものの倒すまでには至らないとのことだった。
問題は物理攻撃と炎属性攻撃を無効化する炎化。あの状態になると、極端にダメージを与えられなくなる。
プレイヤーやNPC達は属性攻撃に切り替えて戦ってはいるが、あと一歩のところで火力が足りず倒せない状態だ。
「セシルにはドラゴンイーター・レプリカを渡したよな? それでもダメなのか?」
「あの剣は強いけど物理属性だろ? 炎化されると何もできねぇんだよ。一応、属性攻撃のウェポンスキルもあるけど、水や氷はねぇんだ。だからあの状態になったら俺は遠くで見てる」
「なら、水や氷属性の剣があればなんとかなるか?」
「あんの?」
セシルが期待した目でハヤトを見るが、残念ながらハヤトは持っていないので首を横に振って応えた。
基本的に属性攻撃ができる武器はランダムで付くスキルでは作れない。もともとそういう属性の攻撃ができる武器を狙って作るしかない。炎の属性攻撃ならフレイムソード、雷の属性攻撃ならライトニングソードといった具合だ。
ただ、ウォーターソードやアイスソードという武器はなく、ウォーターショットと呼ばれるクロスボウや、アイスロッドと呼ばれる杖しかないのだ。
セシルは主に片手剣、両手剣、刀の類、つまり剣術スキルで使えるようなものしか扱えず、弓や杖は使えなかった。
さてどうするか、そう思ったところで、レンが勢い良く手を上げた。
「呪いの装備ならどうでしょうか。私のコレクションに氷の魔剣パァマフロストがありますよ。両手剣だからセシルさんでも使えると思うんですが」
「そういう武器があるんだ? でも、呪いの装備なんだよね? どんな効果があるの?」
「装備しているだけで徐々にHPを減らしますね。あと周囲にも冷気のダメージを徐々に与えます。迷惑極まりない武器ですね!」
「なんで嬉しそうに言うの。でも、徐々にHPを減らすだけならスイーツ系の料理で相殺できるかな。それに装備したらってことでしょ? アイテムバッグに入れておけば呪いは発動しないから料理を食べるまでもない。終盤になったら呪いの装備をして突撃すればいい」
装備の影響は装備しているときだけであり、アイテムバッグに入れているだけではその効果は発動しない。それは呪いの装備も同様で、装備しない限りはデメリットもない。
「遠回しに俺にひどいことさせようとしてねぇか? 炎化した炎龍に突撃って」
「いや、遠回しじゃなくてストレートに言ってるんだけど」
たとえHPが無くなって倒れても、教会や神殿で復活できるなら別に問題ないだろうというのがハヤトの考えだ。デスペナルティもないので、何を躊躇する必要がある、とまで考えている。
だが、それを強要される側としてはたまったものではない。
「ハヤトは俺に厳しいな! ドラゴンイーターを気に入ったスキルが付くまで作らせたのは悪かったと思うけど、頑張ってんだから大目に見てくれよ。それともハヤトはエシャの影響を受けてんのか? 気を付けた方がいいぞ?」
「私がなんです?」
「げっ、いたのかよ」
エシャが二階から階段をおりてきた。
今は朝十時。現実の方でようやく目を覚まして、ログインしてきたのだろうとハヤトは思った。
「セシルはいろんな人に迷惑をかけているんですから、それくらいやればいいんですよ」
「でもなぁ、エシャは知ってるだろ? 神からもらった褒美には制限がかかる。俺はどんな武器でも装備できる代わりにアイテムバッグは使えねぇんだ。最初から呪いの装備しておかないといけないんだって」
この世界の神――ディーテからもらった褒美は、確かにゲームのシステムすら改変するほどのものだが、ノーリスクではない。
セシルの場合、どんな武具も装備は可能だが、その代わりに誰かの専用装備に関してはその性能は使えない。だが、それだけではなく、アイテムバッグが使えないという制限もある。
また、セシルは複数の武器を装備できるが、他の装備枠を変更して装備している。
装備は本来、メインウェポン、サブウェポン、頭、上半身、下半身、手、足、首、指、腕の枠に分かれている。セシルはサブウェポン、指、腕、首の枠をすべてメインウェポンの枠に変えているため、盾や指輪、それに腕輪やネックレスも装備はできない。
エシャに関しても、狙撃や魔法のスキルが上限を超えているが、代わりに他のスキルがマイナスとなっている。
元々使わないスキルがマイナスでも影響がないと思われがちだが、料理スキルがマイナスの場合は作った料理が襲ってくる、動物調教スキルがマイナスの場合は大人しいモンスターでも常に襲ってくる、といったリスクがある。
そんなリスクがあるために、セシルはアイテムバッグに呪いの装備を持っておくということができず、もし使うなら常に装備しておかなくてはいけない。
「そういう制限がありましたね。なら、現場でレンさんから直接渡してもらえばいいのでは?」
「それだと渡してもらったときに俺も装備を渡さないといけないじゃん。それはちょっとなぁ」
アイテムバッグが使えないということは、装備を渡してもらった瞬間に装備しなくてはならない。五つあるメインウェポンの装備をどれか渡さない限り、武器を受け取れないことになる。
コレクターのセシルとしては、自分の武器を一時的にでも誰かに渡したくないという思考を持っていた。
「面倒くさいですね。なら最初から武器は四つだけにしておけばいいじゃないですか」
「いや、だって、それは格好悪いだろ? 美しくねぇよ」
「貴方の美意識はどうでもいいんですよ――それにしても変わりませんね。それさえなければあのクランでまともな部類になれたのに」
「あのクランでまともなのっていたっけ? エシャを含めて皆、まともじゃないと思うけどな?」
(自分のこともまともじゃないと思っているんだな。でも、これ以上、セシルに何かをさせるのは無理っぽい。別の手を考えた方が早そうだ)
ハヤトはそう考えて、呪いの装備を使う案はやめようと考える。セシルを説得するよりも別の案を出したほうがまだ建設的だと思ったからだ。
「それじゃ呪いの装備による戦いはやめよう――レンちゃん、露骨にがっかりしないで。それじゃ、帝国出身で魔法の火力が高い人とかいないかな? そういえば、帝国にはエシャの知り合いがもう一人いるんだよね?」
「いますけど、アレは出てきませんよ。帝都の城を防衛していると思いますから。それにいわゆる盾役ですから、魔法なんてとてもとても」
「そうなんだ。それじゃ他には――」
「ハヤト、ちょっといいか?」
アッシュがそう言った後、全員を見渡してからまた口を開く。
「正攻法ではないだろうが、炎化する前に倒すというのはどうだろう?」
「炎化前に……? どういうこと?」
「単純にエディ・オウルが炎化する前に物理攻撃で倒す。炎化させないと言えばいいか」
「いや、それは無理じゃないか? あのドラゴンのHPって尋常じゃないくらい多いよな?」
ハヤトがモニターで見ていたスタンピードでは、かなりのプレイヤーやNPC達が攻撃していたにもかかわらず、ドラゴンのHPはほとんど減らなかった。
「だが、セシルなら一撃でかなりHPを減らせる。炎化するギリギリまでHPを減らしてから、セシルにとどめを刺してもらう。あの炎化はおそらくHPが三分の一くらいまで減らないと使ってこない。そのあたりをうまく見極めることができれば簡単なはずだ」
水や氷の属性攻撃の火力がないなら、炎化前に物理で押し切るというのは作戦としては悪くないような気がする。ハヤトはそう思い、実際にそれをやるセシルの方を見た。
セシルはニヤリと笑う。ハヤトには、セシルの目がやらせてくれ、と言っているように見えた。
「そういうことなら最高ダメージの記録更新を狙わないとな! エシャのデストロイよりもダメージを出してやるぜ!」
「まあ、頑張ってください」
セシルのやる気に反してエシャは素っ気ない。どうでもいいと思っているのか、記録の更新などできるわけがないと思っているのかは分からないが、あまり興味がなさそうだった。
それはそれとしてハヤトは別のことを考える。
(あのドラゴンも動かしているのは人間だ。炎化のタイミングなんて自由にできるはず。どういう形で使えるのか念のため確認しておいた方がいいかな。攻略本を見るような感じでゲームとしてはどうかと思うけど、負けたらやばい可能性があるんだからディーテちゃんも協力してくれるだろう)
ハヤトはそう考えてディーテに連絡を取った。




