ハーフタイム
全員が後退していたが、ミストだけは蛮族の相手をしていた。それは時間稼ぎだ。だが、それもすぐに終わる。ミストは蛮族に倒されたのだ。
相手の蛮族はミストを倒した後に追撃してくることなく砦のほうへ戻っていった。
相手もギリギリで立て直すために戻ることにしたのだろうと、ハヤトは倒されたミストを復活させながらそんなことを考える。
一応、エシャが砦で銃を構えている。追撃してきたらすぐに迎撃するためだ。その体勢のまま、エシャは口を開いた。
「久々に手ごたえのある相手ですね。さすがはランキング一位と言ったところですか」
「この状態でも上から目線なんだ? 手ごたえがあるって言うか強敵だと思うんだけど」
「これくらいなら前のクラン戦争でもやってましたよ」
「前のクラン戦争って本当に俺の知ってるクラン戦争なの?」
ハヤトの視点で言えば、今回の戦いは次元が違う。というよりもゲームが違うと言ってもいいレベルだ。ロールプレイングゲームだと思ったら格闘ゲームだった。それくらいの違いなのだ。
とくに一瞬の判断が色々と早い。ディーテはその判断の早さで何人もの味方を守ってくれたと言っていいだろう。
レリックにダメージカットやHP回復の魔法を使わなければ、あの自爆攻撃で倒れていた可能性がある。また、レンを範囲外に放り出したのも良い判断だったと言えるだろう。
マリスは倒されてしまったが、レリックを二対一の状況にさせないためにランスロットをクランストーンへ向かわせたのも英断だったと言える。
そう思っていたら、相手クランのリーダーからチャット申請がきた。
ハヤトは相手と話をしてみたいという純粋な興味でその申請を許可する。
「ダイダロスのクランリーダーで間違いないかな?」
「ええ、間違いないですよ。そちらはバンディットのリーダーさん?」
「そうだね。いやぁ、久しぶりだね。確か、クラン申請の施設で会ったよね?」
「あの時はどうも。まさかあの時の人がランキング一位のクランリーダーだとは思いませんでしたよ」
「それはお互い様かな。噂の金色ドラゴンが君のクランにいるとは思っていなかったよ。しかもNPCだったとはね。盲点だったよ」
「でも、対策は知っていたようですね? こっちもドラゴンブレスをノックバックで止めてくるとは思いませんでした」
「賭けだったけどね。まあ、初心者狩りのクランから色々聞き出せたおかげかな。ペナルティのお金を肩代わりしてあげたしね。かなりの出費だったけどそのおかげで初見殺しされずに済んだよ」
(1億G以上払ったってことか? すごいな。というか、あの初心者狩りのクランでも対策方法は知らないと思うんだが――いや、賭けだと言ったから、状況を聞いただけか。モーションが長いからノックバックで何とかなると思ったのが賭けってことかな)
「さて、ここから後半戦になるわけだけど、君は出てこないのかな? メイドさんのNPCと一緒にいるみたいだけど」
(俺が生産職であることは知らないのか――いや、そんなわけないな)
アッシュのことを1億G以上のゲーム内通貨を払って情報を得ているのだ。ハヤト自身のことを調べていないと思えないのだ。
つまり、相手はハヤトのことを調べた上で知らない振りをしている、という可能性が高い。なぜそんなことをするのかは分からないが、何かしらの情報をこぼすことを期待しているのだろう。
「俺は生産職で全く戦えないから頭数に入れなくていいよ――大体、調査済みですよね?」
蛮族の男から反応はない。だが、すぐに笑いをかみ殺すような声が聞こえてきた。
「いやぁ、手ごわいね。嘘をついたら、嘘だと指摘して恥ずかしい思いをさせようかと思ったんだけど」
「いい性格してますね」
「ごめんごめん。まあ、勝つためには色々やっておこうって話だから水に流してよ。それじゃ精神的な揺さぶりが効かないようだからチャットは止めておくよ。正々堂々とは言わないけど、お互いに頑張ろう」
「ええ。お互い頑張りましょう。でも、俺達が勝ちますけどね」
「言うねぇ! でも、それはこっちも同じだよ。それじゃ」
相手はそう言うと、チャットの接続を切った。
(計算高いのかいい人なのかよく分からないな。どっちにしても負けるわけにはいかないな――まあ、俺は何もしてないんだけど)
そうこうしているうちに、アッシュ達が戻っていた。それぞれがアイテムの補充などを済ませていて全員が屋上にいる。
そして泣きそうな顔をしているのがレンだ。
「あ、あの、す、すみません! 私が余計な欲を出したばっかりに皆を危ない状況に!」
「呪いの装備を奪いましょうと言ったのは私です。レン様は悪くありません。ハヤト様、お叱りなら私が」
「いや、なんで俺が怒る前提で話してるの? 鎧の装備を奪えなくても解除はさせようと思ってはいたんだ。それに許可を出したのは俺なんだから、あの行為に責任があるなら俺。二人を叱るなんてことはしないよ。むしろ――」
ハヤトはディーテの方を見る。特に何の表情も浮かべていないディーテは、ハヤトに見られて不思議そうな顔をした。
「私は頑張ったと思うのだがね?」
「お礼を言おうと思って見たんだって。ディーテちゃんの対応でマリスとランスロット以外が倒されることなく撤退出来たよ。ありがとう」
ハヤトの言葉にディーテは目を丸くする。驚いたというよりも思考が止まった感じの表情だ。だが、すぐに笑みを浮かべる。
「そうかね。まあ、お礼を言われるほどでもないよ。そんなことよりも次の戦いを考えよう。同じように戦うのかね?」
照れ隠しなのか、本当にお礼を言われるほどでもないと思ったのかは不明だが、ディーテは話を変えた。
確かに時間はそれほどないので、話を先に進めることにする。
「後半戦はどう戦うべきかな? クランストーンは半分ほど破壊してあるけど、時間切れの場合は考慮されないはず。総ダメージ数では勝ってる?」
「いや、総ダメージ数では負けていると思う。相手の自爆が結構効いた。誰も倒れなかったのは幸いだが、あれで逆転されたはずだ」
アッシュの回答なら正しいのだろう。だが、それは問題だ。こちらから攻めなければならない。エシャの攻撃範囲である自陣で戦う方が明らかに有利なのだが、そうもいかないということなのだ。
「後半戦は私もフィールドに出て戦いましょう」
ハヤトの心の中を読んだのか、エシャがそんなことを言いだした。
「相手の縮地は危険ですが、前衛二人と中衛一人を倒していますからね。私にも護衛がいれば何とかなるでしょう」
「護衛と言っても誰がする? あの蛮族はさっきミストも倒したぞ?」
「お恥ずかしい話ですが、アッシュさんの言う通りですね。夜でも私ではあの蛮族に一対一で勝てません。とはいえ、先ほどはドラゴンブラッドを使いませんでしたがね」
「使えば勝てるか?」
「相手が戦ってくれるなら。おそらく使ったら逃げるでしょうね。残念ながら移動速度を上げる装備を持っているようで、追いかけられないのですよ」
「ドラゴンブラッドは数が少なかったな。エシャを守るためだけに使うのはもったいないか」
その後も色々と意見がでるがこれと言った対処はなかった。ただ、エシャを拠点に残すのはもったいないということで、レリックが護衛をすることで決まった。
そして大体の方針も決まる。
まずは縮地を使う蛮族と黒装束は無視して中衛、後衛を狙う作戦となった。味方の能力を向上させるバフ効果をできるだけなくそうという方針だ。その後、クランストーンを狙う。
「蛮族と黒装束以外を倒したらクランストーンを狙おう。あれを狙われて逃げるわけにはいかないだろうからな」
縮地が使え、移動速度が速い蛮族を倒すには絶対に戦わなくてはいけないという状況を作らなくてはならない。一番簡単なのはクランストーンを狙うことだろう。
「よし、それじゃ行くぞ。ハヤトはここに残ってミストの復活を頑張ってくれ。砦内にいれば縮地の対象にはならないから」
「俺だけ情けない感じだけど分かったよ。みんな気を付けて」
アッシュ達はハヤトを残して砦を出て行った。




