情報の扱い方
「やあ、パルフェさん! 君が教えてくれた情報で探検家ギルドも賑わっているよ!」
「そうですか。ですが、私は聞いただけでして……」
「出所はどうでも良いんだ。重要なのはその情報を共有してもいいかどうかだからね! それにAFOでの情報の扱い方が良く分かる内容だった! これが分かったのはパルフェさんのおかげだよ!」
「はぁ、ありがとうございます……?」
王都アンヘムダルにある探検家ギルド、そこでパルフェは数日前にリックを経由してルースから聞いた幽霊船の情報をギルドマスターであるルティに報告したところ、絶賛された。ただ、本人としては聞いた情報をそのまま渡しただけなので絶賛されることなのかと頭の中ではクエスチョンマークが飛んでいる。
パルフェもゲーム内での情報の隠匿は重要であることは分かる。情報の内容にもよるが、そこからもたらされる利益を天秤にかければ、公開せずに独占しようと考えるのも当然だ。ただ、今回に関しては幽霊船が不死研究所という情報だけであり、それだけでここまで絶賛される理由が分からない。
そもそも、幽霊船の情報はすでにいくつか集まっていた。幽霊船と不死研究所が同じものという情報だけは全くの未知であったが、その結果から色々な情報を組み合わせると間違いないことが判明したという。結果から情報の内容を理解するという逆の手順ではあるが、それが分かっただけでもかなりの情報だった。
そんな説明をルティからされてもパルフェとしてはあまりピンと来ていないので、周囲との温度差が広がるばかりだ。
「つまりだね、AFOは一つの情報だけでは意味がないことが多い、ということが判明したわけだ。まあ、昔から言われてはいたんだけど、悪魔王ミカンのことや今回のことでそれが良く分かった。クエスト未実装の先行情報ではなく、実装はされているが情報が多すぎてまとめられないというわけだね」
「一つの情報に意味がない?」
「複数の情報を集めて推測する、どんなゲームにもそれはあるけどね、AFOにはそれが多いということだ。もちろん、一つの情報で分かるものもあるが、難しいものほど複数の情報を集めなくてはいけない。いや、逆か。複数の情報が必要だから難しい。さらにはそれでも直接的な答えがなく、推測が必要になる。そこが落とし穴というか、AFOに未知が多い理由だ」
ルティの説明では不死研究所に関する情報がいつくかある。「滅亡した都市に不死研究所があった」「所長が研究成果を盗み出して海を渡った」「同時期にとある船が行方不明になった」などの情報があり、そこから導き出される答えがパルフェが持ってきた情報「幽霊船が不死研究所」になるという。他にも「吸血鬼が完全な不死の研究をしている」「行方不明になった船に吸血鬼が乗っていた」などがあり、今でもその船で不死の研究をしている吸血鬼がいるのではないか、という結論だ。
「分かったはいいが、これは難しいね。どの情報がどれに関係するヒントなのか分からないし、これらの情報は一つの場所で見つかるわけでもない。今回は答えが分かったからこそ複数の情報が不死研究所の情報だと判明したけど、全ての情報が集まっているのかも分からないことが難しさに拍車をかけているよ!」
「その割には楽しそうですけど?」
「宇宙の未踏領域に足を踏み入れるとはまた違ったロマンがあるからね。ゲームはね、製作者とプレイヤーの知恵比べみたいなところもあるだろう? パズルを作る者と解く者、どちらがよりロマンを感じるのかは分からないが、私は断然後者だね!」
AFOの製作者であるディーテと知恵比べをしたら確実に負ける。というよりもあまりに難しすぎて誰も解けないパズルが多く存在するAFOにしびれを切らしているのがディーテ本人なのだが、それは言わないでおこうとパルフェは思った。今回もパズルのヒントをスタッフを使って大量に放出している状態なので、手加減されているようなものなのだ。
もしかすると情報を合わせて推測するということを探検家ギルドにやらせようとディーテが考えている可能性もある。パルフェとしては至れり尽くせりだなぁとは思うが、ディーテとしてもメリットが多い事なのだろうなと勝手に納得した。
「AFOでの情報の扱い方はなんとなく分かったのでね、これからは情報の買取を多めにやるつもりだよ。誰も知らないような情報ならそれこそ割り増しで買うつもりなんだ。パルフェさんは他にないかな? 色々知ってそうだよね?」
「私はまだ初めて一年経っていないのでほとんど知らないですよ。ただ、両親がAFOをやっていましたし、その交友関係もAFO絡みが多いですから、今回の件はたまたま手に入っただけです。それに普段はネタバレ禁止にしてます」
「なるほど。確かにその通りだね。二十年前から続くゲームだ。多くの情報を持っているのはハヤトさんやエシャさんもそうだろうし、その知り合いの方も多くの情報を持っているだろうね!」
ルティはそう言いながら、目を瞑ったまま腕を組んで何度も頷く。
そのルティの目が開いて真面目な顔になった。
「それでパルフェさん、実は幽霊船を発見しようというクエストをギルドとして発行するつもりなんだ。もちろん、ギルドのスタッフや私も行くんだけどね、良かったらクランメンバーを誘って参加しないかい?」
「幽霊船の発見ですか。運の要素が高そうですけど」
「いくつもの情報から大体の海域は分かっているんだ。それに今まで気にしてなかったけど、AFOでは各地で天気予報を伝えるスタッフもいるだろう? 一週間くらいの予報なんだけど、知っているかな?」
「そういえばいらっしゃいますね。メイドギルドでもそういう予報が掲示板に張り出しています」
「どうやらね、霧が発生する日も分かるみたいで、その海域が霧になるのが明日なんだよ」
「幽霊船が出る日が分かるってことですか?」
「可能性は高いと思う。大手クランは自前の船があるけど、うちのギルドでも船は用意するし、良かったらどうだい? もちろん空振りの可能性もあるから絶対に幽霊船を見つけられるってわけでもないんだけど」
パルフェとしては断る理由がない。それに幽霊船の話をアベルにもしたのだが、ものすごい食いつきようでどうでも良いことまで説明された経緯がある。そんな状況でもあるので、たとえゲームでも一度は見ておきたいとは思う。
ただ、色々な事情で現在はメンバーがあまり揃わない。例えばリック。現在のナツは落ち着いているが、ルースとナツのデートにニアミスしそうだったリックが「まだ油断できん」とログインの時間帯をずらしている。それにナツもリックに何を言われるのか分からないということで、色々と警戒しながらログインしており、一緒にAFOをやるまで今しばらくかかりそうだった。
他にもクリスはボクシングの練習試合があるので現実で練習中、ジニーはミカンの会社でのお手伝いがあるとかで最近は少しログインが減っている。
確実に来れそうなのはウィルネくらい。アベルは普段から忙しいので分からないが、一応誘ってみるかとパルフェは思う。
「あの、メンバーが少ないかもしれませんけど、大丈夫ですかね?」
「もちろん構わないよ。何があるか分からないけど、うちだって大手クランと変わらないほどの規模なんだ。不測の事態はあるかもしれないけど、パルフェさんたちくらいは守れるよ。まあ、パルフェさん個人の戦闘力には期待しているけどね」
そう言ったルティはパルフェにウィンクをする。
女性でしかも財団アリーズの次期当主、その人のウィンクは攻撃力が高いなーと思いつつ、さっそくアベルを含めた皆に集まる時間などをメールで送信する。
結果、予想通り、確実に参加できるのはウィルネだけだった。いきなり明日という条件だと厳しいという意見が多い。ただ、アベルからの返信はなかなかの驚きがあった。なんとか時間を作って参加すると言ってきたことにも驚いたが、他にも連れていきたい人がいるとのことだ。なので慌てて音声通話を行った。
「リオンちゃんも来たいって?」
リオンは動画配信系クラン「ふぁいと☆くらぶ」に所属しているプレイヤー。AFOの動画配信において結構な視聴数を誇る不憫系魔法少女なのだが、演技の技術を買われ、今ではアベルと同じ事務所に所属して役者活動をしている。
最近では学業と役者活動の方が忙しいためにAFOではあまり会う機会もなかったのだが、そのリオンが参加したいと言っているとのことだった。
「仕事に学業にとストレスが溜まってるみたいでなー。それに最近、ちょい役で役者デビューしたんだけど、思いのほかプレッシャーがかかってたみたいでな、明日は久々のオフだから暴れたいらしい」
「暴れたいって。でも、それならぜひ来てほしいよ。ただ、目的が幽霊船だけど大丈夫かな?」
「それがいいんじゃねぇか!」
「それ、アベル君だけから」
幽霊船を見に行くことを喜ぶ女子はいない――と思ったパルフェだが、よく考えたら自分がその女子の一人だと思い直した。そしてリオンがくるなら、リオンと同じクランのカザトキや、知り合い全員に声をかけてみるかとさらに連絡を入れるのだった。
別作品のことで恐縮ですが、「スローライフ・オブ・ザ・デッド」のコミカライズ版がTOブックス様のサイトで公開されました。詳しいことは活動報告でご確認ください。一挙三話公開ですので、ぜひ読んでみてください!
また、web版のスローライフ・オブ・ザ・デッドも一話投稿しておりますのでよかったら見てください。




