幽霊船の思い出
探検者ギルドはプレイヤー達に色々な衝撃を与えた。歓迎というよりも、プレイヤーがギルドを作れるのかという問い合わせが運営に殺到しており、今のところはその予定はないと返している状況だ。
いままでもギルドの真似事をしているクランはあった。あくまでも真似事であり、AFO内のギルドとは全く異なるものなので色々と不便ではある。それがシステム的にできるかもしれないと、大手クランからはかなりの問い合わせがあった。
出来ないと分かり、意気消沈のクランは多いが、「今のところ」という言葉が将来的には変わるかもしれないという期待となって、探検者ギルドに顔を出すプレイヤーも多い。
プレイヤーが作るクエストや報酬、ギルドに所属することで得られる特典、その辺りをプレイヤー自身が設定できるというのは魅力的に見えるようで、今後の情報収集ということもあり、元はプレイヤーである探検者ギルドのスタッフに色々と尋ねていた。
「というわけでね、探検者ギルドによるAFO内の未知調査というよりもプレイヤーが行うギルド運営という方に注目が集まってしまったよ……」
「そういう裏事情を聞かされても困るけど、ディーテお姉ちゃんでも読み間違うことがあるんだね」
探検者ギルドが発足して数日後、ディーテが困ったような顔をして拠点に尋ねてきた。
実際に困っているわけではないが、予想を外してしまったようで意気消沈気味ではある。パルフェとしてはなんとか慰めたいところだが、そんなにすぐには結果が出ないだろうとしか言えない。
「でも、私が聞いたところによると――というよりもリック君からの情報だけど、色々と動きはあったみたいだよ」
「そうだね、少しずつではあるが、過去の情報から憶測を出すなど探検者ギルドでも色々とやりくりしているようだ。それに情報提供者も募っている。それはありがたいことだね」
ルティが運営している探検者ギルド、情報収集のために多額の報酬を用意したと大々的に公表し、情報提供者にはそれなりの恩恵を与えるという宣伝もしている。
報酬はお金やレアなアイテム、それに称号だが、恩恵としてギルドが持つ、周囲に知られていないような未知の情報などもあるようで、自分が知っている情報にどれだけの価値があるかなどの話題も多い。
リックの話によれば、現在最も注目を集めているのは「不死研究所」「滅亡都市クリアのコロッサス起動条件」「蠅王ベルゼブブ討伐」であり、その情報に関してはかなりの報酬が設定されている。
目撃情報や討伐履歴があるにも関わらず、ほとんどの人が知らないとされており都市伝説化されている案件。悪魔王ミカンと同様に二十年前から存在はしているが、詳しい条件が分かっていないので見間違いで、まだ実装されていないという話もでているほどだ。
パルフェはどれも知らないが、ちょっと興味がある。リックも興味があるようで、色々と調べている最中であった。リックで調べられないならパルフェたちの出る幕はないという謎の信頼感で全てお任せ状態ではあるが。
と、そんなことを考えていたら、リックがログインしたようで、一階の喫茶店フロアに顔を出した。
「今日はディーテさんも一緒でしたか」
「やあ、お邪魔しているよ。ところで慌てているようだけど何かあったのかい?」
「ああ、いえ、AFOでの情報が得られたのでパルフェに伝えておこうと思ったんですが」
「それなら私は何も言わないでおこう。AFO内のことに関してネタバレはしないから、気にせず情報を共有してくれたまえ」
そう言ったディーテは微笑みながらコーヒーを飲んだ。リックがパルフェの方を見ると、パルフェも問題ないと思ったのか軽く頷く。
「現実の方で情報を得たんだが不死研究所とは幽霊船のことを指すらしい」
「幽霊船? 船って海に浮いている船ってことだよね? それが幽霊なの?」
パルフェたちの場合、船と言えば宇宙船を指すが、AFO内で言えば海に浮く船を指す。飛行船もあるが、あれはそのまま飛行船だ。ゲームなどでよくある船ではあるが、現実ではそういう時代があったという知識しかない。そんな船が幽霊ということでパルフェの中ではどういうことだと頭に疑問符が浮かぶ。
「はるか昔のことだが、幽霊が船を動かしている状態のことを言うらしい。当然、幽霊などはいないので、何らかの理由で船員がいなくなり、船だけが海をさまよっている状態のことをそう言ったんだろうな」
「何らかの原因って?」
「さあな。嵐で海に放り出されたとか、そんな状況なんだと思う。いまだに原因が分からない不思議な状況もあるらしいが。いきなり船員が消えたような状態だったとか、はるか昔の船が新品のまま航海していたとかもあるらしい」
「それはミステリーだね!」
「アベルあたりはそういうのが好きそうだが、それは現実の話だ。ゲーム内だとアンデッドたちが動かしているらしい。濃い霧に囲まれたときにその幽霊船に接触できるそうだぞ」
「ずいぶんと具体的な話じゃない?」
「偶然、本当に偶然なんだがルースさんに会ってな」
「ルースさんに?」
「食事をする店で一緒になったんだ。だが、次の言葉で肝が冷えた」
「なんて言ったの?」
「これからナツが来るから一緒にどうかって言われたよ……」
「おおう……大丈夫だったの?」
本人は否定しているが、ナツがルースを好きなのは幼馴染の全員が知っている。最近まで家族ぐるみで一緒に地球へ行っていたのだが、そこで何らかの約束をとりつけ、このコロニーでデートをしようとしていた可能性がある。
意図的ではないにせよ、デートを邪魔してしまっては自分の失態、ナツに何をされるか分からない。そう考えたリックはちょっと挨拶をしてすぐに帰ろうとしたらしい。問題はなんと理由を付けるかだ。
「どんな理由をつけて断ろうかと人生でもあんなに頭を使ったことはない。結局何も思いつかなかったが」
「なっちゃんとのデートを邪魔するわけにはいかない、なんて言えないもんね。で、どうなったの?」
「なので、最近AFOで話題になっている話をして、適当な情報を得られたらすぐにログインしたいと言って切り上げようとしたんだ。そのときに、ルースさんが不死研究所のことを教えてくれてな、それを聞いてパルフェが知りたがっていたからすぐにでも伝えたいと言って逃げてきた。あんなに食事を早く食べたのは生まれて初めてだったよ……」
「……お疲れ様」
「本当に疲れた……ナツには会わなかったが、ルースさんは俺のことを話題に出すだろう。俺がルースさんとナツのデートを知っているとナツが知ったら怒りながら延々と言い訳を聞かされそうだ。パルフェを巻き込んだのは悪かったと思うが、ナツが来たらフォローしてくれ。俺はほとぼりが冷めるまでしばらくログインしないから。学校でもしばらくは避ける……いや、むしろ先に色々言われた方がマシか……いや、でも、アイツ、根に持つからな……」
「なっちゃんの感触を確認しておくよ。それにフォローもしておくから。だいたい、邪魔したわけじゃないし、むしろファインプレーだよ。後で状況を連絡するから待ってて。それに幽霊船のことも調べておくね。ああ、もしかしたら探検者ギルドの人に伝えるかも」
「それは構わない。それじゃ、ディーテさんもまた今度」
「ああ、残念だけど仕方ないね。ほとぼりが冷めたらログインしてくれたまえ」
リックは頷くとすぐにログアウトした。怖いというよりも面倒なことになりそうというのが本音だろう。パルフェもナツの情報を得た時点で共犯みたいなものなので胃が痛くなりそうだった。
そんな状況は関係ないのかディーテはニコニコしながらパルフェを見ている。
「面白いものだね。なんでナツ君はルース君が好きなことを隠すんだろうか?」
「乙女心かなぁ」
「なるほど。私はまだまだ人間のことを知らないといけないね。宇宙の真理よりも複雑そうなことだが」
そう言ってディーテはコーヒーを飲む。飲み終わったのようなので、パルフェはおかわりを注いだ。
「それにしても今度は幽霊船を調べるのかい?」
「せっかくなんでこの波に乗ろうかと」
「それは私としてもうれしいよ。完全な未知ではないが、幽霊船に接触したプレイヤーは少ないからね。そもそも船を持っているプレイヤーが少ない。持っているのは大手クランのメンバーくらいだろうからね」
「そうなんだ?」
「木工スキルに人気がなくてね。船を作れるまでスキルを上げる人が稀だ。ちなみにハヤト君やエシャ君は幽霊船に接触しているよ。そうそう、あの時は私も一緒だったね」
「え? 何があったの?」
「あれは……いや、これは秘密というかネタバレになるから何をするために一緒にいたのかは言えないね。あの時はトレハン――トレジャーハンター的なことをしていたんだよ。懐かしいな」
ディーテはそう言うとコーヒーの香りを楽しみながら遠くを見るような目をする。パルフェにはそれがとても幸せそうに見えた。
その後も他愛のない話をしていると、ナツがリックはどこだとやってきたが、パルフェはディーテと共にナツをなだめることに成功。誰にも言わないという約束の元、リックはお咎めなしということになった。




