探検者ギルド
牡羊座を示す財団アリーズの次期当主ルティは、パルフェとの戦いの後、クラン「モンブラン」の拠点に入り浸るようになった。そのせいというべきか、当然というべきか、財団ジェミニのウィルネも同じように拠点に来てはルティを牽制していた。
話は簡単であり、ルティがパルフェをアリーズに勧誘し、ウィルネがそれを阻止するという構図だ。ウィルネの方もアリーズに取られるくらいならジェミニに所属させると息巻いている。
当然、勧誘を受けている本人のパルフェはどちらに所属するつもりもなく、苦笑いで二人の言い争いを聞いているだけだ。その間、トラチヨの修行は終わったかなー、と全く関係ないことを考えていることの方が多いが。
そもそも、パルフェとしてはルティとのスピード勝負――居合とクイックドローのどちらが早いかという勝負で勝っただけなのに、という考えもある。ルティがパルフェの両親に対して尊敬やあこがれに近い感情を持っているので、パルフェ自身もルティのことをそこまで悪くは思っていないのだが、押しが強すぎるのは少々苦手だ。
なお、両親にルティのことを聞いたのだが、母親であるエシャは特に気にすることもなく、「普通に撃った」とだけ言い、父親のハヤトも「いきなりでびっくりしたよ」と、本当にびっくりしたのかというほどの笑顔で言っていた。どんな修羅場をくぐってくればそうなるのかと、ちょっとだけ両親の異常さに気付いたパルフェだ。
「というわけでパルフェさん、アリーズに所属しないか?」
「待ちなさい、ルティ。なにがというわけなんですか」
「ウィルネはいつも邪魔をするね。これだけアプローチをしている、というわけだよ」
「そんなことで所属先が決まるなら、ウチのジェミニの方が先でしょうに」
「二人とも本人の意思をもっと大事にして」
すでに日常になりつつあるやり取り。どちらにも無理とは言っているが、なかなか聞いてもらえないのは財団の次期当主ゆえか。最近は財団同士でも仲良くしているとは聞くが、次の世代は自分のせいで駄目かもと思うパルフェだ。
「まあ、仕方ない。さすがにこれ以上の勧誘は接近禁止が出されそうなので諦めるよ。本当に残念だ」
「……どういう風の吹き回しです?」
「そんなに疑わないでくれ。そろそろこちらもお願いを聞き入れる時期になってしまってね」
「お願いを聞き入れる時期とは?」
「私がハヤトさんやエシャさん、それにパルフェさんに会いたいという条件を出したのは交換条件だ。こちらの条件を飲んでもらった以上、向こうのお願いを聞かなくてはならないからね。ロニオスさんから聞いてないのかい?」
「……お願い事があったとは聞いていますが、詳しくは聞いていませんね。たぶん、その方が面白いとかロニオス伯母様は思っているのでしょう」
「ウィルネも大変だねぇ」
パルフェはそこでハッとする。そもそもディーテからルティのお願いを聞いてほしいと頼まれていた。なにやらロニオスがアリーズからの条件を飲んだわけだが、そもそもの発端はディーテの方からアリーズへ何かしらの依頼があったのだ。その内容を知らないが、ルティはおそらくそれを言っている。
「それって具体的にどんな内容か聞いても平気ですか?」
「それは許可をもらっているから大丈夫だよ。ただ、その前にもう少しフランクにして欲しいというか、丁寧な口調はやめてくれないか。ウィルネを相手している時のように友達っぽく話して欲しいんだけどね」
財団の次期当主にそんな口調を使えるわけないとは思いつつも、よくよく考えればウィルネも同じではある。違いがあるとすれば、現当主のロニオスから直接お願いされているかどうかという点。さすがに財団アリーズの現当主からそうして欲しいとは言われていないのでパルフェとしてはやりづらい。
「それは難しいというか」
「立場的にはウィルネと一緒なんだけどね?」
「ウィルネちゃんの場合はロニオスさんからもお願いされてますし」
「なるほど、ということは父に許可を貰えばいいのだね。分かった、今日の夜にでも貰ってくるよ!」
そう言う意味じゃない。そんな言葉が口まで出かかったが、押しの強さで財団の人間に勝てるわけがないので、パルフェは早々に諦めた。ウィルネも同じ気持ちなのか、げんなりした顔でルティを見つめている。
当のルティは終始笑顔だが、パンと手を叩くと口を開いた。
「さて、具体的な内容だね。今回、AFO内でイベントはないんだが、しばらくの間、スタッフが積極的に情報を提供することになる。いや、もうなっているのかな」
「情報を提供する……?」
「AFOは広大だ。まだ知られていないことが多く眠っている。普通にゲームをやっているだけじゃ分からないことや、難しすぎて攻略を諦めていることもあるだろうね。そういうクエストのヒントが出やすくなると言うべきかな」
「へぇ」
「これはパルフェさん達が絡んでいるとも言われているね」
「え? 私達ですか?」
「前のイベントで発生した悪魔王ミカンの討伐、明言はされていないけど、これはパルフェさんたちがやったんだろう?」
「あー……別に隠すつもりはないので言いますけど、その通りです」
「悪魔王ミカンはAFOが始まった当初からいたらしい。つまり二十年近く前から討伐はできたということ。それがいまさらだけど分かったわけだ。運営側としては、ようやく、と言ったところだろうね。そういうことがあったから、これはいい傾向だと見つかっていないクエストなんかをもっと発見してほしいらしいよ」
運営側とはいってもそれはディーテがほとんどを賄っている。ルナリアやネイ達も運営側だが、どちらかといえばイベントを考える方でAFO内のプログラムにはまったく手を付けていない。というよりも手を付けられない。つまり、ディーテが発見してほしいという意味になる。
「状況はわかりましたけど、それとルティさんの関係は?」
「クラン『アドベンチャーズ』は未知を発見することを主体としているのだけどね、今度、冒険者ギルドの亜種ということで、未知を解き明かすことが専門の探検者ギルドという形になるんだよ。今後はスタッフ扱いとなって、AFOの未知を探す役割を担うわけだ。AFOの世界にはまだまだ謎があることを示したいようだね」
「探検者ギルドですか」
パルフェはメイドギルドに所属している。そのメイドギルドのギルドマスターはローゼでAFOのスタッフだ。当然というべきか、スタッフとはいえローゼはAFOのすべてを知らされているわけではなく、知らないことの方が多いとパルフェは聞いたことがある。
今後はレアな発見にはワールドアナウンスが流れるようになり、プレイヤーに対する名誉的なことが増えるとのこと。それに伴い、新規の称号なども追加する予定とのことだった。ルティたちもスタッフ扱いにはなるが、情報を渡されるわけではなく、たんにギルドという組織になり、クランではできない自分たちでクエストを作るというシステムが解放されるのだという。
ゲームのやり方は人それぞれだが、時間的な都合もあって効率的なプレイを求める傾向にある。なにがあるか分からないような場所へ出向いて時間だけが無駄になったというのを避けたいので、ある程度知られていることを攻略するというスタイルが多い。大手クランによっては検証班などが存在して調べているところもあるが、それでもよほどの確証がない限り時間をかけることはない。
そんな状況を払拭するために探検者ギルドを作り、情報共有などをはかるとのことだが、この辺りは全くの未知数であり、しばらくは試験的な運用になるという。
「まあ、上手くいかなかったとしてもね、私としては未知を求めるプレイヤーと懇意になれたらと思っているんだ。ギルドに所属する必要はないが、積極的に探索をやってくれる人を募るつもりなんだよ」
「人を募る?」
「アリーズの事業は宇宙の未踏領域探索がメインだからね、技術や知識も重要だけど、まずはそういうことにロマンを感じる人をスカウトしたいわけだ。最近は資源枯渇の心配も減ったし、地球に住める場所も増えた。わざわざ宇宙を探索するという危険を冒す必要はないと考える人が増えていてね、人材確保が大変なんだよ、資源が永遠に続くわけないのにね……それなこともあって、趣味と実益を兼ねたお仕事を承ったということだね」
まだ高校生くらいのパルフェとしてはいまいちピンとこない部分もあるが、ほぼ同じ年のルティが色々考えていることだけは分かる。これが財団の次期当主として教育されている人かぁと感心していると、ルティがニヤリと笑った。
「そこでパルフェさんだよ!」
「え? 何がです?」
「どうだろう? アリーズに所属してほしいとはもう言わないけど、しばらくウチのギルドと一緒にAFOの未知を解き明かさないか!?」
「ええと……」
「待ちなさいルティ」
黙って聞いていたウィルネがここで声を上げる。
「貴方、そんなことを言ってアリーズに興味を持たせようとしているんでしょう? なにが未知を解き明かさないか、ですか」
「何を当たり前のことを言ってるんだい。勧誘はもうしないけど、興味を持ってくれるように仕向けるのは当然じゃないか」
「少しは隠しなさい。まったく、油断も隙も無い」
「そういうウィルネだってジェミニに興味を持ってもらおうとパルフェさんに色々しているんじゃないのかい?」
そこでウィルネは黙る。否定をして欲しいパルフェがちょっと困っていると、ウィルネがため息をついた。
「私はちゃんと隠しながらやってます」
「ちょっとウィルネちゃん?」
求めていた答えとは違う回答になったのでツッコミを入れるパルフェだ。
それはともかく、その翌日にルティがギルドマスターとなった探検者ギルドの発足が公表された。そして新しい何かの発見者にはその情報の質からギルドから褒賞が渡されるとも発表があり、大いににぎわうことになった。
今年もよろしくお願いいたします。
別の作品の話で恐縮ですが「スローライフ・オブ・ザ・デッド」がコミカライズされることになりました。細かいことは活動報告に書いてあります。AFOよりも古い作品になりますが、ゆるーいゾンビ物の作品ですので、よかったら読んでみてください。




