ニアミス
「あれ? ウィルネちゃんはまだ来てないんだ?」
「うむ、連絡はあったぞ。なにやら財団絡みの用事があるとかで来るのが遅くなるということだ」
「財団絡みの用事に出席してるんだ。大変だね」
拠点でクリスからウィルネの状況を聞いたパルフェは椅子に座った。
テスト明けのウィルネはパルフェの点数が気になるようで、普段はいの一番に拠点で待機している。だが、今日はそれがなかった。不思議に思ってはいたが、さすがに財団絡みの案件ではこちらを優先するわけにはいかないだろうと納得した。
「それで我が友よ。テストの結果はどうだった? もちろん我はトップだ!」
「なっちゃんがトップなのは知ってるよ。上位者は五十人は順位が張り出されるからね。というか、ここにいる全員が上位に入っていることに色々な不安を感じるよ。アベル君だけだよ、私の友は……!」
「我が友よ、そんな悲しいことを言うでない。たとえ我が友が名前を書き忘れて零点だとしても我は友だ!」
「嬉しいような、嬉しくないような微妙な慰め方だね。というか名前を書き忘れる人っているの?」
そういう人を現実で見たことがないパルフェとしては都市伝説並みのことでしかないのだが、さすがに自分はやらないだろうと思っている。そんなことで零点を取った場合、ウィルネから何をされるか分からないからだ。少なくとも楽しいことは起きないことだけは想像がつく。
「それでパルフェさん、結果はどうでした? ウィルネさんが連絡くださいとだけは言ってましたので」
「ジニーちゃんも普通に点数聞くんだね。別にいいけどさ」
そう言ってパルフェはテスト結果を公表する。
数学の点数が少々低いものの、他の教科は平均点以上をマークしており、順位的には以前よりも上。もう少しで上位五十人の中に入る勢いであった。
「なんだ、私達のこと言ってたわりには良い点数ではないか。ウィルネラインも超えているのだろう?」
「まあね、そこは必須だから。なんで上がり続けるハードルを越え続けなくちゃいけないのかたまに疑問に思うけど」
そんな風に言ってはいるが、ウィルネをはじめとする全員がパルフェのために勉強会を開いてくれているので、その期待には応えたいというのが本音ではある。ただ、これが高校が終わるまで続くのかと思うと少々気が滅入るだけだ。このままだとトップを取らないといけないほどの状態になりそうで怖いというのもある。
「ウィルネちゃんがいないけど、後から来るならどこかで狩りをしにいこうか。勉強のし過ぎだからちょっと暴れたい」
「我が友よ、高校生、しかも女子が言う言葉ではないが、その意見には賛成だ。ククク、今日の闇は一段と深く輝いておるわ!」
「ずいぶんとご機嫌ですね。ナツさんは何かいい事があったんですか?」
「我が友ジニーよ、言っておくが何もない!」
「ナツは今度の連休に地球のセントラルへ旅行に行くそうだ。もちろんルース殿も一緒にな。それで浮かれているのだろう」
「……なぜ知っている!?」
「これでもメイドを目指しているからな」
これに関してはパルフェも初耳で驚いた。リックなら分からないでもないが、クリスはどこから情報を得ているのか不思議でしかない。これがメイドを目指す理由になるのかもよく分からないが。
どうやって情報を手に入れたのかは不明だが、ナツがセントラルへ行くのは父親のミストの勤め先である「ホスピタル」関係の仕事ということ。医療に関する論文の発表をミストとルースが行うという話だった。なお、ナツの話では母親であるノアトが最初行きたくないと駄々をこねたらしく、セントラルのお店でドーナツ食べ放題をするということで手を打ったらしい。
「我が父はなぜ我が母と一緒になったのか、いまだに謎だ……! 深淵の謎よりも謎でしかない……!」
パルフェとしては放っておけなかったんだろうなという憶測があるが、大人には色々あるという都合の良い言葉があるので解明しようという気はない。
そもそもパルフェも自分の両親がなぜ結ばれたのかよく分かっていない。むしろ話を聞くほどに母親のエシャはやばい人なのではと思う今日この頃だ。ゲーム内のこととはいえ、雇われた先でいきなりパフェをせがむとか、常識的に考えてちょっと危ない人のようにも思える。現実ではそんなことがないので、AFOという世界が問題だったのかと思うこともあるが。
そう思ったところでパルフェの耳にチャットが届いているアラームが鳴った。
相手はウィルネ。すぐさまチャット用の画面を出して応答すると、画面にウィルネの顔が表示された。
「あれ? ウィルネちゃん、ログインしてたんだ? 用事があるって聞いてたんだけど」
「はい、用事がAFO内でのことでしたので、その対応が今終わりました。拠点に向かいますので、そのまま居てくださいますか?」
「はい、りょうかーい。それじゃ皆とだべりながら待ってるね」
画面に関しては皆が見ていたので特に説明する必要もなく、狩りにはいかず拠点で他愛のない話を始める。
「さっきはスルーしちゃったけどさ、AFO内で財団の用事なんてあるものなのかな?」
パルフェの疑問に全員が首を傾げる。財団が関わる用事であれば本拠地となるコロニーや地球が多い。AFO内の用事ということに違和感を覚える。
皆が唸っているところにウィルネがやってきた。
「皆さん、お待たせしました」
「お疲れ様。AFOで財団関係の用事って大変だね」
「私はその場にいただけで別に苦労はなかったんですけどね」
「そうなんだ?」
「むしろ大変だったのはパルフェ様のお父様やお母様でして」
「……え? なんで?」
「簡単に言うと財団の関係者がハヤト様とエシャ様に会いたいということでしたので、つい先ほどまでAFO内でお会いしてました」
「お父さんとお母さんがログインしてたの!?」
「それが向こうの要望でして……お二人にはご快諾頂けたので先ほどまで一緒にいました。何か複雑そうな顔をされてますね?」
「いや、うん、嫌じゃないんだけど、両親と同じゲーム空間にいたという状況がちょっとね。なんとなく見ちゃいけない物だって思わない? 実際見てはいないけどさ」
「我が母はイベントに乱入して歌って踊って、我にケチをつけたほどだが?」
「それを言うなら私のお父様とお母様なんて敵になった上にお小遣いまで減らしてきたんですよ!?」
ナツの母であるノアトは精霊祭のイベント時に「ふぁいと☆くらぶ」が主催するイベントにパーシャ達と共に乱入して盛り上げた過去がある。
ジニーの両親に関しては最近のイベント「ルナティックデーモンズ」で悪魔王ミカンが召喚した最も信頼する側近ということで登場していた。なぜか家庭内のことが持ち出されて、結果的にジニーのお小遣いが減った。
「なっちゃんのお母さんは、ほら、エンターテイナー的な感じでしょ? それにジニーちゃんのご両親はAFOのスタッフ的な扱いじゃない。うちのお母さんは喫茶店のウェイトレスだし。今日の装備は知らないけど、メイド服とか着てたら気まずくなるじゃん。ほら、年齢的に」
「私の母はエシャ殿よりも年上で常にメイド服だが、まったく気まずくならないぞ?」
「クリスちゃんのお母さんは本職でしょうが。ウチのお母さんだとコスプレっぽくなっちゃうから私に見られたくないだろうなって」
「コスプレはいい物ですよ! これは譲れません!」
「ジニーちゃんはそうだろうけどさ、今はそういう話じゃないからね」
「エシャさんはメイド服でしたね」
「……ウィルネちゃん、その情報はいらなかったよ……」
「良く似合っておりましたよ?」
「うん、そういうことでもなくてね……」
何となく恥ずかしいというパルフェの想いは誰にも理解されていなかったのだが、居たたまれない気持ちをなんとか理解してもらおうと熱く反論を続けるパルフェだ。ちなみにその日の夕食はちょっと気まずかった。




