閑話:開拓者
王都アンヘムダルの高級ホテル「キャメロット」の最上階。いつもの定例会議でAFOの幹部が集まった。
先日まで行われていたイベント「ルナティックデーモンズ」の結果などの報告がメインとなるが、他にも気になる報告があるので、多くのメンバーが開始時間よりも早く集まって雑談をしている。
そこへディーテが入ってきた。
満面の笑みを浮かべるディーテを見る限り、色々なことが上手くいったのだろうと想像できる。当然、事前の情報収集でも上手くいったことは分かっているが、ディーテの口から報告を聞く方がより正確だ。
「皆、お疲れ様。イベントもそれに付随することも全てが上手くいったよ。まずは状況報告だが――」
イベントでは多くのプレイヤーがAFOへ接続し、同時接続数は過去最高であった。これはイベントというよりも、直後に開始された新機能、召喚キャラのユニーク化が功を奏したとの分析だ。召喚スキルを上げるプレイヤーが多かったことがデータから判明しており、まず間違いない分析となっている。
イベント終了後もプレイヤー達は引き続きAFOを遊んでおり、同時接続数はいまだに多い。これはイベントで判明した悪魔王ミカンの討伐が大きく影響しており、そのトリガーとなるクエストを探しているプレイヤーが多いとのデータがある。
そしてもう一つの理由は、上位入賞者への商品である腕時計型の新デバイス。現実でAFOのペットやユニーク化した召喚キャラをホログラムで呼び出せるというものであり、それが販売されたためだ。
いつでもどこでもペットの様子を見たり、メランプスというアイテムを保持しているとペットとの会話もできるとのことで、発売後の売れ行きは好調。すでに生産が追い付かないほどになっており、予約待ちになっている。
「カプリコンの当主からお礼の言葉を頂いているよ。そうだね、ロニオス君」
「かなり感謝されたねぇ。それに今回のデバイスだけではなく、今後の案件でも相談させてほしいという言葉を添えたら、ぜひとお願いされてしまったよ。昔はコロニーへ行っても門前払いされることもあったんだけどねぇ」
それはお前と関わりたくないからだ、と誰もが思ったが、ロニオスはそんな状況を知ってか知らずか、相変わらず飄々としている。
「ミカン君のことも流れで報告してくれないか?」
「ああ、それがあったね。カプリコンとハイパートイメーカーは和解というか、協力関係になったよ。おかげで我がジェミニもカプリコンとは昵懇の仲だ。しばらく前までは犬猿の仲だったのに、面白いものだよねぇ」
「お前は犬猿の仲でも楽しむ奴だろうに……」
「いやぁ、ネイは僕のことを良く分かってくれている、もう親友だね!」
女性がしてはいけないようなほど眉間にしわを寄せたネイだが、このやり取りはいつものことなので、他のメンバーは特に気にすることはない。
ただ、このままでは延々と二人の仲がいいのか悪いのか分からないやり取りが続くので、ディーテに報告を続けるように周囲が促す。
「うむ、とりあえず、カプリコンの不安は払しょくされただろう。あそこは精密機械に強い財団だ。今後も協力関係を上手く築けると思う。では、次のイベントだが、イベントという形ではなく、スタッフからの情報提供を増やす期間にしたいと思っている」
「情報提供とは?」
ネイの疑問にディーテは、まあまあ、と手でジェスチャーをする。そしてコーヒーカップに口を付けた。
「AFOにはまだ誰にも知られていないような場所やクエストがあるのだよ。あまりにも条件が厳しいのか、まったく日の目を見ない場所が多くてね。作った私としてはもっと頑張ってくれと言いたい」
「……パルフェたちがミカンを倒したことが関係していそうだな?」
「わかるかね? そうなんだよ。二十年前からあるクエストなのに、今回初めて討伐された。せっかくミカン君が協力してくれていたのに、このまま悪魔王討伐という状況がなくなるかもしれなかったんだ」
「いや、あれは条件が厳しすぎるだろう?」
クラン「インペリアル」のリーダーでもあり、ゲーム内では帝国の皇帝というロールプレイをしているラウザルが呆れたようにそう言う。
「そうかもしれないが、悪魔の国にある石碑を全部読めばある程度は分かるはずなんだが」
「AFOはやれることが多い。それにイベントも定期的にやっていて、手が回らないことが原因だと思うぞ。とくに会社員は効率的な進め方をしたいから確実にクエストがあると分からない限りは動かないだろうな」
「たしかにそうかもしれないね。石碑を全て確認したプレイヤーなんて数十名だし……ただ、今回はそれを反省したと言えばいいかな」
「もっとAFO内でヒントを出すということか?」
「その通り。今回、パルフェ君たちがミカン君を討伐したことにより、この世界にはまだまだ知られていないことがあると盛り上がっている。それに便乗しようというわけだ。ただ、答えを教えるのは面白くないので、スタッフの方から情報提供するような形をとろうと思っているよ」
せっかく作ったのに知られていない場所や、まだ出現したことがないモンスターなど、ディーテはこの場でそういうことをいつもほのめかしてい。ただ、この場にいるメンバーはそれに関してどうこうすることもできないので、全くの手つかずだ。
そんな状況やミカン討伐のこともあり、ディーテが我慢しきれなくなったと全員が推測する。
「事情は分かったけど、今回はどの財団を巻き込むの?」
ルナリアがそう聞くと、全員がディーテの方を見た。
AFOに関わらせることでパワーバランスを均等化し、各財団の不安を払しょくさせる。それがハヤトや何かと目立つパルフェたちを守る最善だと考えた上での行動なのだが、財団関係者のメンバーが多いこの場では、どの財団を巻き込むのかは非常に重要となる。
「アドベンチャーズというそこそこ大きいクランを知っているかな?」
「たしか、未開拓土地を発見することを目的としているクランだったか? 各地への転送装置を無料で配置しているようなクランだったと思ったが」
ネイの言葉に知っているメンバーは「ああ」と答えた。
「そう。そのクランなんだけどね、アリーズの次期当主がリーダーをやっているんだよ」
その言葉にロニオスが「ああ」と言って喜ぶ。
「あの子か。宇宙の開拓事業を手掛けるアリーズだから、次期当主はAFOでそういうことを学んでいるのかな? それとも趣味かな? ウチのウィルネと歳が近いはずだから、仲良くしてほしいねぇ」
「ロニオス君の言うような意図があるかどうかは分からないけどね、アドベンチャーズというクランを今回だけスタッフとして雇えないかなと思っているよ。アリーズの関係者だけで構成されているようだし、打診したいと思っている。見返りはルナリア君が持つ宇宙船の技術かな。開拓事業も捗るだろうね」
「ディーテ、その技術は――」
「宇宙船アフロディテの技術だと言いたいのかな、ネイ君?」
「……そうだな。ディーテは昔、その技術が使われるのを嫌がっていただろう? だからどの財団にも提供していない」
「昔の話だよ。もう二十年も前。今ではそんなことよりも、ハヤト君たちの方が大事だ」
「そうか」
「おっと、変な空気にしてしまったね。そのあたりはもう吹っ切れているから安心してくれ。なのでロニオス君」
「なんだい?」
「いつもの通りアリーズへ行って話を通してくれるかい? 細かい話はこちらでするから、私が話をしたがっていると伝えてくれるだけで十分なんだが」
「もちろん構わないよ。仕事で堂々とコロニーへ行けるのはいいねぇ。じゃ、さっそくコロニー『パイオニア』へ行ってくるよ。あ、そうだ、ウィルネも連れて行こう。いやぁ、楽しみだねぇ」
そういうとロニオスはすぐにログアウトしたのか、消えてしまった。
本当にロニオスに任せていいのかとディーテ以外が思う。そしてほとんどのメンバーはそろそろ胃薬が必要かなと痛くもない腹をさするのだった。




