イベントのその後と入賞商品
「お邪魔します」
「いらっしゃい、ジニーちゃん。食事の方はいいの?」
「大人たちの積もる話もあるでしょうから、子供は撤退です」
「確かに大人の会話に混ざるのは難しいよね」
「というわけで、ドキパンのアシュレイ様に関する話をいたしましょう!」
「それは子供の私には難しいかな……」
コロニー「フロンティア」にあるパルフェの自宅兼喫茶店、今日はジニーが家族と一緒に食事に来ており、ジニーだけがパルフェの部屋にやってきた。
イベント「ルナティックデーモンズ」が終了して一週間経ったが、パルフェたちは望みの結果を得ることができた。悪魔王ミカンの側近であるジニーの両親を倒し、そのままミカンも倒したことで「悪魔王」の称号も得られたのだ。
悪魔王ミカンの側近であり、ジニーの両親であるリンジーとアドリアンはかなりの強敵だったと言える。
リンジーは元々ミカンの護衛として体術が得意であり、AFOも熟練者ということで、ゲームとしての強さが際立っている。スキル構成やステータスは最善解というべき状態で、装備品も神装備と呼ばれる最高級のもの。現実での戦闘であればそうはいかないだろうが、AFO内の戦闘力ではパルフェたち全員を相手にしても引けを取らないほどだった。とくに多対一の戦闘を得意としているのか、速度でかき回し、相手を盾にする戦い方にクリスは絶賛するほどだった。
またアドリアンも同様にAFO熟練者としてシステムを熟知している。しかもアンジーのサポート役に徹しており、時にはリンジーの盾となってダメージを受け、倒されてもすぐさまトマトジュースで棺桶から復活するという、なにそれ、と言わんばかりの吸血鬼っぷりを見せつけた。最終的にはドラゴンブラッドを飲み、さらには自身に悪魔を憑依させるというスキルを使って攻撃してきたほどだ。
なんとか勝てたものの、あの人数差でもギリギリだったと言わざるを得ない。その後のミカンとの戦闘はなく、二人を倒したと同時にミカンも倒れるという演出により、なんとか勝てたのだった。
その後が大変だったのは言うまでもない。ミカンが倒されたことがワールドアナウンスで展開されると掲示板や音声チャットは大混乱に陥るほどだった。
いつ頃から実装されているのか分からない悪魔王ミカンの討伐、それがイベント時に発生し、イベントが終わった後でも血眼になってそのクエストを探っているほどだ。
本来であればどのクランが討伐したかという情報が洩れることはないが、今回はイベント中ということもあり、ポイントのランキングが一気に上がったクランが怪しいということでパルフェたちのクラン「モンブラン」がそうだという推測が流れている。
知り合いのクランにはばれているようで、クラン「猫は神」のオリオンなどは「あれ、パルフェちゃん達でしょ?」と確信をもって聞かれたほどだった。
AFOを管理しているディーテも、「パルフェ君を目立たないようにするのは無理だね」と、なぜか笑いながら色々と諦めているようである。
イベント終盤にそんなことが発生したこともあって、イベントは大盛り上がり。そしてAFOにはまだ見ぬクエストがあると、プレイヤーたちは悪魔王ミカンのことを探す以外にも色々なことを試すようになっていた。
イベントも終わり、パルフェたちはほとぼりが冷めるまで待とうと最近は少しAFOへのログインを減らしている。少なくとも拠点からでることなく、動物の世話をしたり、畑を耕したりしている状態だ。
そろそろ次のテストの対策、というよりもウィルネ対策が必要になるので、パルフェはちょうどいいと勉強を始めているところだった。なにか本末転倒な気もするし、これが正しい在り方の気もすると疑問に思いつつも一応頑張っているパルフェだ。
そんなときにジニーが両親やミカンと共に喫茶店へやってきた。家族水入らずのところに邪魔してはいけないと、最初に挨拶だけして部屋に戻っていたパルフェだが、食事が終わった後にジニーがやってきて部屋に迎え入れたところだ。
「今日はミカンさんも一緒に食べたんだ?」
「そうなんです! あれ以来、一緒に食事をすることが増えまして! 最近は夕飯を一緒にすることが多いんですよ!」
「それは嬉しいね。でも、なんでだろうね?」
「私達が頑張って作ったショートケーキを皆で一緒に食べられたことが嬉しかったみたいなことを言ってましたけど」
「仮想現実の話だけど、材料を集めるのに結構苦労したからね。でも、そっか、やっぱり一緒に食べてよかったなぁ」
「はい、その功績をアピールしつつお小遣いを元に戻そうと両親に直談判したのですが……親は強し……!」
「まあ、無駄遣いは減らした方がいいと思うよ」
「推し活は無駄遣いじゃありません」
ものすごい澄んだ目のジニーからそう言われたパルフェは何も言えなくなるが、学校の成績が落ちたわけでもなく、単に御金遣いが荒いということで自粛させられているとのことだ。どれくらいか聞くと、それでも私より多いじゃんとパルフェは思ったが、ジニーには大変なんだろうなとは思いつつも特に同情はしなかった。
そんなことよりもミカンのことがパルフェにとっては大事だ。
最終的にショートケーキを作ったのはパルフェだが、材料を準備したのはジニーたち。しかもクランのお金の大半を使ってまで用意したものだ。その苦労を理解して喜んでくれたのだから、パルフェとしても嬉しくなる。
結局、悪魔王のクエストに利用できるショートケーキは、それなりの材料を使えばあそこまでしなくても良いと言うことが分かったので、リックが言うようなお金稼ぎには使えなくなった。この素材でクエストをこなせたという情報を売ろうとリックは画策しているようだが、そちらはお任せでパルフェはノータッチだ。なお、イベントで上位に食い込んだことで、ゲーム内通貨の賞金が発生し、クラン内の資金はイベント前に戻ったくらいとなっている。
そんなクランの収支よりもミカンのトラウマが払しょくされたことの方がパルフェとしては嬉しい。こういう結果になるとは思っていなかったが、頑張った甲斐があったと満足している。
ただ、こういう結果になるとは思っていなかった相手がもう一人いる。
「トイメーカーのスキルで理想のアシュレイは作れた?」
「……私には芸術的なセンスが欠如しているのが分かりました……」
「あれは芸術的なセンス以前に造形師の技術が必要なんじゃないかな……」
悪魔王の称号を得ると使用できるスキル「トイメーカー」。どんなものでも一つだけ作り出せるという、かなりバランスブレイカーなスキルなのだが、それを十全に使用するにはかなりのセンスが問われる。
想像した物ができるわけではなく、事細かに容姿や設定を決めなくてはいけないのだが、パーツを選ぶなどのUIもなく、イラストを描いたりしなくてはならない。
ジニーは絵描きとしての才能は皆無、そもそも平面上のイラストを立体的に表現することもできないため、アシュレイを再現することができなかった。
「服はシンシアさんに描いていただけましたが……顔が! 顔が立体的に描けない! あんな状態ではアシュレイ様に対して不敬も良いところです!」
「最初作ったときなんてペラペラのアシュレイだったからねぇ……」
漫画のイラストを使用してつくったとき、完全に二次元のアシュレイがつくられた。簡単にいえば、妖怪の一反木綿。その時のジニーの絶望感たるや、明日にでも地球が終わりそうな勢いだった。
「神が自分に似せて人を作った時、どれほどの苦労があったのか、今の私なら分かる気がします……!」
「神様はもっと簡単だったと思うけどね」
他のメンバーも悪魔王の称号を得たので、それぞれもっと簡単な姿の物をつくり、サポートキャラ扱いのアイテムとして使用している。クリスなどは飛び道具として、投げても戻ってくるボールをつくるという潔さを見せていた。リックは顔を隠せる変形するマスクであったり、ウィルネはレイピアを作って二刀流にしていた。
パルフェとナツだけはまだ決めていないが、特に急ぐ話でもないので、そのままにしている。ジニーは諦めきれないようで、トライアンドエラーを何度も繰り返し、理想のアシュレイを作るために頑張っている様子だった。
(リック君としてはジニーちゃんに頑張ってほしいところだろうけどね……)
アシュレイに似ているリックは今回の件でかなり張り切っていたのはこのためだったのではないかと疑っている。本物がいれば自分に被害が及ばないという打算的な理由からクランの全財産を使ってまで頑張った可能性が高い。
リックからすれば当然のことかもしれないが、最後の難関というべきか、ジニーがアシュレイを作れないのが計算違いでなければいいとパルフェは思っている。ここはリックに被害がでないことを祈るしかない。
「パルフェー、貴方宛になにか届いているわよー。取りに来ないと開けるからねー、三、二、一……」
「ちょ、お母さん、待った! 早い早い!」
パルフェはジニーに断りを入れてからすぐさま部屋を飛び出して届いているという荷物を受け取る。差出人はAFOの運営からであり、首をひねることになった。
ジニーに見せると「ああ」と何か知っているようだった。
「成績上位者にはリアルで商品が貰えるはずですよ。それじゃないですか」
「ああ、そういえば、ミカンさんの会社とカプリコンの共同開発だったんだっけ?」
イベントの上位入賞者に先行的に渡される何か。ヘッドギア以外でもAFOにアクセスできるデバイスだという話は聞いていたが、それ以外の情報はない。
パルフェは荷物の包装を解き、中に入っている物を取り出す。
「……腕時計?」
腕時計のように腕に巻けるというだけで、置いたままでも使えるようであった。説明書を読みながら操作すると、腕時計の画面にログイン成功の文字が浮かび上がる。
どんな生体認証で認識されたのかは不明だが、その画面に「ようこそパルフェ様」という文字と「召喚したいペットを選んでください。現在は一体のみ」という文字が映し出された。
「召喚したいペット……?」
画面には「トラチヨ」や「ミケランジェロ」「レオナルド」の名前が表示されている。さらには「メランプス所持」とも表示され、パルフェは疑問に思いながらも「トラチヨ」を選択した。
すると、腕時計の画面から立体画像を表示する光が立ち上り、それがトラチヨの姿になった。
「トラチヨ!?」
「おお、我が主ではありませんか。そこが主たちの住む場所なのですな。某、驚きでござる」
パルフェの驚きをよそにトラチヨは驚いているものの冷静だ。
そんな驚きの間にジニーが説明書を全部読んだようで、パルフェに説明を始める。
「どうやらAFO内にいるペットの様子を確認できるデバイスのようですね。メランプスを所持しているなら会話もできるようです」
「ヘッドギアでログインしなくてもトラチヨに会えるんだ? それは嬉しいかも」
試験勉強中などはログインしない日もある。基本的にパルフェがログインしなくともペットたちは独自のAIによって生活しているわけだが、パルフェとしてはペットたちに会えないのはストレスが溜まる。それがこの腕時計で解決するならありがたい。
パルフェは嬉しそうにトラチヨを見るが、トラチヨが急に佇まいを整えた。
「我が主」
「どうかした? これでいつでも会えるようになったんだけど」
「某、修行の旅に出ようと思います」
「……また!?」
「先日の戦い、見事でございました。速度でかく乱する相手と何度も蘇る相手、その二人を倒した主に誇らしい気持ちになりましたが、同時に某はまだまだ弱いと分かり申した」
「いやいや、トラチヨは普通の猫より数倍も強いから――」
「その程度で主の隣にいることは許されませぬ! 某、必ず主の隣が許されるような最強の黒猫となって戻ってまいります! しからば御免!」
立体映像のトラチヨが消えると、画面には「トラチヨ修行中」と表示されていた。
「トラチヨさんは主思いですね。アシュレイ様に似た何かを感じます……!」
「主のためを思うならそばにいて欲しいよ……」
またトラチヨに会えない日々が続くのかと思うと憂鬱になるが、トラチヨに尊敬してもらえる主になるためにも、しっかり勉強しておくかとパルフェは改めて勉強への意欲を燃やすのだった。




