魔を統べる者
受付嬢をしている悪魔王ミカンに素材にこだわったショートケーキを渡す。ただそれだけのクエストだったはずだが、状況が変わった。多くのヒントから考えて渡すだけでは意味がなく、そこになにかしらのアレンジが必要となる。
パルフェとしてはすでに心当たりというか、状況的にこうすればいいという考えはあるのだが、それが正しいかどうかわからない。それに父親であるハヤトが似たようなクエストで即座に答えを出したということに少しだけ抵抗感がある。
(たぶん、この方法でいいと思うんだけど、外したらカッコ悪いなぁ……)
状況も立場も違うので同じような結果でなくとも別に誰も何とも思わないが、パルフェだけは違う。もともと父親や母親のことが好きなパルフェだが、ラーディアたちの話から多くの人に感謝される人物だと分かり、両親を以前よりも誇らしく思っている。救世主と呼ばれていることに関してはどうかと思っているが。
そんなハヤトやエシャの娘である自分がこの程度のことで失敗してしまうのはちょっと恥ずかしい。たかがゲームのことなのでこれに失敗したところでパルフェの評価は変わらないが、パルフェ自身が間違えたくないのだ。
「我が友よ、何をそんなに考えているのだ?」
「うん、なんかね、父さんが似たようなクエストで失敗していないってところがちょっとね。私としても間違えたくない……!」
ナツの問いかけにパルフェはそう答えると、腕を組んで頭をフル回転させている。当のミカンはニコニコしているだけで、これ以上のヒントを出す予定はなさそうだった。
「ここはミカン姉さまに聞けば良いのでは?」
「さすがにそれは駄目だよ。答えを教えてもらうのは敗北と一緒なんだってば」
ジニーの提案はミカンの設定を突く攻略。悪魔王の本名であるミカンの名前を知っている人からの質問には正しく答えないといけないという設定のことを言っているのだが、パルフェとしてはそれに頼りたくないという意思の方が強い。
とはいえ、これ以上考えても今思っている答え以上の回答はでないとパルフェは諦めた。
(うん、ミカンさんは一人で食べたくないはずだ。クロタコちゃんを作ったのも寂しいからだと思う。となれば人数分のショートケーキが必要だよね)
パルフェはそう結論を出した。
「ミカンさん、もう少し待っててくれますか。ちょっと用意が足りないので」
「おー、もちろんだよー。何の準備をするのかは知らないけど、待ってるからねー」
パルフェはそう言ってから皆に少し待つように伝えてギルドを出た。
そして急いで拠点まで戻り、厨房でショートケーキを人数分作り出す。さすがにイチゴだけは同じもので用意するのは難しいので、普通のイチゴだ。そこだけには懸念があるが、状況を重視するクエストであればそこまで厳密ではないだろうと、ケーキに合う紅茶も用意してすぐにギルドへ戻った。
「お待たせ!」
「おかえりー。それでどうするのかなー?」
パルフェは召喚師ギルドのテント内にあるテーブルにショートケーキと紅茶をミカンを入れた人数分用意した。
「ケーキを皆で食べましょう!」
ミカンの現実の状況と、リックが集めてくれた石碑の内容を照らし合わせて出した答え。一人で食べるのは寂しいので、皆で食べるというのが答えだ。クリスやリック、それにウィルネもそう考えていたようで、うんうんと頷いている。
「私もそれが正しいような気がする」
「俺もだ」
「おそらく間違いないとは思いますが、さて、どうなるでしょうか」
ジニーはこの状況を見て何かに気付いたようにパンと手を叩いた。
「AFOならミカン姉さまといつでも食事ができるじゃないですか! 毒を完全無効化するアクセサリーとかも持ってますので安心安全ですよ!」
テーブルの上座というかお誕生日席とも言える場所に座っているミカンがジニーの言葉に満面の笑みを浮かべる。
「いいのー? 私、たとえ仮想現実でも味にはうるさいよー?」
「ミカン姉さまのためならいくらでも高級食材をとってきます!」
「ありがとねー。さて、それじゃまずはパルフェちゃん達が用意してくれたケーキを食べようか。クエストの答え合わせはその後ねー」
ミカンがそう言うと、テーブルを囲んで皆で食べ始める。
「へー、このショートケーキ、素材がすごいねー。集めるの大変だったんじゃないのー?」
「そりゃまあ、素材にこだわった最高品質のショートケーキが必要といわれましたので厳選しましたよ」
「それはありがとうねー。私、ハヤトさんが作ってくれたショーとケーキが一番好きだけど、これも同じくらい好きだなー。なんというか私のためだけに用意してくれたってことが美味しさを増してるねー」
笑顔でそう言いながらショートケーキを口に運ぶミカン。パルフェたちも同じように話をしながら食べすすめる。
そして食べ終わり、紅茶も飲み干すと、ミカンが椅子から立ち上がった。
「おめでとー、クエスト『悪魔王の依頼』は完全な形でクリアだよー!」
ミカンのその言葉にパルフェは両手を上げてガッツポーズをする。
「あぶなかったねー。私にケーキを渡しただけだと、味はまあまあって理由でクリアにならなかったんだよねー」
「そうだったんですか」
「ちなみ皆で食べる時のショートケーキは、ある程度の素材が揃っていればここまでじゃなくて大丈夫なんだよねー。私のケーキはすべての素材がレア素材だったから驚いちゃったよー」
ここまでしなくて良かったのかとは思ったが、最高のもてなしができたのではないかとパルフェは満足だ。
その喜びに浸っているとミカンが喉に右手を当てて、喉の調子を整えるような仕草をした。
「おめでとう。もてなしのお礼に悪魔城パンデモニウムに招待するわ」
ほんわかしていたミカンの雰囲気が一変、周囲に緊張を強いるようなミカンの豹変にパルフェたちが驚く。その直後、パルフェたちの視界が急に切り替わった。
荘厳な雰囲気の巨大な空間、その部屋の奥にある玉座、そこに足を組んで座るミカンがいた。
「ようこそ、私の城へ。貴方たちは私と食事を共にした友人であり、同等の者。そして、この私、悪魔王と戦う権利を得た。さあ、かかってきなさい」
ミカンはそういうと挑発的な笑みを浮かべる。先ほどまでほんわかしていたミカンとはまるで違う姿にパルフェたちは驚くばかりだ。
『悪魔城パンデモニウムに、魔を統べる者「悪魔王ミカン」が降臨しました。資格ある者たちが戦闘を開始しています。繰り返します――』
さらにはワールドアナウンスまで流れ、パルフェたちはさらに驚く。
「ミカン姉様、お覚悟!」
そんな時でも信念を曲げないというか、欲望一直線のジニーはミカンに向かって突撃する。
話に聞いていた通りならばクロタコがいない状況のミカンはよわよわ。ほとんど戦闘力を持っておらず装備品も普通なので誰でも勝てるということだった。
いつのまにかミカンは漆黒のシンプルなドレスに代わり、頭には角がある状況ではあるが、その装備を見ても特に強くなっていない。
ワールドアナウンスはただの演出に過ぎない――そんな風にパルフェが思った直後だった。
ミカンが座る玉座の両隣に黒い円系の渦ができると、そこから人型の何かが飛び出してきた。
一人は執事服を着た女性、もう一人は胡散臭いローブを着て目元を隠し、棺桶を背負っている人物だ。
それを見たジニーが止まる。
「お母様!? それにお父様まで!?」
執事服を着た女性はジニーの母であるリンジー。そして男性は父親のアドリアンだ。なぜかジニーの家族が勢ぞろいしてしまった。
驚いているジニーをよそにミカンが笑みを浮かべた。
「私がこの世で最も信頼している側近の二人よ。クロタコは呼べないけど、この二人は別。二人を倒さない限り、私に刃が届くことはないわ」
「あわわわわ……」
あまりの展開に後ずさりするジニー。むしろ今はミカンよりもジニーの方がよわよわだ。
「ジニー、私の可愛い娘。でも私はミカン様の命令を優先する! さあ、覚悟しなさい!」
「ちょっとお母様!? 私がグレても文句を言えない発言ですよ!?」
「でもね、ジニー、最近お金の使い方が荒いからお灸をすえる意味でもあるんだ。それと来月からお小遣いを大幅に減らすからね」
「お、お父様まで! 私の推し活が……! くぅ、負けません! せめてミカン姉様を倒してアシュレイ様に似た悪魔執事を作り出してみせます!」
そんなジニーの家族会議をミカンは優し気な笑顔で見つめている。
パルフェたちは、むしろ負けた方がジニーのために良いのではないかと思いつつも、イベントで上位に食い込むためだと戦闘態勢に入るのだった。




