孤独な悪魔
パルフェは悪魔王ミカンに渡すためのショートケーキを作り出した。
素材にこだわった匠の一品。アイテムとしては最高品質のショートケーキでしかないが、その素材は最高級の物を用意した。
さらにはラーディアから教えてもらった情報から水までこだわる徹底ぶり。本当にここまでやる必要があるのかというほど完璧に整えたと自負している。
ただ、それでも心配なので複数のショートケーキを作成し、どれかを渡せば何とかなるだろうという保険もかけている。
「千年地底湖の水、グガランナの牛乳、不死鳥の卵、太陽麦、阿修羅砂糖、この辺りは間違いないと思うが、イチゴだけはどうしても最高のものが分からないので複数用意しておこう」
リックのそんな言葉から、イチゴの種類だけを変えたショートケーキをそれぞれ最高品質で揃えた。霊峰イチゴ王、黄泉イチゴ、ザラタンイチゴ、この三つだ。
どのイチゴも値段がお高いので試食品として普通のイチゴで作ったショートケーキをクランメンバーに振る舞ったが、美味しいと評判だ。とはいえ、AFO内の話なので同じ品質のものは味が一緒なのだが。
さっそくミカンへ渡そうとギルドへと移動を始めた。
転移装置を使うので移動は苦ではない。ただ、それでもそこそこ歩く必要があるので、パルフェたちはギルドへ向かいながら雑談を始めた。
「ミカン姉様のことですから、そこまで意地悪な課題ではないと思います。ですが、本当にこれでいいのか不安になりますね」
「その通りだが、イチゴはともかく他の素材はまだ大量にある。もし失敗したとしても、もう一度くらい挑戦できる時間はあるから、今回はお試し程度の気持ちでいいと思うぞ」
ジニーの言葉にリックがそう返す。
リックの言葉通り、イベント「ルナティックデーモンズ」はあと一週間で終わるというアナウンスがあった。それだけ余裕があれば、イチゴの種類を変えて作り直す程度なら十分に可能だ。
パルフェも虚無の繰り返し作業という努力によって調理スキルは100になり、ショートケーキなら高確率で最高品質ができるようになった。イチゴさえあればいくらでも量産できる状態だ。
「そういえばさ、何かヒントがあるかもって悪魔の国にある石碑だかなんだかの情報を集めてなかった?」
「ああ、一応、知られている石碑の情報は全部集めた。確認してみたが、イチゴに関する情報は特になかったな。ジニーには見せたが同じ意見だったぞ」
「私も見せてもらっていい?」
リックは情報を石碑の情報をまとめた資料をパルフェに渡す。パルフェは歩きながらその資料に目を通した。
(確かに素材のことに関しては何も書かれてないなー。甘いもの好き的なことは書かれているけど……ん? いつも一人? 悪魔王は孤独?)
その資料には色々と書かれているが、パルフェが気になったのは悪魔王と同等な者は存在せず、孤独の存在とも書かれている部分だ。他の悪魔たちは配下に過ぎず、友ではない。そのため、友になりそうな者を同等の存在として作り出したと、そんなことが書かれていた。
(あのクロタコちゃんはそういう設定の悪魔なんだ。正式名称は別次元で神と呼ばれるなにか、だったかな? 神様と友達か……友達ねぇ……)
悪魔王はともかく、本来のミカンも孤独だったという。聞いた話でしかないが、ミカンの両親は仕事が忙しくてなかなか会えず、すり寄ってくるのは悪意を持っている者たちばかりで、信頼していたのは秘書兼護衛だったリンジーだけだったという。
悪魔王の設定とそこまで被っているわけではないが、友達がいないというのは同じ。秘書兼護衛のリンジーも友達ではない。それを思うと、うーんと唸るパルフェだ。
その場にいる全員がそんなパルフェを見て首を傾げる。パルフェは事情を話すと、全員が同じようにうーんと唸った。
「ですが、今は楽しそうにしておりますよ。たまにベニーさんやレンさんとも遊んでいるみたいですし」
「そうなんだ?」
「コールドスリープ組で年齢が近かったので気が合うとか。一番年齢が近いのはルースさんだったみたいですけど」
「我、それはちょっと詳しく聞きたいのだが。いや、特に意味はないが」
そんなわけないだろうというのがナツ以外の全員の気持ちだが、色々と空気を読んで何も言わない。かわりにジニーが状況を伝える。
「いえ、とくに心配するようなことは何もないですので安心してください。二人で遊んだり食事をしたとかもありません。単に年齢が近かったという話です」
「本当か? 本当だな? 嘘だったら針千本どころかダークマター千個食わせるぞ?」
「本当です。大体、ミカン姉様は食事をほとんど一人で食べてますので。私だって年に数回程度しかありませんし」
「ええ? なんでまた?」
ジニーの家族とミカンは家族と言ってもいいほどの仲であり、住居も同じ建物内だ。ジニーの両親もミカンの補佐という立場で仕事をしており、ほぼ毎日一緒にいると言っても過言ではない。
そんな状況でジニーすら一緒に食事をとるのが年に数回だけというのは驚きでしかなかった。たまに喫茶店に来てくれるが、数年に数回しかきてくれないのは仕事が忙しいのだろうと思っていたほどだ。
「ミカン姉様は昔、料理に毒を盛られることが多かったらしいのですが、そのときの警戒心と言いますか、自分に盛られた毒を間違えて他の人が食べてしまったらと思うと怖いんだそうです。実際に母が食べてしまったことがあってトラウマになったとか」
「そうなんだ……え? リンジーさん大丈夫だったの? いや、大丈夫だから今があるんだけどさ、当時は平気だったの?」
「ミカン姉様を泣かせないために気合で治したと言ってました」
「気合かー」
病は気からという言葉があるが、気合はまた別の話だろうとそんなことをぼんやりと考えるパルフェだ。
「ですが、その怖さも少し薄れたみたいですね。AFO内で父がミカン姉様にいつもハヤトさんが作ったお菓子を差し入れしていたとかで」
「え? そうなの?」
ジニーの父、アドリアンは悪魔召喚研究会というクランのリーダーを務めていた。クラン戦争で誰も知らない悪魔召喚を使ったのだが、それはミカンからの情報だ。当時も悪魔王という立場だったミカンにいつもお菓子を差し入れしていたのがアドリアンで、その報酬として特殊な悪魔の召喚方法を教えてもらっていた経緯がある。
クラン戦争でハヤト達に負けたアドリアンは、それ以降はハヤトの店で売られていたケーキなどを買い、それをミカンに差し入れしていたのだが、ミカンはそれをすこぶる気に入っていたという。
「まさかとは思うけど、父さんが作ったショートケーキが最高だとか思ってたりするのかな……?」
「さすがにそれはないかと。特別な伝手がない限り無理ですよね?」
「それはそうか」
特定の人にしかクリアできないクエストはさすがにあり得ない。父親に素材を聞いてみるというのも考えたが、当時のAFOにそこまで多くの素材はないはずなので、聞いたところで普通の素材の答えしか返ってこないだろうと結論付けた。
とりあえず最高の素材で作ったショートケーキを用意したので、これで様子を見ようとパルフェたちは全員でミカンのいるギルドへ足を踏み入れた。
いつも通り受付のカウンターにミカンがいる。そしてパルフェたちを見て目を見開いたあと、笑顔になった。
「おおー、今日は大所帯だねー」
「ご希望のショートケーキを持ってきました」
「それは楽しみー。でも、私は味にうるさいよー?」
「分かってます。これらが最高の素材を吟味して作り上げたショートケーキです!」
パルフェはカウンターにいくつかのショートケーキを置いた。イチゴの種類が違うだけでどれも最高品質のショートケーキ。これなら行けるはずだとパルフェは自信ありげな顔になった。
そんな中、ミカンは少しだけ笑うと口を開いた。
「これは聞いた話なんだけどー、昔、ハヤトさんはエシャさんの紹介でレリックさんに協力を仰いだそうだよー」
「え? そうなんですか? でも、なんで今、その話を?」
「ああ、聞いたことがないんだー? ならこのクエストは難しいかなー?」
「え? え?」
困惑するパルフェだが、隣にいたリックが「そういうことか」と納得したような声を出す。
「リック君、なにがそういうことなの?」
「俺も聞いたことがある。レリックさんはハヤトさんを手伝う条件に課題を出した。『心を奪う装飾品』を用意するという課題だったそうだが、ハヤトさんは見事にその課題をクリアしたという。昔、レリックさんが嬉しそうにそれを話してくれたよ」
「そんなことがあったんだ? でも、それが……?」
「レリックさんは装飾品そのものよりも状況を重視した課題だと言っていた。ハヤトさんはすぐに気づいたそうだ。ミカンさんが言っているのはそのことかもしれない」
パルフェはミカンを見る。ミカンはニコニコと笑っているだけだ。
「どうするー? このショートケーキでクエストがクリアできるか試してみるー?」
パルフェは周囲を見るが、全員がパルフェに任せるという状況になっていた。
(ミカンさんがそう言ったってことは、このまま渡してもどれも正解じゃない気がする……どうしよう? 出直す?)
眉間にしわを寄せてパルフェはどうするか悩むのだった。




