普通の女子会
「ほ、本日は、お、お招きいただき、あざーす――じゃなくて、ありがとう、ございます!」
「ラーディアちゃん、緊張しすぎ」
「そ、そんなことないって! そ、そうだ、こ、これ、つまらない物ですが!」
「オリハルコン鉱石ってつまらない物じゃないから。というか、なんでこれ?」
クラン「ハイウェイスター」のリーダー、ラーディアがパルフェたちの拠点へとやってきた。
ラーディアは地球の危険区域にあるコミュニティ「スカベンジャー」の一人であり、後にそのコミュニティのリーダーになるとも言われている女性。見た目と中身は完全な乙女だが、その行動はワイルド。地球の危険地帯で生まれたということもあるが、コミュニティの方針というべきか、世紀末を題材にする創作物でよく出てくるようなアウトローなので、その影響が色濃く出ている。
ロングレンジの銃を背中で十字に背負い、ゴーグルを頭の上に付けているが、女性らしい長い黒髪に白のワンピースを着ている。装備と言動、そして見た目はちぐはぐだが、本人はロマンスを夢見る乙女であり、いつかまともになりたいと思っているらしい。当然、将来の夢はお嫁さんだ。
そんなラーディアは猫島でのイベントでパルフェたちと出会い、たまに一緒に遊ぶ仲になった。ラーディアはコミュニティ内で救世主扱いをしているハヤトやエシャを尊敬しており、その娘であるパルフェにも一定の敬意を払っている。その辺りは一緒に遊ぶ中で多少は改善されたものの、なぜか今回はかなり緊張しているようであった。
そのことに疑問を持ったパルフェは首を傾げながら問いかける。
「えっと、ラーディアちゃん、なんで緊張してるの?」
「だ、だって、今日は、じょ、女子会でしょ!?」
「え? まあ、女性しかいないけど……」
今日はリックやアベルはおらず、パルフェ、ナツ、クリス、ジニー、ウィルネ、そしてラーディアだけだ。女子会と言えば女子会だが、単に友達と駄弁るだけの集まりで女子会というほどでもない。また、たとえ女子会でも、そこに緊張する意味が分からない。
「私、普通の女子会って人生初だよ! やべぇ、紅茶とかスイーツ食べて、キャッキャウフフするんでしょ!? 骨付き肉をかじってガハハって笑わないよね!?」
「確かに肉類は用意してないけど……ガハハ?」
「うちのコミュニティやクランはね、女子はリー姉さん最高ってのが行き過ぎてて行動を真似る子が多くてね、一升瓶を片手にジュースを飲んで、肉を骨からかじり取って食べるのがオシャレだとかセンスがいいとか思ってるんだよ……!」
「オシャレ……」
ラーディアは両手で顔を覆うようにして肩を震わせている。
流行は何度も繰り返すというが、そんなオシャレが流行った時期があっただろうかとパルフェは記憶を探る。だが、そんな歴史はなかったはずだと簡単に諦めた。
何が流行るのかは分からないが、少なくともラーディアはその状況をオシャレだとは思っていないことは明らか。なので普通の女子会にかなりの期待をしていたのだろうとパルフェは推測した。
それはそれでハードルが高いなぁと思いつつ、パルフェはラーディアの背中をさすりながら喫茶店への中へと誘導する。
そんな状況に驚く皆だが、パルフェが事情を話すと「あー」と言い、ラーディアを盛り上げようとしている。
「ラーディアさん、大丈夫です! ワイルド系女子に需要はあります!」
「ジニーちゃん、そういうことじゃなくてね」
変な慰め方をしているジニーにそう言ってから、ラーディアに前に紅茶とケーキを用意した。
ラーディアはそれを見て目を輝かせる。
「うおぉぉ! ケーキだ! 甘いものだぁ!」
「泣くほど……?」
逆に普段どういう状況なんだと興味がわくほどだが、まずは落ち着かせようと皆で食べることにした。
たまにワイルドな行動が出そうになっているラーディアはケーキをフォークで小さく分けてから、口へと運ぶ。そして頬に手を当てながら、満面の笑みで味わうように食べている。
「うちのクランってこういうの食べるだけでも白い目で見られるんだよ。甘いものの何が悪いってんだ!」
「ラーディアちゃん、口調、口調」
「おっとやべぇ、じゃなくて、あらら、はしたない、うふふ」
ラーディアの求めている女子の形は良く分からないが、楽しそうならまあいいかなとパルフェたちは普通に雑談を始めた。
そもそも今回ラーディアを拠点に招待したのは、悪魔王ミカンに渡すショートケーキの材料である良質な水を求めてのことだ。その水の素材に関してもミカンに聞けばいいとの話になったが、それはさすがに教えてくれなかった。ミカンが教えられるのはミカンが知っていることのみ。素材にこだわった最高のショートケーキを作る材料は本人も知らないということらしい。
なので、最初の予定通り素材としての良質の水を探しているわけだが、その水がありそうな場所を知っていそうなラーディアに聞いてみようと拠点で一緒に遊ばないかと誘った経緯がある。
普段、一緒にモンスターを狩りに行くなどは良くしているが、単なる雑談だけというのは初めて。誘ったときからAFOの良質な水がある場所を知らないかと聞いており、せっかくだから拠点でおしゃべりしようと誘ったところ「絶対行く!」という力強い返答を貰えた。
そんなわけで色々と準備をして迎えたわけだが、ラーディアが嬉しそうにしているのを見るとパルフェとしても嬉しい。父親のハヤトがもてなしを喜んでくれたら嬉しいんだよと言っていたが、その気持ちが何となく分かるほどだ。
それでラーディアの緊張も解けたのか、皆と楽しそうにおしゃべりしている。
「ほう、地球の学校ではサバイバル訓練があるのか」
「まあねぇ、でも、それって物心ついたときから教わってるから単なる復習でしかないよ」
「地球だとそうかもしれないな。今度、私もその訓練を受けてみたい」
「クリスならすぐに覚えられると思うよ。なんてたって実戦形式だからね。というか、乙女にほふく前進を教えないで欲しい……」
「最高の学校だと思うが?」
「それよりもさ! 学校の話題ならこれでしょ! 皆、彼氏とかいんの!? 手をつないで登校とか日常茶飯事!? ちなみに私はいないし、あのコミュニティの男子は駄目だ! ロマンスの欠片もねぇ!」
興奮気味にそういうラーディアの言葉に、パルフェを含む全員がナツを見る。
「なぜ我を見る?」
「ここにいる全員、彼氏はいないけど、そういうネタはなっちゃんが一番かと」
「だから何度も言っているようにそういうのではないと――」
「なになに!? 何があんの!? くー、これこれぇ! これこそが女子会だよぉ……!」
ラーディアが震えながら下を向き、鼻をすするようにしている。悲しさの涙ではなく嬉しさの涙だが、そこまでなのかと思うほどだ。
「ラーディアちゃん、普段はどんな女子会してんの?」
「……銃やナイフをどうデコるべきかってネタが多い……」
「デコる……デコレーションのこと? 銃やナイフに? え? AFOじゃなくて現実の話?」
「……今は銀色の星型ビーズが流行ってる……あと、ナイフの刀身にイマジナリー彼氏の名前を彫るとか……せめて本物の彼氏にして欲しい……スティーブンって誰だよ……いねぇよ、そんな奴……」
「い、いいんじゃないかな。その、文化の違いがあって……」
なんとかフォローしようと頑張るパルフェだが効果は薄い。少しだけ沈黙が続いたが、ラーディアがバッと顔を上げた。
「そ、そんなことよりもさ! ナツの話だよ! なんなの! クラスに想い人がいるとか!? ラブレターを下駄箱に入れた!? まさか席が隣でドギマギしてんの!? チョコあげた!?」
なんとなく恋バナにうるさいレン教官を思い出すような食いつきだが、二人を会わせたら延々と話続けるかもしれないと少しだけ恐怖を覚える。どちらも自分の恋バナがないのですぐに終わるかもしれないが。
そんな風に思っているとなぜかナツではなくウィルネが口を開いた。
「いえ、ナツさんは幼馴染の兄のような方に片想い中です。相手からすれば尊敬している方の娘であるということ、そして妹というイメージを払拭できるかが今後の課題になるでしょうね」
「我が友ウィルネよ、本人が否定しているのだが?」
「本人しか否定していないですよね?」
「いや、本人なんだが……? というか、なんださっきの分析……え? 我、妹のイメージがあるのか……? む? むむ……?」
ナツはなにか思うところがあるのか、腕を組んでブツブツと言い出した。
「いやぁ、いいねぇ! これが青春だよ!」
「青春……かな?」
「地球の女子はね、さっきのデコの話もそうだけど、迷彩服はどんなメーカーが良いとか、銃のスコープを買うならどこを重視とか、そんな話しかしてないんだよ……クリスは目を輝かせてるけどさ」
そのうち地球へ移住するとか言い出しそうなクリスだが、「私ではとても無理だろうな」と謙遜っぽいことを言い出した。顔はどう見てもやる気満々だが。
その後もラーディアは青春とは何ぞやと語る。重要なのはトキメキらしく、今のところ地球の男子にそれを感じたことはないとのこと。むしろがさつでデリカシーがないところに幻滅しかしないとのことだった。そして地球の男とは付き合うなと口を酸っぱくして言っている。
パルフェはこれは愚痴が止まらないなと、まずは一通り聞いて、落ち着いてから水の場所を聞こうとラーディアの話に耳を傾けるのだった。




