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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第十七章

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帝国軍騎士団長vs魔王軍残党

 

 クラン「ふぁいと☆くらぶ」主催のイベント会場は混乱を極めている。


 対人戦がメインのイベントのはずだが、つい先ほどは有名な歌唱系クラン「月を飲むクジラと愉快な仲間たち」が乱入するなどのサプライズもあり、配信動画ではなく直接見ようと人が増えた。


 そして今度はゲーム内で初めて発生したと思われる帝国軍の侵攻イベントが始まった。帝国軍騎士団長が飛行船に乗ってやってきたのだ。しかもワールドアナウンス付き。つまりAFO公式イベントだ。


 大半の人が「何だ、そのイベント?」と思っているが、パルフェたちも「どういうこと?」と頭をひねっている。なぜなら帝国軍騎士団長がアベルの母、セシルなのだ。


 セシルがAFOをやっていたのは知っているし、エシャやノアトと同じクランだったことも知っている。だが、先ほどの月を飲むクジラことノアト同様、このタイミングでログインしてくるとは全く思っていなかった。


 リックがアベルを通してアッシュやレンに参加できないか打診していた。そしてスケジュールの都合上、参加できない旨の回答を貰っていた。そんな状況にパルフェはピンとくる。


「もしかして、アベル君がアッシュさんやレン教官の代わりにお願いした?」


 パルフェのつぶやきにクリスが頷く。


「アベルからは何も聞いていないので、お願いはしていないと思う。多分だが、セシルさんが話を聞いて自主的に来てくれたのかもしれないな。先ほどもアベルが言っていた会場はここかという旨の発言をしていたし」


「それならありがたい話だね。でも、強いとは聞いているけど、どれくらい強いのかな?」


「動画などもないので良くは知らないが、セシルさんは相当強いらしいぞ。以前、母に聞いたことがある」


「え? そうなんだ?」


 元々セシルはあらゆるスポーツをこなす総合アスリートだったという。今は芸能事務所「ドラゴンソウル」で女性スタントマンをしつつ、さらにはスカウトもしている。


 アッシュやレンよりも仕事は少ないが、人にあんな動きができるのか、と言われるほど無茶苦茶な動きをして映画を盛り上げる名スタントだ。ほぼ見分けのつかないCGが作れる時代に生身でアレをやるほうが逆に新鮮ということで結構な人気があるほどだ。


 そんな評価のセシルがステージの上で凶悪な笑みを浮かべながら「さあ、かかって来い!」と周囲を煽っている。


 どうするのが正しいのか誰にも分からない。誰か最初に動いてくれと、この場にいる全員が出方を待っていると、パルフェの隣にいたゼノビアが「それじゃ私が」とステージに歩み寄った。


「え? ちょ、ゼノビアさん?」


「ちょっと行ってくるね。強さ的にもちょうどいいし」


 ゼノビアが軽い足取りでステージに登ると、セシルが「うお、ゼノビア?」と驚きの表情になった。


 そして直後にワールドアナウンスが響く。


「魔王軍残党、魔人『疾風迅雷』が参戦しました。繰り返します――」


 プレイヤー達が「はぁ?」という顔をしながら、ステージに上がったゼノビアを見る。帝国軍の侵攻というイベントもそうだが、魔王軍残党ってなんだよ、と情報量が多すぎてさらに混乱が増す。


 そのゼノビアはステージの上で準備運動のようにぶらぶらと手足を動かしていると、セシルが両手を頭の後ろで組みながら笑う。


「珍しいじゃねぇか、来てたのかよ」


「リック君から呼ばれてね……あ、違った。ルナリアちゃんに出てって言われたんだっけ」


「ルナリアも相変わらずだなぁ。ところで、良くは知らねぇんだが、なんか目立てばいいんだろ?」


「そうそう。だから私が戦うよ。それにせっかくだし、あの時の借りを返そうと思って」


「あの時の借り? ああ、クラン戦争のときか。あんときはエシャやノアトの援護があったから俺の勝ちとは言えねぇんだけどなぁ」


「それでも負けは負けだからね」


「そっかそっか。なら百二十年ぶりに決着をつけるか!」


「望むところ」


 他のプレイヤー達に聞こえたかどうかは定かではないが、すくなくともパルフェ達には聞こえた。


 パルフェたちには想像もできないが、宇宙船アフロディテでコールドスリープをする前にクラン戦争というイベントがあり、そこでセシルとゼノビアが戦ったことがあるという。


 そのときにエシャはルナリアとイヴァンを超広域殲滅魔法デストロイで吹き飛ばした。作戦だったと言っているが、パルフェはちょっと怪しんでいる。


 その後に残ったクランのメンバーで戦闘があったようだが、その時はセシルが勝った。とはいえ、クラン戦争は団体戦なので、一対一で勝てたかといえば何とも言えない。


(ベニー師匠やシモン先生が強いのは直に見たから知っているけど、セシルさんも同じくらい強いのかな?)


 猫島でのことや、自分と同じくらい強いカザトキという友達もできたので、自分は変じゃないと割り切れた。そのせいもあって逆に強さに興味が出た。以前ロニオスが自分と同じ年齢くらいのベニツルをもっと強かったと言っていたこともある。


 猫島で戦ったスーリャも、AFOというゲーム上の強さではあったが勝つことはできなかった。そのスーリャやベニツル、シモンと同じ世代同士が戦うとどんなものなのだろうとパルフェはちょっとわくわくしている。


 ステージの上で対人戦用のドームが展開された。


 戦闘方式はヴァーチャル。AFOのシステムがそのまま利用できるゲーム主体の対人戦。パルフェを含む全員がどんな戦いになるのだろうと身を乗り出すようにステージの上を見つめた。


 開始直後にゼノビアがセシルの前に瞬間移動する。そして炎を纏った拳でボディを狙った。


 素早い攻撃にも関わらず、セシルはその拳を腰に差していた剣の柄を左手で逆手に持ち、剣を抜きつつ、ゼノビアの拳を柄で受け、右側へと弾く。


 ゼノビアはその拳を弾いた力を利用しながら、今度は右足を軸に高速で左に回転しながら左足による後ろ回し蹴りを放った。


 セシルはそれをしゃがみながら躱し、今度はゼノビアの右足を狙って水平蹴りで足を払う。


 ゼノビアは足を払われる前に空中に逃れ、バク転しながら距離を取った。


 そんな状況を黙って見ているセシルではなく、着地を狙って両手にそれぞれ持っていた剣を二つとも投げた。そして背中に差していた剣を抜きつつセシルは距離を詰める。


 着地したと同時にゼノビアは投げられた剣を二本とも右足で叩き落とした。そのまま左足一本で立ち、セシルを迎え撃つ。


「やるじゃねぇか!」


「ブランクを感じさせないほうがすごいと思うけど」


 直後に激しい攻防が始まる。お互いの武器がぶつかる音の間隔が異様に短く、どちらにもクリーンヒットがない。しかもウェポンスキルが多量に使われているのか、お互いに炎や雷の攻撃が繰り出され、かなり派手な戦いとなっている。


 パルフェ、クリスあたりはその高速の攻防が見えているのだが、ナツ、ジニー、シンシアあたりはほとんど見えていない。大半のプレイヤーも何が起きているのか分かっていない状況だ。


 ただ、すごいことが起きているのは分かっているのか、イベント会場は大歓声に包まれていた。


「仮想現実だから疲れないとはいっても、あのように動けるものなのか?」


 クリスの問いかけにパルフェも「うー」と呻く。


「ベニー師匠とシモン先生ならやれると思うんだけど、私には無理かなぁ」


 そもそも考えてから動いているようなレベルではない。動こうと思うよりも先に体が動かないと無理なレベルであり、反射神経だけで戦っているようなものだ。そこに効果的なウェポンスキルを攻撃に乗せているのだから正直意味が分からないというのがパルフェの感想だ。


 そこから五分、本当に勝負がつくのかと思い始めたところで動きがあった。


「あ!」


 パルフェが気付いたときにはすでに遅い。セシルがゼノビアのアッパー攻撃により、上空に跳ね飛ばされたのだ。


「うお! ちょ、やべぇ!」


 空中に飛ばされたセシルを追いかけるようにゼノビアが格闘スキルの瞬間移動スキル「縮地」を使う。空中にいるセシルの目の前に現れたゼノビアはそこから怒涛の連続攻撃を繰り出した。


 本来はクールタイムにより連続では使えないウェポンスキルも、ゼノビアが持つ特殊なスキルにより条件を満たす限りは連続で行える。


 セシルも空中で体勢を整えながらも迎撃するのだが、さすがに分が悪いのか、徐々にダメージが蓄積されていった。


「今日は私の勝ちで」


「ちくしょー! 覚えてろよ!」


 ゼノビアが空中で風属性攻撃の疾風脚を放つ。セシルはその攻撃を防御したものの、ノックバック属性の攻撃で激しく吹き飛ばされたことにより、対人戦用のドームにぶつかった。それがダメージとなってセシルのHPがなくなり決着がつく。


 ただ、そのせいで決着がついたと同時にドームがガラスのように割れた。


 派手な演出効果によりプレイヤー達の歓声が最高潮に達する。セシルの身体はステージ外の地面にまで飛ばされたが、そのまま透けるように消えて、空中にいた飛行船はそのままどこかへ飛んで行ってしまった。


「帝国軍騎士団長を撃退しました。参加者には記念アイテムが授与されます。繰り返します――」


 特に何かをしたわけではないのだが、なぜか記念アイテムが授与されて喜ぶプレイヤー達。パルフェは「すごかったなー」と思いつつ、アイテムバッグの中を見る。


「武器引換券?」


 帝国軍騎士団長が集めた武器コレクションと引き換えることができるアイテムらしく、良いものほど枚数が必要という説明書きがされていた。


「セシルちゃんは武器のコレクターだからね」


 いつの間にかステージから戻ってきていたゼノビアは、パルフェたちが持っていた武器引換券を見てそんな風に言った。


「あ、ゼノビアさん、お疲れ様です。すごく強かったです」


 パルフェは心の底からそう言う。少なくとも今のパルフェが勝てる要素がまったくない。


「セシルちゃんは久々のログインだったからね。私は最近まで勘を取り戻そうと頑張ってたからその差が出たかな。でも、ま、今回は私の勝ちってことで」


 ゼノビアはそう言って満足そうにドヤ顔を見せる。


 なるほど、とは思うが、それが関係あるのか分からないほど強かったとも思うパルフェ。


「それじゃ私はルナリアちゃんのところへ行ってくるね。なんか興奮してステージに上がりそうだから」


「え?」


 パルフェがルナリアの方を見ると、ルナリアは身体をゆすりながら立ち上がろうとしている。ただ、ロザリエが鎌を手に持ちつつ必死にルナリアの両肩を押さえて椅子から立ち上がれないようだった。そしてロザリエはゼノビアの方にSOSとも言える涙目を向けていた。


「次は私が戦うとか言い出しそうだから諫めてくるよ。それじゃパルフェちゃんも対人戦頑張って。カザトキちゃんをかなり鍛えておいたから楽しめると思うよ」


 あんな戦いの後に普通の戦いをして大丈夫かと心配になるパルフェ。あまりハードルを上げないでくださいよ、とゼノビアを少し恨めし気に見つつも、これなら私の戦いは目立たないかなとちょっと安心するのだった。


アナザー・フロンティア・オンラインのコミカライズ最新話がTOブックス様のWeb漫画サイトで公開されました。


過去を思い出し暴走した呪龍レン。心を閉ざしたレンの前に現れたのは――という44話です。ぜひご覧ください。

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― 新着の感想 ―
最終的にルナリアちゃんが乱入するオチは考えないでもありませんでしたが、 こんなに早い段階から我慢できなくなるとはwwwwww 年月は必ずしも人を成長させるものではないという真理!! >そのときにエシ…
時間切れで強制ログアウトされるのが先か、某腹ペコメイド()にデストロイされるのが先か… 一般プレイヤー的には、かなり美味しい乱入だったな(何もせずに、報酬獲得的な意味で)
元魔王様を抑えるの苦労してそうだなあw 来てしまった時点でまあこうなるよねw
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