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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第十七章

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カラーテ

 

 ジニーの友人であるシンシアとの出会いから五日後、パルフェは一人で狩場へと向かっていた。


 狩りの対象はジャイアントスパイダー。このモンスターを倒すと蜘蛛糸と呼ばれるアイテムがドロップする。これは裁縫スキルで湯水のように使うため、いくらあっても困らないというアイテムだ。


 オリオン率いるクラン「猫は神」の場合はジャイアントスパイダーを何体もテイムして拠点で大量に作らせているが、さすがにあの規模は真似できないと諦め、パルフェたちはドロップアイテムを狙うことになった。


 その蜘蛛糸を集めるのはシンシアのため――というよりも次のイベントでは裁縫スキルが必要だろうとの考えから、シンシアのスキルを上げておこうというリックの提案だった。


「アシュレイ様の顔でそんなこと言われたら、拙者、萌え尽きるまで頑張るでござるよ!」


 シンシアは座っていた椅子から派手に転げ落ちてそんなことを言っていたが、リックは少し驚きはしたものの、ジニーで慣れているのか華麗にスルー。疲れた顔で「よろしく頼む」とだけ言った。


 リックが集める情報と予測はクランにかなりの利益をもたらす。前回のイベントでテイマー系の大手クラン「猫は神」「クリテイシャス」「ハイウェイスター」と対等に渡り合えたのはその情報のおかげと言っても過言ではない。


 また、その情報のおかげでイベント初期に猫島へ行けたことも大きい。巨大カブトムシのチャリオットがドロップした初見のレアアイテムなどが高値で売れたという結果もある。今回のイベントでもスタートダッシュをかけようと皆がやる気になっていた。


 そんなわけで皆で出来ることをやろうとしており、その一環でパルフェも狩場の確保に向かっていた。


 蜘蛛糸は需要が高すぎるため、狩場が争奪戦になる。しかも、そのジャイアントスパイダーは、運よくレアモンスターのアラクネが出現すれば「金の糸」という高額で取引されるアイテムを落とすので、蜘蛛糸と相まって最高の金策にもなる。そのため、狩場は普段から賑わっていた。


 それを踏まえて最初にログインしたパルフェが狩場確保のために一人、速足で移動していた。もし狩場に別のパーティがいるようなら狩場を変える必要があるので、移動自体は早めの方がいいとの判断だ。


 平日の夕方ということもあって大丈夫だとは思っている。時間的に狩場が混むのは仕事が終わった社会人がログインしてくる夜。とはいえ、何が起きるかは分からない。まだ大丈夫だとは思いつつも、さらに足を速めた。


(一体だけなら私一人でも狩れる。効率は悪いけど、皆が来るまでちょっとでも集めておいた方がいいよね)


 パルフェはそんなことを考えながらジャイアントスパイダーの巣窟がある森へと足を踏み入れた。ジャイアントスパイダーは森の中にもいるが、巣窟になっている洞窟が最高の狩場。まずはそこを確認しようとさらに速度を上げて移動する。


 森の中を進み、あと少しで目的地だと思ったところで、どこからか女性の声が聞こえた。


「え? 体調不良? だ、大丈夫? ……ただの風邪? そっか、それじゃ後でお見舞いに行くね。欲しいものがあったらメールしておいて……え? あ、うん、こっちは大丈夫……じゃないけど、な、なんとかするから心配しないで……うん、うん、それじゃお大事にね……」


 誰かが体調不良で来れなくなったのかなとぼんやり考えていると、その声を出していた女性が視界に入った。


(巫女さん……? 袴が黒いから武道家とかそういうのかな。たまにシモン先生があんな恰好をしているのを見たことがあるけど)


 女性は白い着物をたすき掛けにして黒の袴をはいており、腕と足に包帯を巻いていた。包帯は怪我をしているというわけではなく、バンテージ的な物だろうと想像する。


 森の中ということもあり、相手はパルフェに気付いておらず背中を向けている。声の様子や背丈から年齢は自分と同じくらいかなと思いながら近くを通り過ぎようとすると女性が大きな声を出した。


「ヤバいって! 今日、配信できないとクビになっちゃうよ! どうすんの、私!」


「わっ」


「え?」


 女性がかなり大きな声を出したため、近くを走っていたパルフェは驚きの声を上げた。


 その驚いた声に気付いた女性は振り返るようにパルフェの方を見る。茶色の髪が右目だけを隠していて、後ろは短めのポニーテールにしており、パルフェの予想通り年齢が近そうに見える。


 その女性と目が合う。するとその女性はパルフェに向かって突撃してきた。


「シスターさん! どうか、どうかお助けください! 信仰はしてませんけど!」


「え? ちょ、ゆら、ゆらさないで!」


 いつの間にか女性に両肩を掴まれ、揺さぶられているパルフェ。


 それよりも一瞬で間合いを詰められたことに驚きを隠せないのだが、それはそれとして本当に困っているようで、女性は今にも泣きそうな顔だった。


 状況に気付いた女性は慌ててパルフェから手を離す。


「す、すみません! で、でも、本当に困ってるんです! どうか、お助けを!」


「内容によりますけど、何をすれば?」


「対人戦をお願いします!」


「対人戦?」


「は、はい! 実は私、動画配信で生計を立てているのですが、これから対人戦の動画を配信をしないとクランを追放されてしまうんです! そうなるとお金が稼げなくなるので、すごく困るんです!」


「動画配信……生計を立ててるってリアルマネーを稼いでいるってお話ですか?」


「そうです、そうです! AFOと業務提携している企業に所属してまして、規定以上の動画配信と再生数が無いとクランを追放、つまりクビになっちゃうんです! そろそろ時間が来てしまうのでまずいんです! もやしも好きですけど、お肉も食べたいんです!」


「もやし……」


 なにか切実なことを言っているが、それはそれとしてパルフェも動画配信についてはある程度知っている。


 本来動画はゲーム内だけで配信が可能だが、AFOと提携している企業はゲームの外でも動画配信が可能になっている。その動画に宣伝を載せる形で企業はスポンサーを募り、お金を稼ぐことができるのだが、配信用の動画を撮ることを専門にしているクランがある。


 その動画配信で最大のクランは「キス・オブ・デス」。歌って踊って戦えるというコンセプトで動画を配信しており、一部のプレイヤーはアイドル化され、その再生数はかなりのものだ。パルフェも見たことがある。


 それに有名なクランには個別でスポンサーがつくこともあり、「猫は神」はサジタリウス系列の企業からペットの動画配信の誘いがあったとオリオンが嬉しそうに言っていたことを思いだした。


 目の前にいる女性がどのクランに所属しているのかは知らないが、色々なノルマがあるという話も聞いたことがある。そのノルマが達成できないとクランを追放され、リアルマネーも手に入らないということなのだろうと理解した。


 自分がしたわけではないが、パルフェは動画配信でそこそこ有名になったことがある。目立つようなことはあまりしたくないというのが本音だ。


 とはいえ、有名になったのは数ヶ月前の話であり今はほとんど鎮火している。それに女性は相当困っているようで目を潤ませながら訴えている。


 近くには誰もおらず、助けられるのは自分だけかと思ったので、パルフェは「分かりました」と頷いた。


「あ、ありがとうございます!」


「ちょ、地面に正座してまでお礼をしなくていいですから!」


 いきなり正座をしたと思ったら、さらにお辞儀までされては困る。武道は礼に始まって礼に終わるというが、そこまでされてはこちらが恐縮してしまう。


 パルフェは慌てて女性を立ち上がらせると、女性は何度もお礼を言いながら対人戦のシステムを起動させて設定を始めた。


「もちろん今回はランキング変動がない模擬戦にしますね。それと戦闘方式はシスターさんが選ぶのですが、リアルでお願いします。自分はそういう動画を配信をしていますので」


「ヴァーチャルではなくリアルですね。分かりました。ところでリアルタイム配信なんですか?」


「そうですね。とはいっても、私の動画は人気がないのでリアルタイムで見ているのは五人以下……投稿動画の再生数も三桁行ったことがない……」


「あー、頑張りましょう! 私も頑張りますので!」


「そ、そうですよね! 頑張りましょう!」


 設定が終わり、パルフェが戦闘方式でリアルを選択すると対人戦用のドームが展開される。周囲が森なのでいくつかの木がドームの中にもあるが、そこまで邪魔にならない程度だ。


「あぶな! ちょうど配信が始まったところですね。挨拶するので少々お待ちください」


 そう言うと女性は空中に浮いた画面に向かってぎこちない笑みを向けた。


「ど、どうもー。カラーテの奥義を見せる動画、カザトキの必殺道場へようこそー」


(名前を聞いてなかったけど、カザトキさんっていうんだ? というか、カラーテって言った? 空手のこと?)


 そんなことを疑問に思っていると、カザトキが見ている画面に文字が流れる。「はじまた」「待ってた」「カザトキは俺が育てる」というようなコメントが流れている。


(音声をコメント化する機能を使ってるんだ? まあ、リアルタイムの声だとちょっとうるさくなりそうだしね。あ、視聴者数三人かぁ……)


 たとえ三人であろうとも手を抜くつもりはないのか、カザトキは懸命に画面に向かって話をしている。


「いつも見てくれてありがとうございます! 今日はちょっとだけ予定を変更して、ついさっき知り合った方との対戦になりました。リオンちゃん狙いの人はごめんね……でも、見てください! 頼みます! 再生数やばいんです! 帰らないで!」


 必死だ。そんな風に思っているとカザトキが浮いている画面をパルフェの方に向ける。


「急なお願いにも関わらず対戦を承諾してくださったシスターさんです。ほんと神……おっと、素人さんなので素性は公開しませんよ!」


「こ、こんにちは」


 ここは手でも振った方がいいのかなと思ったのだが、画面に表示されているコメントが全くなくなっている。画面端にある視聴者数を見ると三人のままなので見てはいるのだろうが、何もしゃべっていない状況ということだ。


(もしかして対戦予定だったリオンさんって人を目的にしてたのかな。まあ、私を目的で見てるわけじゃないし、何を言っていいか分からないよね。挨拶くらい返して欲しかったけど)


 微妙な空気が流れたところで、カザトキが慌てて画面を消した。


「それじゃ戦いましょうか! 対戦形式はリアル。十回攻撃を当てたら勝ちです! よろしいですか!?」


「あ、はい。戦いましょう」


 そう言ってパルフェはいつも通り、刀の柄に軽く手を添えて棒立ちのように構える。カウンター主体の抜刀術なので、基本的な構えはないが、どんな攻撃にも対応できるという力を抜いた構えだ。


 カザトキの方はパルフェに向かって半身になり、左手を前にして右手を引き気味、少し腰を落として両足をしっかり地面につけて構えた。


 だが、そのまま動かない。


「あの、攻撃しても大丈夫ですか……?」


「え? ああ、どうぞ。私はこれが構えなので」


「そ、そうですか、分かりました……」


 カザトキは大きく息を吐くと、視線をパルフェに向ける。


(うわ、シモン先生と対峙しているみたいな雰囲気だ。もしかしてかなり強い?)


 そう思った直後、カザトキが接近した。走ると言うよりは、一気に跳躍したと言ってもいい。


(一歩の助走でこれだけ跳べるの!?)


「チェストォォォ!」


 そのスピードから繰り出される高速の右拳。


 パルフェは一瞬ヤバイと思ったが、考えるよりも身体の方が先に反応したのか、カザトキのバンテージで巻かれた右手を居合斬りで弾いた。


 現実であれば大変なことになるがここは仮想現実。戦闘方式がリアルだとしても、武器を弾くような攻撃はカウントされないので、お互いノーダメージだ。ただ、その攻防だけでお互いに相手の力量が分かる。


 すぐさま、お互いに距離を取った。


 パルフェはカザトキの跳躍や攻撃の速さに驚いたが、カザトキの方も驚きの顔でパルフェを見つめている。だが、すぐに真面目な顔になった。


「名のあるランカーだと御見受けしました。では、本気でやらせていただきます!」


 そう言ってなぜか嬉しそうな笑みを浮かべるカザトキ。


 さっきの攻撃は本気じゃないのかと思いつつ、同年代で強い人っていっぱいいるじゃん、とパルフェの方も口元に笑みを浮かべてベルゼーブの柄に手を添えるのだった。


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― 新着の感想 ―
切羽詰まった対人依頼w
>同年代で強い人っていっぱいいるじゃん なんてことだ・・・ パルフェさんの「自分は普通」という誤解が深まってしまった!! カザトキさん、これは罪深い!!!
なるほど、対人戦ジャンキーなステゴロ巫女()か… 色々と情報過多だな… モンブランメンバーの方が、色々な意味で酷いけど
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