格闘スキルの汎用性と連携
「一人、残ってますね。銀の毛並みを持つフェンリル。レアカラーですよ!」
ハヤトがどうしようか悩んでいる時にマリスが自陣中央にいるフェンリルを指して興奮していた。その隣ではエシャが頷く。そしてグリフォンのランスロットは少し拗ねていた。
マリスの言うレアカラー、それは出現率の低い色違いのモンスターだ。幸運ウサギのように種族そのものが違うモンスターとは異なり、同じ種族のモンスターで色が違っているというだけで強さはほとんど変わらない。
その出現率は一定ではなく、確率が低いレアカラーなどが存在していた。
フェンリルの銀色はレア中のレア。出現率は1%未満と言われている。
とはいえ、そんな情報は今の時点では関係ない。色が違うことで強さが変わるわけではないのだ。それに問題はあの場所に待機していることに尽きる。
「マリス、ここからランスロットで飛び出して先に相手のクランストーンに着ける?」
「それは無理ですね! あれはこちらの意図を分かっている顔です! たぶん、飛び出したと同時に引き返すと思いますよ!」
「なんでそんなに元気よく言うの。なら、あのフェンリルと男に勝てる?」
クランストーンへ直接行けないのなら戦って勝つという方法がある。あの場所にはガルデルとフェンリルだけ。マリスが勝てるなら、その後にクランストーンまで行けばいいのだ。
「相性が悪いですね。フェンリルは魔法も使えるので、空へ逃げても攻撃が届くんですよ。それにそもそも戦ってくれるかどうか分かりません。砦まで戻っちゃうかも」
「こっちの作戦がばれているならその可能性はあるね。向こうもこっちにグリフォンがいるのは分かっているはず。どうしたものかな」
「レリックに頼めばいいと思いますよ」
いきなりエシャが話に割り込んできた。
「レリックさんに? どうして?」
「格闘のウェポンスキルの中に騎乗を解除するものがあったと思います。それでお犬様から叩き落とせばマリス様のほうが早く相手の砦に着くかと」
「そんな技があるんだ? でも、ガルデルのところまで行けないんじゃ?」
砂漠では移動速度が半分になる。レリックがガルデルのところまで行くにはそれなりの時間がかかるだろう。
それに格闘は近接攻撃の中でも攻撃範囲が一番短い。砂漠であってもガルデルは騎乗をしているために動きは速く、武器も長めの槍だ。攻撃を当てられるのかどうかが微妙と言えるだろう。
「そこは大丈夫です。格闘スキルには相手との距離をゼロにするスキルがあるので距離やフィールドなんて関係ないですよ。うちのメイド長も良くやります。それにレリックですよ? ハッキリ言って普通に戦ったって勝てますよ」
メイド長がなぜそんなことをできるのかは分からないが、それならとアッシュとレリックに連絡を取る。そして事情を説明した。
アッシュとレリックはそれを了承して、レリックだけが砦の屋上にやってきた。
「マリスが砦に行く間、あそこにいるガルデルをフェンリルから叩き落としてもらいたいのですがお願いしてもいいですか?」
「お任せください。このいただいた手袋にかけて必ずやご期待に応えましょう」
レリックは手袋を改めて手に合うように引っ張り手をグーパーする。そしてエシャのほうを見た。
「しかし、エシャ。私をずいぶんと買ってくれますね? 普通に戦っても勝てると言ってくれたそうで」
「前のクランメンバーの実力は知ってます。派手さはないですけど、堅実な戦い方はレリックが一番だと思ってましたからね。イノシシ勇者とかコレクター女なんかよりも遥かに強いですよ。アイツらは派手なだけで強くはないです」
「そんなことはないと思いますが、あの二人よりも強いと言ってくれるのは嬉しいですね。では、もう一度作戦を確認しましょうか」
作戦としては簡単だ。
ガルデル以外を砦に誘い込み、アッシュ達が相手をする。アッシュ達は攻撃できないが防御をして相手を砦に引き付けておくだけだ。
その後、レリックがガルデルに近づき、フェンリルから叩き落とす。
騎乗を強制的に解除させられた場合は十秒ほど騎乗できない状態になるので、その間にマリスがグリフォンに乗って相手のクランストーンを目指すという作戦だ。
至って単純だが、それゆえにわかりやすい作戦。アッシュ達がポーションで耐えるだけなので、できるだけ短い時間で対応しなくてはいけないということはあるが、問題はそれくらいだろう。
「ハヤト、敵が侵入してきた。こっちは任せてくれ。そっちは頼んだぞ」
「分かった。まあ、俺は何もできないんだけどね」
「実は私もそうです。たまにはこんなのもいいですね。メロンジュースだけ飲みたい」
(よくないけど、まあいいや)
「えっと、それではレリックさん、お願いします」
「かしこまりました。今回の作戦は私の攻撃が肝になるというのは嬉しいものですね。エシャばかりにいい格好はさせられません」
レリックはそう言うと、砦の手すりに軽やかに飛び乗った。そしてガルデルを見つめる。
「縮地」
レリックがそう言うと、一瞬でその姿が消えてガルデルのいる場所へ移動した。
「……なにあれ?」
「格闘スキル100で使える縮地というスキルです。ターゲットにしている相手の目の前に瞬間移動するというとんでもないスキルです。うちのメイド長の得意技。あれさえなければ私の勝率も上がるんですけど」
「ああ、俺も拠点でやられたよ。距離が短いから高速移動したのかと思ったらこれは瞬間移動なんだね。たしかにこれなら砂漠でも関係ないね」
メイド長にレリックのことを聞かれたときに使われた。あれ以来、ハヤトはとくに何も聞いていないし、聞くつもりもない。
「ご主人様がメイド長に? なぜです?」
「……まあ、色々あって。それよりもまずはレリックさんを見よう。あとマリスもいつでも行けるように準備してて」
「分かりました!」
レリックとガルデルが戦っている。いきなり現れたレリックに驚いたのか、それとも勝てると思ったのか、ガルデルは逃げずにその場でレリックと戦い始めた。
ガルデルはフェンリルに乗りながら槍を振りまわしていた。さらにはフェンリルのひっかきや噛みつきが追撃される。だが、レリックにはまったく当たらなかった。
(すごいな。ガルデルもかなり強いと思うんだけど、レリックさんはそれ以上だ。このゲームに回避とかのスキルはないから、あれは本人の身体能力だけのはず――NPCだから身体能力がそもそもないんだけど、AIの身体能力って高そうだよな)
レリックはガルデルとフェンリルの攻撃を華麗に躱す。躱すだけでなく、ときには攻撃をしてガルデルの体勢を崩していた。
そして数秒後、レリックがガルデルの突きを右回転しながら躱し、その勢いで裏拳を放った。
バックハンドブローと呼ばれるウェポンスキルは単体攻撃の中ではかなりの攻撃力を誇り、様々なバッドステータスを相手に与える。一時的に行動不能にするというのもあるが、今回のメインは騎乗の解除だ。
そのバックハンドブローが見事に決まり、ガルデルはフェンリルから叩き落とされた。
ハヤトはそれを確認した後、マリスを見る。
マリスはすでにランスロットに乗っており、ランスと盾を構えていた。そしてハヤトに頷く。
「行きます!」
マリスはランスロットに乗ったまま屋上から飛び出した。そして空中をかなりのスピードで敵陣のほうへ飛んでいく。
(ガルデルはフェンリルに乗っていない。改めて乗るには時間がかかるはずだ。マリスのほうが早く着くはず――しまった。単純なことを忘れてた)
ガルデルは口笛らしきものを吹くと、フェンリルが砦に向かって走り出した。おそらくクランストーンを守りに行ったのだろう。ガルデルが改めて騎乗せず、フェンリルだけ守らせるということをハヤトは全く考えていなかった。
(騎乗しているって先入観でフェンリルだけ行動させるってことを考えてなかった。当たり前のことなのに)
「マリス、フェンリルだけが砦に戻ろうとしている。ランスロットと一緒なら勝てる?」
ガルデルとフェンリルの組み合わせには勝てないという話は聞いている。フェンリルだけなら勝てるかもしれない。ハヤトはそれに期待した。
「勝てるかもしれませんが、時間がかかるかと……」
「そっか、なら色々考えてみるから無理はしないで。マリスが倒されたら勝てなくなるから」
「りょ、了解です! まずは拠点を目指しますけどフェンリルとは戦いません!」
(さて、どうする? すぐにマリスは相手の砦に着く。それにフェンリルもほぼ同時に到着しそうだ。それまでに考えないと)
なにか作戦を考えようとしたところでガルデルから音声チャットが届いた。
「ハッ! そんな作戦だとは思ってたよ! こっちはお見通しだ! 残念だったな!」
「ああ、無様にフェンリルから落っこちたガルデル君か。今忙しいから後にしてくれる?」
「このガキィ!」
相手をしている場合ではないので、繋げたままのチャットを切る。そして改めて考えようとした。
「私の見せ場を作ってくれるとはありがたい話ですね」
「エシャ?」
いきなりエシャが屋上の手すりに近づいて左足をかけた。そしてベルゼーブ666を構える。
「レリックはその男とお犬様を足止めしてください。私は念のために男のほうをやります。絶対にお犬様を近づけないようにしてくださいよ」
「ええ、お願いします。主人のいないフェンリルだけなら何とか足止めできるでしょう」
「まさかとは思いますが、巻き込まれたりしないでくださいね。あと、お犬様を止めるのはいいですけど、倒したりしたら次のターゲットは貴方ですよ?」
「あのクランでデストロイに巻き込まれたことがないのは私だけだと自負しておりますのでご安心を。もちろん、フェンリルの方もご安心ください。では、いつも通りに」
レリックはそう言うと、ガルデルに対してウェポンスキルであるローキックを放った。一時的に相手を行動不能にする攻撃により、ガルデルはその攻撃を受けてその場から動けなくなる。
直後にレリックが消えた。
ハヤトは何が起きたのか分からなかったが、レリックがフェンリルの目の前に移動したのを見て理解する。縮地によってフェンリルの目の前に移動したのだ。
そしてフェンリルに今日二度目のバックハンドブローを叩きこんだ。その攻撃によりフェンリルも一時的に動けなくなる。
「デストロイ」
近くからエシャの声が聞こえたと思ったら、直後に大砲のような音が聞こえ、銃から放たれた光が十個の魔法陣を突き破ってガルデルに向かった。
ガルデルはその光に貫かれて光の粒子となって消えてしまう。
主人がいなくなったことで、フェンリルの能力が下がることになった。この状態であれば、レリックでもフェンリルの足止めが可能。レリックはそのままフェンリルの相手を始めた。
エシャは銃口へ顔を近づけ、フッと息を吹きかける。そしていつの間にか持っていたメロンジュースを飲み始めた。
(火薬で撃ってるわけじゃないのに何で煙を吹くようなポーズをとったんだろうか)
そんなハヤトの疑問はすぐに忘れた。それよりも確認したいことがあったからだ。
「さっきのレリックさんとの連携はなんなの? もしかして練習してたとか?」
「ああ、あれは前のクランでよくやっていただけですよ。レリックが動きを止めて私が倒す。久しぶりでしたが上手くいきました」
「そういうことか」
(エシャやレリックさんがいた前のクランでやってたってことか……あれ? それって単なる設定じゃないのか? 連携で相手を倒していたなんて設定までするかな?)
ハヤトの頭の中に疑問が浮かぶ。だが、それはエシャの言葉でかき消された。
「マリス様が向こうの拠点に着いたみたいですね」
ハヤトが相手の拠点を見ると、マリスが屋上にいるのが見えた。そして屋上の中央にあるクランストーンに攻撃を開始する。
しばらくすると、敵のクランストーンが破壊された。それと同時に紙吹雪が舞って花火が上がる。
ハヤト達のクランはこの戦いに勝利したのだ。
「思ったよりも簡単に勝てましたね」
「どう考えても君らのおかげだと思うよ」
「なら次の祝勝会は期待してます。マリス様のジークフリートも呼びましょう。お猫様を見ながらならいくらでも食べられますから」
「クランが破産するから止めてくれる?」
(よし、これでランキング五位以内に入ったはずだ。残りの戦いは二回。必ず賞金を手に入れよう)
ハヤトは砦の屋上でそう決意するのだった。
すでにご存じの方もいらっしゃるとは思いますが、本作が書籍化されることになりました。これも応援してくださった皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。
活動報告に情報を載せていますのでよかったらご確認ください。今後も情報があれば載せていく予定です。
また、今後は更新頻度を上げたいと思います。しばらくは毎日更新をしますので、引き続きよろしくお願いいたします。




