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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第十六章

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隠し玉

 

 バリトア山の山頂、その空ではエルダーグリフォンのランスロットとクラン「猫は神」のプレイヤー達が戦っている。


 パルフェはその戦いを地上から眺めているが、高スピードで動き回る戦いは普段の戦闘ではお目に掛かれないほど激しい。ゲームや映画でしか見たことはないが戦闘機同士の戦闘のようで目を離せないでいる。


 お互いに逃げるようにしつつも追いかけるというパルフェにはよく分からない戦い――おそらく有利なポジションを取るための戦い方をしているが、その動きは変幻自在であり、地面に向かって急降下するなどの動きは慌てたほどだ。


 さすがは大手クランと言うべきか、普段は猫好きのプレイヤーでしかなく、いかに猫が可愛いかを熱く語るだけなのだが、本気を出した戦闘ではこんなになるのかと目を見張る。


 そもそも二対一という形になってしまうが、あのような戦いをされたらパルフェも対人戦で勝利することはできないと思っている。もともと対人戦では戦闘フィールドの制限があるのであのような戦いはできないだろうが、何の制限もなければ触れることすら敵わないだろう。


 パルフェから見て「すごい」と言う感想しか出てこない戦闘ではあるが、空で戦っておらず地上で待機しているプレイヤー達も強そうに見える。


 今回はゴンドラで運んできたということもあるので地上での戦闘をする「猫は神」のプレイヤー達は少ないが連れているペットがえぐい。


 超高速で移動する巨大な狼であるフェンリルや八本足の馬であるスレイプニルなどがメインで機動力を活かした戦いをするのだろうなとパルフェは思う。


 ただ、オリオンが連れているペットだけは良く分からない。大きな猫なのは分かるが、強いのかどうかは微妙だ。同じ疑問を思ったのか、ウィルネがオリオンのペットである猫に視線を向ける。そしていきなり目を見開いた。


「オ、オリオンさん、そ、その猫は……」


「え? ああ、うん。ウチで最強を誇る猫なんだよねー。でも、他のクランの人達には内緒ね?」


 オリオンはそう言ってウィルネの方へウィンクする。


 それを見ていたパルフェは首を傾げた。


「ウィルネちゃん、オリオンさんのペットに何か問題?」


「問題……そう、問題ですね。明らかにテイムしては駄目だろうという感じの猫さんです」


「どういうこと?」


「AFO内で強いモンスターは多くいるのですが、その中でも神の名を持つモンスターは百人以上で戦うことが必須とされています。ご存じですか?」


「聞いたことはあるよ。百鬼夜行に出てくるボスみたいなモンスターってことだよね」


「そうです。それに匹敵すると思われるモンスターをオリオンさんはペットにしているわけです。何かの上位種なのか、それとも完全ユニーク個体なのか不明ですが名前はバステト。猫の神と言われていますね」


 パルフェの顔が高速で動き、オリオンが連れているペットへ視線を向ける。


 実物を見たことはないが、動画で見た限りだとアビシニアンと呼ばれる猫に似ている。あくびをしたり、前足で顔をこする姿は愛らしいが、間違いなくAFO内で最強格とも言われる神の名を持つモンスターだ。


 本来、そういうモンスターをペットにはできないと言われている。できたとしてもかなりの低確率。それは今日は拠点で留守番しているパルフェのペット、トラチヨでもそうだった。


 トラチヨも「ビシャモンテン」という神様の名前を持っているが、猫の上位種なので猫としては強いが、モンスター全体で見るとそこまで強くはない。ゲームを始めて半年も経っていないパルフェやリックで渡り合える程度の強さしかないので、テイムの難易度もそこそこだ。


 ただ、バステトは違う。その容姿とは裏腹に一体で百人のプレイヤーと渡り合えるほどの強さを持っているレイド級モンスター。オリオンが普段連れているスノーホワイトよりもレアなモンスターであり、テイムが成功したことすら聞いたことがない。


「言っておくけど、そこまで強いままじゃないからね」


 驚きの目をしているパルフェを見て、オリオンがそう言う。


 仲間になると弱体化するというRPGあるある的な恩恵はここでも反映されており、さすがにレイド級モンスター並みの強さはないとのこと。


 ただ、その成長率と所持スキルは調整ミスと言えるほどの強さになっている。オリオンはバステトの強さが不具合なのか運営に聞いたが、問題ないとの回答があったらしい。


(ディーテお姉ちゃんがそんなミスするわけないよね。つまり、それだけレアだから強さもレアってわけか)


 ディーテが不具合のある状態にするわけがない。ならばこれはゲーム内で合法。さすがに百人のプレイヤーを相手にしても勝てるようなペットではないが、それなりに強くなるのは間違いではないということだ。


 そんなレアなモンスターをテイムすることができるなんて驚きではあるが、よく考えたら「猫は神」のクランは普段から百鬼夜行で妖怪系のモンスターを片っ端からテイムしているのをパルフェは思い出した。


 九尾の狐であるタマモノマエや、しっぽが二つになっている猫又、さらにはレアボスである猫の妖怪「火車」なども、テイムしようとして返り討ちにされているのをよく見ている。


(大手のクランは色々な隠し玉を持っているって聞いたことがあるけど、猫は神のクランはこの子がそうなのかも)


 イベントなどで発生するクラン同士の戦いはそれなりに実施されている。領地争奪戦がその最たるものであり、そのためにクランは強さを隠していることが多い。


 それを見せてくれるほどなので相当な信頼をされているのだとパルフェはオリオンに感謝する。その信頼を裏切らないようにしようと心に誓った。


 そうこうしていると、ランスロットが地上に落ちてきた。空中戦でかなりのHPを削ったようで、残りのHPは二割程度。ここからがパルフェたちの出番となる。


 パルフェ、クリス、リック、ウィルネの四人が岩陰から飛び出した。それに続くように地上で待機していた猫は神のメンバーも続く。オリオンは岩陰に隠れたままだが、バステトをランスロットにけしかけた。


(オリオンさんのあの銃は指示を出すための物だったんだ)


 オリオンはスチームパンク的な恰好をしており、腰には銃を下げている。ただ、その銃は攻撃に使うようなものではなく、色がついた煙が尾を引くような弾を発射しているだけだった。


 クランメンバーにも大体の作戦をそれで伝えているようで、攻撃や防御をそれで指示しているようであった。他の大規模戦闘でも似たような戦術を見たことがあるので、大規模戦闘では必須なのかなとパルフェは思う。


 ペットのバステトもその指示の通りに行動している。さすがは神の名を持つモンスターと言うべきか、魔法による攻撃、支援、回復、阻害などを全部一匹でやっていた。さらには動きも素早く爪によるひっかき攻撃もダメージが大きい。


 バステトだけでも勝てそうではあるが、クラン「猫は神」のペットやメンバーとの連携がやたらと上手い。ダメージを与えてかから離れるというヒットアンドアウェイが上手すぎるのだ。


 常に誰かが攻撃しているような状況の上に、攻撃されているランスロットは誰を追うべきなのか迷っているようで首の動きに落ち着きがない。


(モンスターのAIが迷ってる……ヘイト管理が上手いんだろうな。皆がダメージを与え過ぎないように調整してるんだ)


 パルフェとしてはクラン同士で同盟を組んで戦うのは初めてのことなのだが、かなり勉強になっている。個人ではパルフェも強いが、連携的なことを考えるとクランとしては弱いので、猫は神の戦い方はかなり参考になっていた。


 それはそれとして、このままでは全くでいいところがないとパルフェはランスロットに斬りかかった。


 クラン「モンブラン」は「猫は神」のようにモンスターからのヘイトを分散する形ではなく、盾役のリックがヘイトを一身に受ける形の戦術になる。クラン同士の連携としてはかみ合ってはいないが、猫は神のメンバーたちはパルフェたちが攻撃中ならと、今のうちに減ったHPを回復させようと岩陰に隠れた。


 パルフェが斬りかかった直後にリックは自分に攻撃を向けさせるため、スキルのウォークライやシールドバッシュなどでランスロットのヘイトを稼ぐ。他にも回復行為や挑発などのスキルを使ってヘイトを稼いだ。


 その間にパルフェ、クリス、ウィルネはリック以上にヘイトを稼がないように攻撃を始めた。ナツ、ジニー、アベルは遠くからそれぞれ支援や攻撃を開始する。


 結成されて間もないクランではあるが、勝手知ったる仲というべきかアイコンタクトや身振り素振りだけでお互いをサポートしている。最近知り合ったばかりのウィルネだけは少しぎこちない部分もあるが、それでも少し違和感があるくらいで問題なく対処できていた。


 そんな攻撃を受けていたランスロットは残りのHPがわずかとなり、最後の攻撃を仕掛けようと前足、後ろ足に力を入れた。そして跳躍してから、空中で魔力を集めるようなエフェクトが出る。


 これはエルダーグリフォンの必殺技である超広範囲全体攻撃「ショックウェーブ」の攻撃予告モーション。山頂や空にいる相手全てに大ダメージを与える攻撃なので、これを始めたら空にいたとしても岩陰に隠れるのが基本戦術となる。


 ただ、パルフェはそれを知らない。知っているのはクラン「モンブラン」だとリックとウィルネだけだった。


「クリスちゃん!」


「む? やる気か。よし、来い!」


 パルフェは少し距離があったクリスに向かって走り出す。そしてクリスは片膝をつくようにして、その膝に両手を添えた。


 周囲の大半が岩陰に隠れながら不思議そうな表情をしているところで、パルフェは勢いをつけたままクリスの両手に足を乗せる。


「っせい!」


 クリスは気合の入った声を出しながら、パルフェの足を両手に乗せたまま勢い良く立ち上がり、さらには思いきりパルフェをランスロットの方へと投げた。


 本来ならジャンプしても届かない位置にいるランスロットだが、クリスとの連携でかなり飛び上がったパルフェは余裕で近づいた。


「え? ちょ……」


 オリオンからそんな声が漏れると同時にランスロットのほうも驚いた顔になる。そこへパルフェは連続の居合斬りを放った。


 なんらかの補正ダメージがあったのか、ランスロットのHPがみるみる削れていく。


 だが、あと少しという状態でパルフェの落下が始まる。居合斬りが届かない距離になり、皆がダメかと思った次の瞬間、パルフェの持つベルゼーブが銃の形に変わった。


 これに関して「猫は神」のメンバーは目を丸くして、ランスロットは鳩が豆鉄砲をくらうという表現がぴったりの顔になる。直後にその銃から何発も弾が発射され、ランスロットを撃ち抜いた。


 HPがなくなったランスロットは「クェェ……」と哀愁を感じさせる鳴き声で地上へと落ちる。同じようにパルフェも落ちていたが普通に着地した。


「やった! オリオンさん、勝ちましたよ!」


「えぇ……?」


 誰もやらないような勝ち方にウィルネやリックも含めて周囲がドン引きしているが、本来の攻略方法を知らないパルフェやクリス達はそんな周囲を気にせずにハイタッチして喜ぶのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王と勇者(味方)の一騎打ち開始直後にまとめてデストロイした母親を持つ娘だ、面構えが違う。 [一言] 隣の家の芝生は青い。
[一言] リアル超人だし、これくらいやらないとな(白目)
[良い点] まさかの勝ち方でしたが、ドン引きするのも無理ないですね……
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