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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第十五章

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初めてのログイン

 

 掲示板が大いに賑わう少し前、パルフェは王都にある教会へ足を踏み入れた。


「やあ、パルフェ君。よく来てくれたね」


 修道服の女性にそう歓迎されたパルフェは今日初めてVRMMORPG「アナザー・フロンティア・オンライン」にログインした。


 この仮想現実は脳への影響を考慮して十六歳になるまでログインできないという制限がある。今日十六歳の誕生日を迎えたパルフェは学校を終えた後に自宅からログインしたのだ。


 パルフェが訪れた教会の礼拝堂は現実とほとんど変わらない空間になっている。


 複数の色がちりばめられたステンドグラス、寸分狂いなく等間隔で置かれた長椅子、そして修道服の女性に似ている女神像。


 ここへ来るまでの街並みもそうだったが、この礼拝堂を見て、パルフェはさらに驚きと感動に打ち震えていた。


 そして、それ以上に喜んでいることがある。


 パルフェは修道服を着た女性――ディーテと面識がある。


 いままではモニター越しに会話をしていただけで、今日初めて直に会うことができた。


 幼少のころからずっと一緒のディーテをパルフェは家族だと思っている。それはディーテも同じようで、優し気な視線をパルフェに向けていた。


「ディーテお姉ちゃん、ようやく十六歳になったから遊びに来たよ」


「パルフェ君が来てくれることをずっと待っていたから嬉しいよ。今日は誕生日だろう? パルフェ君が好きなストロベリーパフェを用意して待ってたんだ。一緒に食べようじゃないか」


「さすがディーテお姉ちゃん。私の好みを理解してる」


「赤ちゃんの頃から知ってるからね。しかし、親子というのは似るものだね。エシャ君もパフェが好きだったよ」


 ディーテはそう言いながらパルフェを見る。


 ボリュームがある黒い髪を後ろでちょこんと結んでおり、エシャの幼い頃を連想させる顔立ちはまさに親子と言えるだろう。


 父親であるハヤトは自分に似ないでよかったと言っているが、ディーテに言わせれば目元などはハヤトにそっくりだ。


 そんなパルフェは口を尖らせた。


「昔、私はチョコパフェでできてるってよく言われた。あとメロンジュース。年ごろの女の子になんてこと言うんだって思う。グレてもおかしくない」


「皆、パルフェ君がかわいいのさ。だから、からかいたくもなる。もちろん冗談だから本気に受け止めない方がいい」


「でも、名前までパルフェ。これってパフェの別の言い方だよね。体から名前までパフェってどうかと思う」


「まあ、そうだね。でも、パルフェという言葉には完全とか完璧という意味がある。それにエシャ君の好物だ。ハヤト君やエシャ君に愛されているから、その名前なんだよ」


「それが分からないほど子供じゃないけど、もっといい名前があったと思う。コーヒーの銘柄以外で」


「パルフェ君は相変わらずいい子だね。まあ、とにかくパフェを食べよう。お代わりもあるから遠慮なく食べて欲しい」


 礼拝堂の長椅子に並んで座り、二人は仲良くパフェを食べる。


 その美味しさにパルフェは驚いていたが、こんな美味しいものをお父さんたちは食べていたなんてと両親に対する信頼度がちょっと下がった。


 そんな様子をディーテは微笑みながら眺めていたが、パフェが残り半分ほどになったところで問いかける。


「遊びに来てくれたのは嬉しいけど、パルフェ君はここで何をするか決めたのかい?」


 AFOは自由度が高い。逆に言えば必須でやるべきことがない。メインストーリーのクエストもあるが、別にやらなくてもいい。自分でやりたいことを決めないと、すぐに飽きがくる類のゲームだ。


 当然、運営側も飽きが来ないように様々なイベントを行っているが、自分自身で目標なり楽しみなりを見つけないとすぐに辞めることになる可能性が高い。


 パルフェはパフェを食べながら「んー」と唸ると、口を開いた。


「いつかお父さんの喫茶店を継ぐつもりだから接客業の練習をしようかと思って。現実だとアルバイト禁止だし」


「ハヤト君の喫茶店を継ぐと決めているのだね。まだ十六歳なのに偉いものだ」


「今はコーヒーメインでやってるけど、権力を手に入れたらスイーツ系メインの喫茶店にするつもり」


「店長になったらという意味かな? ハヤト君が泣きそうだけどね」


「コーヒーもメニューにはあるから大丈夫。あと、猫とか犬がたくさんいる喫茶店にしようと思う。毎日猫缶をあげるってジークの子供たちと契約した。三年後を楽しみにしてて」


「継ぐと言うよりも乗っ取るつもりなんだね……」


「人生は弱肉強食だってお母さんに教わった。主に焼肉とすき焼きで」


「エシャ君との食事は戦場だからね。そうそう、接客業の練習をしたいというならメイドギルドに所属するのがいいかもしれない。あそこは喫茶店を経営しているからね」


「メイドギルドってお母さんが所属していた組織のこと?」


「組織……まあ、そうだね。そしてそのおかげでハヤト君と出会い、色々あって結婚したわけだ」


「その色々をもっと詳しく教えて」


「それは本人たちに聞いてほしいかな。本当に色々なことがあったからね……」


 ディーテはそう言って遠い目をする。


 懐かしそうな目は楽しそうに見えるが、完全に止まった状態だ。


「ディーテお姉ちゃん?」


「ああ、ごめんよ。ちょっと昔の思い出を再生しすぎたようだ。さて、パフェの方は食べ終わったようだね。なら、渡したいものがあるんだ」


 ディーテはそう言うと、アイテムバッグから何かを取り出した。


 それは刀。


 鍔なしの刀で黒い鞘に納刀されている。仕込み刀のように偽装しているわけでもなく、見た目は普通に刀だ。柄の部分にはドクロの装飾があり、パルフェとしてはちょっとカッコよく思った。


 ただ、シスターが笑顔でそれを持つのはなんとなく間違っているとパルフェは思う。


「えっと?」


「これはハヤト君が用意したものだ。今日は仕事があって直接渡せないからと預かっていたんだよ。ああ、夜には喫茶店で誕生パーティを開くと言っていたからそっちは安心したまえ」


「そうだったんだ? でも、刀って」


 たとえゲームであってもそれを誕生日に送るのは父親のセンスを疑う。これでは現実のプレゼントも期待できない。


 そんなパルフェの考えをよそにディーテは微笑む。


「これはエシャ君が使っていた物と同じなのだよ。とはいってもレプリカだけどね。名前は『ベルゼーブ666・レプリカ・Pカスタム』。Pはパルフェという意味で君用にカスタマイズされている」


「お母さんはライフルを使ってたと言ってなかった?」


「ベルゼーブは使う者の意思によりその姿を変えるという特殊な武器だ。レプリカだがそれと同じ能力がある。昔、エシャ君はこれを杖としても使っていたからね。もちろん、ライフルにも変化するよ。レプリカだから魔力弾ではなく、物理的な弾だから装填が必要だけどね」


「姿を変える……それだけ聞くとロマンを感じる」


 パルフェはそう言いながら、ディーテから刀を受け取る。


「レプリカなので姿を変える以外の特殊な能力はないし、そこまで強くはないが、ハヤト君の銘が入っているから、かなりのブランド物だよ」


「ブランド?」


「昔はなかったんだが、今は製作者の名前を装備品に入れることができるんだ。これはハヤト君が作ったものだと証明するようなものかな」


「へー。でも、なんでブランド? お父さんってこのゲームだと有名なの?」


「有名と言えば有名かな。同じアイテムだったとしてもハヤト君の銘が入っているだけで取引価格は十倍くらいに跳ね上がるね」


「ふーん」


 パルフェは特に興味なさそうに鞘から刀を抜いた。


 綺麗な刀身に自身の顔が映る。鏡のように磨かれた刀身は心が奪われるほど美しい。


「値段のことはよく分からないけど刀はいい感じ。練習で使っているのとあまり変わらないかも」


「そうだろうね。重さやら形状やらハヤト君はかなり苦労して調整していたから」


「お父さんってそういうのにこだわるよね」


 パルフェは笑顔でそう言うと刀を左腰に装備した。


「さて、もう一つある。これは私からだ」


 ディーテはそう言うと、今度は服を取り出した。


 それはどう見ても修道服。頭に装備するであろうヴェールや革製のブーツもある。


「修道服?」


「これは身を守る防具だね。さすがに最初から高性能なものを渡すのはどうかと思ったので弱いがね。ただ、強化していけば最強の防具になる」


「それはいいんだけど、なんで修道服?」


「……嫌かね?」


「そういうわけじゃないけど、どうして修道服なのかなって」


 ディーテはパルフェに対して背中をむけ、背中側で手を組んだ。そして礼拝堂の正面にあるステンドグラスを見上げる。そこから光が差し込んでいるので、その後ろ姿は神々しいと言ってもいい。


「パルフェ君。君は現実で多くの人から色々と教わっているね」


「うん、ベニー師匠とか、シモン先生とか。あとレン教官」


「私も色々と教えたかったんだが、君は十六になるまで仮想現実には入れない。悔しい思いをしたものだ」


「うん……?」


「だが、君のことは赤ちゃんの頃からずっと見守ってきた。いつか仮想現実に来てくれることを夢見てね」


「うん、お父さんとお母さんが忙しくても、いつもディーテお姉ちゃんがいてくれたから寂しくなかった」


「そうだろう、そうだろう。夏休みの宿題とかも手伝ってあげたしね」


「その節はお世話になりました。日記とか自由研究とか宿題としてどうかと思う」


「ということは、だ」


 ここでディーテは溜めを作る。


 パルフェは何も言わずに次の言葉を待った。


「パルフェ君は八割くらい私の娘だと言ってもおかしくないのでは? むしろ四捨五入して私の娘ではないだろうか?」


「突然の暴論」


 ディーテは振り向いてからパルフェに近づき両肩を掴む。


 顔は笑顔なのに有無を言わせない威圧感がある。神々しい感じはもうない。


「私も夏休みの宿題だけじゃなく色々としてあげたかったのにずっとできなかったんだ。だからこれくらいは贈りたい。それに親子なら一緒の格好をするだろう? ペアルックというらしい。だからこの修道服を着よう」


「圧がすごい。でもさ、服はともかく、どちらかといえばお姉ちゃんだって思ってたんだけど?」


「お姉ちゃん?」


「うん、ディーテお姉ちゃんってずっと言ってるよね、私。だからディーテお姉ちゃんは私の姉、つまり私達は姉妹。あ、シスターがシスター……!」


 パルフェが自分のギャグにクスクスと笑った直後、ディーテが「ぐふぅ」と言いながら膝をついた。


「え、ちょ、大丈夫? そんなに面白かった?」


「いや、そうじゃないんだ。姉妹という言葉で久々に感情プログラムがざわついてね。相当な破壊力だった。ハヤト君にかなり鍛えられたはずなんだが」


「攻撃したわけじゃないけど、どういうこと?」


「いや、こっちのことだよ。しかし母ではなく姉か……悪くない。いや、むしろ望むところだ。それで行こう」


「悪くないなら何よりだと思う。それに納得はできてないけど事情は分かった。この修道服を着ればいいの?」


 パルフェはディーテから修道服一式を受け取るとすぐに装備する。


 ディーテとほとんど変わらない修道服。全体を映す鏡などはないので、パルフェは体をひねりながら自身の服装を確認する。


「見た目は大丈夫かな?」


「問題ないと思う。完璧な姉妹だといえるだろう。画像――いや動画を保存していいかね?」


「それはいいけど、刀を装備したシスターってどうかと思うんだけど?」


「特に問題はないと思う。この仮想現実だと色々な恰好をした人がいるから、むしろ大人しい方だと思うぞ?」


 それは初耳だったが、パルフェはこの教会に来るまでに見た他のプレイヤーの恰好を思い出して納得した。馬の頭の被り物や孔雀っぽい派手な装備のプレイヤーよりは間違いなく良い。


「カッコ良く思えてきた」


「それは良かった。それじゃ、誕生日の続きだ。パフェのお代わりを食べるかい?」


「うん。太らないからいくらでも食べる。そういえば昔はゲーム内のアバターが太ったとか聞いたけど?」


「昔はカロリー計算をしてアバターに反映していたんだけどね、それに関してやめて欲しいと強い要望を送ってくる人がいるから仕様を変更したよ」


「なんてグッジョブ。その人に感謝したい」


「それなら今日の夜はエシャ君の肩をもんであげるといい」


「……あ、うん」


 何かを察したパルフェは母であるエシャに感謝しながらディーテが追加で取り出したパフェを食べるのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >「それは本人たちに聞いてほしいかな。本当に色々なことがあったからね……」 流石にハヤトを巡って刃傷沙汰、とは言い難いか。 AIでなくとも遠い目をしてフリーズすること請け合いの黒歴史。 い…
[一言] 良くも悪くも、母親の影響を受けているなこの子は
[一言] 要望送ってたのか、まああれだけ食べてればねえ
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