動物好き
前回のクラン戦争から一週間が経った。
レリック用の武器、レクイエムの材料がそろったのでハヤトは自室で作成に勤しんでいる。
ユニコーンの角に関してはネイが張り切ったようでかなりの数がある。
ユニコーンはモンスターとしては弱い方だ。だが、実際に倒しても角をドロップすることはない。手に入れるには色々な方法があるが、テイムを試みるのが手っ取り早いだろう。調教スキルが90以下の場合、ユニコーンはペットにはならず角だけを置いていくのだ。
ネイはそれを何度も繰り返し、大量の角を手に入れた。傍から見るとなんとも言えないような行為だが、これはゲーム。角を置いていってもユニコーンの角が無くなるわけではないので、よくされている行為だ。
ハヤトの想定以上の角を持ってきたので、かなりのお礼が必要だと判断した。今度時間があるときに防具のメンテナンスをしてほしいと依頼されて、ハヤトは笑顔で了承する。
(クラン戦争のイベントが終わったら皆にお礼をしないとな。それに色々と振り回してしまったお詫びもしないと)
ハヤトはそう考えながら別の材料も確認する。
スノードラゴンの皮はアッシュ達が大量に持っていたのでそれを受け取った。この皮で加工された防具などは冷気系のダメージを減らす効果があるため、ため込んでおいてハヤトに作ってもらう予定だったらしい。
レリックの武器作成に使いたいと言ったところ、二つ返事で了承してもらえた。しかも無料。ハヤトはお金を払うと言ったのだが、アッシュはクランの戦力を整えるためならお金は不要だと男前なことを言って、持っていた皮をすべてハヤトに渡したのだ。
ハヤトはいつか礼をすると言って、ありがたく受け取った。
そして月光草。
これは近くにあるエルドムルの森でハヤトが採取してきた。もちろん一人ではなくアッシュ達と一緒に。
ついでに散光草も大量に採ってきた。
日焼け止めの材料としてではなく、インビジブルという透明になる魔法の粉を作るためだ。メイド長から渡された製造方法でハヤトも作れるようになっている。今のところ使い道はないが、何かしらに使えるかもしれないと作っておくことにしたのだ。
(アッシュ達にも世話になりっぱなしだ。いつかドラゴンの話や呪いの話を聞いてクエストを発生させてみよう。俺がそのクエストで役に立つかどうかは分からないけど)
ハヤトはそう考えるが、すべてはクラン戦争が終わってからだ。今はそんな余裕がない。戦力の強化やクラン戦争の準備もそうだが、確実にランキング上位と戦う状況を作り出さなくてはいけないのだ。時間がいくらあっても足りないのだ。
(いままでは運が良かっただけ。これからも運に頼るしかないけど、やれることはやっておかないとな)
ハヤトはそう思いながらレリック用の武器を作るのだった。
「ご主人様、作って欲しいものがあるというお客様がいらしてますが」
午後三時頃にハヤトの自室へエシャがやってきた。エシャは相変わらずノックをしないが、もう諦めている。
「どんなアイテムか聞いてる?」
今はレリックの武器を作っている。材料は大量にあるが、星五で作るにはかなり厳しい確率なのだ。できるだけ早く作りたいので、時間が掛かるような依頼なら断ろうと考えた。
「食べ物ですね。ペット用の料理を作って欲しいとか。なんでも自身のスキルでは作れないとかで材料を持ち込んでいますよ」
「そうなんだ? それならいいかな。材料をこっちで用意するようなら断ろうかと思ってたけど」
ハヤトはエシャと一緒に部屋を出て、店舗まで移動した。
「お待たせしました――あれ?」
そこにいたのはエルドムルの森で幸運ウサギをテイムしていたNPCの女性だった。
「あ! 貴方がこのお店の店長さんでしたか!」
「ご主人様はこちらのお客様と面識があるのですか?」
ハヤトはエシャに事情を話す。
ハヤトとアッシュ達が森で野草を採取していたときに、幸運ウサギというレアモンスターを発見して目の前の女性に譲ったのだ。さらにはテイム中の女性に料理やポーションを渡して支援した。そしてそのお礼に森で採取した野草を貰ったという経緯を説明する。
話が終わるとエシャは呆れた顔をした。
「レアモンスターを譲った上にテイムの手伝いまでしてお礼は草ですか」
「言いたいことがあるならハッキリ――いや、言わないで。傷つくから」
「あの、本当、すみません……よく考えたら草がお礼っておかしいですよね……」
テイマーの女性がうなだれる感じになるとエシャは慌てた。
「少々お待ちください――ご主人様、なにか私が悪者になってませんか?」
エシャがハヤトに近寄り小さな声でそんなことを言いだした。ハヤトとしてはフォローのしようがない。どう考えてもエシャが悪者っぽい言い方をしたのだ。
「どう聞いても嫌味だからね」
「ご主人様のヘタレな対応を事実として述べただけなのにおかしいですよね? むしろご主人様に嫌味を言ったんですが」
「もっと悪い。ちょっとフォローするからここは任せて」
ハヤトはテイマーの女性に近づいた。そして笑顔になる。
「ご安心ください。このメイドは思ったことをすぐに口にしてしまう残念な子なだけですから」
「あ、そうなんですね。なんとなくそんな気がしてました」
「私へのフォローじゃないところに怒りを覚えますね。あと、なんとなくそんな気がしたというところを少しお話ししてもらえますか、お客様」
とりあえず全員が精神的なダメージを受けたので痛み分けになったと言えるだろう。全員が無言で一度頭を下げて仕切り直しになった。
「えっと、この間はありがとうございました! 自分はマリス・ソラと言います! マリスって呼んでください! 敬語も不要ですよ!」
「えっと、マリスさ――ね。俺はハヤト。こっちのメイドはエシャ・クラウン」
意外にもマリスはエシャの名前に反応しなかったが、あえて説明する必要はないと判断した。それにさっきまでは気まずい雰囲気だったが、多少は緩和されている。この雰囲気のまま話をすすめてしまおうと、ハヤトは続けた。
「詳しい話を聞かせてもらえる? なんでもペット用の食べ物を作って欲しいとか?」
「そうなんです。実はアーノルド――この前譲ってくださった幸運ウサギの食欲が落ちてまして、なにか美味しい物でも食べさせてあげれば食欲が戻るかと思ったんです」
ハヤトはテイムしたモンスターの食欲が落ちるという状況に首を傾げる。
テイマーやペットに関するシステムを良く知らないのだ。同じ食べ物を与え続けると嫌がるなどの機能が盛り込まれているのかと判断した。マリスがそういうシステムを知らないとは思えないが、レアモンスターなので普通とは違った挙動なのかもしれないと勝手に納得する。
「えっと、分かったよ。材料持ち込みでの依頼ならそれほど時間はかからないと思うからすぐに取り掛かるよ」
「ありがとうございます! もちろんそれ相応のお金も支払いますのでよろしくお願いします!」
マリスは相当嬉しいのだろう。飛び跳ねる勢いで喜んでいた。
それを見たハヤトは心の中でほっこりする。マリスのペットに対する愛情が伝わってきたからだ。
「動物というかモンスターかもしれないけど、相当好きなんだね?」
「それはもう! 自分、動物好きは誰にも負けませんよ! アーノルドを見ながらご飯三杯はいけますし!」
それはどうなんだろうと思った矢先、エシャが鼻で笑った。
「それは聞き捨てなりませんね。私も動物が好きです。好きすぎて動物知識スキルが上限を突破しているほどだと言っておきましょう」
ハヤトはそれを聞いてエシャのスキル構成を思い出す。エシャはなぜか動物知識スキルが200なのだ。そしてもう一つ思い出す。エシャの調教スキルはマイナス100だ。
エシャならさもありなんと思いつつもハヤトは不思議に思う。エシャは一体どういうキャラ設定なのだろうかと。NPCとはいえ、色々と盛り込み過ぎだ。
大体、なぜテイマーのマリスに動物好きで張り合ったのだろうか。
エシャはそんなハヤトの視線を気にせずにマリスのほうへ体を向けた。
「私の実力をお見せしましょう。テイマーと言うからにはおネコ様をテイムしてありますね? ここへお連れください」
(おネコ様……)
「それは私に対する宣戦布告ですね! いいでしょう! 動物好きの勝負で負けるわけにはいきません! 私の力をお見せします!」
マリスはそう言うと店舗から出て行った。
「え? なにこれ? ペット用の食べ物を作るんじゃないの? なんで動物好きの戦いになってるわけ?」
「ご安心ください、ご主人様。絶対に私のほうが動物好きであることを証明して見せます」
「すごくどうでもいい」
しばらくするとマリスが戻ってきた。マリスの腕にはちょっと不機嫌そうな猫が抱えられている。いわゆる三毛猫という種類だろうとハヤトは思った。本物を見たことはないが、ネットで見たことがある。
この猫をどこから連れてきたのだろうかと思ったが、ハヤトはテイマーギルドを思い出した。
テイムしたモンスターはギルドに預けることが可能だと聞いたことがある。テイマーギルドが運営している厩舎には猫からドラゴンまでなんでも預けられるのだ。そこから連れてきたのだろうと推測した。
「どうですか、うちのジークフリートは! ちゃんとお手もしてくれるんですよ!」
「強そうな名前を付けたね――本当だ。ちゃんとお手をしてる」
ふてくされた顔をしながらもジークフリートはマリスの右手に左の前足をのせた。
確かにテイマーをやりたくなる気持ちは分かる。このゲームでは単に猫や犬を飼いたいだけのプレイヤーも多いと言われているが、それは正しい情報なのだろう。
「お手くらい私にだってできます」
エシャはそう言うと、その場で今日のおやつであるチョコレートパフェを食べ始めた。
「何やってんの?」
「何事にも準備が必要なのです」
お手をするのにチョコレートパフェを食べる必要があるのかと聞かれたら間違いなく必要ないと答えられるが、エシャには必要なことらしい。なのでハヤトはそれ以上、何も言わなかった。
マリスは羨ましそうにエシャを見ていたが、気を紛らわせるためなのかジークフリートを撫で始めた。チラチラとパフェのほうを見ているのはパフェを食べたいのだろう。
エシャはパフェを食べ終わると「準備完了」と言ってジークフリートに近づいた。そして「お手」と言いながら右手を差し出す。
刹那、見事に爪でひっかかれた。
猫パンチではない。ガチのひっかき攻撃だ。エシャのHPが減った。
だが、エシャは全く動じない。しかもドヤ顔だ。
「どうですか?」
「なにが? どう見ても嫌われているよね?」
「違います。これはお手。絶対に嫌われてなんていません」
「それでいいなら別にいいんだけど、ダメージを受けてるからポーションを――ああ、このためにパフェを食べたのか」
スイーツ系のアイテムはHPとMPを徐々に回復させる。ジークフリートのひっかき攻撃によりダメージを受けたエシャのHPは徐々に回復した。
エシャはHPが全快するとさらにお手をしようと右手を出す。
今度は噛まれた。しかも噛まれたままなので継続的にダメージが発生している。
「どうですか? 甘噛みされるほどです。私の勝ちですね」
「どう見てもそれはマジ噛みだから。というかHPの減りがパフェの回復を上回っているから気を付けて」
「ジークフリートは大人しい猫なんですけど、なんでこんなに攻撃的なんでしょう?」
(テイマーのマリスでも分からないのか。調教スキルがマイナスだと動物に嫌われるのかな……? もしくは本能的な何か……?)
エシャは噛まれつつも嬉しそうだった。右手を噛まれたまま、ジークフリートの頭を左手で撫でている。
ゲームなので血が出るわけでもなく、痛そうにしているわけでもないので、見た目にはネコとじゃれ合っているように見える。ダメージを受けているのが悲しいところだが、それでもエシャは構わないのだろう。いい笑顔でジークフリートの頭を撫でていた。
しばらくはこのままのようなので、ハヤトはマリスに話しかけた。
「それでどんな料理を作ればいいかな?」
「ああ、そうでした! 『猫まんまデラックス』をお願いします!」
「……ウサギにあげるんじゃないの?」
「ドラゴンにあげても喜ばれる最高級の食べ物ですよ!」
(アッシュ達にあげても喜ぶのか……?)
そんな疑問がハヤトの頭をよぎる。それはいいとして、猫まんまと呼ばれる食べ物は猫にあげる食べ物ではないのか。そう思ったが依頼なのでその通りに作ろうと考えた。
材料はお米、カツオブシ、魚の骨、そして味噌汁。
マリスはそのすべてをハヤトに渡す。材料がなくなるまで作って欲しいとのことだった。
ハヤトは念のために愛用の包丁「アダマンタイトの包丁・極」を取り出し、その料理を確認する。
(スキル上げには使えないし、黒龍ではテイマーもいなかったから知らなかったけど、思いのほか料理スキルが必要なんだな。今の状態でも作成できる確率は80%くらいだ。星五の確率は20%と結構高いけど)
今のままでは100%にならないので自室で装備を取り換えてから作ることにした。その旨をマリスに伝えてから自室へ移動する。
「さて、それじゃ作るだけ作るか」
ハヤトは料理の作成確率が上がる装備をしてから「猫まんまデラックス」の作成に取り掛かった。
「それじゃこれね。全部で10個。星五は四つ、星四は二つ、星三は四つね」
五分ほどで食堂へ戻ってきたハヤトは料理をマリスに渡した。思いのほか星五の作成率が高かったのでハヤトは満足している。
だが、マリスはそれを受け取りながらも首を傾げた。
「材料って10個出来る分しか渡してないのに、なんで10個あるんです? 調理スキルが100でも80%しかないはずなので変ですよね? それに星一と星二がないのもおかしくないですか?」
「それは秘密。料理スキルを極めるとそういうこともできるってこと」
スキルを極めるというよりは装備品を整えたことが理由なのだがハヤトはそう言っておいた。
そして内心はかなり得意げになっている。自分以外でも同じことをできるプレイヤーはいるだろうが、料理スキルにおける最高の装備を持っているプレイヤーは少ないだろうと思っているからだ。
「報酬に関しては材料持ち込みだからタダでいいよ。10個だけだったし」
ハヤトのその言葉にマリスは驚く。そして慌てた感じになった。
「そういうわけにはいきませんよ! せめてこの10万Gを受け取ってください! これだけの品質なら足りないかもしれませんが!」
「ご主人様、そういう報酬をちゃんと受け取ってください。技術を安売りするのは他の職人に対しても失礼ですよ」
ジークフリートに噛まれたままのエシャがそう言った。HPが半分を切っているがいまだに噛まれている手を離そうとしていない。
ずっとそのままだったのかと思いつつも、確かにエシャの言う通りだと納得する。
技術にはそれ相応の対価が必要。安売りすると言うことは他の職人の腕も安いと言っているようなものだ。
「確かにそうだね。分かった。ならそのお金を受け取るよ」
ハヤトはマリスからお金を受け取った。10万Gは決して安くはない。マリスは幸運ウサギのためにそれくらいの財産を簡単に出せるような人なのだと感心する。
(まあ、人って言うか、NPCなんだけど)
マリスはその場で食事を与えても良いかと聞いてきたのでハヤトは許可を出した。自分の作った料理をちゃんと食べてくれるか気になったのだ。
マリスが恐る恐る幸運ウサギのアーノルドに最高品質の猫まんまデラックスを与えた。
アーノルドはふんふんと食べ物の匂いを嗅いだ後、勢いよく食べ始める。
「おお、やりましたよ! すごい食べっぷりです!」
「良かったね。これで食欲も戻るよ」
「はい! ありがとうございます! 助かりました! ……あの、よかったらまた料理を作ってもらってもいいですか?」
「もちろん。材料持ち込みならさっきの値段で作るから。ただ、クラン戦争が近い時は断るかもしれないけど」
「もちろんです! 時間があるときで構いませんので!」
その後、マリスは食事を終えたアーノルドとエシャを噛み続けていたジークフリートを連れて帰った。
「ああ、ジーク……!」
「感情移入し過ぎじゃない?」
「あれほどなついてくれたおネコ様は初めてだったので身が引き裂かれるような思いです。また店に来るときは連れてきてもらいましょう。おネコ様同伴でないと店に入れません」
「なついていたって言うか、HPギリギリまで噛まれていたよね?」
「普通のおネコ様なら首を狙ってきます。指を噛むだけなんてなついている証拠です」
「前世でなにかしたの?」
そんな話をしてから、ハヤトはレリックの武器を作るために自室へ戻るのだった。
翌日、マリスが血相を変えてやってきた。
「お願いします! クランに入れてください! どうしても勝ちたいクランがあるんです!」




