オークションと傭兵ギルド
ハヤトは拠点から一番近い町へやってきた。
町の名前は「グランドベル」。
大きい町ではないが、一通りの施設がそろっているのでハヤトは重宝している。
どちらかと言えば辺境なのでプレイヤーの姿は少ない。ほとんどのプレイヤーは王都や帝都と言われる大きな町の近くに住み冒険をしているためだ。特に用がなければここまで来ることはないだろう。
ハヤトも本当はもっとプレイヤーがいる町の近くに家を建てたかったが、現時点ではそんな土地はない。
(前のクラン拠点は立地がいいところだったよな。くれるかどうかは分からないが、クラン拠点を貰ったほうが良かったかもしれない。そもそも俺が建てた拠点だったし。まあ、今更か)
ハヤトがいたクラン拠点の場所は王都のすぐそばでプレイヤーが良く通る道沿いだった。
店売りには商品検索機能のシステムがあるので、どこにいてもプレイヤーは商品と値段を知ることができる。それにテレポートできるのでどこに店があろうと特に問題はない。だが、店先の商品を覗いて行く客というのも売り上げに貢献してくれるのだ。
今回ハヤトがログハウスを建てた場所は辺境。ピンポイントで商品を買いにくるプレイヤーしかいないだろうと、そこは諦めていた。
(テレポートで来るから手間はかからないだろうけど、それすら面倒だから近場で買うって言うのはあるよな。コンビニみたいに。一割くらいは相場から引いてるけど、買いに来てくれるだろうか。生産職は金がないと始まらないから少しでも稼がないと。でも、色々と詰んでる気がする……やっぱり働く――いや、働きたくない)
そんなことを考えながらハヤトは町を歩く。そして目当ての施設までやってきた。
ここはオークションのシステムを使える施設だ。
見た目は小さなコロシアムと言った感じの建物で、円形の建物に等間隔で受付用の窓口があるだけだ。その窓口一つ一つがオークションの手続きをする機能を持っている。
出品者はアイテムと最低金額、そして最高金額を設定する。そしてもう一つ時間を指定する。時間は24時間を指定することが多いが、最大で72時間まで設定できる。つまり最大で三日だ。
指定した時間が過ぎた時に最も高い金額を設定したプレイヤーが落札となるが、出品者が設定した最高金額を支払うと時間を待たずに落札となる。
(オークションは入札がないと手数料だけ取られるから最高金額も確実に売れる値段設定が多いはずだ。店売りよりも先にこちらで確認してみよう)
ハヤトは受付まで移動した。
そしてオークションのメニューを表示させ、骨付きドラゴン肉を検索する。
(最低が一万、二万五千で即決か……高いな。ドラゴンステーキの材料だしそんなものだとは思ってたけど。ありがたいのは同じプレイヤーが同じ値段でいくつか出していることかな)
このゲーム内での料理は一時的になんらかのプラス効果を発生させる。コーヒーのように何の効果もない物もあるが大半はプレイヤーの有利に働くのだ。
肉料理は攻撃力を上げる料理として戦士系のプレイヤーに好まれている。その中でも破格の上昇率を誇るのがドラゴンステーキ。クラン戦争でこれを用意できるかどうかが勝率を変えるとまで言われている。
そんな料理の材料となっている骨付きドラゴン肉は入手難度も手伝ってそれなりに高い値段となっていた。
(前のクランメンバーだったらドラゴンくらい倒せるけど、今は俺だけだし勝てるわけがない。手伝って貰うこともできるだろうけど、向こうは向こうでクラン戦争の準備が忙しそうだしな……金で解決するしかないか)
ハヤトは初期投資だと割り切って、骨付きドラゴン肉を即決で四つ買った。全部で十万Gを支払う。
(星五が25%なら四回作れば一個くらいは出来るだろう。四回やってもダメな場合はあるが、自分の運を信じたい。出来なくても攻撃力の上昇率が高ければレア度も高まって結構な値段で売れるかもしれない。低くてもレアアイテム収集家って結構いるから売れるだろう)
同じように、ドラゴンの卵も四つ買う。これも同じ値段だったのでさらに十万G支払った。
ハヤトはさらに細かい材料をNPCの店で買い、すべての材料を揃える。
とりあえずの目的が達成できたので、今度は傭兵ギルドの施設へ向かうことにした。
NPCをクラン戦争に出せることが分かったのなら、傭兵を雇うこともできるのではないかと考えたためだ。
傭兵ギルドは護衛依頼のクエストを受ける場所だ。
クエストとはNPCからお願いされる依頼で、それをこなすことでお金やアイテムが手に入る。いままではそういうクエストを受けるだけの場所だと思われていた。
もちろんハヤトもそう思っていたが、今は違う。
(NPCから護衛の依頼をされるなら、こっちからNPCに護衛の依頼も出来るかもしれない。クラン戦争にも参加してもらえる可能性は十分にあると思う)
町の中心のほうへしばらく歩くと、傭兵ギルドの建物が見えた。
レンガ造りの建物で三階建て、見た目には新しく結構な大きさである。入口では傭兵と思われるNPCが出入りをしているようで強面が多いが、ハヤトにはそれが頼もしく見えた。
建物の一階は食堂のようになっていて、奥のカウンターには受付があり、受付嬢が何人か座っていた。
ハヤトはそこへ近づき、受付嬢の一人に声をかける。
「すみません。受付はこちらですか?」
「いらっしゃいませ、傭兵ギルドへようこそ。本日はどんな御用ですか?」
「ええと、傭兵を雇うにはどうすればいいですかね?」
「傭兵の雇用ですか? それでしたらこちらのメニューをご確認ください。現在雇える人と値段が記載されています。ちなみに値段は一日雇う値段です」
「どうも」
(普通に雇えるのか。みんなの話だと護衛クエストの依頼を受ける場所だと聞いたんだけどな……いや、そういえば傭兵や冒険者は元々雇えるんだった。お金を払って素材を取りに行ってもらうことが出来るって聞いたことがある。俺が雇いたいのはそういうのじゃなくて、クラン戦争で戦ってくれるかどうかだ。念のため確認しておこう)
「ここの傭兵はクラン戦争に参加してもらうことも可能ですか?」
「はい、可能です。ただし、クラン戦争の場合、料金体系が異なります。またクランに枠の空きがない場合はそもそも雇えませんが、そこは大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です。料金体系を見せてもらってもいいですか?」
受付嬢が「どうぞこちらです」と言って紙をハヤトに渡す。
その内容を見たハヤトは顔を引きつらせた。
(嘘だろ、一回参加で最低でも百万? 現時点でも払えなくはないけど、何人も雇ったら金がなくなっちまう。今回を乗り切っても次のクラン戦争で破滅しそうだ……あれ、なんだこれ? 料金無料?)
「リストにあるこの人は無料なのですか?」
「えーと、その方は特殊な条件で雇うことが出来る傭兵です。エリクサーの最高品質をお求めですね。それを譲ってもらえるなら無料でいいようです」
エリクサー。万能回復薬とも言われるこのゲームで最高峰の薬だ。HPやMPはもちろん、あらゆる状態異常も完全に回復させる。しいて問題点をあげるなら連続で使用できないことだろう。
魔法やアイテムにはリキャストタイムやクールタイムと呼ばれる再使用を制限する時間が存在する。短時間で同じ魔法やアイテムを連続では使用できないのだ。
アイテムの場合、品質が高いほどその時間が少ない。最高品質のエリクサーなら再使用時間は五分。最低品質エリクサーの再使用時間が一時間だと考えると破格の性能だ。
(エリクサーならいくつか持っているが最高品質はないな。あれってスキルを最高にして生産の補助アイテムを装備しても最高品質の確率は2%だからな……あんなものを量産されたらクラン戦争で負けないだろうから当然の確率だとは思うけど)
さらにはエリクサーの材料もレアな素材が多い。オークションで材料をそろえるにしても最高品質が出来るまで作るとしたら破産するレベルなのでハヤトは早々に諦めた。
(最高品質のエリクサーならオークションで一千万でも売れるだろう。それが作れるなら売るよ)
ハヤトがそう考えた直後だった。
「なあ、アンタ、無料って聞こえたんだが、もしかして俺を雇おうとしてるのかい?」
背後から声をかけられたハヤトは後ろを振り向く。
そこには大きな剣を背中に担ぎ、黒い甲冑を着た金髪の男が立っていた。