怪しいNPC
なぜかエシャとディーテが一触即発の雰囲気になったので、ハヤトはそれを止めることにした。
ディーテが強いかどうかは知りたいがエシャが戦ったら被害は甚大だ。それは避けるべき。
ハヤトは二人の間に立ち塞がる。
「ちょっと二人とも――」
「あ」
「え?」
エシャから驚いた声が発せられると、銃から光の玉が発射されハヤトの腹部を貫いた。エシャのほうに体を向けて割り込んだ形なので、正面から撃たれたことになる。
痛みはないがHPは一瞬で0だ。ハヤトはその場に倒れてしまうが意識はある。そして眼前に二つの選択肢が表示された。「待機」と「復活」の二つだ。
プレイヤーはHPが0になった場合、二種類の行動がとれる。
一つは倒れたままその場にとどまることだ。
この状態であれば、神聖魔法の蘇生を受けることが可能で、その場での復活ができる。ただし、復活後のHPは1。モンスターとの戦闘中に蘇生をする場合は危険だと言えるだろう。
もう一つは拠点や教会、神殿などで復活することだ。
これは魔法での蘇生とは違い、HPは全快、周囲には敵対行動をとるモンスターなどもいないので安全な復活と言える。だが、狩場から復活地点まで移動してしまうので、再度狩場へ行く場合は移動が面倒であると言えるだろう。
当然、今回ハヤトが取った行動は復活だ。
そもそも狩場で倒れたわけではなく拠点内で倒れただけだ。復活時、一時的にステータスが落ちるようなデスペナルティもないので、拠点で復活するなら何のデメリットもない。
ハヤトは「復活」を選択すると次の瞬間には自室にいた。
(プレイヤー同士はクラン戦争以外でダメージを与えることはできないんだけどNPCはできるみたいだな。まあ、胸ぐらをつかまれてHPが減ってたし何となくそう思ってたけど、どういう仕様なのかね?)
そんなことを考えながらハヤトは部屋を出た。そして急いで食堂へ戻る。
そもそもエシャとディーテの戦いを止めるために間に入ったのだ。あのまま戦闘をされていたらデメリットはなくとも死に損だ。
だが、その心配は必要なかった。二人ともさっきまでの雰囲気とは違い、大人しくしている。
「二人とも落ち着いた?」
「大人気ない感じになってしまったようだね。謝罪するよ、ハヤト君。すまなかった」
「申し訳ありません、ご主人様」
ディーテのほうは謝りつつも何か尊大な態度だが、エシャはハヤトの前で頭を下げた。いつものふざけた感じとは違い本当に申し訳なく思っているように見える。
「ああ、いや、大丈夫だよ。ちょっと倒れただけだから二人とも気にしないで」
その言葉に顔をあげたエシャが複雑そうな顔をする。許したのになんでそんな顔をされるのかとハヤトの心境のほうが複雑だった。
「ご主人様、こういうときは、どう責任取るつもりだ、ぐへへって言うものですよ? マウントを取れるチャンスだったのにヘタレすぎて逆に怖いです」
「エシャは俺のことをどう思っているわけ?」
「恋愛対象としては見ていませんので答えようがないですね」
「好き嫌いを聞いているわけじゃないから。どういう奴だと思っているのかって意味だよ。話の流れを考えて」
「言葉って難しいですね」
告白したわけでもないのに振られた感じになったハヤトはちょっとだけショックを受けつつも、そういえばNPCだったと気持ちを切り替えてディーテのほうを見た。そして少しだけ驚く。
なぜかディーテは上機嫌なのだ。楽しそうにハヤトとエシャを見ている姿は年長者が若者を微笑ましく見るそれだ。
「君達は面白いね。ますますハヤト君に興味がわいたよ」
「それはありがとう。とりあえず二人とも戦うのはやめてね――そうだ、ディーテちゃんのスキル構成を見せてもらってもいいかな?」
NPCのスキル構成を見ることができるのはエシャのときで判明している。ハヤトは同じようにディーテのスキル構成を確認しようとした。それならある程度強さが分かるからだ。
「それで私が強いか判断したいということか。いいだろう、ちょっと待ってくれ――よし、戦力になるか確認してくれたまえ」
ディーテの許可を得てハヤトはスキル構成を確認した。
(思ったよりも普通のスキル構成だな。これと言って特別なところはない。神聖魔法や人体知識、それに各種魔法系スキルも揃えている。聖職者というよりは魔法使いのスキル構成か――あれ? なんで神聖魔法のスキルが100なのに、死霊魔法のスキルが100あるんだ? これって両方のスキルを得ることはできないはずだけど……?)
神聖魔法と死霊魔法は相反するスキルであるため、両方を同時に覚えることはできない。つまり、目の前にいるディーテはエシャと同じようにスキルのシステムを逸脱していることになる。
「どうして神聖魔法と死霊魔法を使えるのかな? それって同時には覚えられないよね?」
「そういえばそうだったな。ついうっかりしてたよ。だが、どうだね? 特に弱いスキル構成ではないと思うが?」
さっきからうっかりばかりだが、何をどううっかりすればそういう状況になるのかまったく分からない。そして、そのことについてディーテは話をするつもりはなさそうに見える。
ハヤトは考える。
これからの戦いには回復の魔法が使えるメンバーも必要だ。回復手段がポーションだけでは厳しくなる。ならば、スキル構成において規格外のディーテを仲間にするのは悪くない。少なくとも神聖魔法のスキルが100なら採用候補だ。
隠し事がありそうなので完全には信用できないが、興味がある間はちゃんと働いてくれそうな感じはする。運営と繋がっている可能性は高いが、ハヤトは不正なことをしているわけではない。
なんとなく怪しいNPCを仲間にすることでゲーム自体が詰むという可能性もあるが、残りのクラン戦争は残り僅かだ。ならば、とディーテを仲間にすることにした。
「ディーテちゃんの強さは分かった。ぜひ、仲間になって欲しい」
「信頼はされていないようだが、今後のために戦力を求めるといったところかな。なかなかのギャンブラーだ。だが、いいのかね? エシャ君のほうはかなり警戒しているようだが」
ハヤトは隣のエシャを見る。確かにクランへ入れることを良く思っていない感じの顔だ。かなり警戒しているのか眉間にしわを寄せている。
「エシャは反対かな?」
「本人を前にして言いたくはないのですが、私の勘がかなり危険だと言っています。確かに強いのかもしれませんが裏切る可能性があるかと。私もチョコレートパフェが食べられなくなったら裏切りますが」
「安心したまえ、裏切るなんてしないよ。それではつまらないからね」
面白ければ裏切るのか、と思ったが、ハヤトは改めて考える。
エシャとディーテ、どちらを信じるか。
いままでのことを考えたらエシャを信じるべきだろう。なんだかんだ言ってエシャは何度も助けてくれた。今日会ったばかりのディーテを戦力になるからと言ってエシャの言葉を無視するのは失礼な気がする。
それに今までと違ってエシャがディーテを警戒している。アッシュ達はともかく、ミストをクランへ入れるときは特に拒否反応を示さなかったエシャが今回に限っては明らかに難色を示しているのだ。
戦闘時におけるエシャは信用できる。野生の勘とまでは言わないが、危険を察知する嗅覚については信用してもいいのではないか。
ハヤトはそう考えて結論を出す。
「ディーテちゃん、すまない。やっぱりクランに入れるのは見送りたい。こっちから提案したのに失礼な話なんだけど」
「ふむ、エシャ君を信じるということか――ハヤト君、君は私が思っている以上に素晴らしい人間だよ。安心したまえ、失礼などとはまったく思っていない。むしろハヤト君が彼女を信頼していることが分かって喜ばしいくらいだ」
ディーテはその言葉どおり、笑顔のままで怒っている様子はない。
「とはいえ、このまま引き下がるのも悔しい。私も信頼されればクランに入れてもらえる可能性があるのだろう? しばらくここへ遊びに来てもいいかね? 時間があるなら仕事の依頼をしたいし、逆に私が依頼を受けてもいい。もし信頼を得られたのならそのときはクランへ入れてくれたまえ」
「それはもちろん。ディーテちゃんのことを良く知って問題がないと分かればぜひとも仲間に迎えたいと思う。エシャもそれならいいかな?」
「信頼できるなら良いと思います」
「なら決まりだな。次のクラン戦争では無理でも、その次くらいには参加したいものだ。さて、結構時間も経ったし、今日はこの辺で失礼するよ」
ディーテはそう言うと、ハヤト達の返答も待たずに拠点を出て行った。
食堂にはハヤトとエシャだけが残される。
ハヤトは少し困っている。なんとなくだがエシャのほうを見たくない。だが、それは淡い期待でしかない。
エシャはハヤトの横で両手を背中側に組み、軽く腰を曲げて、横から覗き込むようにハヤトを見ているのだ。しかもニヤニヤした感じで。
「クラン戦争のときといい、ご主人様が私にデレているということが証明されてしまいましたね? 私に惚れると火傷しますよ、とだけ言っておきます」
デレてはいないが信頼はしている。ただ、言ったり認めたりするのは恥ずかしい。NPC相手に何を言っているんだとは思うが、それでも照れくさいのだ。
「えっと、別にそういうわけじゃないから」
「そうでしたか。では、私ではなくアッシュ様にデレてください。ツンデレでも可」
「なんでそうなるの。さっきのは単純に自分の勘よりエシャの勘のほうが信用できるっていうだけだよ。ところで真面目な話、ディーテちゃんは危険なのかな? 俺もなんとなく引っかかる感じではあるんだけど」
ハヤトはディーテが何か違和感があるようなことを言った気がしている。だが、それがなんなのか明確に分かっていない。そのためにモヤモヤしているのだ。
ハヤトが真面目に考えているのが分かったのか、エシャはニヤニヤしている顔から一転、真面目な顔になって腕を組む。
「実を言うと危険かどうかは分かりません。ただ、あのディーテって子には以前会った気がします。でも、それがいつだったのか、どこで会ったのか、それを全く思い出せないんですよ。それがなんとなく気持ち悪くて。思い出してはいけないような気もしますし……なんでしょうね、これ?」
「それは俺にも分からないけど、ディーテちゃんがここへ来ることも拒否したほうがよかったかな?」
「関わらないほうがベストだとは思いますが、放っておいても問題がありそうです。それなら正体を見極めるためにも話をしてどういう子なのか知っておいた方が良いのでは? もしかしたら私も何かの拍子に思い出すかもしれませんし」
「そっか。なら、遊びに来るのはいいとしても、実際にクランへ入れることはどう思う?」
「ご主人様が問題ないと思うなら良いのではないでしょうか。目をつけられた時点でもうアウトっぽいですし、次のクラン戦争には参加しないのでしょう? その後のクラン戦争二回だけなら問題ないと思います。それに裏切ったら私が排除しますので。裏切ることを前提に考えておけば何とかなりますよ」
エシャがニヤリと悪巧みをするような顔になる。ハヤトは似合っているなと思いつつ、頼もしいなとも思う。
「分かった。ならもう少し話をしてから決めよう。いざとなったらエシャが守ってくれるみたいだしね――もしかして、エシャは俺にデレてる?」
さっきの仕返しとばかりにハヤトもエシャに向かってニヤニヤして見せる。
だが、エシャにはまったく効果がなかった。頬を染めて抗議するというようなことを期待したのだが、それどころか真顔だ。なに言ってんのお前、みたいな顔で見つめられてハヤトは胃が痛い。
「私がデレているのはご主人様が作るチョコレートパフェです。あとケーキ」
「ああ、そう。慣れないことはするもんじゃないね、余計なことをしたから胃が痛くなってきたよ」
「さっき銃で撃った後遺症ですかね? ポーションを飲んだ方がいいですよ」
「そういう意味じゃないから。わざと話の流れを読まずに言ってるよね? ……それじゃまた店番を頼むよ。俺は自室で次のクラン戦争の準備をするから」
なんだか恥ずかしくなったハヤトはエシャを食堂へ残して逃げるように自室に戻るのだった。




