同窓会と新しい機能
滅亡都市クリアでの戦いはハヤト達が勝利した。
レアモンスター扱いだったラストワン――リー・スレイドラはハヤトを倒す直前に記憶を取り戻した。
その後、ルナリアがリーを倒しゴーレム達への命令権を手に入れたので、新魔王軍をゴーレムと共に襲い、エリアストーンを破壊したのだ。
新魔王軍はほとんど抵抗することもなくあっさりと勝負がついた。
ラストワンをぶつけるという作戦が失敗したのであきらめたのではないかと言われているが、ランダだけは何かを疑っているようで情報収集を行っている。
とはいえ、勝ちは勝ち。意気揚々と拠点まで戻ってきたのだが、その直後にリーが拠点までやってきた。
ハヤトは話を聞くべきだと思ったが、午後は喫茶店の仕事がある。レリックとソニアに対応をお願いしてログアウトした。
そして夜。
ハヤトは仕事と明日の仕込みを終えてログインすると、拠点ではいつものように祝勝会が行われていた。
多くのメンバーが騒いでいる中、レリック達だけは少しだけ離れたテーブルでワインを飲みながら話をしている。
「まさかアンタ達と酒を飲むことになるなんてね」
「プリズンの同窓会みたいで楽しいじゃないか」
「そりゃ違いない。よし、今日はつぶれるまで飲むか!」
「やめろ。ワインを作るのもタダではないし、時間がかかるんだからな」
「やだねぇ、年寄りは。こんな日に飲まなくていつ飲むってんだ」
リーの言葉にソニアが「まったくだ」と頷くと、レリックはため息をついた。
「ソニアは私に近い年齢だろう? 何を同意してるんだ」
「女に年齢のことを言うんじゃないよ。デリカシーがないね」
「ソニアがデリカシーとか言ってるよ。今日二度目のびっくりだ」
リーはそう言って笑う。
戦場では凶悪そうな笑みを浮かべていたリーだったが、ここではその笑みが変わり、本当に楽しそうに飲んでいた。
そのリーがハヤトに気付くと「よお」と軽く右手を上げながら手招く。
ハヤトが近づくとレリックが椅子を用意してくれたので、そこに腰かけた。
「レリックとソニアに色々聞いたよ――っと、その前に自己紹介だね。リー・スレイドラだ。よろしく頼むよ」
「ハヤトです。こちらこそよろしくお願いします。ええと、リーさんは――」
「固いなぁ。リーでいいよ。それにほら、このワインはハヤトが作ったんだろう? まずはこの出会いに乾杯しようじゃないか」
リーはハヤトの前にグラスを置いて、すぐにワインを注ぐ。
ハヤトは少し考える。この後もやることがあるが、ここで飲んだところで実際に酔うわけではない。多少気分が良くなるがそれはプラシーボ効果と言われている。
色々考えた結果、「なら一杯だけ」と飲むことにする。現実でも飲むことは少ない酒だが、営業の仕事をしていたときに勧められた酒くらいは飲んでいたことを思い出したからだ。
ハヤトは一気に飲み干した。
単なるぶどうジュースともいえるが、楽し気な雰囲気の場所で飲むのは美味しい。
「いける口じゃないか。ならもう一杯――」
リーはさらにワインを空いたグラスに注ごうとしたが、それはレリックが止めた。
「仮想現実だとしても酒を何杯も勧めるのは遠慮しろ。ハヤト様はこの後も色々とやることがあるんだ」
「ハヤト様ときたか。アンタ達、相当感謝してるんだね」
「え?」
「色々話を聞いたんだが、レリック達はハヤトに感謝しているようだよ。もちろん、ネイとかディーテって子にも感謝しているみたいだけど、一番はハヤトみたいだね」
「あまり余計なことをいうんじゃない。ハヤト様も困っているだろう。すみません、こいつの言うことは聞き流してもらえたら幸いです」
「先ほどのことを聞き流すのは難しいですね。俺もレリックさんやソニアさんに感謝してますよ。なのでおあいこです」
その言葉を聞いたレリックとソニアは少し照れ臭そうにしながらも笑顔で頷いた。
「やれやれ、今日は驚きっぱなしだ。プリズンで最悪の犯罪者だったキングとクィーンのそんな顔が見れるなんてね」
キングとクィーンは当時のプリズン内で犯罪者のランクを表す名前で、レリックはキング、そしてソニアはクィーンというランクだった。
「そういうアンタもジャックだっただろうに」
ソニアの言葉にリーは「そうだったね」と笑った。
その後、エースは誰だとか、アイツはジョーカーかもしれなかったなど、プリズンでの話題になった。
話題についていけなかったが、ハヤトでも知っているような歴史に名前が残る犯罪者の名前が出てきた上に、知り合いだったという情報が出てきて聞いているだけでもかなり楽しめた。
ただ、ハヤトとしてはそれだけの会話で終わるわけにはいかない。
話がひと段落ついたところでハヤトはリーを見つめた。
「リーさんに聞きたいことがあるのですが、いいでしょうか?」
「もちろんさ。実は私も聞きたいことがあってここに来たんだよ」
「え?」
「まずはそっちからでいいよ。もしかしたら私が聞きたいことかもしれないからね」
「……分かりました。なぜ記憶が戻ったんです?」
「やっぱりそれだよな。私もその件で来たんだ」
NPC達は人間だが現実での記憶を失い、この仮想現実を現実だと思って生きている。ただ、その記憶操作は完全なものではなく、現実での記憶を揺さぶるようなことがあると激しい頭痛と共に思い出す。
ただ、リーの場合、ハヤトの背後をとった直前までそんなそぶりはなかった。
「それなんだけどね、私もレリック達と同じように犯罪者なんだ。つまり、当時のプリズンの所長に命令されてここに来てたんだよ」
「ええと、体の中にも何かしらの機械が埋め込まれていると?」
リーは「そうだね」と言ってから、右のこめかみあたりをトントンと右手の人差し指で叩く。
「現実の私にはこのあたりにマイクロチップが埋め込まれているのさ。そいつが色々とやってくれるんだよ。レリック達も同じだったと聞いたから、それしかないだろうなって思ってたところさ」
ハヤトは頷く。
それに関しては納得できるが、納得できないこともある。なぜ今になってという話だ。
似たような形でプリズンから命令を受けたバンは記憶を取り戻してハヤト達と戦ったことがある。今はマイクロチップを取りだすことに成功して、コロニー「ファーム」で農業関係の仕事をしているらしいが、それ以降の話をハヤトは知らない。
それはどうでもいい話で、問題はなぜ今になってリーの記憶を取り戻すようなことをしたかという話だ。
ハヤトはそれをリーに聞いたが、首を横に振るだけで何も知らないようだった。特に何かの命令も届いていないと言う。
「もともと私はアフロディテを操縦するために送り込まれたんだよ。レリック達がハッキングでこの宇宙船を掌握したら自動操縦もなくなるだろうってことでね」
「宇宙船のマニュアル操縦ができるってことですか?」
「まあね。昔は地上だけでなくコロニーへの密輸とかもしてたからね。小型から大型までなんでもござれだ。それはともかく、宇宙船を奪うことに成功すれば無罪放免と言われたからやるしかなかったんだよ」
「私達はそんなことをやる気はなかったが」
レリックの言葉にソニアが頷く。
リーはやれやれと両の掌を上に向けて首を横に振った。
「だろうね。ハッキングする奴を聞いてなかったのが失敗のもとだよ。ソニア達だと聞いてればもっと色々やっておいたんだけどね。まあ、向こうも信用してなかったのか、バンを送り込んだみたいだけど――おっと、話が逸れたね。というわけで、何で今になって私の記憶を呼び起こしたのかは分からないんだよ。逆にあのとき目の前にいたハヤトなら知っているかと思ってここに来たんだが」
「そうでしたか。いえ、俺も知らないんですよ」
「ハヤト様、実は先ほどネイ様に似たような話をしまして、プリズン――現在のスコーピオンに関して調査していただけないかお願いいたしました」
「ネイはなんて言ってました?」
「快く引き受けてくださいました。今は現実でスコーピオンと接触を図っている頃かと」
「そうでしたか。すみません、俺が頼むべきところでしたのに」
ハヤトはそう言って頭を下げる。
現実でのネイはレリックやソニアの雇い主にあたる。
レリック達は財団リーブラでセキュリティ対策機関の幹部となっている。講師などもしており、かなりの評判らしく、新しいコロニーへの移住も決まっているとのことだった。
その雇い主に仕事を依頼するのは気が引けただろうとハヤトは想像した。ネイがそんなことで気分を悪くするようなことはないと確信しているが、レリックやソニアの遠慮がちな思考を慮った結果だ。
頭を下げていたハヤトにレリックが慌てた。
「いえいえ、これはどちらかといえば私達が対処すべき案件です。ハヤト様は仮想現実と現実、どちらもやるべきことがたくさんありますので、その一つだけでも任せてもらえるならこんなに嬉しいことはありませんよ」
レリックはそう言って柔和な笑顔を見せた。
(これほど犯罪者って言葉が似合わない人もすごいな)
ハヤトはそう思いつつ、また頭を下げる。
その後もリー達と話をしたが、特に有益な情報は得られなかった。ネイからの連絡を待とうと言う結果に落ち着く。
そんな中、リーはログアウトできないことが不満ですぐにでも地球に行きたいという話を始めた。
リー達が地球で拠点としていた場所に仲間たちが使っていた乗り物があるらしく、それを処分して仲間のもとへ送ってやりたいとのことだ。
本来なら地球のセントラルやハイブリッジ、ビッグウォールなどの外へ出る許可は下りないが、これもネイに頼んで許可を取ろうという話になっているらしい。
「あの子はいいねぇ、犯罪者の私を悩むことなく雇うと言ってくれたよ。レリック達がお行儀よくやってくれていたからだね。まさか現実で就職が決まるとは思わなかったよ」
「言っておくが、もしお前が何か問題を起こしたら私もソニアも黙ってないぞ」
「おー、怖。安心しなよ、現実の私はそこまで無理はできないさ。つつましく生きるよ――おいおい、暗い顔をしなさんなって」
なぜかレリックとソニアが微妙な顔をする。代わりにリーは笑顔だがハヤトには状況が分からない。
「えっと、どういうことです?」
「そういや、ハヤトもそうだってね」
「え?」
「ハヤトとはちょっと違うが、私はもう歩けないんだよ。昔ヘマをやっちまって現実では車イスの生活さ」
「あ……」
ハヤトも足を怪我したことがあり、その時の恐怖や痛みから体がすくみ急に動くことが難しい。仮想現実のおかげか、現在はかなり動けるようになっている。
リーは仮想現実であれほど激しく動けるが、現実ではそうもいかないという話だ。
「足を怪我したことは忘れていたけど、車イスは覚えているなんてね。まさかゴーレムを車イスに変形するように作っちまうなんて、なかなか皮肉がきいてるじゃないか」
リーはそう言い、楽しそうにワインを瓶のままラッパ飲みした。
暗い話題のはずだが、リーはこちらに気を使っているのか、それとも素なのか、そんなこと関係ないと言わんばかりに楽しそうにしている。
ハヤトも気持ちは分かる。無理して笑っている可能性も考えて、少しだけ話題を逸らそうと考えた。
「ええと、あの変形するゴーレムはリーさんが作ったんですか?」
「そうだね。細工スキルに木工スキル、あと騎乗スキルと精霊魔法スキルあたりを持ってるとクリエイトゴーレムという魔法が使えるんだけど、知ってるかい?」
「いえ、初耳です。ああ、でも使っているプレイヤーがいるかもしれません。確かドールマスターって呼ばれているプレイヤーがいるので、それを知っているのかも」
スキルの組み合わせによって何か別のことができるのは知れ渡っているが、さすがに木工スキルと騎乗スキルを取ろうと思った人は少なかったのか、ほとんど知られていない組み合わせだとハヤトは思った。
「あのゴーレムはクラン戦争の褒美としてもらったものかと思ってましたよ」
「クラン戦争には参加しなかったから褒美をもらえなかったね。ただ、次の人生をどう生きたいって聞かれたとき、何も考えてなかったから、仲間の墓を守りながら生きたいと言ったんだよ。そうしたらモンスター扱いなんてひどくね?」
「ああ、だからあんなことを言ってたんですね」
リーはハヤトの前に現れたとき、墓を荒らすなという言葉を言っていた。
この仮想現実だと滅亡都市クリアはリーにとって仲間たちの墓という設定だったのだとハヤトは納得する。
「まさか仮想現実でどういう人生がいいかという話だとは思わなくてなぁ。あんな誰も来ないような場所でずっと墓守みたいなことをしてたよ」
「アンタは昔から人の話をちゃんと聞かないからねぇ」
「何だよその言い方。母親じゃあるまいし――実年齢はまさに母親だけどな!」
「アンタもデリカシーがないね。言っておくけど、私は現実だと二十八だからね?」
「サバを読みすぎだろうが! 私より若いって何考えてんだ!?」
「見た目がそうなんだから仕方ないだろう? ネイの嬢ちゃんのおかげでそういう戸籍を手に入れたから正真正銘二十八さ」
「うわ、信じらんねー。男ができたんだから年齢でサバを読むなよ」
何やら年齢の話でソニアとリーが盛り上がっている。
レリックは何かを感じ取ったのだろう。ハヤトに視線を送ると「離れましょう」という口の動きが見えた。
ハヤトも何やら嫌な予感がしたので離れる決意をする。
「あの、それじゃ俺はやることがあるので、この辺で」
「ああ、悪かったね。それじゃこれからよろしく頼むよ」
「これから?」
「このイベントの戦闘には参加できないけど、いろいろ協力するつもりさ。私の足は動かないが皆がいた現実に骨を埋めたいからね、世界征服なんてされちゃ困る。外に出られるなら仮想現実に留まるつもりはないのさ」
「ああ、そういうことですか。はい、ならこれからよろしくお願いしますね」
「あいよ――おいおい、なんでレリックも一緒に行こうとしてるのさ。アンタはここで事情を説明する役目があるだろう? 大体、ソニアと一緒になるなんて何がどうなったのかちゃんと説明していきなよ。笑ってやるからさ」
レリックは嫌そうな顔を隠すことなくさらしていたが、ため息をついてからまた椅子に座った。
「ハヤト様はどうぞお仕事を。私はここでリーが周囲に迷惑をかけないように見張っていますので」
「あ、はい」
罪悪感はあるがハヤトはレリックを置いてテーブルから離れる。
(レリックさんには悪いけど頑張ってもらおう。さて、それじゃほかの人にも話を聞こうか。それが終わったらエクスカリバーの作成だ)
ハヤトはそう考えて話をほかの集まりに顔を出すのだった。
ある程度話を聞いてから拠点の自室に戻ってきた。
色々と情報はあるが、ハヤトが気になるのは新魔王軍の動向だ。
これまでとは何か違う。ただの勘ではあるがハヤトはそんな風に感じていた。
(イヴァンの話だとルッツさんは動きを見ていただけで本気じゃなかっただろうと言ってたし、ナナギに関してもベニーちゃんやシモンの話だと守りが主体で攻撃は控えめだったとか。リーさんをエリアストーンへ誘導するためにそうしていた可能性が高いと言ってたな……)
ルッツはともかく、ナナギはこれまで作戦など完全無視で目につく相手を片っ端から斬るという感じだった。それが仲間を引き連れた上にベニツルやシモンを誘い出すために行動したということになる。
そしてリーがタイミングよく記憶を取り戻したという状況。
偶然なのかそれとも相手が何かをしているのか。それが分からないというのは不気味だ。
(ヒュプノスの行動も気になるし――いや、俺が考えたところで答えが出るとは思えないな。そっちはランダさんに任せよう。俺は生産職として頑張らないと)
ハヤトはそう考えて、エクスカリバーの作成に集中する。
確率はかなり低い。いくつかの「賢者の石」はすでに作成済みだが、これ以上作るのは素材のレア度や時間的に厳しい。今回で作れなければ次のルナリアとアマンダの最終決戦には間に合わないだろう。
ハヤトは大きく息を吸う。
特に意味がある行動ではないが、確率が低い時はオカルト的なルーティーンに頼りたいときがある。ハヤトの場合、秒針が分針と重なった時にやるとか、時間に関するオカルトに頼っていた。
確率をどうやって決めているのかは不明だが、プログラムで確率の処理をするときはシステム内の時間を使うことが多いと聞いた結果だ。実際にそうである可能性は低いのだが、ハヤトのように何億回と生産アイテムを作ったからこそ何となくそうではないかという経験からの勘でもある。
ハヤトは賢者の石とエクスカリバー・レプリカがアイテムバッグにあることを確認する。次に愛用のハンマーからメニューを表示してエクスカリバーを選択した。
そして時計を見ながら部屋にある鉄床にエクスカリバー・レプリカを置いてハンマーを叩きつけた。
カン、と甲高い音が部屋に響く。
直後に賢者の石がアイテムバッグから一つ無くなった。さらにはエクスカリバー・レプリカも砕け散った。
(失敗すると全アイテムロストか。作れた時のメリットから考えると仕方ないか……さて次だ)
ハヤトはそれからエクスカリバーの作成を続ける。部屋の中では何度もハンマーの音が鳴ったが、何度も作成に失敗した。
(あと三個……)
星五のエクスカリバー・レプリカは何本もあるが、賢者の石はそこまであるわけではない。
賢者の石を作るだけでも大手クランのメンバーにはかなり無理をしてもらった。それを無駄にしないためにも必ず成功させてやると気合を入れる。
ハヤトは大きく息を吸い、時計を見ながら確率が上がりそうな時間になるまで待つ。
そして時間になった時、ハンマーで叩いた。
キン、といつもとは違う音が鳴る。さらには剣が虹色に輝きだした。
「おお! ……ってなんだ?」
星五のアイテムが作製されるときはいつも虹色に輝くが、今回はその演出が長い。さらには部屋全体が揺れるほどだった。
剣から光があふれ出し、その光にハヤトが飲まれた瞬間、周囲は宇宙のような場所になる。
「え? なにこれ?」
実際に宇宙に行ったというわけではなく、そういう演出だ。ハヤトの足には床を踏んでいる感触があるので、単純に宇宙のように見えるだけだ。
ハヤトは以前ディーテに宇宙に連れて行かれたことを思い出して懐かしい気分になる。
その後、宇宙に輝く星の一つが動き出し、流星の様に尾を引きながらハヤトの方へ――正確には剣へ向かう。
それが剣に当たると、虹色の光がさらに輝きを増した。
あまりのまぶしさにハヤトは目を手で覆いながらさらにつぶる。
しばらく待つと光が収まった感じがしたので恐る恐る目を開けると、周囲に宇宙の映像はすでになく、いつもの部屋だった。
違うのは目の前にレプリカではない本物のエクスカリバーがあることだ。
生産職の楽しみの一つとしてこれがある。確率の低いアイテムを作り出した時の喜びは何ものにも代えがたい。知らなかった特殊演出があるのもサプライズな感じで悪くなかったとハヤトは満足げだ。
「これがあるからディーテちゃんは何も言わないようにしてたのかな――」
「お知らせします」
いきなりワールドアナウンスの声が響き渡った。
「プレイヤーハヤトが聖剣エクスカリバーの作成に成功しました。繰り返します――」
「え? アナウンスされるの?」
これにはハヤトも驚いたが、そんなことよりも部屋の外が騒がしくなってきた。
そして勢いよく扉が開く。
部屋の外にはルナリアがいて、その口元にはクリームが付いていた。その後ろではロザリエ達がそれぞれ食べていたであろうスゥイーツとフォークを手に持って部屋を覗いている。
「ハヤトさんならやるって信じてた」
「ありがとう。ケーキを食べてる途中に駆けつけてくれたんだね。とはいえ、耐久力がない性能はついていないんだよね」
「それは私が何とかすればいい話だから気にしないで。そんなことよりも、これは夜更かししてでも宴会を続けるべきという啓示。さらなるケーキをお願い」
「……そのために来たわけ? まあいいけどさ。じゃあ、ちょっと待ってて。作って持ってくよ」
普段なら断るが、ハヤトは見た目よりテンションが上がっているので快く引き受けた。ルナリア達が出て行った後にケーキなどのスウィーツを作り出すが、その途中でふと気づく。
ステータスウィンドウに鍛冶スキルが200という情報が表示されていたのだ。
ハヤトは慌てて状況を確認した。
しばらくして、大きく息を吐く。
「さっきのエクスカリバーで鍛冶スキルが200になったか。でも、この追加機能はどうしたものかな……」
鍛冶スキルが200になり、新しい機能が解放された。
それは裁縫スキルが200になったときに得られる「任意の性能追加」ではなく、装備をさらに強化する「改造」の機能だった。




