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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第十章

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主従関係

 

 翌日、スーリャが拠点へやって来た。


 スーリャだけでなくセシルも一緒だ。


 セシルは白い長袖シャツの上に茶色のハーネス型ベストを着て腕まくりしている。ズボンはベストと同じ色で革製のズボン。防具は軽装だが五本の剣や刀を装備していて、知らない人が見たら一人で何と戦うのかと不思議に思えるだろう。


 ハヤトが作ったレプリカ系の武器を気に入っているのか、腰の右側にはエクスカリバー・レプリカ、左側にはアロンダイト・レプリカをそれぞれ差し、背中にはドラゴンイーター・レプリカを背負っていた。腰の後ろ側にある刀と、背中にもう一本ある両手剣に関しては以前から持っている物だ。


 セシル曰く、装備には格好いいバランスがあるらしい。


 全体的にゴテゴテしすぎて恰好いいのかどうかは分からないが、大事に扱っているようなので、ハヤトは特に何も言わないようにしている。


 そのセシルは申し訳なさそうな顔をしていた。


 とくに問題のあることをされたわけではないのだが、来たときから恐縮している感じなのだ。これはセシルを知っている人なら珍しいと感じるだろう。


 セシルにはメロンジュース、スーリャにはコーヒーを出して少し経つが、本題に入らないようなのでハヤトの方から口を開いた。


「セシル、それにスーリャさん。なにか言いにくいことでもあるの?」


 スーリャが右の肘でセシルの脇を突く。その行為にセシルが「分かったよ」と言った。


「まずは悪かった。勝手にハヤトのことをスーリャに教えちまって。事前に連絡を入れておこうと思ったんだけど、上司にしごかれてたから忘れちまってた」


 詳しく聞くとセシルは一週間ほど前にスーリャから相談された。そこでハヤトのことをスーリャに教えたのだが、自分からハヤトに軽く連絡しておくと約束していた。


 セシルはそれを忘れた。理由は上司にしごかれていたから。セシルの上司は大将軍と呼ばれている人物で、元「ブラックジャック」のメンバーだ。元々同じクランメンバーだったのでセシルに対して遠慮がないらしい。


 しごかれていた理由はここで全部は言えないほど色々あるとのことだが、一番の理由はセシルが「ドラゴンバスターズ」というチームリーダーになったことが大きい。


 部下がいるんだから、これまで通り一人で何をしてもいいというわけじゃないと怒られた。


 セシルは今まで一人で突撃するタイプだったので放任されていたが、今後はそうはいかないと色々としごかれたらしい。もちろん、座学のほうだ。


 それが空に浮く島から帰って来てからこれまでの話だったが、結局大将軍はさじを投げたという。


 セシルに考えさせて行動させるのは無理と判断されて、ドラゴンバスターズのメンバーの方にセシルをフォローしてやってくれと頼んだとのことだ。


 そもそもセシルは野生の勘というべき直感で戦うタイプ。ある程度の作戦は理解してくれるが、条件があればあるほどセシルは弱体化するので無理に制限させるのは止めようという話になった。


 その結果が出たと同時に謹慎も解かれたという。それが昨日だ。


 ハヤトとしては少々悲しい気分になったが努めて明るく言った。


「大変だったみたいだから別にいいよ。色々と言いたいことはあるけど」


「悪いな、そう言ってもらえると助かるよ。それでさぁ、悪いついでにお願いしたいことがあるんだけど、いいか?」


「悪いついでのお願いって聞きたくないけど言うだけ言ってみて」


「俺とスーリャをしばらくこの拠点に泊めてくれねぇかな。もちろん金は払うから」


「二人とも? 理由は?」


「俺はしばらく帝都に帰りたくねぇ。今回はちゃんと仕事としてスーリャの手伝いをすることになっているから、どこにどれだけいてもいいんだ。それに今はドラゴンバスターズの皆も訓練中で俺だけすげぇ自由なんだよ。この自由を満喫するためにもここに泊めてもらえると助かる」


「そんな理由か。スーリャさんは?」


「私の方は別に泊まらなくてもいいんだけど、ハヤトさんと一緒に行動することが多くなるだろうし、泊りがけでどこかに行くこともあるでしょう? 今のうちから慣れておきたいなと思って」


「なるほど。どっちも特に断る理由はないかな。いいよ、好きなだけ泊って」


 ハヤトがそう言うと二人は喜んだ。


 とくにセシルはかなり喜んでいる。よほど帝都に帰りたくないのだろう。


 この拠点は寝泊まりできる部屋が十ある。そのうち六は埋まっているので残りは四。セシルとスーリャを泊めても問題はない。


 そこまで思ったところで、ハヤトはスーリャがテイマーだったと思い出した。


「スーリャさんのドラゴンはどうしようか? 拠点に厩舎ってないんだよね」


 拠点には厩舎を造ることができる。そこではペットの管理などができるのだが、黒龍にはテイマーがいなかったので造ったことはなかった。


「それは大丈夫。王都のテイマーギルドに預けるから」


「悪いね。ちょっと手間だけど、それでお願いするよ」


(マリスもいるんだし、拠点を拡張しておこうかな――いや、だめか。エシャがいる。やめておこう)


 厩舎にいる動物達に命を狙われる感じになってもエシャは嬉しいだろうが余計なトラブルを抱えそうな気がしたのでその考えは却下した。


「それじゃ泊めるのはいいけど、他にも住んでいる人がいるからもめごとはなしでお願いするよ」


「おう、任せろ」


「もちろん大人しくしているわ」


 ハヤトは頷く。


 さっそく今日から泊るとのことだったので、店番をしていたローゼに部屋の準備をお願いした。


 ローゼはメイドの仕事ができるのが嬉しいのか、すぐに二階へと移動して準備を始めたようだった。


「それで魔物封印図鑑のことなんだけど、話を進めてもいいかしら?」


「そうだね。今後どうするかの参考にするから何をしたいか教えてもらえるかな」


「まずは空に浮く島へ行きたいの。セシルから聞いたんだけど、あそこには恐竜がいるのよね? できればあまり見かけないモンスターから封印していきたいと思っているから。それにテイムできるかも確認しておきたいし」


 その言葉にハヤトは少し笑ってしまった。


 スーリャは訝し気に眉間にしわを寄せる。


「すみません。実はマリスもほぼ同じことを言いましてね。考えは合わないみたいですけど、やっぱり同じテイマーなんだなと思いまして」


 スーリャは複雑そうな顔をする。顔の右半分をピエロの仮面で隠していてもそれが分かるほど。


 少しだけ息を吐いてからハヤトを見つめた。


「同じテイマーだけど、マリスは私のことを良く言っていないでしょう?」


「ペットに対する考え方が気に入らないとは言ってましたね。でも、ペットに対する愛情は人一倍だし、尊敬しているとも言ってましたよ」


「そんなこと言ってたんだ? どんなペットにも同じだけの愛情を注げる方がすごいと思うけどね。テイマーはペットの強さが自分の強さに直結する。強くなければ何もできないのに、マリスは弱いペットを連れたまま王都のテイマーギルドでエース級。そっちの方が尊敬できると思うけど」


「マリスはエルダーグリフォンのランスロットをペットにしましたよ。結構強いと思いますけど?」


「あれくらいのペットを連れているテイマーはたくさんいる。それにその子をペットにする前からエースなのよ。帝国のテイマーギルドならありえない」


「帝国は強さ第一主義ってところがあるからなぁ。でもよ、テイマーってみんなそんなことを考えてんのか? ペットに対する考え方なんて好きにしていいんじゃねぇの?」


 メロンジュースの瓶を持ってラッパ飲みをしてたセシルがそんなことを言った。


「そうなんだけど、マリスと私は似たようなところがあるから反発しちゃうのよね。もしマリスが私のようにペットを調教すれば、それこそ私なんか足元にも及ばないくらいのテイマーになれる。力があるのにそれを使わないって手を抜かれているみたいでなんとなくイラつかない? だから、そんなマリスには負けたくないって気持ちがあるの」


「ライバルみたいなものですか?」


「それに近いかもね。ペットに優劣をつけないというのはたしかに理想だけど、博愛主義的なところがなんとなく納得できないっていうか。テイマーはペットを操るプロなの。一般人じゃないんだから、可愛いってだけじゃ駄目よ。ペットはペット、きちんとした主従関係を構築するべきだし、どんな命令でも実行できるように訓練しておかないとペットもいざというときに迷うわ。あの子、どちらかというとペットの方が主人っぽいし」


「テイマーにも色々あるんですね」


 ハヤトとしてはよく分からない理論もあるが、二人の反発はテイマーとしての在り方の違いなのかもしれないと思った。それにお互いに負けたくないという気持ちもありそうに思える。


 マリスはテイマーとしてどんなペットも同等の立場で愛するという感じに対して、スーリャはテイマーたるものペットとしっかりとした主従関係を構築するという考えがある。


 テイマーの定義や意義とはなにかという話になるため、あまり踏み込めない。どちらかといえばマリスと同じ考えだが、ハヤトはテイマーとしては素人。スーリャのテイマーとしての考えとは違うというだけだ。


「考え方は違うかもしれませんが、一緒に行動する以上、マリスとの衝突はなしでお願いしますね」


「大丈夫よ。それに私もマリスのやり方を知っておきたいの。考え方は違うけど理解はしたいから」


 こんなところまで同じなのにペットやテイマーに対する考え方は全く違うんだなと、ハヤトは思うのだった。


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