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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第九章

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閑話:ネクロポリス攻略(前編)

 

 エシャはネクロポリス攻略のため、最下層へとやって来ていた。


 基本的にはポータルと呼ばれる転送装置があって最下層には一瞬で来れた。ただ、その場所からボスのいるところまでは人工的な青黒い壁が延々と続いていて、そこまで歩かなければならない。


 状況から考えて、奥にいるボスは公爵級の悪魔だろうとエシャはあたりを付ける。あの悪魔には随分と縁があるなと思いつつ、エシャは周囲を見た。


 近くにいるパーティは人数合わせで揃えたくらいのメンバーで連携などは期待できない。ただ、下手に何かを一緒にやるよりは個人の強さに頼った戦い方をした方がいい時もある。


 この場にいるメンバーは、この仮想現実でもかなりの強さを持つNPC達。余計なことをすればそれだけ戦力が落ちる。


 そもそも勇者であるイヴァンに合わせる方が難しい。基本的なスペックが周囲と違うのだ。


 以前一緒だったクラン「ブラックジャック」では、イヴァンとセシルが何も考えずに突撃して、そのサポートをレリックがするという形だった。それ以外のメンバーはレリックがいたおかげでなんととかイヴァン達と連携が取れていた感じだろう。


 そのレリックがいないなら、無理にイヴァンに合わせるよりは、いないと思って戦ったほうがいい。デストロイに巻き込む可能性はあるだろうが、それは過去の話。今のイヴァンに当てられるかどうかは微妙なところだとエシャは思っている。


 エシャはさらに周囲を見た。


 イヴァン以外にも癖の強いNPC達が集まっている。ただ、エシャは少しだけ、やりにくさを感じていた。


 なぜやりにくいのかと言うと、現実を知っているのがエシャだけだからだ。


 このパーティは、ダミアン、ルース、イヴァン、ギル、シモン、マリス、ランスロット、メイド長、ノアト、そしてエシャの十人パーティだ。


 エシャを除く全員が現実の記憶をなくしてこの世界を生きている。


 特に問題はないのだが、なんとなくやりにくいと感じてしまうのは後ろめたいからなのか。エシャは自分でもよく分からない気持ちでいっぱいだった。


 憶測ではなんとなく分かっている。エシャも以前はこの場にいる皆と同じで、この世界を現実だと思って生きていた。何の因果か現実を思い出して、今は現実とこの仮想現実を行き来する立場だ。


 当然、記憶を取り戻したのは偶然だったが、なぜかエシャは自分が皆を裏切ったような感覚になっていた。


 理由は違えど、皆は一緒に現実を忘れてこの仮想現実で生きることにした。自分だけではなく、アッシュ達もそうなのだが、現実で生きようという結論に至ったのは皆に対する裏切りなのではないか。


 エシャはそんな風に思ってしまったのだ。


「エシャちゃん、どうかした? お腹減ってる? 断腸の思いでドーナツをあげてもいい。でも、あとで三倍にして返して」


「そんな腸は引きちぎれてしまえと思いましたが言わないようにします」


「はっきりと言ったけど、スルーする。だってエシャちゃんだし」


 少しだけ二人とも沈黙したが、ノアトがドーナツを渡して、エシャが受け取った。そしてかじる。


「相変わらずノアトはドーナツ好きですね。ご主人様にいくつ作らせたんですか」


「そんな過去のことは覚えてない。でも、ドーナツはいい。あの開いた穴にすべてが詰まってる」


「ツッコミは苦手なんですけど、何もないから穴が開いているのでは?」


「だからあそこに何が入るべきなのかを考えながら食べる。それが至高」


「そんなドーナツの食べ方をする人を初めて見ましたよ。ちなみに何が入ると思っているんですか?」


「たぶん、宇宙」


「斜め上の回答ばかりしてると皆から無視されますよ」


 プリマドンナと言われるほどの歌が上手いノアトだが、歌っていないときはほぼ寝ている、という印象が強い。だがノアトと長い時間一緒にいた人間の感想は違う。エシャもその一人だ。


 普段はぐーたらしているが本気を出したときのノアトは相当なもので、やればできるという都市伝説を地でやっていた。


 今回、ノアトがダンジョンの探索に行くのは相当珍しい。ブラックジャックに所属していたころでもノアトが自分から行くと言ったのは数回だ。


 行く理由は世話になったミストが大変なことになっているということを知ったからだ。その理由にもエシャは驚いたものだった。


 ノアトはしばらく戦っていなかったので勘を取り戻すためにハヤトと戦うと言い出した。もともと戦闘ができないハヤトは全く攻撃を当てられなかったが、エシャもローゼと共に戦った。


 だが、三人とも攻撃を当てることができなかったという結果だ。


 ノアトは素の戦闘技術も高いのだが、スキル構成も普通とは違う。色々なスキルを有益な技を覚えるところまで上げるという構成だ。


 格闘スキルは白刃取りができるところまでしか上げておらず、呪詛スキルも呪詛の魔法が使えるまでだ。音楽や踊り、またそれに関する知識系のスキルは100だが、それ以外はバラバラだと言える。


 その構成が強いのかというとそうでもないが、仲間がいる前提なら相当強いと言える。一対一では絶対に勝てない形ではあるが、味方と協力できれば相当な強さを発揮する。


 その証拠に、ノアトはギル、ローゼと共にシモンを倒した。一対一なら確実に負けていただろう。


「エシャちゃん、さっきから私を見つめてどうかした? 言っとくけど、ドーナツはもう渡さない」


「あとでご主人様に作ってもらうのでいりませんよ。単にノアトは不思議だなと思っただけです」


「エシャちゃんに言われたくない。私もハヤトさんにドーナツを作ってもらおう」


「二人とも仲良しですね」


 急にマリスが割り込んできた。


 マリスはランスロットに乗って最後尾から付いてきていた。今のところ敵はいないのだが、背後からの攻撃を警戒するため、マリスとランスロットが最後にいたのだ。


 エシャは少しだけ、ランスロットと距離を取りつつマリスの言葉に反応する。それこそ断腸の思いだが、この場でランスロットに攻撃されたらさすがに問題がある。この場にはディーテがおらず、蘇生ができないのだ。


「前のクランで一緒でしたらからね……答えちゃいましたけど、仲良さそうに見えました?」


「ええ、まあ。というか、お互い遠慮がないので仲が良くないとそんな風にはならないのかなって。ただ、どっちもボケなので、ハヤトさんにツッコミを入れて欲しいとも思いましたね!」


「まったくだよね。エシャちゃんはハヤトさんといるときだけボケて欲しい。疲れるから」


「よくもまあ、そんなことが言えますね。それは私のセリフとだけ言っておきましょう」


「やっぱり仲がいいですよ」


 エシャはマリスの言葉にやや納得いかないが、よく考えると自分には仲がいい人はレンくらいなのでは、と思い始めた。


 まったく境遇は似ていないが、同じように記憶を取り戻したことから何となく仲間意識はあった。もともとハヤトのクランである「ダイダロス」に所属したころから仲良くしているので、もしかしたら友達と言っていいのかもしれない。


 エシャはそう思うと、ちょっとだけ照れ臭いような体がかゆいような不思議な感覚になった。


「エシャちゃん、仲がいいから言うけど、ちょっと動きがキモイ」


「……デストロイで撃たれた回数を更新できそうですね。おめでとうございます」


「決定事項にするのは良くない」


「お前らもうちょっと緊張感持てよ」


 先頭を歩くイヴァンからツッコミの言葉が入る。少々うるさかったのかもしれない。


「んー、イヴァンのツッコミはちょっと駄目。やっぱりハヤトさんの方がいい」


「それは同意見だと言っておきましょう」


「なんで注意した俺が駄目出しされてんだ?」


 イヴァンはぶつぶつと言いながらも、先に進み、ようやくボスがいる扉の前まで来た。


「そんじゃ、こっからは本気でな。とりあえず、最初にエシャのデストロイで大ダメージを与えるぞ。次のデストロイまでに俺達が倒せれば楽なんだが、そうもいかないだろうから、二発目のデストロイで倒す。その作戦で異存はないよな?」


 イヴァンの言葉に全員が頷く。


「よし、それじゃギルはエシャを守ってくれ。最初の一撃で相当ヘイト値を稼ぐと思うから」


「うむ。盾役としての使命を果たそう。エシャ殿もしっかり私の後ろにいてくれ」


「頼りにしています……メイド長、なぜそんなに近くに立つんですか? あと目が怖いです」


「負けませんよ。メイドとは冥途……その神髄を見せましょう」


「そのメイドは初耳ですが頑張ってください」


 エシャは面倒なことに巻き込まれたな、と思いつつも、役目を果たそうとメロンジュースがあることを確認しながら、ベルゼーブ666・ECカスタムを取り出した。


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