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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第九章

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露天風呂(男湯)

 

 東の国を観光した日の夜、宴会の前に露天風呂に入ることが決定した。


 もちろん、男女別で混浴はない。健全なゲームなのでそういう仕様だ。


 また、風呂エリアでは装備が湯浴み着状態となり、男性キャラはショートパンツ、女性キャラはショートパンツにゆったりしたローブの装いだ。色に関しては自由に替えることができる。


 ハヤト達男性陣は全員が入ることになった。


 メンバーは、ハヤト、アッシュ、ミスト、ダミアン、ルース、ギル、そして黒龍の男性陣と暗黒十騎士だ。


 ハヤト達は露天風呂の脱衣場へ行くと、装備が自動的に切り替わった。色は初期状態の黒だ。


(暗黒十騎士の人達の顔ってギルさん以外も強面だな。しかも筋肉質で体中に傷がある。現実では何をしていた人達なんだろう?)


 ハヤトがギル達を見つめていたのが分かったのだろう。


 ギルは笑いながら近づいてきた。


「ハヤト殿、どうやら我々の筋肉に見とれていたようだね。スクワットからやってみるか?」


「いえ、全く違います。あの、全員でポーズを取らないでくれますか。ちょっと周囲の温度が上がりますので」


 ハヤトは詳しくないが、大昔にあったボディビルとやらのポーズに思えた。ただ、すごく暑苦しい。


「ふむ、ハヤト殿にはこの良さが分からんか」


「分からなくもないのですが、気になったのは筋肉の方ではなく傷の方でして」


「ああ、なるほど。まあ、名誉の負傷みたいなものだ。魔国では皆こんなものだよ。強い魔物も多いからな」


(そういう設定なのか。まあ、現実の詮索は良くないよな。下手に色々聞いて記憶を取り戻したら大変だし、たとえ仮想現実だとしても見すぎるのは失礼だ。気を付けよう)


 現実に関する記憶を刺激することは記憶を取り戻しかねない。それが駄目だという理由はないのだが、ここにいるNPC達は望んでこの世界の住人になった。それを部外者が勝手にしていいわけではない。


(ミストさんはどうするんだろうな……)


 ハヤトはギル達から視線をミスト達の方へ向ける。


 ミストは記憶を取り戻しているが、ダミアン、ルースは取り戻していない。まずは病気を治すことが先決と考えているようで、それが終わったときに考えるとミストは言っていた。


 彼らの場合、仮想現実に入った事情が他とは少々異なる。病から生き残るために仮想現実に入った。病気が治れば仮想現実で生きる理由もなくなる。患者が無事なら、ミストやダミアンも仮想現実にいる理由もなくなるだろう。


「ハヤト」


「アッシュ? どうかしたか?」


 いつの間にかアッシュがハヤトの目の前にいた。イケメンは筋肉もイケメンだなとハヤトは思う。仮想現実ではあるが、肌が綺麗なのだ。別の言い方をするとまぶしい。


 そんなアッシュが心配するような目でハヤトを見ていた。


「いや、ハヤトの方がどうかしたかって感じなんだが。悩んでいるというわけじゃなさそうだが考えごとか?」


「ああ、いや、現実の記憶を取り戻すってどんな感じなのかなって思って」


 ハヤトは周囲に聞こえない程の小声でアッシュに話す。


 アッシュも記憶を取り戻した一人だ。


 ディーテのバックアップであるヒュプノスに現実の映像を見せられてAI保護が効かずに記憶を取り戻した。それはどんな感じなのだろうかとハヤトは興味がある。


 だが、当のアッシュはそれを笑った。


「露天風呂に入るときに何を考えているんだ? そんなことよりも風呂に入ろう」


「そんなこと扱いなのか?」


「ああ、そんなことだ。それにハヤトが気にしても仕方ないだろう? なる様にしかならないさ。大体、なんで風呂に入る前にそんなこと考えてんだ?」


「……そう言われるとそうだな。いや、ギルさんの筋肉や傷を見ていたら色々と思考の迷路にね」


「あれを見てそういうところまで考えられることがハヤトらしいな。まあいい、ほら、入ろうぜ」


 アッシュはハヤトを露天風呂の方へ促す。だが、ハヤトは止まった。


「アッシュ、まずは体を洗ってからだぞ」


「ハヤトはそういうことをこだわるよな。まあ、洗うけど」


 仮想現実なので特に体を洗ったり汗を流したりする必要はないのだが、礼儀というかマナーとしてまずはお湯をかけて体を清めるところから始めた。


 その次に頭を洗った。ハヤトは上から順番に洗うタイプだ。


(なんとなく頭がスーッとするからメントール系のシャンプーなのかね?)


 備え付けのシャンプーで頭を洗っているのだが、なんとなくさっぱりした気持ちになる。現実に影響するわけではないが、気分はいい。


 頭の泡をしっかりと洗い流してから、今度はタオルに石鹸をこすり泡立ててから体を洗った。こちらもシャンプーと同じように何か変わるわけではないが気分として体が綺麗になった気がする。


 一通り体を洗ったので、タオルを頭に装備してから露天風呂に入る。そして肩まで浸かった。


 気持ちがいい暖かさに自然と大きく息を吐いた。


 他のメンバーも「あー」とか「うー」と気持ちよさそうにしている。


 流石は露天風呂というか、屋根のない風呂は解放感がある。


 空には星が輝いているし、半分くらいになっている月も見えた。現実では狭いユニットバスで湯船に足を延ばして浸かるなんてことはないので、仮想現実だとしても贅沢な時間だろう。


 隣にいるアッシュも似たように思っているのか、体を伸ばして満喫しているようだった。


 アッシュは体を一通り伸ばしてからハヤトの方を見た。


「そういえば、午前中はどうだったんだ? シモンと一緒に生地を探しに行ったんだよな?」


「いい生地があったからすぐにそれで着物を作ったよ。ロザリエさんにはもう渡してあって、後はお任せ」


「ロザリエもそういう面では職人っぽいから手を抜くとは思えないが、大丈夫なのか? その、センス的に」


「俺よりはいいから大丈夫でしょ。それに普段のゴスロリ服のデザインを見ている限り問題ないと思うんだよね」


 心配があるとすれば、ロザリエが作った水着がすごいという情報があるくらいだ。ディーテもあれはどうかと思うという旨を言っていたが、どうすごいのかは分からないのでハヤトとしてはなんとも言えない。ただ、少々危険な気もしている。


「ゴスロリ風の着物になるのか?」


「いや、どうだろう? そういうアレンジも出来るのかな? まあ、それならそれでいいと思う。想像の域でしかないけど、悪くないと思うし。それはそれとして食べ歩きの方はどうだったんだ? 仕事中は聞けなかったんだけど」


「……普通だったぞ」


「その顔で言われても」


 明らかに何かがあった顔だ。説得力がないとはこのことだろう。


「まあ、エシャがな、張り切ったというか、頑張ったというか、本気を出したというか。その勢いにレン達も乗ってな。一部の店で出禁に。謝って来たから大丈夫だとは思うんだが」


「……一人で行かせて悪かった」


「俺はまだまだ弱かったよ」


 アッシュは遠い目で空を見ている。何があったか想像したくないが、色々あったのだろう。


「ええと、話を変えるけどヴェルさん達の方はどうなのかな? 今日は喫茶店に来てなかったし前に聞いたときは順調だって言ってたけど」


「問題ないみたいだぞ。後数階で攻略できるような話をしていたな。特に変なモンスターがいるわけじゃないし、階数が多いだけとか」


「それはありがたいね」


 薬の知識はあと一つ。その知識を使ってこの仮想世界で薬を作り、それをミストの仲間達に使えば現実での病気が治る。まだまだやることはあるが、間違いなく薬に近づいている。


 その後もハヤトとアッシュは世間話を続けたが、そろそろいい時間になってきた。


「さて、それじゃ上がろうか。もう皆も上がったみたいだし、この後宴会だからね」


 いつの間にか露天風呂にはハヤトとアッシュしかいない。皆は脱衣所の方でフルーツ牛乳かコーヒー牛乳でも飲んでいるのだろう。


「そうだな、のぼせることはないだろうが、十分満喫したし――さっきから女湯の方が騒がしくないか?」


 ハヤトとアッシュは風呂から上がり、柵がある方を見る。


 男湯と女湯に関しては木製の柵で遮られている。混浴はないが、乗り越えることは可能だろう。ただ、乗り越えた先には地獄が待っていると言っても過言ではない。それほどの戦力が向こうにはあるのだ。


 その地獄から騒がしい感じの声が聞こえてくる。


「何をしているのかは知らないけど元気があっていいんじゃない?」


「どちらかというと元気すぎると思うんだが……まあいいか。レンも皆と一緒だからはしゃいでいるんだろう」


「はしゃぎすぎてドラゴンの姿になってるわけじゃないよな? ここでドラゴンになったら――」


 ハヤトがそう言いかけると、女湯の方から三つ目の黒いドラゴンの首が木製の柵を超えてにょきっと出てきた。どう見てもドラゴン状態のレンだ。


 そのレンとハヤトは目が合う。


 数秒見つめ合ったが、すぐにレンの首はシュルシュルと小さくなっていった。ドラゴン化を解除したのだろう。


 そして柵の向こうからまた騒がしい声が聞こえてきた。


「その、すまん」


「いや、まあ、いいんだけどね、レンちゃんだし。これでおあいこみたいなところもあるから」


 簡単に言うとドラゴン状態は裸という設定だ。ただ、それはアッシュ達がNPCだったころの設定であり、記憶を取り戻している状態ではそんな風に思っていない。レンには聞いていないがアッシュはそう言っている。


 ハヤトはレンのドラゴン状態を以前見たことがあるので、今回はハヤトが見られておあいこと言ったのだ。


 その後、ハヤト達が脱衣場を出ると、浴衣姿のエシャとレンがいた。


 そしてレンはものすごい勢いで頭を下げてきた。


「ご、ご、ご、こ、ごめんなさい! け、決して覗こうと思ったわけではなく! えっと、その、の、呪いって言うか!」


「その理由はどうかと思うよ。大丈夫、別に気にしてないから。大体仮想現実なんだし、そっちも必要以上に気にしないで。逆に恥ずかしいから」


「う……そ、そうですよね、仮想現実ですよね……」


「そうですよ。ですから、レン様、先ほどの件、もう少し詳しく教えてください。ご主人様とアッシュ様の距離はどれくらいでした? そこ大事なんで」


「エシャは仮想現実でも自重して。最近大人しいと思ったのになぁ」


 ハヤトはそんなことをぼやきながら、四人で宴会場である大広間へ向かった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者様の「お風呂回」は男湯とある割には読ませてくれると言う。 お風呂バンザイ!
[気になる点] 出禁になるシーンが読みたい( ´ ▽ ` )
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