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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第八章

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薬の原料

 

 ハヤトの連絡でディーテが拠点まで来ることになった。


 ミストから聞いた情報の精査が必要だからだ。不死の眠りを覚ますためのアイテム「パナケイア」。これは現実の病を治すためのアイテムでもあるらしい。


 あくまでもミストがこの世界の神――おそらくインフィニティから聞いた話ではあるが、そもそもインフィニティは自動的にこの世界を作り上げているプログラムだと聞いている。


 この世界を破壊しようとしたヒュプノスをどこかの空間に閉じ込めるなど、セキュリティ的な行動をとることもあるが、ディーテの要望を叶えるだけで自律的に動くことはないとハヤトは思っている。


 今の状況もディーテが望んだことではないかという考えがハヤトの頭にちらついていた。


 ディーテは百年前と今ではその性格、もしくは思考が異なっている。当時はヒュプノスのように人を物のように思っていたかもしれない。


 今回の件はおそらく百年前に考えられていたことであり、当時のディーテが特に何も考えずに設定したイベントである可能性も高いだろう。


 ただ、それならば、ディーテが設定を変えることもできるはず。知識を集めるというようなことをせず、パナケイアというアイテムを作らなくとも、コールドスリープのポッドに薬を流し込んで貰えばいい。


 そんな期待をしながら、ハヤトはミストとディーテを待った。




 十分ほどでディーテが拠点へとやって来た。


 呼び出す際に、ミストから聞いた話は説明しておらず、問題が起きたから話をしたいと言っただけだ。ディーテもやることがあったようだが、ハヤトの真剣な声に何かしら深刻な問題が発生したのだろうと急いでやって来たのだ。


 ディーテがメイドのローゼに案内されてミストの部屋まで来た。


「やあ、ミスト君。どうやら目を覚ましたようだね。無事で何よりだよ」


「ええ、ハヤトさん達のおかげで無事に目を覚ますことができました」


「それでハヤト君から聞いたんだが、なにか問題があるそうだね? 聞かせてもらってもいいだろうか?」


 ハヤトはディーテの態度を見て、やはり何も知らなそうだと判断した。ただ、忘れているという可能性はまだ否定できない。改めてディーテを見つめた。


 ローゼは部屋に入らずに食堂の方へ戻り、ディーテは部屋にある椅子に座った。丸テーブルを三人で囲む形だ。


 ミストはディーテにうっすらと笑いかけてから口を開いた。


「簡単に言うと、寝ている間に記憶を取り戻しました。それに病も治ったようなのですが、調べてもらえませんか?」


「……はぁ!?」


 ハヤトと同じ驚き方をするディーテ。こんなところは人間にそっくりだなと思いつつも、これがディーテの演技なら主演女優間違いなしだとハヤトは思った。


 短い時間ではあるが、ミストを見つめて微動だにしていなかったディーテは、ゆっくりと頭を動かしてハヤトの方を見た。


「ハヤト君、これはどういうことだろうか?」


「それは俺が聞きたいんだよ。ミストさん、もう一度俺に説明してくれたことをディーテちゃんに聞かせてもらえますか? ディーテちゃんが管理者なので」


「先ほどもそう聞きましたが、にわかには信じられない程の反応ですね。ディーテさんは人間と変わらない。現実の記憶をなくしていたときはともかく、それを取り戻してもディーテさんがAIとは思えません」


「……それは褒め言葉として受け取っておくよ。でも、まずは話を聞かせてもらえないか。ミスト君に何が起きたのかをしっかりと把握しておきたい」


「はい、では眠っていた時のことを説明しますね」


 ディーテは真剣な顔でミストの言葉に耳を傾けていた。




 ミストの話が終わると、ディーテはハヤトにコーヒーを頼んだ。ハヤトはその場でコーヒーを作る。そしてミストと自分の分も作った。


 今の今までそんなもてなしもできない程、ハヤトは動揺していたのだ。


 三人でまずは心を落ち着けようと何も言わずにコーヒーの香りと味を楽しむ。


 一通りコーヒーを楽しんだ後で、ディーテが口を開いた。


「ハヤト君には昨日の夜に話をしたが、私の記憶は記憶領域と思考領域の二つから構成されている。実際にやったことと私の思い込みによる記憶に違いがあるのはそのせいだ」


「確かに聞いたね」


「今回の件、少なくとも記憶領域には保存されていない。記憶領域を見せるというのは無理なのだが、それは信じて欲しい」


「分かった。信じるよ」


 ハヤトのその言葉にディーテとミストが驚いた表情を見せる。とくに証拠はないが、特に疑いもなくディーテのことを信じたのだ。


「ええと、ありがとう。信じて貰えて嬉しいよ。でも、ちょっとは疑ったほうがいいのでは?」


「ディーテちゃんはそういうことで嘘はつかないよ。今までの付き合いでそれだけは自信を持って言えるからね」


 ディーテは目を丸くしたが、顔を背けてわざとらしい咳をした。そして大きく深呼吸をしてからハヤトを見つめる。


「ハヤト君、あまりそういうことは言わないでくれたまえ。バグが発生しそうだ」


「それは一大事なんだけど、どういうこと?」


「いや、まあ、それはどうでもいいよ。まずはミスト君のことだ」


 ディーテはミストの身体がどうなっているかを説明した。ミストから話を聞いている最中に調べていたとのことだ。


 コールドスリープのポッド内ではNPC達の本体である身体の体調管理を細かく行っている。


 ハヤト達プレイヤーが付けているヘッドギアでは脳波のチェックにより本体の状況を確認して強制ログアウトするという仕組みがある。コールドスリープのポッドではそれ以上のことが可能であり、常に人間にとって快適な環境を作っているのだ。


 それを調べた限りではミストは間違いなく病気が治っていることが分かった。


「ただ、治ってはいるんだが、パナケイアというアイテムを使って治ったという話ではないね」


「というと?」


「ミスト君が眠っている間に投薬による治療を施したというだけの話だよ。パナケイアを使ったら薬が注入されて特効薬のように効いたというわけではないね」


 ミストが真剣な顔でディーテに詰め寄った。


「それはどちらでも構いません。治療薬があるということですね?」


「もちろんある。ミスト君の身体がそれを証明している」


「そうですか……希望を未来に託してよかった。資源枯渇の時代ではありましたが、医学は発展していたのですね。素晴らしいことです」


「……それはちょっと違うね」


 言いづらいというわけではなさそうだが、少しだけ困った顔をしているように見える。


「ディーテさん、違うとはどういうことでしょうか?」


「インフィニティが調べた情報だが、治療薬の製法は百年前からあった。ただ、資源――原料が少なく、治療薬を十分に作ることができなかったようだよ。それを求めて戦争になっても困るということで治療薬がないという形にしていたようだ」


「……そうでしたか。ですが、結果は変わりません。それに英断だったかもしれませんね。私の生まれる前の話ですが、資源の奪い合いでよく戦争が起きていましたので。でも今なら薬を作るための原料も十分にあるのですよね?」


 ミストの質問になぜかディーテは答えなかった。また言いづらそうにしている。


「ディーテさん?」


「いつかはバレることだから言っておこうか。現在でも地球にその薬を作る原料はないよ」


「え?」


「ディーテちゃん、ちょっと待った。さっきミストさんの身体は治ったと言ったよね? つまり薬があるんでしょ? なのに現在でも薬の原料がないってどういうこと? 矛盾しているよね?」


「地球にはないと言ったんだよ。それにコロニーや他の惑星にもないね。あるのは宇宙船アフロディテの中だけだ」


 その説明を受けてもハヤトは良く分からなかった。言っていることは分かるのだが、その状況が分からないのだ。ミストも同じようで表情が固まっている。


 ハヤトは改めて詳しい事情を聞こうとテーブルに身を乗り出した。


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― 新着の感想 ―
[一言] >宇宙船アフロディテの中だけだ つまり絶滅危惧種かそれに類する状態にあった材料を栽培または合成したって事かな?
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