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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第八章

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三十階層攻略

 

 ミストを救出してから一週間が過ぎた。


 ミストは眠ったままだが、ネクロポリス攻略は順調に進み、今日は問題の第三十階層を攻略することになっている。


 第三十階層はバンディットでも攻略できていない。そこに何があるのかはバンディットくらいしか知らないので情報を得ることはできなかった。


 一応バンディットのリーダーであるジョルトに連絡したのだが、回答はこうだ。


「あー、あれねぇ……ハヤト君なら攻略できるかもしれないよ。うちはちょっと無理かなぁ。あの先に何かあったらあとで教えてよ」


 そんな答えになっていない言葉を貰えた。


 事情が事情だけにディーテにも聞いてみたのだが、こちらは歯切れが悪かった。


「言うのは簡単なんだけど、分かっていても攻略は難しいかと思うよ。とにかく、一度行けば分かるから、まずはダミアン君達のパーティでそこまで行ってくれないか。そのあとで説明するから」


 ディーテはそう言って音声チャットを切った。


 ディーテはミストがなぜ予定よりも早く眠ってしまったのか、そしてネクロポリスの最下層にそれを治すためのアイテムがあるのかを調べている。その影響で時間が取れないのだ。


 ハヤトは仕方ないなと、自室で今後必要になりそうなアイテムを作り始めた。




 一時間ほどポーションなどの薬品を作ると、扉をノックする音が聞こえた。


「ハヤト様、起きておいでですか?」


「起きてるよ。なにかあった?」


 そろそろ時間は午前十一時。もう少しでログアウトする時間だったのだが、その前にローゼがやってきた。


「お客様が見えております。ルース様と名乗っているのですが、いかがいたしますか? 実はルース様が本物かどうか分からないのですが……」


「俺なら分かるから会うよ。えっと、食堂かな?」


「はい、食堂で待ってもらっています」


 ハヤトはローゼと共に食堂へと移動した。


 食堂には紺色の軍服を着た黒目、黒髪の子供がいる。歳は十歳くらいだが、短パンのせいでより子供らしく見える。前方につばのついた軍帽をかぶっているので、なにやらエリート将校のような感じだ。


 ハヤトはクラン戦争のときにミストと戦った相手に間違いないと判断した。


「ええと、ハヤトです。ルース君でいいのかな?」


 椅子に座っていたルースは、ハヤトがそう問いかけると帽子をとりながら椅子から立ち上がった。


「僕はルース・デルタです。初めまして」


「初めまして。ダミアンさんからは何も聞いていないけど、もともと来る予定だったのかな?」


「いえ、僕の独断で来ました。ミストやダミアンが何も言ってくれないので、色々調べてここに。普段は拠点にしているダンジョンにいるのですが、最近連絡がないので直接聞きに来ました」


 ハヤトは少し引っかかった。ミストが不死の眠りになったことを知らないような言い方なのだ。ダミアンはルースに心配させないようにわざと連絡しなかった可能性がある。


 ここはミストのことは言わずに帰ってもらう、もしくはダミアンが帰ってくるまで何も言わない方がいいと判断した。


「ダミアンさん達は今ネクロポリスのダンジョンを攻略中でしばらく戻ってこないんだけど……」


「そうでしたか。ならここで待たせてもらっても?」


「それはちょっと問題かな。ここにいるローゼさんは店舗側で店番をしないといけないし、俺はちょっと自室ですることがあってね。もう一人いるんだけど、いつも部屋から出ないから誰もルース君の相手をできないんだよね」


「問題ないです。一人で待ってますから。ここでアイテムの生産をしていてもいいですか?」


「え?」


「製薬スキルを上げるために薬を作っているんです。90以降はかなり厳しいので、時間が空いているときはずっとやっているんですよ」


「うんうん、分かるよ。スキル上げは辛いよね。生産スキルの場合は材料費が高くて、お金がいくらあっても足りないからなぁ」


「ミストから聞いています。なんでもハヤトさんは製薬スキルが100だとか」


「まあね。エリクサーを作りまくって上げたのがいまではいい思い出かな……いや、特にいい思い出にはなってないね。辛いだけだ」


 どのスキルも90以降はなかなか上がらない。ハヤトは本当にスキルが上がるのかと疑いながらも黒龍のメンバーが揃えてくれた材料を使ってエリクサーを大量生産していたのだ。


「もしかして、ハヤトさんも医者を目指しているのですか?」


「え? そんなことはないけど、どうして?」


「僕は人を癒す仕事をしたいと思いまして製薬スキルを上げているんです。拠点でも普段その研究をしているんですよ。それに薬草知識や人体知識のスキルも上げてます。吸血鬼なのにおかしいですかね?」


 ルースは少し照れたようにそう言った。


 ハヤトの憶測でしかないが、それは現実の状況が影響しているのだろうと思った。おそらくルースは現実で医者になりたいというような夢があるのだ。


 ルースも死に至る病に侵されている。ある程度まで進行が進めば不死の眠りに入る。本来ならその夢は叶わないが、コールドスリープによる延命でいつかは叶えられるだろう。


 なら大人としてハヤトが言えることは一つだけだ。


「おかしくはないね。夢がかなえられるように応援するよ」


 ルースはハヤトの言葉に驚く。そしてニコリと笑った。


「ありがとうございます。これを言うとミストやダミアンは複雑そうな顔をするんですよね」


(それはいつの頃の話なんだろう。現実の話なのか、それとも記憶をなくしてからの話なのか。二人ともどういう理由でそんな顔をしたのかな……)


 ハヤトはそんなことを考えながら「ちょっと失礼」と言って拠点の倉庫へ移動した。そしてエリクサーの材料となるアイテムをアイテムバッグへ入れる。


 食堂へ戻ると先ほどの材料をテーブルの上に置いた。


「もしよかったらだけど、エリクサーを作る作業をお願いしてもいいかな? 材料はあるんだけど、時間がなくて作っている暇がないんだよね」


「え? でも、僕はエリクサーを100%の確率で作れませんよ? 失敗したら材料を失いますけど……」


「構わないよ。もともと材料は貰い物だし、エリクサーで稼いでいるわけでもないからね。一個もできなくてもいいから気楽にやって」


 材料はアッシュにもらった物や、空に浮く島で宝箱から手に入れた物がある。お金を出して買ったわけではないので、ハヤトとしては特に惜しくなかった。


 むしろ生産仲間が増えて嬉しいくらいだと言える。


「ありがとうございます。なら練習がてら作りますね」


「うん、そうして――あ、そうだ」


 ハヤトは目の前のルースに情報を聞いてみようと思った。


 そもそもネクロポリスの最下層に不死の眠りを回避するアイテムがあるという情報は、ルースからもたらされたとダミアンが言っていた。


「聞きたいんだけど、ルース君はネクロポリスの最下層に不死の眠りを回避するアイテムがあるって情報を得たんだよね?」


「そうですね。そういう情報を神から貰いました」


「それはクラン戦争のとき?」


「はい、ミストの対戦相手として勧誘を受けたのですが、そのときの対価として情報を貰いました」


「……その神っていうのはどういう姿だった?」


「姿は見てませんね。音声チャットが送られてきたようなものなので」


「そりゃそうか」


 シスターの恰好だったかどうかだけでも分かればと思ったのだが、そんな情報はディーテが調べればすぐに分かることなのだ。聞いた意味がなかったとハヤトは落ち込んだ。


「そういえば人間味が感じられない声でしたね。神なので人間じゃないんでしょうけど、事務的というかなんというか、感情が全くなかった声でした」


「感情がない、か」


 ヒュプノスは感情があるように話す。感情がない演技もできる可能性はあるが、感情が全くないような声を出せるものだろうかと少し気になった。


「その情報なんだけど、いつ貰えたのかな? クラン戦争の前? 後?」


「えっと、すみません。先ほどからなんの質問なのでしょうか?」


「神に興味があってね。俺も会えないかなーと思ってて」


 口から出まかせだが、ハヤトはそう答える。


「そういうことですか。えっと、情報を貰ったのはクラン戦争が終わった直後ですね。ミストとの戦い――まあ、ミストは自分からやられに来たので戦いでも何でもなかったですけど、その直後です。もうちょっと遊びたかった……」


「クラン戦争直後……?」


(そのときはまだディーテちゃんは俺から攻撃されていないはずだ。クラン戦争直後から三日かけてAI殺しを量産したんだから、そのときはまだヒュプノスは起動していないはず。この辺りの時系列をディーテちゃんと確認しておかないとな)


 ハヤトがそう考えたとき、二階から床に何かが落ちたような音が聞こえてきた。


 三人とも食堂の天井を見る。


「何、今の音?」


「もしかして、イヴァン様達が自室で復活したときの音ではないでしょうか? 今は拠点をここに設定しているんですよね? ネクロポリスでやられたのでは?」


 ハヤトは「嘘だろ」と思いながら、二階の状況を確認しようと階段を上がるのだった。


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