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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第八章

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救出前夜

 

 懇親会を開いてから三日が過ぎた。


 ミスト探索のパーティに勇者であるイヴァンを加え、順調にネクロポリスを攻略している。ただ、その表現はあまり正しくない可能性もある。順調すぎるのだ。


 すでに攻略は地下十五階層まで進み、ミストが閉じ込められている部屋も今日発見したとのことだった。


 これはひとえに勇者のおかげ――というわけではなく、メイド長のおかげなのだ。


 夜、拠点の食堂でハヤトは夕食後にダミアンからそのあたりの話を聞いていた。


「メイド長が怖い?」


「以前とは違って命の危険は感じないが、なにかこう張り切っていてな。鬼神というよりも、修羅や羅刹と言ったほうが正しい表現のような気がする」


「より酷くなってませんか?」


 メイド長は以前とは異なり、普段から温和な笑みを浮かべているのだが、モンスターを殴り倒すときもその笑顔が崩れない。そして強さをアピールするような行動が多くなったとのこと。


 ハヤトには理由が分かる。メイド長は暗黒騎士のギルにアピールしているのだ。


 女性が笑顔でモンスターを殴り倒すことで何をアピールしているのかと思うが、相手はギルだ。そういう細かいことを気にするタイプではないように思える。


「ギルさんは何か言ってますか?」


「ギルか? いや、メイド長がモンスターを倒すと褒め称えているくらいだが、それが何か問題なのか?」


「いえ、問題ではないのですが――問題かもしれません」


「……どっちだ?」


 懇親会のとき、ハヤトはメイド長が「キュン」と言ったのを聞き逃さなかった。あれはどう考えてもギルに惚れた合図というか言葉。ギルの顔を見て惚れたのだ。


 それをエシャに話すと「いいんじゃないですか」と言った。


「女が振り向かない男のことをずっと想っているなんて男の幻想です。そんな男なんて忘れて、とっとと次の恋に移った方が健全ですよ。メイド長の中でレリックはすでに過去の男という扱いじゃないですかね。そういう名前のフォルダを作って放り込んでありますよ」


「もうちょっと幻想を抱かせて」


「二階の私の部屋を見たら、幻想なんて吹っ飛びますよ?」


「俺の部屋で何してんの?」


 なぜかエシャに「フッ」と鼻で笑われたが、もうあの部屋は戻ってこないのだろうと諦めた。


 全ての女性に当てはまるわけではないだろうが、エシャはプログラマーだったのが影響しているのか、そういうことにシビアだ。


 その時にいたレンは「女心は複雑なんです」となんの解決にもならない言葉を言って、アッシュと帰った経緯がある。


 それはいいとして、メイド長はギルに対していいところを見せたいがために張り切っているのだろう。懇親会の翌日は髪を完璧にセットして一分の隙も無かった。さらには雨が降っているのに「いい天気ですね」と言う日もあった。


 前とは別のベクトルで暴走していると言ってもいいだろう。


(ギルさんは年齢的には奥さんとかがいてもおかしくはないが、いないと聞いているし、お付き合いしている人もいない。問題はないと思うんだけど……)


 この三日間でギルの身辺調査は済んでいる。強面でモテないし、黒薔薇のメンバーにも受けが悪いとのことで、特定の女性と付き合っていることはない。気になっている相手もいないとのことだった。


 しいて言えば、ルナリアに仕えている形ではあるが、あくまでも尊敬しているという感じだ。前のクラン戦争でルナリアのようなか細い女性に負けたことが驚きだという話を聞いた。歳も離れているし恋愛感情なんてものはないと言っていた。


 つまり、ギルは完全なフリーだ。


 このあたりの情報を手に入れるのに、何本ものワインを使用した。ハヤトはあまりアルコールを飲まないが、男性陣と男子会的なことをして聞き出したのだ。


 ギルに好みの女性も聞いているが、予想通りというか、外見的には筋肉質な女性という話だった。内面的なところはよほど問題のある性格でなければ、全く問題ないとのこと。その情報は鉄アレイと共にメイド長にリークしてある。


 完璧な状態ではあるが、いつ爆発してもおかしくない爆弾を抱えているようで生きた心地がしないのはなぜだろうか。ハヤトは首を傾げるが、やれることはやったはずだと自分に言い聞かせた。


「とりあえず、問題はない……ような、あるような?」


「煮え切らないな。だが、まあいい。明日にはミストを助け出すから、そのつもりでいてくれ。助けたらすぐに戻ってくるつもりだから、色々用意しておいてもらえると助かる」


「自分は午後いないかもしれませんが、ローゼさんに色々任せてありますから大丈夫だと思います。食事というか、ブラッド系のアイテムも魔王城から受け取りましたし、部屋に棺桶も用意してありますので」


「助かる。ミストの屋敷に連れて行ってもいいが、こちらの方が色々と都合がいいだろう……トマトジュースもワインも極上の物があるからな。定期的に買い付けたいものだ」


 ダミアンはそう言って笑い、グラスに注がれているワインを飲んだ。


 軽口が叩けるようになったのはミスト捜索の目途が付いたからだろう。ハヤトも笑顔で返した。


「知り合い価格でお安く譲りますよ」


「まあ、高くてもいいぞ、ミストに払わせるし」


「ミストさんにならより安いクランメンバー割引を適用させますよ」


「ならミストに大量に買わせるか。罠から庇ってくれたとはいえ、ここまで手間をかけさせたのだから、それくらいはしてもらわないとな……さて、それでは今日はこの辺で失礼する。明日も早いからな」


「ええ、おやすみなさい」


「おやすみ」


 ダミアンは椅子から立ち上がると、紳士的な所作でお辞儀をしてから二階への階段を上がっていった。


 ハヤトは食堂に残り、コーヒーを飲む。


(メイド長さんは大丈夫だろう。できるだけ状況をこまめに確認した方がいいだろうけど、すぐにどうこうなる話でもないはずだ。それよりも、明日、ミストさんを助け出してからのことも考えないとな)


 ダミアン達は十五階層まで進んでいる。


 冒険者ギルドで公開されている情報では、ネクロポリスの到達階層は三十階層。これよりも進んだパーティはいないとのことだった。三十階層まで行ったのはあの「バンディット」だ。


 色々やってるんだなと思いつつも、あのバンディットが進めない階層があるというのは色々と心配になる。戦力的な問題なのかそれとも別の問題なのかは分からないが、バンディットがそれ以上行けないというのは不気味だ。


(もっと戦力が必要なのか? でも、ダンジョンのような狭い空間に大量のメンバーを送っても戦えない人が増えるだけで意味がない場合が多いと聞く。送るなら強いメンバーを選ばないと。でも、手が空いている人がいないんだよな……)


 ミストを助け出せば、そのままパーティに入る。それだとしても、パーティは六人と一匹。ミストは前衛アタッカーという位置付けなので、前衛が多くなるが、ダンジョンでの探索ならこの方がいい。


 中距離、遠距離攻撃が前衛に当たるので狭い場所では連れて行かないことの方が多い。


 だれか強力な前衛がいないかなと考えながら、ハヤトは食堂の明かりを消してログアウトするために自室へ戻ることにした。




 翌日、ハヤト、エシャ、ローゼは朝から拠点の外にいた。


 単なる見送りだが、今日はミストを助け出す予定になっているので、外まで見送りに来たのだ。


 そこへメイド長がやって来た。心なしかスキップしているような歩き方にも見える。


「おはようございます、ハヤト様。それにエシャとローゼも」


 三人とも頭を下げた。


「おはようございます……今日も完璧ですね」


「はい。なにやら体調が良くて、動きにもキレがあると自負しております。これも筋トレのおかげでしょうか。そうそう、鉄アレイ、ありがとうございます。愛用しております……あと今日もギル様――皆さんの昼食は作ってまいりましたので」


「あ、はい。助かります」


 言ったのは髪型の事だったのだが、ハヤトは乾いた笑いを出した後、これなら大丈夫だろうと胸を撫でおろした。


 その後ろで、エシャとローゼが小声で何かを話している。


「意外。メイド長って男の趣味に合わせるタイプだったんだ?」


「あれは男の趣味というよりも好みに合わせてるんじゃないですかね?」


「なるほど。それに尽くすタイプかぁ。メイドなら正しい姿かもしれないけど」


「私なら尽くしてもらいますけどね。チョコパフェ食べたい」


 ハヤトは聞こえない振りをした。


 そうこうしていると、拠点の入口に全員が揃った。


 ダミアンがハヤトの方を見る。


「それでは行ってくる。ミストを連れ帰るから祝いの準備もよろしく頼む」


「それは任されました。皆さん、お気をつけて」


 ハヤトはダミアン達を見送り、見えなくなったら拠点に戻った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ミスト救出の成功を祈る。 メイド長の恋の成就を祈る。 ネクロポリス攻略成功を祈る。 [気になる点] ・・・ネクロポリス最深部に筋肉質の美女がいないように。 メイド長が車寅次郎的ポジションに…
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