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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第七章

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調査結果の報告

 

 湖の建物の探索が終わった日の夜、ハヤトは改めてログインした。


 探索終了直後、喫茶店の仕事があったハヤトはすぐにログアウトして、ようやく戻ってきたところだった。


 探索後は手に入れた宝を検証するなどの楽しみがあったが、喫茶店の仕事をしているハヤトにそんな余裕はない。客が少ないとは言っても客が一桁というわけではないし、アッシュの父親であるヴェル達も常連だ。


 休むわけにはいかないので、しっかりと仕事をしてから戻ってきた。それにハヤトは人をもてなすのが好きだ。いやいややっているわけではなく、やりたくてやっている。


 今のハヤトにとってはどちらもやりがいのあることなので、どちらかの手を抜くということはない。たまにはどちらかを優先するが、本当にたまにだ。


 ハヤトはキャンプ場の拠点にある自室から外に出ると、ちょうどネイに出くわした。


「お、ハヤト。ログインしてきたのか。お疲れ様」


「ようやくテンションが戻ったみたいだな。というか一日いたのか?」


「食事とかで何度かログアウトしたが、ほとんどいるな。テンションに関しては皆とバカンスができたから気が収まったというのもある」


 ネイは探索後に湖で女性陣と共にバカンスを楽しんだ。前回は評議会の準備のために参加できなかったのでようやくリベンジができたのだ。テンションも落ち着いて普段のネイに戻ったといえるだろう。


 その後、ネイはバカンスの話を始めたのだが、ハヤトとしては少々困る。


 女性しか参加できなかったバカンスの話を自分にされてもどう答えていいのか分からないからだ。しかも参加しているメンバーがメンバーだ。余計なことをネイが言ったらハヤトの命が危ない。


「わ、分かったから。あまりそういうのは言いふらすものじゃない。危険だ。俺が」


「む? そうか? 少しでも楽しさのおすそ分けができたらと思ったんだがな。ならエシャに話してやるか。もうログインしているんだろう?」


「この後に来ると思うよ。それじゃ、俺はレリックさん達と話があるから」


 ハヤトはネイと別れてレリックの部屋へ向かう。


 この後、レリック、ソニア、ディーテと共に話をすることが決まっていたからだ。


 話の内容はレリックが今後どうするのかということについて。そんなに早く決める必要もないと思うこともあったが、何かしらのケジメみたいなものだろうとレリックの意見を尊重した。


 レリックの部屋の扉をノックする。中から「どうぞ」との声があり、扉を開けて中へ入った。


 部屋の中ではすでにディーテとソニアが集まっており、ハヤトを待っていたようだった。三人が四角いテーブルにつき、椅子が一つだけ空いている。ハヤトはそこに腰かけた。


 ハヤトの正面にレリック、右手にソニア、左側にはディーテがいた。三人はハヤトが作り置きとして共有倉庫へ入れておいたコーヒーを飲んでいたようだ。


「お待たせしました」


「いえいえ、無理を言ってきてもらっているのはこちらですから。では、さっそくですが――」


「レリック君、まあ、待ちたまえ。答えを性急に出す必要はないよ。まずは私の話を聞いてくれないか」


 ディーテがレリックの言葉を遮る。


 これにはレリックも少し驚いたようで、何かを言いかけたが「どうぞ」と促した。


「なら、調査結果を報告させてもらおう。アンネリース君についてだ」


 レリックが息を呑む。


 アンネリースはレリックの想い人。だが、それはすでに100年前の話。今では生きていない。冤罪で捕まった彼女をレリックとソニアが助けたが、その後どうなったのかは誰も知らない。


 レリックやソニアだけでなくハヤトも気になっていることだった。


「レリック君は彼女や他の冤罪で捕まった人の情報をとある資産家へ送ったようだね?」


「え? ええ。当時、プリズンを管理していた看守長に対抗できるだけの資産があり、あの時代でも道徳的な価値観を持っているところへ情報を送りました。なんという方なのかは覚えておりませんが」


「ふむ、不思議な縁があるようだね。調べてみたら、それはネイ君のご先祖だったよ。財団設立時の初代トップと言えばいいかな」


 ディーテの回答に三人とも驚いた。


「ネイ君の先祖は人格者が多かったみたいだね。冤罪で捕まった人達をプリズンから出しただけではなく、保護もしていたようだ。アンネリース君も保護されて幸せな人生を送れたようだよ」


「そう、ですか。それは嬉しいお話ですね」


 レリックは目をつぶってその嬉しさを噛みしめているようだった。


「アンネリースがネイのご先祖様になるとかいう話はないのかい? アンネリースは美人だったから、その資産家の奥さんになるという話もありえなくはないと思うがね?」


 ソニアがそう言うと、レリックは目を見開いてソニアを見た。そしてすぐにディーテの方へ視線を向ける。


 ディーテは首を横に振った。


「そういう話もあったそうだが、アンネリース君は首を縦に振らなかったようだよ。なんでも、待っている男性がいたとのことだ。そしてその男性は彼女の前には二度と現れなかった。その男性が誰だったのかは誰も知らなかったらしいが、レリック君はそれが誰なのか知っているかい?」


 順当に考えれば、それはレリックの事だろう。ディーテもそう思って聞いたはず。


 レリックは少しだけ苦笑して首を横に振った。


「知りませんね。言っておきますが、私でもありませんよ。彼女が私のことを知っているわけがない」


「え? そうなんですか?」


 ハヤトはつい口を挟んだ。


 自分のことを知らない相手を何年も想っていられるものなのだろうかと不思議に思えたのだ。


 一時的なことなら分からないでもないが、レリックの場合はわざと捕まってプリズンへ行くほど。アンネリースがレリックを知らないという状況が信じられなかった。


 そんなハヤトの考えを察したのかレリックは微笑んだ。


「ええ、間違いありません。大昔にほんの一瞬だけ彼女の人生と私の人生が近づいた。そして私が救われた。だから助けただけです。彼女は私のことなど微塵も覚えていませんよ。大体、ハッカーである私が意味もなく自分の情報をどこかに残すとでも? 電脳でも現実でもあり得ませんね」


 その言葉にディーテがニヤリとする。


「そうかね。だが、その男性の眉間には傷があるそうだよ。どういう状況だったのかは知らないが、プリズンで看守長から庇ってくれたときにできた傷だとか。それにその男性は昔、同じマンションに住んでいたお隣さんなのに気づいてくれなかったそうだ。刑を終えて外に出てきたらお礼をするつもりだと言っていたらしい――レリック君は本当にそういう男性を知らないかな?」


 レリックは珍しく狼狽しており、ソニアは腹を抱えて笑っていた。


 ハヤトとしてはどうするべきか迷った。そもそもアンネリースはもう亡くなっている。レリックの想いが通じたと言ってもいいのだろうが、もう昔の話なのだ。


 迷っているうちにディーテが口を開いた。


「しかし、レリック君。ハッカーとしては一流だったようだが、男としては三流だったようだね。アンネリース君は結局独身のまま亡くなったそうだ。君ならなんとでもできただろうに」


「……まったく、馬鹿なことをしたものです」


「それは彼女がかね? それともレリック君が?」


「……もちろん彼女がですよ」


「そうかもしれないね。でも、悪い人生ではなかったと思うよ。彼女の職業を知っているかい?」


「たしか教師だったかと。頭もかなり良かったと記憶しています」


「その通り。プリズンから出た後は、ネイ君のご先祖様の支援で学校を作ったそうだ。多くの教え子がいたようで、ネイ君の祖父や祖母も教え子に含まれる。ネイ君の財団が大きくなれたのも彼女の貢献が大きかったらしいよ。亡くなったときは多くの教え子に囲まれて、幸せそうな顔で眠る様に亡くなったとか」


 レリックはまた目をつぶる。そしてそのままディーテに頭を下げた。


「ありがとうございます。それを聞けただけで十分です」


「なに、お礼はいらないよ。ところでどうするか決めたとのことだったが、この話を聞いても決めたことを変えることはないかな?」


「……いえ、申し訳ありません。もう少し考えたいと思います」


「なら今度はもっと時間を掛けて考えるといいよ。急ぐ話でもないんだからね――それじゃ今日はこの辺にしておこうか。探索で疲れただろう? それに明日は地上に戻る。早めに休んだ方がいい」


「はい、そう致します。ハヤト様、申し訳ありません、せっかく来て頂いたのに答えを出せませんでした」


「気になさらないでください。そんなに急ぐことじゃないですから。拠点に戻ってからゆっくり考えればいいと思いますよ」


「ありがとうございます。では今日はもう休みます。また明日」


「はい。では、おやすみなさい」


「おやすみなさいませ」


 レリックが笑顔で軽くお辞儀をする。ハヤト、ディーテ、ソニアの三人もそれぞれ挨拶をしてから部屋の外へ出るのだった。


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