裏メニューと財団
三日ほど掛かったがハヤトの協力もあり、ネイ達とソニアは大監獄への立ち入り許可証を手に入れることができた。
二人はすでに大監獄へ向かっていて、すぐにでも設計図を見つけると息巻いていた。
ハヤトは頼もしいと思う反面、ちょっと落ち着けと思い、実際にそう言ったのだが、それを聞き入れるような二人ではない。「心配するな」と自信満々に言って、拠点で探索に必要なアイテムを買い込み、すぐに向かったのだ。
ネイはともかく、ソニアがいれば大丈夫かと思い、ハヤトは二人を見送った。
その後、ハヤトは拠点の販売商品を一通り用意してからローゼに渡し、エシャと二人でとある場所へと向かった。
目的地はトレジャーコインとアイテムと交換する交換所だ。
面白いアイテムがあるとネイ達から聞いてはいたのだが、色々とあって足を運ぶのが遅くなった。
ようやく時間が空いたので見に行くことにしたのだ。
ただ、今回は様子見だ。幽霊船やサルベージなどで数枚は手に入れたが、それで欲しい物と交換できるとは思えない。そもそも欲しい物があるかどうか分からないのでラインナップを見てみようという考えだ。
「ご主人様としてはどんなアイテムが欲しいですか?」
「生産アイテムの製造方法が増えるような物があるといいんだけどね。高性能な装備があっても俺には使えないだろうし――ああ、でも、なにか生産アイテムを作るときに効果がありそうな装備もいいな」
「私は毎日一個チョコパフェを作ってくれるアイテムが欲しいですね。もちろん星五で」
「そんなアイテムがあったら、ディーテちゃんに抗議する」
「あれですか、エシャに食べさせるチョコパフェを作るのは俺だけだ、的な。分かりました。朝昼晩ご主人様が作ったパフェを食べます」
「それはない」
ハヤトは本当にそんな風には思っていない。単に簡単に星五でパフェを作れてしまうのが嫌なだけの話だ。スキル上げにはかなり苦労した。それに見合うだけのパフェなのに、苦労せずに作れたらなんだよって思うだけだ。
ただ、ハヤトは少しだけ思う。エシャが自分以外が作ったパフェを食べておいしそうにしていたらへこむ可能性はあるかもしれない。それを顔に出さないように注意してエシャと歩いた。
ハヤトが一番に欲しい物は生産できるアイテムを増やすレシピなどだ。その次に欲しい物は生産時に成功確率や品質が上がるような装備品になる。
ハヤトは「アダマンタイトの包丁・極」や「水晶竜のペンダント」といった生産時に効果のあるアイテムを持っている。基本的に製薬や料理に関しては最高峰のアイテムを持っているので、欲しいのは別の生産スキル関係だ。
鍛冶、裁縫、細工、木工、栽培。生産系スキルでもこれらに関してはそれほど便利になる装備は持っていない。これらの成功率を補う装備があればそれは喉から手が出るほど欲しい。
ハヤトはそのあたりを期待しながら交換所へ向かうのだった。
王都にある交換所はこぢんまりとした店だ。
イベント開始直後は人でごった返していたが、最近は人も少ない。ある程度、プレイヤーが欲しい物が決まり、手に入れるためにトレジャーコインを手に入れようと頑張っているからだ。
ハヤトは交換所の受付をしているNPCに何が交換できるのかを確認する。
(……やっぱり装備品が多いな。戦闘職ならかなり有用な効果がついているんだろうけど、俺にはあまり関係ないか)
どれもこれも性能がいい装備ではあるが、生産スキルで作れる範囲内の物ばかりだった。さすがにエシャが持っているベルゼーブやイヴァンが持っているエクスカリバーのようなユニークな性能を持つ武具はない。
一部、生産系スキルが向上する装備も存在していたが、それらで向上するのは合計50までであり、上限が超えるようなこともないのでハヤトには意味がなかった。
「特に俺が欲しい物はないかな。この程度の装備なら時間さえ掛ければ作れるし」
「普通は作れないんですけどね。それにチョコパフェ製造機はありませんでした。無駄足でしたね」
二人の会話を聞いていたのだろう。交換所の受付をしている女性の目がキラリと光った。
「そんなお二人のために裏メニューがございます」
ハヤトとエシャはいきなりのことに驚いたが、さらに驚いたのは周囲で聞いていたプレイヤー達だ。交換が可能なアイテムに裏メニューがあると初めて知ったのだ。周りにプレイヤーがなんだなんだと近寄ってくる。
「えっとそれではその裏メニューを見せてもらえますか?」
受付の女性がメニューをハヤトに見せる。そこには確かに表のメニューに書かれていないアイテムばかりだった。周囲にもそのメニューは見えているようで感嘆の声が上がっている。
(なんだか気分がいいな。これぞオンラインゲームの醍醐味だと思う。それはともかく、なんだ、このコインの交換枚数は? 全部1000枚以上じゃないか。何も交換できないぞ)
そこに書かれているアイテムはいわゆるレアモンスター撃破の時に稀に落とすアイテムばかりだった。あの「ポセイドンの水着」も含まれている。
生産スキルでも作れない見た目や性能を持つ装備品ばかりで、戦闘職であれば交換するだけの価値はあるのだろうが、ハヤトにはあまり関係がなかった。ただ、一つだけ気になるアイテムがある。あきらかに生産職向けのアイテムだ。
それは「ワイン醸造キット」。
アイテムの内容には、これがあれば料理スキルでワインを造れると書かれていた。
(ワインか。レリックさんが好きだったな。幽霊船で見つけたワインを嬉しそうに受け取ってたし。個人的には作れる物が増えるし、ぜひ欲しいところだが、コイン1000枚は無理だろ……)
ハヤトが持っているコインはあまりない。空に浮かぶ島で大量に手に入れることが可能なのかもしれないが、今のところは十枚かそこらだ。
こういう物があるということだけが分かっただけでも良しとする。そうポジティブに考えて、ハヤトとエシャは裏メニューで盛り上がっている交換所を後にした。
「残念でしたね。あのワイン醸造キットが欲しかったのでは?」
「やっぱり分かった? 欲しかったけどさすがにコインを1000枚も持ってないからね」
「ネイ様だったら持っているかもしれませんよ? あの方ってこのゲームを全力で楽しんでいる感じなので、それくらい貯まっているのでは?」
「持っていたとしても交換してくれとは言えないよ。ネイも欲しい物があるだろうし。そうだ、裏メニューのことを後で教えてあげよう。それじゃ帰ろうか」
ハヤトはそう言ってエシャと歩き出す。
「ネイ様で思い出したんですが……」
「なにを?」
「ネイ様って私のことを知っていますよね? 現実にもいるって」
「名前が一緒だしね。黒龍のメンバーは全員が気づいているはずだよ。俺には何も言わないけど」
仮想現実でNPCであるはずのエシャ。その人物が現実にいる。黒龍のメンバーはハヤトの喫茶店の常連だ。何度も顔を合わせているし、名前も知っている。まず間違いなく分かっている。
ただ、それをハヤトに問い詰めたことはない。皆がエシャに初めて会ったとき、やや訝し気な顔をしたが、それ以降は特に何も言わなかった。
アッシュ達についても同じだ。最初に喫茶店で会ったときは目が点になっていたが、それに関しても特に追及はしてこなかった。
「世界を支配している財団の血族なので、そういう細かいことを気にしないんですかね?」
「エシャ。それは口に出したらダメだよ。危険だから」
「そうでした、すみません」
エシャは素直に謝った。これは本当に問題のある行為だと教わっていたからだ。
ハヤトはエシャにネイが財団の血族である話をしたことがある。それは注意のためだ。
星座の名を持つ十二の財団。そこには絶大な権力がある。その名前を利用することは極刑。その財団に知り合いがいるなどと言うものなら、まず無期懲役になる。「財団」という言葉さえも危険なので、ハヤトはそれをエシャやアッシュ達に教えたことがあった。
百年前はなかったとのことだが、当時から片鱗はあったとハヤトはエシャ達から聞いた。
その頃は資産家や大富豪が絶大な権力を持っていた。地球外で生きるための宇宙船やコロニーの建設に多大な貢献をしたからだ。
フロンティア計画やアナザーフロンティア計画は、国家単位ではなく地球という惑星単位の計画なので資産家達は関係していないが、それでも多少は影響していただろう。
(正直、ネイを見ているとそんな風には思えないけど、手配してくれた病院とかを見ると間違いないよな。まさかファクトリー出身の俺がホスピタルのコロニーに入院してたとは思わなかった)
ログアウトするわけにはいかなかったとき、ハヤトはネイに自分の体の保護を頼んだ。ログアウトして目を覚ましたときの病院はコロニー「ホスピタル」で、最新の治療を受けることができる場所だ。普通、労働階級の人間が使えるような場所ではない。
当時、ハヤトはネイが地球生まれのお嬢様だとは思ってはいたが、財団の血族だとは思っておらず、仮想現実での騒動が終わった後に少々怖くなった。知らずとは言え、財団の血族に頼みごとをしたのだ。どうなるか分かったものではない。
ただ、ネイはその後も、ハヤトと気さくに接し、喫茶店を開いてからはオフ会を何度も開くほどで特に問題はなかった。今でも立場などは関係なく親友と言える。
(さすがにもう現実でネイに頼み事はできないな。それは財団に頼むことと変わらない。どう考えてもまずいと思う)
そんなことを考えていたらいつの間にか拠点に戻って来ていた。
そろそろ喫茶店を始める時間なのでログアウトしようと拠点に入ると、食堂にネイ達がいた。
「よかった、まだいたか!」
「ずいぶんと慌てているけど、どうかしたのか?」
「ハヤトは以前、デュラハンアーマーを大量に作っていたよな? ログアウトする前にそれを貸してくれないか?」
「それはいいけど、なんでまた?」
「それが大監獄の怪しいところをソニアと調べていたら、設計図を集めていた王の幽霊がいてな。そいつが強いんだよ。闇属性の攻撃を連発してくるからその対策に必要なんだ」
「そういうことか。もちろんいいぞ。倉庫から持ってくるからちょっと待ってくれ。他の皆にも闇攻撃の耐性が上がる装備を持ってくるから使ってくれ」
「助かる! 今日中に設計図をとってくるから楽しみにしていてくれ!」
「ああ、期待してるよ」
ネイは笑顔になると、今度は皆と店舗側の方へ向かった。おそらく薬品などの準備をしているのだろうとハヤトは考える。
一連の行動を見ていたエシャが首を傾げた。
「ネイ様に絶大な権力があるようには見えないんですけどね」
「俺もそう思うけど、まあ、そういう人もいるよ。たぶん」
(こうしているとゲームを遊んでいる普通の子なんだよな……おっと急ごう。この後、喫茶店の仕事もあるんだ。俺は遊んでいる場合じゃない)
ハヤトはそう考えて急いで倉庫へ向かった。




