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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第五章

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一騎討ち

 

 ドラゴングレイブへ乗り込む当日、早朝からハヤト、アッシュ、レンの三人は王都にある転送装置の近くまでやってきた。


 見送りは誰もいない。これはアッシュが望んだことだった。


 アッシュが負けた場合、父親であるヴェルがどういう行動をとるのか分からない。もしかしたら、各国で強硬派のドラゴンが襲ってくる可能性もあると、メンバーにはそれぞれ待機していてもらいたいとアッシュからお願いしたのだ。


 メンバーはそれを承諾。それぞれが所属国で待機している。


 本来なら多数のメンバーと乗り込む方がいいのだろうが、ヒュプノスの提案どおり、ハヤト、アッシュ、レンの三人だけで乗り込むことになった。


 アッシュは最初一人だけで行くと言っていたのだが、それはハヤトが却下する。


 このイベントを管理しているヒュプノスに言われたから三人で行く。そんなことをアッシュには言えないが、相手の望み通りにしなければ、そもそもヴェルと戦えるかも怪しい。十中八九罠があるとしても、相手の言うことを聞かないといけないのだ。


(罠がある可能性は高いけど仕方ないよな。それにこっちにはディーテちゃんがいるし、他のメンバーもいる。なんとかなるはずだ)


 ハヤトは戦力としては役に立たないが気合を入れている。ただ、念のためにヒュプノス対策としてAI殺しも持ってきている。ディーテのときと同じように使えるとは思っていないが、いざというときのために持ってきたのだ。


 ただ、ハヤトは少し迷っている。そもそもヒュプノスを攻撃してもいいのか――つまり、ヒュプノスを傷つけることでさらなる問題を引き起こさないかという懸念だ。


 今回のことも半年前にディーテを傷つけたことが影響していると言っていい。この強力な武器はこの世界にとってかなり異端。この世界の理を捻じ曲げている武器だ。それを使ってヒュプノスを攻撃するのは、何が起きるか分からないという点で扱いが難しい。


 ディーテに相談したところ、問題はないはず、とのことだった。そしてヒュプノスの対策はディーテの方でしていると言った。ただ、その対策が上手くいくかどうかは分からないので、なにかあればためらわずに使って欲しいとも言っていたのだ。


(ためらうな、か。まあ、ドラゴングレイブにヒュプノスが来るかどうかも分からないから、考えても仕方ないんだけど……いや、来るか来ないかはともかく、どうするのかを迷うのは駄目だな。使うときは使う。ためらって何かが起きてからじゃ後悔してもしきれない)


 ハヤトはそう考えて、気持ちを決めた。


 あとは乗り込むだけなのだが、アッシュがなかなか足を前に踏み出さない。


「アッシュ、どうした?」


「いや、昨日、ハヤト達に親父のことを話しただろ。今更ながらに親父のことが大きく思える。武者震い――じゃないな、これは恐怖だと思う」


 ハヤトは昨日の夜のことを思い出す。


 アッシュが語ったヴェルのことは、偉大な父親を尊敬するそれだった。


 アッシュがヴェルを嫌うのは、ヴェルが現実の記憶をそのままにするという願いのデメリットだ。それは嘘の記憶、感情であり、本来のアッシュは父親を尊敬している。


 昨日、アッシュから話を聞いてハヤトはそう判断した。


 記憶が改ざんされているためにそれはドラゴンの強さとして変更されているが、それは役者としての凄さであるのだろうとハヤトは思っている。


 これからの戦いは役者の凄さを競うわけではなく、純粋にゲーム上の戦いだ。全く関係ないことでヴェルに委縮しているので、ハヤトは昨日の話はまずかったかと少し後悔していた。


「兄さん、もう覚悟を決めてよ。大体、兄さんはいつも『いつか親父を超えてみせる』って言ってるじゃない。それが今日なだけだってば」


「いや、そうなんだけどな」


「大体、そんなことよりも私が眠った後でそういう楽しい話をするのはどうなの? お父さんの話なら私も聞きたかった……ハヤトさん、これはどういうことなんですか?」


「え、あ、ごめん。でも、それはエシャが言い出したことでね?」


「言い訳はだめですよ。しかもエシャさんのせいにするなんて……ハヤトさんはもっと女心を勉強してください。そんなことじゃ、いつか愛想をつかされちゃいますよ?」


「はい……」


 昨日のことで少しだけ心当たりのあるハヤトはレンの言葉に頷いた。


 ハヤトの中でエシャに対する気持ちが明確になっているわけではないが、嫌われるのは嫌だなというくらいの感情はある。そしてこのままなら確実に愛想をつかされるというのも何となく分かっている。


 そしてハヤトに対して強気に出たレンは、今度はアッシュの方を見るが一瞬だけ見て目を伏せた。


「レン? どうした?」


「兄さんに女心を理解してって言うのは無駄って思った」


「いや、まて、レン。俺だってまだ大丈夫だと思うんだが――いや、そうか、少し気が楽になったよ、ありがとうな」


 アッシュがそう言うと、レンは少しだけ驚いた表情を見せた後、笑顔になる。


(アッシュの緊張を解くためだったのか。レンちゃんは若いのにそういう気遣いができるんだな。でも、俺には本気だったような……役者の家系だから演技なんだよな?)


 ハヤトが色々と考えているところで、アッシュが「よし!」と気合を入れた。


「行くか。いつかは超えなくちゃいけない壁なんだ。それが今日だ」


「うん、当たって砕けろの精神だよ!」


「それはダメだと思うけど、何となく意味は分かるよ」


 アッシュはハヤトとレンに対して頷くと、転送装置に近寄った。


 転送装置はクランストーンのような青い石だ。その形はひし形に似た縦に長い楕円系で、それがゆっくりと横に回転している。


 ハヤトがそれに触ると、メニューが表示される。そこには転送先がいくつか表示されていた。そしてその中から「ドラゴングレイブ」を見つけ出す。


 アッシュやレンも同様に見つけたのか、ハヤトの方を見て待っていた。ハヤトは頷いてからその場所を選択した。


 少しだけ浮遊感を味わうと、次の瞬間には視界が変わり、別の場所へと転送された。


 ハヤトも以前さらわれてきたことがあるドラゴングレイブ。その地表だ。


 だが、ハヤトには以前とは違う感じに思えた。


 周囲からは鳥の声一つ聞こえない。空中にある島だからなのか、音と言えば強い風が吹く音だけだ。そして周囲からはこちらを観察しているような視線があった。


「ハヤト、俺達から離れるなよ。ここは強硬派のドラゴンだらけだ。いつ襲われてもおかしくない」


 ハヤトは頷く。そしてアッシュ達と歩きだした。


 ここは島の最南端に位置する場所。そして島の中央に古城がある。城の周囲は手入れがされていない森、もしくは密林ともいえる場所があり、そこを通る必要がある。


 歩きながらも視線を感じたが、襲ってくるようなことはなかった。ハヤトはヴェルが襲わないように命令をしているのだと考える。


 たとえ襲ってきたとしてもアッシュなら倒せる。ここでならアッシュはドラゴンになれるのだ。それなら遅れをとることはない。


(ヒュプノスはここでならアッシュもドラゴンに変身できると言っていた。でも、アッシュは人のまま戦うつもりだ。ヴェルさんもそれに乗ってくれればいいんだけど)


 アッシュの場合、ドラゴンになってもドラゴンイーターの能力が使えるので、ドラゴン特攻による五倍ダメージを与えることができる。だが、それでもヴェルに勝つのは難しいとの話だ。


 なので、どちらかといえば人型で戦う方が勝率は上がる。それにヴェルが乗ってくるかどうかは別の話だが、なんとかそういう形に持ち込みたいとアッシュはハヤトに語っていた。


「着いたな」


 アッシュの言葉でハヤトは我に返る。考え事をしている間に島の中央にある古城に到着していた。


 アッシュとレンは身を引き締めると、中へ足を踏み入れた。ハヤトもそれに続く。


 少し歩くと巨大なエントランスに出た。その中央には人型のヴェルがいる。相変わらずだらしない着こなしだが、その顔には笑みを浮かべており、余裕が感じられた。


「来たか、アッシュ、レン、それにハヤトも」


「ああ、おふくろの魂を返してもらいに来た」


「……そうか。だが、それには俺に勝つ必要がある。今のお前に勝てるか?」


「勝つさ。そのために鍛えてきた」


(ヴェルさんもノリがいいというかなんというか。魂の話はゲーム上の設定だろう。もしかするとアッシュ達に違和感を持たせないように演じてるってことなのかもしれないけど)


 アッシュが背中の剣を両手で持って構える。


「親父。ドラゴンになるのはなしだ。人型のままで決着を付けよう」


「理由は?」


「俺と親父の一騎討ちでケリをつけたいんだ。それに俺達がドラゴンになって戦えばハヤトやレンに被害が出るからな」


「兄さん!」


 レンがアッシュに叫ぶが、アッシュは何も言わず、ヴェルを見つめる。


 そしてヴェルはレン、そしてハヤトに視線を送った。そしてニヤリと笑う。


「いいだろう。人型での戦いで一騎討ち。お前が勝てば母さんの魂を返す。だが、負ければ秘宝は俺が貰うぞ」


 ヴェルはそう言うと、右手の手のひらをアッシュの方に向けた。何も持っていない状態だったが、ヴェルの足元から影が黒い液体のようになり、身体をはいずる様に登る。そしてそれはヴェルの右手で形を作り、真っ黒な剣となった。


「ハヤト、レン、手を出すなよ。これは俺と親父の戦いだ」


「兄さん、何を恰好付けてるの! ハヤトさんはともかく、私と二人で――」


「レンは応援してくれるだけでいい。俺が勝つことを信じてそこで見ていてくれ。もちろんハヤトもな」


 恰好付けているのか意地なのか、それはハヤトにも分からない。エシャなら空気を読まずに攻撃するだろうが、複数人でヴェルを倒したとしても、アッシュ自身が納得できないのだろう。


 正直、そんなことを言っている場合でもないのだが、ハヤトにはなんとなくアッシュの気持ちも分かる。なら、たとえアッシュが負けたとしても、自分がなんとかするとハヤトは決意した。


「分かった、アッシュ。そこまで言ったなら絶対に勝てよ。レンちゃん、俺達は離れよう」


「で、でも、ハヤトさん!」


「レンちゃんには分からないかもしれないけど、ここはアッシュの男心を優先させてあげて」


 レンはハヤトにそう言われて下を向き黙る。だが、すぐにアッシュの方を見た。


「兄さん! 負けたら末代まで呪うよ!」


「それは怖いな。そうならないように必ず勝つよ」


 アッシュはそう言ってニヒルな笑いをレンに向けた。


 そのやり取りを見てヴェルの方も少しだけ口角を上げる。


「こっちには味方なしか。だが、応援の人数で勝負するわけじゃない。アッシュ、全力でかかってこい。俺に強くなったところを見せてみろ」


「ああ、そうさせてもらう」


 そう言うや否や、アッシュはヴェルに向かって飛び出し、ドラゴンイーターを上段から振り下ろした。


 ヴェルはその攻撃を細い影の剣で受ける。


 金属がぶつかる甲高い音が周囲に響いた。


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