暴龍討伐
銃撃してくるパットと、メテオスォームを放つオドに関しては排除した。
残りはアグレスとランダのみ。
ランダに関してはレンがこれから呪詛魔法で何とかするという状態だが、それが終わるまで黙って見ている理由はない。戦えるメンバーは一斉にアグレスへと駆け寄った。こうすることでアグレスの向きを固定しようという作戦だ。
ランダへの攻撃はアグレスが体を張って止めている。だが、全方向からの攻撃を止めることはできない。正面からの近接攻撃をしかけることで、アグレスの背中にいるランダをレンの呪詛魔法で倒しやすくしているのだ。
「マリスさん! もう少し近づいてください!」
「了解です!」
レンとマリスの音声チャットが届く。
ランスロットにマリスとレンは二人乗りをしている。マリスが操るランスロットは軽やかに空を飛び、アグレスの背中付近に近寄った。
いまのところ、アグレスは空中にいるレン達を攻撃することはできない。この状態でレン達を攻撃してしまうと、近接攻撃をしている相手に背中を向けてしまい、ランダがさらに危険になるためだ。それに攻撃するならドラゴンブレスなのでモーションが長すぎる。
羽ばたきによるノックバックや咆哮のドラゴンロアによるスタンなどが効けば問題ないのだろうが、それらはハヤトの作った指輪や腕輪で無効化されている。
そうこうしているうちにレンの呪詛魔法がランダを捕えた。ランダがターゲットとなり、呪詛魔法の対象となる。
レンはすぐさま呪詛魔性を使った。
「やりました! マリスさん! 一旦離れて大丈夫――あ」
ランダはすぐに解呪の魔法「ディスペル」を使って自分への呪詛を治した。本来呪詛魔法は一度対象になると、時間になるまで徐々にHPを減らす。だが、呪詛魔法そのものをディスペルで解除してしまったので、効果が無くなってしまったのだ。
「レン君、危険だがもっと呪詛魔法を使いたまえ。ディスペルはMP消費が激しい。そう連続で何度も使える魔法ではない」
ディーテからの助言が音声チャットで聞こえた。
その助言が正しいことのように、ランダは慌ててジュースを飲みだした。MPが足りなくなっていると推測できる。
レンは元気よく「分かりました!」と答えると、ランダに向かって呪詛魔法を使う。
それが何回か続いたが、「もうだめっす!」という言葉と共にランダはアグレスの背中から落ちた。呪詛魔法によりHPをじわじわと削られ、自分の回復が追い付かなくなったのだ。
「ランダさんを撃破しました!」
レンの言葉に歓声があがる。そして残ったアグレスに総攻撃が開始された。
だが、アグレスも背中を気にする必要が無くなったと言える。
「いくぜ、てめぇら! こっからが本番だ!」
アグレスはそう言うと、攻撃が届かない遥か上空まで飛んだ。そして数秒後に高速で地面に体を叩きつける。
自身が隕石のようになって攻撃する「メテオストライク」というアグレスの技だ。
衝撃が地面を伝わり地震のように揺れた。近くにいた者はその揺れに耐えられず、地面に倒れる。スタンでもノックバックでもない、ただの物理現象だが効果は絶大だ。
まともに動けないところへアグレスはドラゴンブレスを放つ。ドラゴンブレスの軌道上にいた者が何人か倒された。
「手前らに用はねぇんだよ!」
そしてアグレスはアッシュを見据える。
「ケリを付けてやるぞ、アッシュ!」
アグレスのメテオストライクで地面に膝をついていたアッシュは、その言葉に反応するように立ち上がって剣を構える。
「来い、アグレス。決着を付けよう」
「はっ! いい面構えだな! だが、そのツラが昔から気に入らなかったんだよ! イケメンは滅べ!」
「気が合うな、俺も親父にひいきされているお前が昔から気に入らなかった」
アグレスがアッシュに向かって一直線で駆け寄る。
ドラゴンの姿なので、四つん這いだが、そのスピードは速い。それを迎え撃つようにアッシュはドラゴンイーターを上段に振りかぶる。
「デストロイ」
「んなっ!」
ハヤトのすぐ横から空気を読まない攻撃がされた。アッシュに向かっていくアグレスにエシャのデストロイが直撃したのだ。
アグレスは攻撃を受けて地面を転がっている。
その場にいる全員が「えぇ?」という顔をしていた。だが、当のエシャはどこ吹く風だ。
「何を熱くなっているんですか。どう考えてもアッシュ様の攻撃だけじゃ倒せませんよ。はい、皆さん、アグレスベリオンにとどめを」
「色々と台無しだけど仕方ないよね。そういうのはあとでやってもらおう。アッシュも早く攻撃して」
「……そうだな、まずは勝つか。すまん、アグレス。勝負はお預けだ。また今度な」
「……まだ負けちゃいねえ!」
アグレスはそう言ってなんとか体を起こし、周囲にドラゴンブレスを放つ。
勝てると思ってはいないのだろうが、最後の最後まであきらめるつもりはないという意志表示なのだろう。
だが、勇者や魔王などが攻撃を始めればどんなに強敵でも逆転などはあり得ない。
アグレスは最後まで粘ったが、それでも最後には倒された。
「暴龍アグレスベリオンの討伐に成功しました。参加者には奪われたドラゴンソウルのかけらが授与されます。繰り返します――」
メンバー達から歓声が上がる。
スタンピードではないので貢献ポイントは入らなかったが、秘宝のかけらを手にすることはできた。そしてこのアナウンスで、アグレスベリオンがかけらを持っていることも他のプレイヤー達に伝わったことになる。
(明日からはここでの戦いが激しくなるかもな)
アグレスベリオンは数時間するとここで復活する。何度も倒される運命になるのだろう。ハヤトとしては同情するが、それもスタンピードのイベントが終わるまでだと気持ちを切り替えた。
全員が勝利の余韻に浸っているところに、ネイとジョルト、そしてアドリアンがやってきた。
「何とか勝てたな。とはいっても、ほとんどNPC達のおかげなんだが。私なんかほとんど役に立たなかった」
「自分も全然目立てなかったねぇ。さすがは勇者や魔王と言ったところかな――とはいえ、約束は守ってもらうよ? レプリカの作り方、よろしく頼むね」
「私達は少しだけお役に立てましたかね」
プレイヤー達も当然戦ったが、さすがに勇者や魔王の前ではその実力は霞むのだろう。キャラクターの基本性能はともかく、装備の性能が違うのだ。
「ところでハヤト、この秘宝のかけら、四つ集まったがどうすればいいか知っているか?」
「一応知ってるよ。四つのかけらを細工スキルで一つにできるんだ。細工スキルは0でもいいらしいぞ――とりあえず、やってみよう」
ハヤトは細工キットを取り出してメニューを確認する。
そこには「ドラゴンソウルの秘宝」というアイテムが選択できるようになっていた。
ハヤトはそれを選択する。すると虹色の光があふれ、直後にドラゴンソウルの秘宝が現れた。
形状はネックレス。ややくすんだ色の宝石があるだけだが、その装備性能は最大HPを20%増やすというものだった。
ネイ達はハヤトの作ったネックレスを驚きながら見ている。
「最大HPが増えるのか。しかもネックレスで。近接戦闘をするプレイヤーにはかなりの価値があるな!」
「それよりも、その情報をどこで知ったのかを知りたいね」
「残念ながら私達にはあまり効果がないですね。コレクターアイテムとしてはいい物なんでしょうけど」
三者三様の考え方をしているのだが、このアイテムには別の使い道もある。これはドラゴングレイブへ行くための鍵にもなるのだ。ディーテとヒュプノスの話をまとめると、これを持った状態で王都の転送装置を使えば、ドラゴングレイブへ行ける。
そこでヴェルと戦う。ヴェルを倒せばドラゴンソウルの秘宝が真の力を解放する。
さすがにそこまでの情報を言っていいものかというのは少し憚られた。どちらもこの世界を管理している相手から聞いたことなのだ。
とはいえ、ノーヒントでそれが分かるものなのか、という考えもある。
王都の転送装置は普段からよく利用されているので、装備さえしていればすぐに分かるのだろうが、アドリアンのような戦士系がいないクランなら装備もしないので情報を得られないだろう。
どうしたものかとハヤトは困っていたが、そこへディーテが近づいてきた。
「ハヤト君、どうやら魔物図鑑が色々と更新されたようだよ。秘宝のことも載っているようだ」
「えっと?」
魔物図鑑とはモンスターを倒したときにその魔物の情報が書かれるゲームシステムの一つだ。それはハヤトも知っているが、ディーテがそれをいきなり言い出したことに違和感を覚える。
「おお、すごいな。確かに炎龍や幻龍のところに秘宝のことが書かれている――すごいぞ、ハヤト、秘宝を持っていると王都の転送装置で新しいフィールドへ行けるみたいだ!」
ネイの言葉にジョルトもアドリアンも驚いた顔をしながら魔物図鑑の情報を見ている。
そのすぐそばでディーテがハヤトに小声で説明した。
「色々と情報を知っているのは都合が悪いのだろう?」
ディーテはハヤトが色々知っていることの対策に、図鑑のことを三人に聞こえるように教えたのだ。
「これはすぐに準備していかないとね。誰も入ったことがないフィールド。ゲームをやっているときの醍醐味と言ってもいい。早速行ってみるから俺達は先に帰らせてもらうよ。それじゃ今日はありがとう。また後で会おう」
「バンディットに遅れを取るわけにはいかん! さっそく準備するぞ!」
「私達はすぐにはいけませんね。そもそも悪魔召喚用の草が減ってしまったので、それを調達しないと。では、また機会があったら一緒に戦いましょう」
ジョルト、ネイ、アドリアンはそう言いながら、自分のクランメンバーがいる方へ戻っていった。
ハヤトは、みんな元気だな、と思いつつディーテを見る。疑問に思うことがあるのだ。
「他の人達がヴェルさんを倒すとどうなるのかな?」
「特に何も起きないだろうね。ドラゴンソウルの秘宝が真の姿になって性能が上がるだけだと思う。アッシュ君やレン君が行かない限り、特別なことは何も起きないだろう」
「そっか。ヒュプノスもアッシュ達の専用クエストと言っていたから、そうなんだろうね」
ディーテが腕を組んで真剣な顔になった。そしてハヤトを見つめる。
「ハヤト君、できればヴェル君との戦いは早めにやって欲しいのだが、可能かね?」
「時間を掛けるつもりはないけど、なんでまた?」
「強硬派のドラゴンをことごとく倒してあるからね、ドラゴングレイブで今戦えるのはヴェル君くらいだろう。ヒュプノスの罠があるかもしれないが、ヴェル君を倒すなら今が一番だと思う」
具体的に何が起きるかは分からないが、ヒュプノスはヴェルを勝たせようとしている。アッシュ達の記憶が戻ってしまう可能性は高いが、ヴェルが勝つよりはまだマシな展開になる。ハヤトはそう信じている。
「記憶を取り戻したらアッシュ達はどうなるんだろうな……もし、アッシュ達が望んだら、また記憶を消すのかな?」
「……そうだね。でも、それは彼らが望むならだ。彼らが何を思ってこの世界に残ったのかは今の私でも良く分かっていない。ヴェル君が記憶を残したこともね。だから、それは全部本人達の希望に従うつもりだよ。エシャ君のようにこのままでいいと言うかもしれないからね」
「そっか」
現実の記憶をなくして仮想現実で生きる。それが正しいのかどうかは分からないが、アッシュ達はそれを望んだ。ハヤトとしてはどちらがいいのか分からない。
そんなことを考えているハヤトにアッシュが近寄ってきた。そしてランスロットに二人乗りをしているレンも近寄ってきている。
「ハヤト、今日の夜は祝勝会をするか? レンもプリンを食べたいそうなんだが」
「バケツ! バケツの方でお願いします!」
そこでそばにいたエシャが手を上げた。
「なら私はバケツチョコパフェでお願いします」
「そんな料理はないよ。まあ、祝勝会はやろうか。すぐに準備できるわけじゃないんだけど、またメイドさんや黒薔薇の人達に手伝って貰えば大丈夫かな?」
ハヤトはそう言ってから、音声チャットで祝勝会をやる旨を連絡するのだった。




