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NPCたらし

 

 精霊の国で幻龍スイエン・ミカヅキを倒した翌日、祝勝会を開くことになった。


 次に戦う暴龍アグレスベリオンの作戦会議も兼ねており、ほとんどのメンバーが揃うことになっている。そうなると拠点では狭すぎるので、別の場所で祝勝会を行うことになった。


 その場所を提供してくれたのがミストだ。


 魔国にあるミストの屋敷はかなり広い。大勢の人をホールに集めても特に問題はないとのことでその場所で祝勝会を開くことになった。


 出席メンバーはハヤト率いるダイダロスのメンバーはもとより、黒薔薇のメンバーやメイドギルドの武闘派、それにバトラーギルドやテイマーギルドからも来る。


 さらには帝都からコレクターのセシル、そして元からこの屋敷の客分であるプリマドンナのノアトとその楽団もこれには参加する。また、遅れるとの連絡があったが、勇者であるイヴァンも参加予定だ。


 それだけではなく、ネイが率いる黒龍や、アドリアン率いる悪魔召喚研究会、ジョルト率いるバンディットのクランも同じように参加することになった。さすがにバンディットのクランは人が多いために主力の十名だけだ。


 ディーテだけは色々と調査中のため参加できないが、これは仕方がないだろう。


 祝勝会が始まる前の午後八時頃、ミストの屋敷にある三階の部屋では、いわゆるリーダー的な存在のメンバーが集まって話をしていた。


 決まったことは以下の通り。


 三日後の日曜日、午前九時頃からアグレスベリオンと戦う。


 複雑な連携の準備をする時間はないので、お互いが火力を出し切る戦いをする。


 共通の音声チャットチャンネルを使って意思疎通をする。


 これだけでは作戦と言えないのだが、どのメンバーも我が強いので遠慮していると逆に弱くなるとの意見が多かった。まずは自分達で倒すくらいの勢いでやろうということで落ち着いたのだ。


 それ以外にもアッシュやジョルトから暴龍アグレスベリオンについての情報共有が行われ、戦いの日までに何を準備しておくかなどの話し合いもされた。


 そして頃合いも良くなったので祝勝会が開始されることになった。


 屋敷の二階にあるホールではすでにたくさんの人が集まっており、食事や歓談が始まっていた。


 作戦会議をしていたメンバーは適当に参加しようと言うことで一度解散になる。


 だが、ジョルトはハヤトのそばを離れなかった。


「えっと、まだ何かあるのかな?」


「そういう訳じゃないんだけどね、ハヤトはNPC達と仲が良すぎないかい? クラン戦争のときからそうは思っていたけど、普通、魔王とかは仲間にするもんじゃないんだけど?」


「そんなこと言われても成り行きとしか言えないんだよね」


 ルナリアはエシャを頼って魔剣アロンダイトの修復に来ただけだ。当時は少し厄介な気がしたが、今では大事な仲間だと思っている。


「うちの検証班もNPCと仲良くなるように色々やってはいたけど、さすがにここまで仲がいいとは言えないなぁ。これが計算と天然との違いなのかもしれないけどね」


「天然と言われても困るけど、俺にだって打算はあるよ。クラン戦争のときは強い仲間を求めていたからね。生産職で戦闘ができなかったからNPCに戦力を求めるしかなかったんだよ」


「その辺の話は調査班が調べたよ。面白い経緯だなって笑ったなぁ」


「ストーカーかよ――それで、本命の質問は何?」


「いや、本命も何も話をしたかっただけだよ。調査班がハヤトのことをNPCたらしって言ってたんだけど、これを見て本当だなと思っただけ」


「NPCたらしって……どこに訴えれば勝てるか教えて欲しいんだけど」


「名誉な称号と言ってもいいと思うんだけどね? それにメイドギルドからは救世主って言われているんでしょ? 一体どんなクエストをすればそんな風に言われるのか、うちの調査班が血眼になって調べてるよ。もしかして救世主とかいう称号を持ってない?」


「……全く持ってないね」


 ジョルトは「そりゃ残念」と言って笑いながらハヤトから離れて行った。


 ハヤトはあれ以来、自分の取得した称号を見ていない。余計なものが増えていそうだからだ。ハヤトが欲しい称号は職人とかそういった類のものだが、どう考えても色物系称号しか増えていない気がする。


 昨日も幻龍を倒した後、エルフの女王とドワーフの王、そして見えなかったがその場にいたらしい精霊から感謝された。そしてお礼に世界樹の木材をくれるという。ただ、量が多いので拠点の方へ分割で持っていくとのことだった。


(見てはいないけど、これも余計な称号を貰ってしまった気がする。嫌じゃないんだけど、なんかこう、まともな称号じゃない気がするんだよな。付ければ目立つのだろうけど、あまりいい目立ち方はしないからなぁ)


 お遊び的な意味しかない称号ではあるが、欲しい人は欲しいだろう。


 ただ、取得条件が特殊すぎてほぼオンリーワンとなっている可能性が高い。そんな称号を付けていたら、まず間違いなく拠点へ取り方を教えてくれと押しかけてくるだろう。そんな理由からハヤトは称号を持っていても付けてはいなかった。


 ハヤトは頭を振る。そんなことよりも英気を養うための祝勝会だ。自分の作った料理の味は星五だが、その組み合わせなどはセンスが問われる。評判を確認しようと、色々と歩き回るのだった。




 料理は好評だ。そして色々見て回るとなかなか面白い組み合わせで歓談をしているようだった。


 まずはミストとアドリアン。


「棺桶さえあれば、吸血鬼はクラン戦争で復活できるということなのですね?」


「ええ、そうですよ。棺桶に自身とリンクを設定しておけば灰がそこに転送される形ですね。とはいえ、復活にはトマトジュースか人の生き血が必要ですが。ドラゴンブラッドでもいいですけど」


「なるほど。たしか通常の戦闘でも吸血鬼は倒されると灰になりますが、それもトマトジュースで復活は可能ですか?」


「……公爵級の悪魔召喚で奪われる命をそれで相殺するおつもりですか?」


「ええ、我々は教会から嫌われておりまして、神聖魔法を教えてもらえないのですよね。復活には別の方法を考えていたのですが、不死鳥の羽ではさすがに用意することが難しい。ですが、トマトジュースならそうでもない。死霊魔法スキルを100まで上げるのは困難ですが、やる価値はあるかと」


「素晴らしい。もしやるときは教えてください。実際にどうなるか私も知りたいので」


「ええ、その時はぜひ」


(二人とも紳士的な男性なんだけど、吸血鬼で悪魔召喚って言ってることがオカルト的で怖すぎる……アッシュの周りには黒薔薇の人達やメイドさん達がいてちょっと近寄りがたい。レリックさんはメイド長と話をしている。邪魔したらまずいよな。マリス達はペット自慢が始まっているし、ネイ達は――あそこも近寄りがたいな)


 ネイの周りには女性陣が集まっている。


 ネイ、エシャ、ルナリア、ロザリエ、セシル、ノアトの六人だ。


 見た目麗しい女性陣だが、その性格は控えめに言って酷い。


「ルナリアのアロンダイトは恰好いいよなぁ。いくら払えばいい?」


「うちのルナリア様に何を言っているのです? あまりしつこいとぶちのめすぞ、コラ」


「ネイは私が冥龍に勝つところを見てた? セシルちゃんの言う通り、アロンダイトの方が恰好いいと理解したと思う」


「いや、あの時はここでアグレスとかランダを相手に戦っていたから見ていないんだ――そんなに落ち込まないでくれ。馬車で現れたときは恰好良かったと聞いたから」


「毎日祝勝会してほしいですね。働かずにお腹いっぱい食べられます」


「めっちゃ分かる。歌うか食べるか寝るかのローテーションだけでいい」


(色々と酷いな)


「よお、ハヤト。呼ばれたんで来たぞ。その辺にある物を食っていいのか? いい匂いで腹が減っちまうよ」


 ハヤトの背後から声を掛けてきたのは勇者イヴァンだった。


 半年ぶりに会ったのだが、とくに懐かしいという感じはしない。イヴァンもそうだったようで、再会を祝うこともなく話が始まった。


「好きに食べてくれていいよ。そうそう、三日後にアグレスベリオンを倒すからよろしく頼むよ」


「三日後か。分かった。しかし、スタンピードが始まってたんだな? 最近までソロでダンジョンに潜ってたから、分からなかったぜ」


「ダンジョン? ソロで行ってたのか?」


 ダンジョンの探索は強いだけでは難しい。罠の解除や鍵の解除など、いわゆる盗賊系のスキルが必要になる。


 勇者であるイヴァンがいくら強くても先に進めない場所が出てくるので、ソロでダンジョンに潜るというのはあまりない行為だ。行けるとしたら、自然が作ったタイプのダンジョンだけだろう。


「ああ、失恋旅行みたいなものだな。一人になって自分を見つめ直してた」


「斬新だな」


 そんな会話をしていたらイヴァンの視線がハヤトから外れた。そして明らかに嫌そうな顔をする。


「セシルとノアトもいるのかよ。あとはルナリアとあの時のゴスロリか? もう一人は知らないが……美人だな!」


「よく考えたらセシルとノアトさんは前のクランメンバーか。でも、なんでそんなに嫌そうな顔を?」


「え? 嫌だろ? ――あ、やべ」


 イヴァンがエシャ達に見つかった。セシルとノアト、それにエシャも近づいてくる。


「よお、イヴァン。久しぶりだな。なんか恰好いい武器を見つけてないか? 売ってくれ」


「ぐーたらしたいから昔の誼で養って。勇者だからお金稼いでるでしょ?」


「食材を持っていたらご主人様に渡してください。私のお腹はまだまだいけます」


「……お前ら変わらないのな。やっぱりルナリアみたいなおしとやかな女性がいいなぁ……」


 イヴァンから切実な感じの声が漏れる。かなり心のこもった声だとハヤトは感じた。


 そして今度はルナリア達がやってきた。


「次の戦いでMVPを取るのはこの私、魔王ルナリア。勇者なんてお呼びでないって証明してあげる」


 ルナリアはそう言って腕を組みふんぞり返っている。ロザリエは何も言わずにイヴァンを睨んでおり、ネイは誰だ、という感じで見ていた。


「……ルナリアはちょっと変わったな。なんだか悪い方向に。俺の心のオアシスが……」


 こんな状態の勇者で大丈夫かとハヤトは思ったが、ここにいると自分も何かに巻き込まれそうだと思い、気づかれないようにフェードアウトした。


 その時にふと気づく。この場にレンがいないのだ。


 移動しながらレンを探すと、バルコニーの方に一人でいるのが見えた。


 何をしているのかは分からないが、ハヤトはレンと話そうと近づいた。


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