39話(最終話):この地に捧げた10年に悔いなし
それに対して市長が陰山君の言うことは最もだ。わかった県知事にも私から
きちんと話しておくと言ってくれた。陰山は、この件で自分が歩んできた道を
振り返ってみて何て運が良かったんだろう、再認識すし、自分の周りのスタッフ
、役場の山田さん、市長、池田建設の池田社長、山川部長、ソフトウェア会社
の宮城さん、山陰創造社の社員、信金の山辺さん、数多くの人に助けられて、
ここまで来れたのだ。また、地方の過疎化、若者の移住促進という問題に対して
、まず第一に、その地域を本当に愛する事。次に常に頭をフル回転して考え、
それに情熱というスパイスをかけて一気に実行する事。それに滅私奉公の精神
、無欲、素直、実直を忘れない事。この1つでも欠けたら今までの成功は
なかったと思えた。
ところが2027年3月に信金の山辺さんから忠告されたことが現実に
起き始めて急転直下、天国から地獄に突き落とされる様になった。以前、
職員宿舎の跡地6軒の新築1戸建て住宅を建ててもらった、因幡ホームが
倒産して以前、市長の指令で市の職員宿舎の跡地に6軒の移住者用の新築
1戸建て住宅に市の補助金が使われた事、その時に市に対して因幡ホーム
から水増し請求が判明した事、因幡ホームからの市長への献金が選挙資金に
流れたと言う事、この3つの話が地元の新聞に出た。
市長から慌てて陰山に電話がかかり、あの件は山陰創造社が自社のお金で
建てた事にしてくれと言われた。この話を聞いて完全に陰山は今まで一生懸命に、
この地域のために身を粉にして全身全霊を捧げてきた事が完全に水の泡にと
消えたと気づいた。山田部長を呼んで社長を辞任しますので後を宜しくと、
お願いした。山田部長は、何かあったなと思ったが、陰山の顔色の変化を
見て断れない事を悟り承諾した。最後に山陰創造社は十分な利益剰余金残高
がありますので倒産の心配はないと付け加えた。陰山さんの退職金の打ち
合わせをしようと山田部長が言うのを振り切って事務所を出て行った。
陰山は、すぐ電話を入れ、持って帰る荷物をまとめるように指示し家に
帰って、近くの宅急便屋に荷物を持っていき、実家に送った。その後、羽田
行きの便を予約し、奥さんに現状の一部始終を話して実家に戻ると伝えた。
山田部長が内緒でワゴン車で飛行場まで送ると電話をくれ送ってもらった。
山田部長が、こんな事になって本当に申し訳ないと深々と頭を下げ、涙を
流してくれた。悪いのは君じゃないよと言い、今まで本当にありがとう
と言って、がっちり握手して別れた。
そして、速足で飛行機に乗り込んだ。陰山は飛行機の中で悔恨を込めて、
今までの10年を振りかえり、信頼という本当に幅の狭い綱を文字通り
綱渡りして、幸運のせいで、成功してきたが、最後の一歩で綱が切れた。
しかし陰山は何故か運命のいたずらを恨めしく思うより、素晴らしい
人生経験をしたと思い直した。10年間の長い間、愛し続けた、
この山陰の地、偉大な大山、美しい海岸、素晴らしい皆生温泉、
素晴らしい人達を思い返して決して無駄な10年ではなかったと
思い返すのだった。(終了)
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