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ドラマチック・ライフ  作者: Tom
First show
2/6

赤ずきん……なのか?

赤ずきんです。赤ずきんですよー。

004

 今更だが、童話、《赤ずきん》の簡単な説明をしていこう。

 グリム童話でもかなりの知名度を誇るこの作品だが、簡単にあらすじをまとめると、

1、赤ずきんと呼ばれる女の子がいた。彼女はお使いを頼まれて森の向こうのおばあさんの家へと向かうが、その途中で一匹の狼に遭い、唆されて道草をする。

2、狼は先回りをしておばあさんの家へ行き、家にいたおばあさんを食べてしまう。そしておばあさんの姿に成り代わり、赤ずきんが来るのを待つ。

3、赤ずきんがおばあさんの家に到着。おばあさんに化けていた狼に赤ずきんは食べられてしまう。

4、満腹になった狼が寝入っていたところを通りがかった猟師が気付き、狼の腹の中から二人を助け出す。

5、赤ずきんは言いつけを守らなかった自分を悔い、反省していい子になる。

 というものになっている。言いつけを守らなかった少女の反省のための話など諸説あるが、『おばあちゃんの歯はなぜこんなに鋭いの?』などの赤ずきんのセリフはかなりの有名さを誇るだろう。

 そんな名作、《赤ずきん》が、俺らの中庭で始まった。

 部には椅子などの小道具やベッドになりそうな木もあったため、セットをそれっぽく見せるのは簡単だった(まあ本番ではちゃんとしたものを使うが、今はあくまで練習だ)。

 さて、猟師の登場は後半だから、しっかりと見せてもらうとしますかな。


005

「赤ズキン、オ婆サンガ病気二ナッテシマッタノヨ」

 まずはアイリスがエプロンをつけたまさに母親という姿で、赤ずきんに話しかけるところから始まった。ちなみに天音も赤いずきんを被っている。なんでもあるなこの部室。

 しかし、カタコトのアイリスで良いのだろうか、このセリフ。雫の方が良かった気がする。けどまあ、体格的にはあいつの方があっているのだろう。

(先輩。何か今失礼なことを考えませんでしたか?)

(大丈夫だ。そこまでは考えてないぜ)

(そうですか)

 と、いつの間にかカメラを回していたはずの雫が、背後に回って小声で話しかけ、俺の返事を聞いて俺の頬をねじってから元の場所に戻っていった。勘が鋭いってレベルじゃない気がする。悪いな幼児体型だと思っちまって。

 と、そんなことをしていると、劇は進行し始めていた。

「ダカラネ、赤ズキン。オ婆サンハオ前をトッテモ可愛ガッテクレタノダカラ、オ見舞イニ行ッテアゲナサイ」

「わかったわ。ところでね、お母さん」

「ナァニ? 赤ズキン?」

「なんでお母さんはカタコトなの?」

 そこを聞くか普通⁉

 とツッコミそうなのを必死に我慢する。今はリハーサル中だ。いや、この脚本は後でなんとかしなければならないけれども……!

「oh! ソレハ私ガスーパー美少女ダカラヨ!」

 この劇を見にくる少女たちに変な先入観を覚えさせそうなセリフであった。

「へえ、そうなんだ! じゃあじゃあ、なんでそんな綺麗な金髪なの?」

「アハハ! コレハデスネー、愛サエアレバナントデモナルノデスヨ!」

「すっごーい!」

(おい雫。これツッコんだら負けなのか)

(多分!)

 まだ出番のないお婆さん役の雫と小声で話し、何とかツッコミを抑える。これはもしかして忍耐力を鍛える試練なんじゃないだろうか。

「ソレジャアハイ、携帯電話トオ財布。失クシチャダメダヨ」

「はーい」

 と言って、赤ずきんは携帯と財布を受け取る――って世界観と時代設定無視か⁉ 無視なのか⁉

(せ、先輩、耐えましょう。一応まだ途中ですし、というか序盤ですし)

(だからと言ってなぁ雫。これは……くそぅ)

 と言い合っている間に赤ずきんこと天音はお母さん(byアイリス)と別れ、森へと歩く(という演技)。

 ちなみに、原作であったケーキとブドウ酒はちゃんと受け取ってバスケットにいれていた。良かった、そこだけは……。

 すると、狼役の颯海が犬の耳などをつけて(可愛くもなんともねえ)、森の中から不気味な足取りで現れる。

「こんにちは、赤ずきんが可愛い赤ずきんさん」

 と、颯海の時と変わらないいつもの口調で狼はそういった。まあ、無難なセリフではあるだろう。

「え、なんですか、不審者ですか近寄らないでくださいホントキモイんで」

 辛辣すぎる! 赤ずきんの雰囲気どこ行った!

「おやすいません。ではお菓子をあげるのでお話を聞いてくれませんか?」

「わーい食べる―」

 買収⁉ っていうかちょろすぎだろ赤ずきん! さっきの警戒どこ行った⁉

「ところで、何をしにいくのですか?」

「もぐもぐ……えっとね、お婆さんのところにお見舞いに行くの」

 貰った饅頭(まんじゅう)をもぐもぐと咀嚼しながら喋る赤ずきん。というか天音の奴、本物の饅頭食ってやがる。リハーサルじゃなかったっけこれ。

「その年で偉いですね。そのバスケットには何が?」

「ブドウ酒とケーキ……もぐもぐ……お婆さんにあげるの」

「それはそれは偉いことで。して、どこへ?」

「もぐもぐ……森の奥十五分くらいかしら」

「そうですか」

 ここでは確か、狼が土産に花を摘むのがいいと、赤ずきんに言うんだよな。なんだ、ここら辺はちゃんと――

「では、お花を摘みに言ってはどうでしょう?」

「何言ってんのよ!」

「おっと」

 ――していなかった。というかキレた。天音が。

 ってあれ、なぜだ? 今のところでなぜ天音こと赤ずきんは怒ったんだ?

(なあ雫に凛、なんで赤ずきん怒ってるんだ?)

(先輩……それは聞いたらダメですよ)

(拒否権を発動します) 

 雫と凛に断られてしまった。本当にどういう意味なのだろう?

(あ、もうそろそろ出番なので行ってきますね)

(おう、頑張れ) 

 そう言って雫は走り去っていく。

 そして狼も赤ずきんと話し終え、舞台は変わり、狼がお婆さんを食ってしまうシーンだ。よく考えると中々にグロイ発想だ。童話とか子供向け番組とかって、たまにそういうのがあるから驚くんだよな。

 雫はベッドの上にスタンバイし、簡易的に置かれた、お婆さんの家のスペースにあるドアをノックする。

 コンコン。

「は、はいはい。だ、誰です――」

 と、ノックを聞いて、雫の演ずるお婆さんがドアを開け、

「あなたを食すものです」

 と言われて、颯海に食われた(無論演技上の比喩。白い布をかぶして姿を隠しただけ)。

 ん? 

 ってちょっと待て! いくらなんでも早すぎだろぉ⁉ 唐突すぎる! 報われねえ!

(別ニストーリー上問題ナイヨウ二見エマスガ?)

(そういう意味じゃねえんだよアイリス。いくらなんでもあんな速攻でパックリって……)

 なんというかもう、本当に大丈夫かこの劇。

 

 ちゃっちゃらちゃっら~。


「ん?」

 唐突にそんな音楽が耳に入ってきた。なんだこれ? まるでRPGのレベルアップのBGMみたいだな。

 と思って凛に聞くと、

(その通り、BGMだそうです)

(いや雰囲気あわなすぎだろ⁉)

(このノートPcでリアルタイムに再生可能です)

(いやそういう問題じゃなくてだな)

 俺がシュールすぎるBGMに恐れおののいていると(比喩でなく普通に恐れたわ)、赤ずきんがもうお婆さんの家についていた。ちなみに颯海はベッドの上でスタンバイ。

 そしてノックをして、赤ずきんはお婆さんの部屋に入っていく。

 お婆さんの部屋に入り、赤ずきんはベッドの傍によるなり開口一番こう言った。 

「え、なんであなたがここにいるんですかまじキモイんですけど何でですかああ変態だからですねそうなんですねうわ女の子相手にベッドの中で待っているとかホント鬼畜最悪ケダモノですね」

 ………………。

 俺が言われたら……心が折れるかもしれないようなセリフだぜ……。

 いや、っていうか、いいのか? あの「お婆さんの耳はどうしてそんなに長いの?」とかの名台詞を言わなくていいのか?

「ふふ、そう言われると中々きついものがありますね……」

 いいらしい。すげえなこの劇……。

「なので、あなたを僕の――」

 プルルルル、カチャ。

「あ、警察ですか? はい、不審者がいるので――」

 その後、警察が赤ずきんたちの元へ到着し、お婆さんは死んじゃったものの、狼は警察に捕まりめでたしめでし――これで、おしまい。


 カーン! と、カチンコの音が響き、このめでたいお話は終了した。


005

 バン! と俺は教卓を叩いて、説教を始めていた。 

 いや、始めた。レッツ、説教スタート。

「何一つめでたくねーから!」

「何よ。現代風にしたんだけど、何か?」

 と、目の前の席に座っている天音。何かじゃねえよ。

「何よも何もツッコまれないとでも思ったか! これはいいできだ、よっしゃ次いこー! とでもなると思ったか!」

「ええ、だから次は新しいのを――」

「やらせねーよ! ちゃんと反省会やりますよ!」

「訳が分からないよ」

「どこぞの大人気魔法少女の怖いマスコットキャラクター風に言うな! まず一つめ。赤ずきんが現代女子高生の悪い部分を集めたようなキャラになっちゃってる!」

「現代風って言ったでしょ?」

「現代も何もどこのチャライ女だよ。雰囲気ぶち壊しだし可愛くもなんともない!」

「あたしが演じてるのに」

「ああ。むしろお前が演じてるからかもな」

「はぁぁっ⁉」

「ああいや、そこまでじゃねえけど」

 天音の凄まじい怒気に触れてすぐに降参。俺情けねえ。

 けど説教は続けねば。

「まあそれはともかく、二つ目! 狼にお婆さん! ぜってえ原本読んでねえだろ⁉」

「失礼ナ。チャント読ンデマスヨ!」

「でないと改変の時困るではありませんか」

「ソーソー」

 と、颯海はすました顔で。アイリスは楽しそうな笑顔で言う。二人ともこのハチャメチャ劇を楽しんでいるようだ――いや、楽しんでしまっているようだのほうが正解かな。

「てゆーか、改変するの前提かよ⁉ むしろ改悪だよ!」

「「ハッハッハッ‼」」

 軽快かつ愉快に笑う颯海&アイリス。むかつく。

「ハモって笑うな!てかはそれはもういい! だがな、俺の出番はどこいったーっ!」

「いや、猟師なんて現代じゃっそうそういないし」

「そうだけどそれならもっと早く言えよ! 台本覚えちまったぜ⁉」

「あ、渡したやつ間違えてたわ。てへ」

 てへ、で許せる問題じゃねえ、この小悪魔め。

「そして最後に、BGMの選曲はどうやったー!」

「いや、実はあれ、間違えて流しちゃったんだけど、これはもしかして化けて新たなる世界が開くような感じがして、そのまま流してみたの。結果、新たなる可能性が生まれる瞬間を見たわ」

「新世代の駄作をな」

ツッコミ一つでここまで疲れるとは……未だ不承不承といった感じで台本を読み直し書き直している天音は、渋々ながらも手直しをしてくれているようだった。さすがにあんなのはこりごりだ。

 するとそんな感じでぐったりしている俺の視界に、カップに注がれた紅茶が入ってきた。

「お、サンキューな」

「いえ、お疲れ様です」

 そう言って、雫はその紅茶を俺に渡してくれた。雫はお菓子などが好きで、作るのも好きらしく、紅茶などを入れお茶会なども好きらしい。そのためか、彼女の入れる紅茶はとても美味しく、匂いからして癒される。

 というか、疲れてるときはこのように気を利かしてくれる良い後輩だ。

「はあ、まあお疲れさん」

「いやあ、でも私、殆ど登場せずに死んじゃいましたし……」

「相変わらずすげえストーリーだ……他の奴は楽しんでるっぽいけど、さすがにあれは無理だ」

「ははは……」

 雫は苦笑を見せながらも、他の部員へ紅茶を渡すのも忘れない。献身的で健気でいいこだなぁ、と思っていると、

「よっしゃできたーっ!」

 という歓喜の声と共に、天音がロケットの如く飛び上がった。

 どうやら脚本が完成したらしい。

 隣で音楽を聴いていたアイリスも(多分洋楽かアニソン。これでもあいつは日本大好きアニメオタクだ)、スマートフォンアプリでチェスをしていた颯海も、ノートpcでネットサーフィンをしていた凛も、これに驚いた。

 いや、自由すぎだなこの部活。

 ちなみに時刻は既に六時半。一時間ほどで作ったようで、さすがにかなり速筆だ。そしてパソコンで台本は書いていたので、天音の個人所有物。凛のものは演劇部のものだ)、とりあえず彼女はパソコン室に行き台本を印刷すると、

「本日はこれで解散するわ。各自、明日までに台本を読んでおくこと! それじゃあ、解散!」



頑張れ主人公。

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