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最果てにいたる冒険譚  作者: ange
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兄と姉

シーファのお父さんの話によると、数年前にシーファの姉、ミアが行方不明になったのだという。マグノタッテ周辺を探し尽くしても、一向に手がかりすら見つからなかった。シーファ達家族は、諦めることができずにいて、近々シーファが1人で街の外まで探しに行くことになっていたらしい。

しかし、いくら魔法が使えるといっても、女の子だ。それが親からしたら不安の種でしかなかったらしい。そんなところに、ミレンがやってきた。これ幸いということで、一緒に旅して欲しい。と申し出てきた。

ミレンに断る理由は無かった。旅の仲間が増えるのは素直に嬉しいことだったし、一人旅というのも楽しいものだが、旅先で出会ったものの感想を言う相手が欲しかった。


「もちろんです。一緒に来てくれるならこちらとしても嬉しいですし」

「そうか!ありがたい!そういうわけだ、シィ。準備してきなさい」

「はい」


シーファは父親の言葉通り支度をするため、椅子から立ち上がる。横を通り過ぎる時、顔が強ばっていたの見間違いだろうか。


(いや、それほど大切なことなんだろう・・・)


ミレンにとって、兄の喪失は世界の喪失に等しかった。それは、兄がいつもミレンの世界を広げてくれていたからだ。兄がミレンの世界を構成していた。

シーファはどうなのだろう?姉を失くすというのは、シーファにどれだけの影響を与えたのだろうか。あんな顔をするくらいだ、とても大切な人だったに違いない。

少しの沈黙が場を支配した。ハクアもシーファを追って少し前に出ていってしまったため、シーファの両親とミレンが残されている。


「ミレンくん、君はこの世界が好きかい?」


唐突にシーファのお父さんはそんなことを言った、いや・・・呟いた。


「この世界、ですか?」

「・・・そうだ。マグノタッテやビーストウッド、君が生まれた街、まだ見ぬ街。そんなこの世界のことが好き?」

「まだ見たことがない街のことを今の俺が評価することは出来ません」

「・・・確かにそうだな。すまない、忘れ」


「でも、兄さんが俺に話してくれたこの世界のことは好きです。どの街もとても素晴らしかった」


後にそう続けたミレンのことを2人は静かに見つめていた。


「魔法が高度に発達した街、見たことがない生き物が襲ってきた街、水が支配する街・・・聞いたことも見たこともない世界に、幼かった俺は目を輝かせた。俺は・・・この世界の果てで、『やっぱりこの世界は美しかった』って言ってやるつもりなんです。なんて・・・おかしいですよね」


「そんなことないわ。でもね、この世界はそこまで美しくないの」

「おいお前っ」

「分かってますわ。・・・ミレンくん、どうかシーファのことをよろしくお願いしますね」

「はい。無事に家まで帰します」


そう宣言したミレンにシーファの母親は少し困ったように微笑んだ。


その後は私室から戻ってきた2人を含め、夕食となった。ミレンの故郷では見たことがない料理が卓上に並び、その中には植物らしきものもあった。「花も食べるのですか?!」と驚くミレンに、シーファは「食用に育てたものだから死にはしないわよ!」とミレンの脚を蹴った。

恐る恐る、花を口に含み咀嚼するとふわりと華やかな香りが口に広がりとても美味しかった。「美味しい・・・」と感嘆すると、シーファはさっきとは違い、とても嬉しそうな顔をした。あれはシーファが育てた花だったのだろう。

彼女は少し怒りっぽいが、それは素直だということなのだと分かった。裏表のない、さっぱりした性格なのだと彼女の母親も言っていた。


「まさか花まで食べるなんて・・・。兄さんの本にはそんなこと書いてなかったなぁ」


実際に行った時のお楽しみにするつもりだったのだろう。キールはそういう所がある。

「『なんでもありのまま、全てを記すのでは面白くない。全てを知った人間はそこで思考が停止してしまうんだ。意味有りげな言葉や、少しの謎を含めて書くと好奇心が擽られるだろう?冒険譚を書く時の極意だよ』なーんて言ってさ、俺にすら教えてくれなかったこともあったよなぁ」


でも、そんなキールの話がミレンは大好きだった。キールの作戦通り、こうしてキールの後を追いかけても退屈することが一切ない。疑っていた訳では無いが、この本を書いたのはやはりキールのようだ。


「ここに来ても、兄さんの行き先の手がかりは一切なかった。・・・・・・兄さん、いったいどこで何をしてるんだ?」


窓辺に近づき、外を眺めた。夜の街を煌々とした光が照らしている。あの街灯を照らす仕事があるらしい。金の刻紋を持つ人々は、光の魔法を使うことが出来るそうだ。そこで、ハクアに質問してみた。「この街以外で刻紋を持つ人はいるのか?」と。それに対するハクアの答えは「NOとは一概にも言えないです」だった。刻紋というのは、刻紋を持つもの同士の子供にしか受け継がれないという。だからこの街の外にいる刻紋を持つものは、マグノタッテから引っ越した者か旅をしているものに限られるのだと。この街でなければ魔法が使えないという訳では無いらしく、街を出ていく人もいるそうだ。


「ミアさんか・・・どんな人なんだろう。兄さんはあったことがあるのかな」


明日は少し街を案内してもらったあと、出発する予定だ。今日は早めに寝ようと、窓に引かれたカーテンを勢いよく閉めた。

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